表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/186

ゲームであって、ゲームではない

 ゲームの世界では、まもなく日付が変わる頃。

 リアルの世界では、午前6時35分。


 通勤途中のサラリーマンが、電車に揺られながらのんびりネットを巡回していた。


 彼が装着しているミラーグラスは、ウェアラブル型のディスプレイだ。

 ヘッドギアのように思考を読み取るような装置はないが、目の動きをカメラで読みとって操作することができる。


(そろそろアプデの公式ニュースないかな……)


 トップページを開くと、ゲームに関連するニュースが、いくつかおすすめにラインナップされていた。


 このゲームの世界で、彼は初心者の魔法使いだったり、ハイランカーのモンクだったりするのだが、そんな事はたぶんこの電車の誰も知らないだろう。


 ニュースをつらつら眺めてみたが、彼の望んでいたアップデートの情報はなかった。


(やっぱ昼までないか……)


 海外のゲームだと、日本の深夜帯にニュースが流れていたりするので、ついつい確認してしまうのだった。


『朝から信じられない、最悪。国王軍が男の人を襲っている』


 魔法使いは、その見出しを見て眉をひそめた。


 知らないプレイヤーの、とあるSNSへの投稿がピックアップされていた。


 投稿されて間もないものだったが、それが凄まじい勢いで拡散されているようだ。


 内容は、ゲーム内の視界メモリーをそのまま投稿したもののようだった。


 動画のサムネイルを見ると、血まみれの大男が、複数の国王兵に押さえつけられているのが確認できた。

 ぞわっと総毛立った。

 どうみても、その男がサイモンだったのだ。


「……おいおい、マジか」


 彼は慌ててスマホを取り出すと、すぐさまゲーム世界にメッセージを飛ばした。


***


「おーい、サイモン! どこにいるのよー!」


 そのころ、女戦士はシーラと手分けをしてサイモンを探し回っていた。


「お願いだから、もう出てきてよ、サイモーン!」


 彼女は、国王軍がこの山のどこにいるのか、まるで見当がつかない。


 ヘキサン村の周辺を手当たり次第に歩き回っていたが、途方にくれて、そろそろ泣きそうになってきた。


「うぅ、ぐすっ、どこ行っちゃったんだろう……ひょっとして私、三分岐の選択まちがっちゃったの? サイモンと一緒だった方がよかった?」


 だが、教会ですることもなく待機しているよりかはましだと思って、歩き続けていた。

 ふいに女戦士は、魔法使いからのメッセージを受け取った。


「あ、まほちゃん」


 にがてな相手だったが、いまは誰のメッセージでも心強い。

 メニューを操作して、あらわれた魔法使いからのメッセージは、簡潔だった。


『サイモンがやばい事になっている』


 女戦士は、ぞっとした。

 やはり、彼女の不安は的中していたのだ。

 次に魔法使いから送られてきたメッセージには、SNSの投稿がそのままはりつけられていた。


【異世界ディスカバリーチャンネル:クレア】さんの投稿。


 女戦士は、この投稿者の事を知っていた。

 職業は斥候スカウト、フィールドを【潜伏状態】で移動し、気を抜いたモンスターの可愛い写真をいくつも投稿しているジャーナリストと呼ばれるタイプのプレイヤーだった。


 異世界ディスカバリーチャンネルを自称する彼女は、魔の山の盆地を散策中に、おぞましい場面に遭遇し、他のプレイヤーに助けを求めていた。


『お願い、誰か止めてあげて』


 コメントは、彼女の悲痛な願いで締め括られていた。


 女戦士は、動画のサムネイルだけでそれがサイモンだとわかった。

 あんなに大きい背中の男は、彼しか知らない。


 いったい何が起こっているというのか。

 怖い。だが、見ないわけにはいかなかった。


 視界メモリーの動画を再生すると、かがり火のぱちぱちという音と共に、2人の男の争う声が聞こえてきた。


『やめろ! それ以上触れるなっ!』


『うるさい! 大人しく尻を見せろ!』


 複数の上級兵士たちに押さえつけられてうめく、血まみれのサイモン。

 その背後にまわりこみ、にやにや半笑いを浮かべた魔剣士が、ズボンを脱がせようと手をかけているところだった。


「きゃあああああ!!??」


 女戦士は、山中に響き渡る悲鳴をあげた。

 見間違いかと思ったが、本当にズボンを脱がそうとしている。

 あろうことか、今度はサイモンが貞操の危機だった。


 恐ろしいのはあの魔剣士だ、なんて『まがまがしい形の剣』を背負っているのだろうか。


 その剣、どうやって使うんですか。

 その剣、どうやって使うんですか。

 その剣、どうやって使うんですかー!


 コメント欄はぜんぶ追いきれないが、魔剣士の方の名前はすぐに同定されていた。


 騎士団長アスレ、クレイス領最強の男。38歳、妻子持ち。リアルにもゲーム中にもファンクラブのあるイケメン。ファンクラブ解散の危機←new!!


 襲われている男は、不明。神がかった筋肉。受け←new!!


「不明じゃないでしょー!? みんなヘカタン村を通るときは必ず挨拶してるはずじゃないのよー! なんであんなイケメン忘れちゃうのよー!?」


『村の門番の認知度なんてそんなもんだろ、落ち着け。これはゲームだぞ』


「ああん!? もう一度言ったらぶん殴るよ!?」


『すまんかった。場所はたぶんクワッド盆地の東の方だ、地図に印をして送る』


「わかるの!?」


『だいたいは。俺は一度、クエストで国王軍に会ったことがあるんだ』


「じゃあ、魔法使いなんとかしてよ! はやくしないとサイモンが、私たちのサイモンがぁー!」


『だから落ち着け。俺はいま電車にのってて、物理的にログインは不可能だ。双剣士も、たぶん今ごろ自転車だろ、スマホも見れない。だから女戦士、お前しかいない』


「わ、私だけ……!」


 ごくり、と喉を鳴らした女戦士。

 手が震える。

 目の奥がチカチカする。

 どうしてこんなに緊張するのだろう。


 いままでゲームをしながら、本気で震えたことなどなかった。

 なぜなら、心の中でこれはゲームだとわかっていたからだ。

 いつの間にかルールを覚えて、ロールプレイをそつなくこなせるようになって、世界観を守って。

 ゲームではないと言いきかせながら、ゲームをしていた気がする。


『おいおい、あんまり気負うなよ、これはゲームだ』


 魔法使いは、相変わらず世界観を台無しにすることを言った。


『だけど、あいつだけはきっとゲームじゃない。たのむ、サイモンを助けてくれ』


 魔法使いも同じだった。

 たぶん女戦士も、ゲームではない何かを感じはじめているのだ。

 失敗は許されない。

 あの男の命運は、自分の肩にかかっているような気がする。

 そう思うと、女戦士はがぜん燃えてくるのだ。


「わかった、任せてよ! あの変態騎士団長をぶっ飛ばしてくる!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ