表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の休日編■
72/139

Episode04-1 ロマネスク様式とバロック様式とロココ調

「この大聖堂ドゥオモの歴史と建築様式を説明したまえ」

 老人が発したその一言に、そびえ立つフロレンティアの象徴大聖堂ドゥオモの前に立っていたキアラの額を冷や汗が伝う。

 ロマネスク様式。バロック様式。ロココ調。

 建築様式に関する単語でキアラがしっている物と言えばそれくらいである。そして明らかに最後のひとつで無いことは確実だった。

 歴史的建造物が並ぶフロレンティアに住んでいるとはいえ、キアラはその長い歴史の全て理解している訳ではなかった。

 かつて学舎から始まったという国の成り立ちや、現在の政治形態や国王の名前くらいならわかるが、老人が指さすそれは国が興るよりも遥か昔に作られた建造物である。

 そもそも、騎士学は死ぬほど勉強したキアラだが、それ以外のことはてんで駄目だった。騎士に関する事ならば網羅しているのだが、寺院の建築様式など気にしたこともなかったし、その知識を必要とする機会には運良く恵まれなかったのである。

「君は、それでもフロレンティア人かね」

 黙っているキアラに向けられた嫌味に、すいませんと答えるほかない。

「自国の歴史も語れず、象徴となっている美しき大聖堂の建築様式すらわからないなんて、騎士の風上にもおけんな」

 重ねられる言葉は正論である。そして正論を真っ向から受けるのがキアラだ。コレがレナスなら「そんなこと知らなくても国防くらい出来るわよこのクソジジイ」と逆ギレしてしまうところだろうが、キアラは心の底から打ち拉がれている。

「…すいません、私の勉強不足です」

「教養もなく色気もない、君は本当に駄目だな」

 老人の言葉は、ただでさえ凹んでいたキアラの心を完璧に粉砕させた。

 うなだれたキアラをみて、老人は意地悪く微笑み、そして畳みかけた。

「そんなレベルで、よくもこの国の王子とつき合っていられるな。まさか貴様、騎士の皮をかぶった魔女ではないのか?」

 さあ言い返してみろとキアラに意地悪な笑みを浮かべた老人。

 その直後、キアラがその場からフラフラと歩き出す。

「逃げると言うことはやはりそうか! 魔女め、ついに本性を現したな!」

 一人高笑いを浮かべる老人に、周りの観光客は何事かと白い目を向けている。

 響く高笑いは、どこからどう聞いても悪役のそれだ。

 周りがどん引きしているのも気付かぬままに笑い続けること約3分。さすがに息も切れ、それでも満足げな笑みをたたえ続けていれば、彼の耳に信じられない言葉が飛び込んでくる。

「混成様式でした!」

 声の方を振り向けば、逃げたと思っていたキアラが笑顔と共に駆け戻ってくる。

「この大聖堂は、3つの様式が使われているんです。イタリア的なゴシック様式を基本に、丸屋根と採光部は初期ルネサンス建築、そして大聖堂西側の正面ファサードはネオ・ゴシック様式です。これは大聖堂が長い年月をかけて作られたことを意味しており、建設から140年以上もの歳月をへて今の形になったと言われています」

 それから……と言葉を繋げようとしたキアラに、老人が慌てて待ったをかける。

「……もしかして、今唐突に走り出したのは」

「あそこのカフェのオーナーが教会オタクだったのを思い出して……。だから失礼とは思ったんですが、聞きに行ってきました」

 ただやっぱり、ルネサンスとゴシックとネオゴシックの何がどう違うのかわからなかったんです、と謝るキアラに、老人は呻く。

「君、私の話を聞いていたか?」

「教養もなく色気もない、あたりからあまり……」

 キアラの返答に老人の怒りは限界に達した。

「観光はもう良い! 余は腹が減った!」

「よ?」

「聞かなくて良いところばかり聞くな! 良いから行くぞ!」

「でもせっかくだし大聖堂ドゥオモの中を…」

「三流ガイドが一緒じゃ見ても仕方なかろう」

 老人の辛らつな言葉にキアラの心が再び折れる。そんな彼女を無視し、老人は持っていた地図を広げる。

「私はこの店に行ってみたい。今すぐ案内しろ」

「ここ、すごく高いですよ」

「君は水でも飲んでいればよい」

 ここでもまた、キアラに拒否権はなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ