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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の休日編■
81/139

Episode07-3 奪われた手柄と新たな影

「とりあえず、少しだけここにいて。キアラちゃん方を先見ちゃうから」

 チネマ・オデオンの前に立てられた簡易テント。その中では誘拐された貴族達とキアラが、診察を受けていた。

 テント入り口で、救護班のアレッシオにつかまっていたのはヒューズ。

 顔色が悪いヒューズをアレッシオは心配そうに見ているが、ヒューズは大丈夫だの一点張りだ。

「何だったら騎士団の方で見て貰うよ。すぐ撤収することになりそうだしな」

 そう言ってヒューズが目を向けた先には、フロレンティアでは珍しい全身を覆う甲冑に身を包んだ騎士達がいる。

「何かしらあれ」

「南ローマ国の騎士だな。クソ熱いのに、よくあんなの着てられる」

 思わず疑問を口にしたアレッシオに、ヒューズは答える。

「でも南ローマの騎士が何でフロレンティアに?」

「ここにいるって事は誘拐犯の件だろうな」

「そう言えば、誘拐事件が始まったのって南ローマ国だったわよね」

 たしか最初の事件が起きたのは2ヶ月前のことだ。誘拐された者は延べ26人にも上り、身代金を払わなかった者の中には死者も出たと聞く。

 それ故南ローマ国の騎士団が本腰を入れて捜査を行っていたようだが、結局犯人の足取りをつかむまでには至らなかった。

 そんな中狙っていた獲物を小国の騎士団がとらえたとなれば、快く思わない者もいるのだろう。騎士達の雰囲気は物々しく、誘拐犯達を護送しようとしていたレナスとなにやら揉めている。

「あいつら、聴取もさせずに犯人を持ってくつもりみたいだな」

「なにそれ、超ムカツク」

 ヒステリックにキーキー言い出すアレッシオに苦笑しつつも、ヒューズも思いは同じだ。

 あの魔法使いのことも含めて色々と調べたいところだが、南ローマ国の騎士には強引なところがあるので、多分突っぱねられるだろう。

 フロレンティアには南ローマ国の領土だった過去がある。今では独立し、国として認められてはいるが、やはり南ローマ国に昔の利権を振りかざされることは多々あった。

「ああ言う輩の方が、魔法使い何かよりよっぽどめんどくせぇな」

 アレッシオを落ち着かせながら、ヒューズは静かにその場を後にする。

 だがそんな彼を静かに追いかけるひとつの影があった。

 映画館の通りから川沿いへと向かうヒューズ。目は見えないが持ち前の方向感覚で最短距離を選べば、必然と人気のない路地を進むことになる。

 アルノ川へと出る最後の路地を曲がったとき、彼を追ってきた影が突然ヒューズに突進した。

 その手にあったのはナイフ。

 鋭く長いそれは、ヒューズの背中に突き刺さったかのように見えた。

 だが背後にすら彼の死角はなかった。いつの間にか後ろに回された手でヒューズはがっちりとナイフを掴んでいる。

 ナイフを止められた途端、不思議と男から殺気は消えた。

「あーあ、目が使えない今なら勝てると思ったのに」

 道化のような、リズミカルに人を苛立たせる口調にヒューズが眉をひそめる。

「お前は気配がでかすぎる」

 そう言ってナイフを手の中で回転させ、ヒューズは背後に立つ男にそれを突き返した。

 立っていた男は南ローマ国の騎士団の証である、銀色の甲冑に身を包んいる。そのため顔も兜の下に隠れているが、ヒューズは相手の正体を見抜いているようだった。

「それにしても、何でお前がここにいる」

 それもこんな格好でと尋ねれば、男は舌を巻いた。

「本当は見えてるんじゃないの?」

「そんだけガシャガシャなってれば嫌でもわかる」

 それで何をしに来たと尋ねれば、男はこれまた道化のように大仰な仕草でヒューズの肩を抱いた。

「先月から、南ローマ国に異動になっちゃったのよ。中東の獣人たちもだいぶ大人しくなったし、ロシア情勢も安定してるでしょ? そしたらオレ様行くトコなくなっちゃって」

「確かに、お前みたいな戦闘狂は自国に置いておけないからな」

「ひどいよねぇ、オレ様もう10年はステイツに帰ってないよ」

 言いながら、男はヒューズの肩をねぎらうように叩く。

 出会い頭のやり取りからは信じられないが、ヒューズと男と知り合いでもあるらしい。

「でも良いなぁフロレンティア。ローマと違ってギスギスしてないし、騎士の女の子は可愛いし」

 特にうちの騎士団に喧嘩を売っていた子はと続けられ、ヒューズは眉をひそめる。

「あれ? もしかして狙ってた?」

「あいつは今の雇い主だ」

「あ~あ、そう言えばやめたんだっけ…」

「定年退職だ」

 男の言葉を遮り、ヒューズは彼の腕を引きはがす。

「それより、わざわざ俺を追いかけてきた理由をそろそろ話せ」

「久しぶりに昔の相棒に会いたくて」

「ならもういいな。俺は帰るぞ」

 つれないヒューズに、男は慌てて彼への前へと飛び出す。

「あんた好みの情報があったから持ってきただけだよ。その目を潰した阿呆のこと、知りたくない?」

 しかたなく、ヒューズは足を止める。

「いくらだ?」

「お金なんて取らないよ、オレ様とお前の仲じゃん」

「だから高いんだろう」

 男は甲冑の下でけらけら笑い、ヒューズの肩をもう一度掴む。

 ヒューズの答えも無視して、男は完全に語る体勢だ。

「実はね、誘拐されてるのは貴族だけじゃないんだよ。竜や獣人、妖精に麗しの人魚達。マイノリティーな種族がイタリア全土でかなりの数失踪してる」

「その犯人は…」

「俺の大事な大事な元相棒をこんな目に遭わせた奴よ」

「通りで、ちゃちな誘拐犯相手にあれだけの数の騎士が来たわけだ」

「まあ主に起きてるのは南ローマ国近辺だね。だけど全然犯人の手がかりがつかめなくて、臆病な騎士様達は事件のことを隠す始末よ」

「最低だな」

「だからあんたに話しに来たんだよ。なんかもう、無能すぎてオレ様の実力全然発揮出来てないの。だからここは愛しの君に一肌脱いで貰おうかなって」

「まさかとは思うが、俺の所に来るとか言わないよな?」

「聞いたけど、ガリレオ騎士団って個人個人が好きに捜査できるんだろう?」

「優秀な奴はな」

「ならオレ様オッケーじゃん。南ローマ国は何をするにも上にお伺い立てなきゃいけなくて、自由に捜査出来ないんだよね」

「だが、お前の担当はこの事件じゃなくて南ローマ国だろう。どうやって許可を貰うつもりだ」

「元々フロレンティアにも一人くらい潜り込ませたいって言ってたからね」

 笑う男に、ヒューズは声を抑え、最近では滅多に使わない母国語で言葉を続ける。

「うちの国にはスパイするような価値はないぞ」

「だからだよ。そう言う貴重な国だからさ、何かあった時に護ってあげたいとか自意識過剰な我らの母国は思っちゃう訳」

 そして勿論、男が話すのも流暢な英語だ。

「いらん世話だな」

「まああんたがいれば問題無さそうだけどね」

 でも一応と男が言えば、ヒューズはしばしの間考え込む。

「ジェイクはまだ息災か?」

「ああ、今でもオレ様の上司よん」

「じゃあジェイクから直接指令を持ってこい。そうしたら面倒見てやる」

 ヒューズの言葉に子どものようにピョンピョン跳ねる男。それから彼は思い出したように、マジシャンのような手つきで、どこからともなく報告書の束を出現させる。

「これ、誘拐事件の詳細。後で直接教えてあげるけど、一応わたしとくよ」

 そういうと、男は「また会おうチヴェディアーモ」と手を振り元来た道をスキップで戻っていく。

 残されたヒューズは報告書を片手にため息をつく他ない。

 今は見えないが、目が治ったら目を通しておいた方が良いかも知れない。

「魔法使いよりよっぽど面倒なのがきたな…」

 思わずぼやくと、ヒューズは報告書を手に騎士団へと歩き出した。

※11/4誤字修正しました。(ご指摘ありがとうございます)

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