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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode01-3 一世一代の大告白

 幸せそうな顔でジェラートを頬張るレナスを見つめながら、アルベールは何とも言えない複雑な気持ちになる。

 夜、街灯に照らされたフロレンティアの街並みは、恋人達の都と言われるだけあってロマンティックなムードを演出している。

 恋人達は手と心を繋ぎ、うっとりと街を歩いていく。中にはついばむようなキスを交わしながら歩く者までいる。

 しかしそれは、アルベールのいる場所からは遥か遠くの出来事だった。

 彼らがいる一角だけは恋人よりも家族連れが多く、今もレナスとアルベールの前を走っていくのは小さな子ども達だ。そしてその顔は、ジェラートでべっとりである。

 それを叱る母親の怒号が響き、もはやムードも減ったくれもない状況だがレナスは気にもしていない。

「ここのジェラート美味しいのよね。何度食べても飽きないわ」

 今、レナスの目に映っているのは、手にしているジェラートただひとつなのだろう。

 それはそれで悲しいが、もしこれが自分で買ったジェラートならまだ救いがあった。

 だが彼女を笑顔にしているそれは、ここにはいない第三者の財布から出た物である。

「レナスさんって、いつもそうなんですか」

「なにが?」

「デートの時も、ヒューズさんの財布からお金」

「デートの時は彼氏に奢らせるわよ」

 映画を見て食事までしてジェラートまでたべたのにこれはデートではなかった、という驚愕の事実が判明し、アルベールは深く深く沈み込んだ。

 一人前の男になるからと、レナスと別れてから早2ヶ月。

 アルベールの方は、『一人前の男になったら改めて告白する』つもりで切り出した別れの言葉だったのだが、それをレナスが全く理解していなかったと気付いたのは最近のことだ。

 今のところ、彼女が新しい彼氏を作った形跡はない。

 だからてっきり自分のことをまだ……と勝手なことを思っていたのだが、勿論そんなうまい話はなかった。

 記憶喪失に陥ったのかと時々不安になるほど、レナスがアルベールとの甘い日々を思い出すことはない。

 アルベールの方は二人でいるたびに昔より胸が高鳴るのに、レナスはお友達、いや友達と言うよりもはや弟分とかそういう方が近い接し方である。女は終わった恋を振り返らないという言葉は、どうやら本当らしい。

「ってか、最近デートしてないなぁ」

 これまた傷つく一言に、アルベールは腕を滑らせジェラートに顔を突っ込んだ。

 だが勿論、レナスはアルベールの異変には気付かない。

「合コンとか行っても、なかなか良い出会いがないのよねぇ」

 それどころか、男を紹介しろと言い出しかねない空気が流れだしている。

 それだけは回避せねばと、アルベールは慌てて顔のアイスをなめ取り、真剣な顔をレナスに向けた。

「レナスさん」

「どしたの、似合わない顔して」

 傷ついたが、ここはぐっと我慢する。

 童顔だと言われ続けてはや二十数年、自分がいかに男らしさからほど遠いかは知っている。

 だがそろそろその汚名を返上せねば、レナスの中での彼の地位は可愛い弟分で確定してしまう。

 故に彼は決心した。今こそ、男を見せる時なのだと。

「僕、今年のカルチョ・ストーリコに出てみようと思うんです」

 カルチョ・ストーリコ、それは毎年繰り広げられる古式サッカーの大会だ。

 そして男をアピールするには、この大会は絶好の機会でもある。

 なぜなら、カルチョ・ストーリコに参加することこそ、フロレンティアの男の証とされているからだ。

 それ故毎年、無駄に暑苦しい野郎どもが上半身むき出しでボールを追いかけるのがこの大会の醍醐味である。

 またこの試合は、暑苦しいだけでなく大変過激なことで有名だ。

 サッカーというより格闘技に近いルールを用いるため、カルチョ・ストーリコでは毎年大量の怪我人が出る。

 それが怖くて今まで参加を逃げていたのだが、レナスの中の評価を上げるにはもはやこれしかないだろうと、実はこっそり参加申請を出していたのだ。

「でも大丈夫? あんた男達から目の敵にされてるし、たぶんボコボコにされるわよ」

 応援より先に心配されたことも非常に気になったが、それよりもボコボコという単語にアルベールは反応した。

「女たらしのアルベールって、野郎どもから評判悪いしねあんた。良い機会だって、よってたかって殴られるわよ」

 そんなに人気がなかったのかと、アルベールは動揺を隠せなくなった。

「悪いことは言わないから止めなさい。それかほら、決勝戦の前にある子ども達の親善試合、あれにでなさいよ。お母さん達には人気だし、写真撮影とかいっぱいして貰えるわよきっと」

「僕はマダムにモテたい訳じゃない!」

 腕の中のコーンを握りつぶし、アルベールは思わず立ち上がった。

「僕は、僕はこの2ヶ月ずっと体を鍛えてきたんです。聖騎士としての修行も積んで、高位な聖騎士にだけ与えられる聖剣も貰ったんです」

 ジェラートまみれの手で引き抜いたそれは、夜でも仄かな白い輝きを放つ本物の聖剣。

 その柄に刻まれた竜の紋章は、上級聖魔法を全て会得した者にだけ与えられる、上級聖騎士の証であった。

「何よ水くさいわね、言ったらお祝いしたのに」

「じ、自分で言ったら格好悪いと思って、先週からこれ見よがしにさしてたんですよ。レナスさんは全く気付いてくれなかった……っていうか、ヴィンとヒューズしか気付いてくれなかったんですけどね!」

 どこかやけになっているアルベールに少々不安を抱きつつ、レナスはとりあえずおめでとうと声をかける。

 だがそれだけでは、もはやアルベールの傷ついた男心を元通りにすることは出来なかった。

 レナスの素っ気ない態度で心に大けがを負ってしまったアルベールは、もはや暴走する高速列車である。

「立派になりたくて、レナスさんに追いつきたくて、ずっと頑張ってきたんです、ずっと!」

 勿論まだ未熟だけれどと言いつつも、アルベールは男らしいと自分では思っている動きで、レナスの前に跪く。

「それでも僕は、前より遥かに強くて男らしくなったんです! だからカルチョ・ストーリコで大活躍して、絶対優勝してみせる」

 そしてもう一度、レナスさんに告白させてください!

 フロレンティア第4王子アルベール=アレクサンドル一世一代の大告白。

 だがその力みように、レナスが感じたのは喜びよりも、不安だった。

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