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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の休日編■
79/139

Episode07-1 闇の中の戦い

 始まりは女の絶叫だった。

 どこかノイズ混じりの絶叫に誘拐犯達が驚いた直後、場内の明かりが落とされ、スクリーンに泣き叫ぶ女の姿が映る。

 それは有名なサスペンス映画のワンシーンで、不気味な効果音と合わさり場内は一時騒然となった。

 直後、暗闇の中で5つの影が動いた。

 襲撃だと彼らが気付く前に、倒された男達の数は訳半数。

 皆一様に武器は持っている。

 だが暗闇に目が慣れない上に、人間離れした人影が二つ、入り組んだ座席の間を獣のように駆けていく。

 響くのは一方的な絶叫と剣の打ち合う音。

 それに怯えだした人質の中、一人静かに微笑んだのは老人だった。

 時折スクリーンをよぎる影のひとつには見覚えがある。あんな化け物じみた動きが出来るのは、彼が最も信頼を置く息子しかいない。

「助けに来ました」

 闇に目をこらしていると、聞き覚えのある女の声が耳もとで聞こえる。

「遅いぞ」

 思わず皮肉を口にすると、すいませんという言葉と共に、腕を縛っていた縄が外された。

「ここは私に任せて、陛下を外へ」

 もう一つの声に礼を言い、老人は腕を引かれるがままスクリーンの裏手に回る。

 非常用の出入り口から劇場を出れば、そこは細い裏路地だった。

 ゴミを集める巨大な鉄のゴミ箱やモップと言った掃除用具が置かれているせいか、どことなく異臭が漂ってくる。

「おけがは?」

 問題ないと老人は答える。

「君は、意外と頼りになるんだな」

「あなたに死なれると困りますので」

「どうやら、素性はばれてしまっているようだな」

「写真で見るより髪がないのでわかりませんでした」

 キアラの素直すぎる告白に老人、いや国王はムッとする。

 だが彼が言葉を返そうとしたとき、キアラが彼を側のゴミ箱に投げ入れた。

 突然の事に驚く国王の耳に響くのは剣を薙ぐ音。

 ゴミ箱から顔を出せば、キアラの前には剣を持った屈強な男が立っている。

 その上、背後からも一人、剣を持った男が迫っていた。

 狭い路地で挟み撃ちにされれば、彼女一人では対応しきれない。

「まったく」

 そう言ってゴミ箱に手をかけ、国王は若い騎士顔負け身のこなしでキアラの後ろへと舞い戻る。

 唖然としたキアラの前で、国王は側に置かれたモップを手にした。

 それを素早く手の中で回転させ、キアラの背後に迫っていた男の剣を弾き落とす。

 そのまま男の懐に忍び込み、国王はモップの柄で男の顔面にキツイ一撃を喰らわせる。

 軽い動きでこなしているが、その動きは戦闘に慣れたキアラでさえ目で追うがやっとなくらい早い。

 唖然としているのはキアラだけではない。

 キアラと対峙していた男も、目の前の老人が仲間を倒したことに驚き、思わず動きを止めた。

 だがその一瞬をつき、国王はモップを支えに男に蹴りを繰り出した。ドロップキックと言う奴である。

 受け身を取る間もなく転倒した男は、そのまま意識を手放した。

「私はこの国の王だぞ。身の安全も確保出来ないのに、外を出歩くような身勝手な真似はしない」

 得意げな国王にキアラは呆れるほかない。

「でも捕まってたじゃないですか」

「そうすれば君の化けの皮が剥がれると思ってね」

 微笑んだ国王。その目が二人をおってきたヴィンセントをとらえた。

「ご無事ですか?」

「この子のお陰だ」

「というより、陛下がお一人で倒してしまいました」

 国王とその腕のモップに目をやり、ヴィンセントはあきれ果てる。

「いい年なんですから、無茶はしないで下さい」

「これくらいへでもない!」

 と意気揚々とモップを振りまわす国王。

「…ぎっくり腰が再発しますよ」

 苦言を示したのはヴィンセントで、年寄り扱いするなと答えるのは国王。

 トラットリアでは愚痴をこぼしていたけれど、二人の仲は悪くないようだった。

 笑顔で言葉を交わす二人とほんの少し距離を置き、キアラは思わず微笑んだ。

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