Episode01-2 財布の男
「ヒューズ、僕今日これからレナスさんと映画に行くんだ」
「何見るんだ」
「最近話題の恋愛映画!」
「ああ、吸血鬼と狼男の間でウロウロする女の子の奴か」
「何で知ってるんだよ。っていうか、他にもっと反応あるだろ?」
「その映画の原作、レナスに無理矢理読まされたんだよ。面白いからって」
「……あれ、少女小説じゃなかった?」
「あの手の小説のなにが面白いのか、おっさんにはさっぱりわからん」
唯一理解出来たのは、10代の恋愛は面倒そうだと言うことくらいだと呟くヒューズ。
しかしそれはアルベールが聞きたい言葉ではなく、ついに彼は怒り出す。
「ってそういう話じゃない! 僕、レナスさんと映画に行くんだよ」
「なんだよ、俺に金だせってのかよ」
冗談を口にしたはずが、目の前のアルベールが泣き崩れた。
「何でなんだ。どう考えても恋愛映画に誘ったらデートじゃないか。何に何でヒューズも連れて行こうとか言うんだあの人は!」
「だから財布だろう」
「僕を試してるんだ。ライバルをも受け入れる度量があるかどうか試してるんだあの人」
「だから財布だって」
「僕だってお金ならある!」
「王子の台詞じゃねぇだろそれ」
そう言うと、ヒューズは自分の夕食代を引き抜いた財布をアルベールに差し出す。
「使えるわけ無いでしょう!」
「レナスに渡せば勝手に使うから」
そんなまさかとアルベールが驚いていると、やってきたのはそのレナスである。
「早くしないと映画始まっちゃうよ」
「いや、ヒューズがその…」
「俺は仕事なんだ」
「えー、私お金無いのに」
ほらきたと、ヒューズは財布をレナスに渡す。
「二人で行ってこい」
「じゃあ来週一緒に行こう。新しいホラー映画はじまるし」
「じゃあその分は残して置けよ」
「あ、ジェラート…」
「食って良いからさっさといけ」
あっけないほどのあっさりと、レナスはアルベールの腕を引いて歩き出す。
驚愕の表情を貼り付けたまま、部屋を出て行くアルベール。それをヒューズは見もしないが、彼の部下達はそうはいかない。
「いつもおもうんですけど、隊長はそれで良いんですか?」
「何が?」
「財布あつかい」
「カードは抜いてあるし、飯代は確保してるからな」
そう言う台詞が出ている時点で、レナスの財布であることに疑問すら持っていないのは明らかだ。
婚約者どころか恋人も作らず、挙げ句の果てにガリレオ騎士団3大悪女の一人であるレナスに利用され続けている隊長が、部下達は哀れで仕方がなかった。
「それよりお前等、さっさと経費申請書だせよ。帰りまでだからな」
だが当人はそう思われていることすらわかっていない。
口では面倒くせぇといいながら、実は隊の誰よりも仕事熱心な彼には、恋よりも書類の締め切りのほうが重要なのである。
「隊長、結婚とか考えた事無いんですか?」
「相手もいねぇのになんでだよ?」
「っていうか、相手探しましょうよ、俺達合コンセッティングしますから!」
部下達がそうはやすが、ヒューズは全くつれそうにない。
「いつまでもレナス隊長に振りまわされてちゃ駄目ですよ」
「もう15年も振りまわされてるんだ、今更すぎるだろう…」
呆れているように聞こえるが、付き合いの長い部下達は気付いている。
仕事以外には無関心なくせに、レナスに関する話の時だけ、ヒューズの言葉にははっきりとした感情が乗るのだ。
それはもう、特別な意識があるのことは明白で、でもそんな自分の癖に彼自身が気付いていないのも明白で、聞いている部下達は胸が苦しくて仕方がない。
何でよりにも寄ってあんな女なんですか隊長。
あんたはもっと幸せになるべきです。
そんな思いを部下から向けられていることにも気付かずに、ヒューズは「申請書」という単語を繰り返していた。
※11/4誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)




