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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode01-2 財布の男

「ヒューズ、僕今日これからレナスさんと映画に行くんだ」

「何見るんだ」

「最近話題の恋愛映画!」

「ああ、吸血鬼と狼男の間でウロウロする女の子の奴か」

「何で知ってるんだよ。っていうか、他にもっと反応あるだろ?」

「その映画の原作、レナスに無理矢理読まされたんだよ。面白いからって」

「……あれ、少女小説じゃなかった?」

「あの手の小説のなにが面白いのか、おっさんにはさっぱりわからん」

 唯一理解出来たのは、10代の恋愛は面倒そうだと言うことくらいだと呟くヒューズ。

 しかしそれはアルベールが聞きたい言葉ではなく、ついに彼は怒り出す。

「ってそういう話じゃない! 僕、レナスさんと映画に行くんだよ」

「なんだよ、俺に金だせってのかよ」

 冗談を口にしたはずが、目の前のアルベールが泣き崩れた。

「何でなんだ。どう考えても恋愛映画に誘ったらデートじゃないか。何に何でヒューズも連れて行こうとか言うんだあの人は!」

「だから財布だろう」

「僕を試してるんだ。ライバルをも受け入れる度量があるかどうか試してるんだあの人」

「だから財布だって」

「僕だってお金ならある!」

「王子の台詞じゃねぇだろそれ」

 そう言うと、ヒューズは自分の夕食代を引き抜いた財布をアルベールに差し出す。

「使えるわけ無いでしょう!」

「レナスに渡せば勝手に使うから」

 そんなまさかとアルベールが驚いていると、やってきたのはそのレナスである。

「早くしないと映画始まっちゃうよ」

「いや、ヒューズがその…」

「俺は仕事なんだ」

「えー、私お金無いのに」

 ほらきたと、ヒューズは財布をレナスに渡す。

「二人で行ってこい」

「じゃあ来週一緒に行こう。新しいホラー映画はじまるし」

「じゃあその分は残して置けよ」

「あ、ジェラート…」

「食って良いからさっさといけ」

 あっけないほどのあっさりと、レナスはアルベールの腕を引いて歩き出す。

 驚愕の表情を貼り付けたまま、部屋を出て行くアルベール。それをヒューズは見もしないが、彼の部下達はそうはいかない。

「いつもおもうんですけど、隊長はそれで良いんですか?」

「何が?」

「財布あつかい」

「カードは抜いてあるし、飯代は確保してるからな」

 そう言う台詞が出ている時点で、レナスの財布であることに疑問すら持っていないのは明らかだ。

 婚約者どころか恋人も作らず、挙げ句の果てにガリレオ騎士団3大悪女の一人であるレナスに利用され続けている隊長が、部下達は哀れで仕方がなかった。

「それよりお前等、さっさと経費申請書だせよ。帰りまでだからな」

 だが当人はそう思われていることすらわかっていない。

 口では面倒くせぇといいながら、実は隊の誰よりも仕事熱心な彼には、恋よりも書類の締め切りのほうが重要なのである。

「隊長、結婚とか考えた事無いんですか?」

「相手もいねぇのになんでだよ?」

「っていうか、相手探しましょうよ、俺達合コンセッティングしますから!」

 部下達がそうはやすが、ヒューズは全くつれそうにない。

「いつまでもレナス隊長に振りまわされてちゃ駄目ですよ」

「もう15年も振りまわされてるんだ、今更すぎるだろう…」

 呆れているように聞こえるが、付き合いの長い部下達は気付いている。

 仕事以外には無関心なくせに、レナスに関する話の時だけ、ヒューズの言葉にははっきりとした感情が乗るのだ。

 それはもう、特別な意識があるのことは明白で、でもそんな自分の癖に彼自身が気付いていないのも明白で、聞いている部下達は胸が苦しくて仕方がない。

 何でよりにも寄ってあんな女なんですか隊長。

 あんたはもっと幸せになるべきです。

 そんな思いを部下から向けられていることにも気付かずに、ヒューズは「申請書」という単語を繰り返していた。

※11/4誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)

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