Episode03-4 勝利をその手に
地響きのような揺れと轟音と共に、ボールへと群がる男達。
最初にボールを手にしたのはアルベール達のいる白のチームだった。
だがそれを見逃す相手ではない。ボールを手にした一人に向かって走り出したのは、5人もの巨人だ。
慌てて阻みにきた男を次々となぎ倒すその勢いに、ボールを手にしていた男がひるむ。
「ボールをアルベールに回せ!」
そんなとき、轟音を切り裂く指示を飛ばしたのはヴィートだった。
その声に他ならぬアルベール自身が驚いていると、ヴィートがもう一度声を張り上げる。
「お前は昔からシュートだけは得意だっただろ! ヒューズ、正面の巨人達をなぎ倒せ、ヴィンセントはアルベールを守りながら前進しろ! さあ行け行け行け!」
飛んできたボールをアルベールが受け取ると同時に、彼へとねらいを変えた巨人達にヒューズが躍りかかる。
岩のような拳を軽やかな身のこなしで避けたヒューズは、アルベール達の進路を予想し、左サイドにいる巨人達の足を次々と払う。
カルチョ・ストーリコではこのような蹴りや拳を使った攻撃は反則ではない。
ボールを手で持っても良いし、そのボールで相手を殴り倒すのも良いという何でもありのルールなのである。
故にサッカーと言うよりラグビーに近く、ヒューズもその要領で巨人を引き倒していく。
転倒に巻き込まれ倒れた巨人は4人。残り一人はヴィンセントの蹴りでバランスを崩したが、ゴール間にはまだ巨人が5人。そして体力自慢の男が20人は待ち受けている。
厚い肉の壁におののくアルベール。だがひるむ彼の背を、ヴィートの声が押した。
「お前の足だったらそこからでも十分ねらえる! あとは味方が道を空けるのを信じて待て!」
ボールを地におき、アルベールは静かに息を整える。彼へと迫る男達は仲間が引き倒し、問題の巨人にはヒューズとヴィンセントが殴りかかっていた。
二人の動きや考えは、共に戦ったアルベール自身が誰よりもよくわかっている。
残り5人のうち、右側の巨人を倒すと読んだアルベールは、すぐさまゴールへの壁が開かれると信じてボールを蹴った。
予想通り、右の巨人が倒れゴールが見えた。
だがそこにはキーパーがいる。
初歩的なミスに焦るアルベール。ボールはもうキーパーの目の前だった。
しかし、ボールはキーパーから折れるように逸れた。
なり響くゴールホイッスルに何があったのかと目をこらせば、引き倒した巨人の上にヴィンセントが立っている。彼がヘディングでボールの角度を変えたのだ。
沸き起こる歓声。同時に仲間から激しい抱擁をうけ、アルベールはようやく自分が役目をやり遂げたことを実感した。
「惚けるのは早いぞ、カルチョ・ストーリコが荒れるのはこれからだ!」
ヴィートの声に、アルベールは慌てて気を引き締めた。
最初の恐怖は既に無く、負ける気はもうしない。
共に戦う仲間達の熱気を感じながら、アルベールは勝利を目指しかけだした。