ロスト
女戦士の予想:メタルスライム
実際の見た目:サターンヘルム
熱気のただよう洞窟のなかに、冷たい金属音が鳴り響いた。
チュィィン
魔導機械兵(頭部のみ)を槍で攻撃したサイモンは、いままでにない手ごたえを感じ、とまどった。
(硬いな)
見た目は滑らかな金属の塊に、赤い目玉がひとつついているだけの簡素なつくりのモンスターだ。
だが、サイモンの槍を受けても緑の体力ゲージは減らない。傷ひとつつかない。
恐ろしく強いのかと思いきや、反撃らしい反撃はしてこないまま、ぴょんぴょん飛び跳ねて、洞窟の奥に逃げていった。
「あっ、『まどへい』逃げちゃった」
女戦士は、魔導機械兵(頭部のみ)のことを『まどへい』と呼んでいた。
確かに長い名前なので、短い呼び名は必要そうだ。
「女戦士、なんだと思う?」
「なんだろう、なにかすごく嫌な予感がする」
女戦士は、サイモンと違って『ゲーム』の含蓄がある。
その彼女が、まどへい(魔導機械兵(頭部のみ))の動きを見て、嫌な予感がすると言うのは、なかなか無視することができなかった。
「あからさまに、ジャックポット的なモンスターの動きなのよ。これを倒せば大量の経験値が手に入るってやつ」
「だったら、追いかけていって倒した方がいいんじゃないか?」
「私が怖いと思うのは、これって誘ってるようにしか見えないのよ。AIが考えるイベントって、どこか普通と違ってぶっ飛んでるの。たぶん、追いかけて行った先に何かあるわ」
「よし、様子を見てこよう。女戦士は、ここにいてくれ。なにかあったらチャットを送る」
サイモンは、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと洞窟の先に歩みを進めた。
なりふりかまわず逃げていく『まどへい』がぴょんぴょん跳ねていった先を、通路の岩陰から身を乗り出して覗き込むと、どうやら広い部屋になっているらしい。
火の粉が噴き出す泉がそこかしこにあり、複数あわさって溶岩の河をうみだし、ごうごうと音を立てて流れていた。
室内の熱気も他の部屋の数倍は高い。
「これは落ちたらひとたまりもないな……」
サイモンは、汗をぬぐいながら言った。
さすがに『まどへい』も河には近寄らないようだ。
この河を利用して、『まどへい』を追い込めないかと考えていると、その先の広場にはメタリックな体のモンスターたちがたくさん集まっていた。
どれも同じ魔導機械兵と名がついているが、針金のように細い体に、腕が異様に大きかったり、腰から上がなかったり、まるで捨てられた人形のように形がまちまちだった。
それらは、お互いに磁石のようにガチン、ガチン、と音を立ててくっつきあうと、またたくまに巨大な一体の鉄の巨人へと生まれ変わった。
見上げるほど巨大なモーニングスターを手から下げ、ぶるんぶるん、と恐ろしい勢いで振り回し、洞窟内をうろついている。
機械兵たちは、まだサイモンの存在には気づいていないみたいだった。
だが、すぐそこに気づいている奴がいた。
さっきの頭部のみの『まどへい』を片手ですくい上げると、ぽっかりと空いた首の先に据え付け、一体のモンスターになってしまった。
『魔導機械兵(完全体)Lv.150』
名称が変わり、レベルもサイモンの5倍になってしまった。
「これはまずいな」
魔導機械兵(完全体)の目は、完全にサイモンの姿をとらえていた。
逃げても無駄だった。
巨大なぶん、攻撃範囲が凄まじく広い。
さらにモーニングスターの動きから逃れることはできない。
トゲのついた鉄球が周囲の鍾乳石をばきばき破壊しながら、サイモンの頭上へと降り注いでいった。
「ぐうっ」
いままで感じたこともない、圧倒的な衝撃に全身を貫かれて、サイモンは息絶えた。
***
意識を失って気がつくと、サイモンはいつものように門の前に立っていた。
「……まずい」
リスポーンしてしまった。
あれからどれくらい時間が経ったのか。
確認すると、意外とほとんど時間は経っていなかった。
リアルの世界では、午前5時50分。
この世界では、朝を過ぎて日がじゅうぶんに昇るころだ。
小鳥はもう遥か遠くの空まで飛んでいるし、ウサギはその辺の草原でもそもそと草を食べていた。
ほとんど時間は経っていない。
空白の20分は、今回は起きなかったようだ。
だが、困ったことに女戦士を『火の洞窟』に置いて来たままだ。
慌ててチャットを送るが、返事は一切なかった。
ともかくサイモンは、門の前からぐるりと西に山をめぐって、途中、木になっているリンゴを1つ2つ取りながら『火の洞窟』へと入った。
先ほどから、女戦士にチャットを送っているのに、返信が一向にない。
まあ、女戦士の場合はどうせメニューの設定をいじって、チャットの着信音を切っているのだろうなどと思っていると、案の定、サイモンと別れたところで岩陰にぴったりはりついたまま、こっそり様子をうかがっているところだった。
「ねぇ~、サイモン、大丈夫~? もう倒しちゃった~?」
いかにも心細そうだ。
周囲のモンスターはさっきサイモンが蹴散らしたばかりなので、まだリスポーンしていない様子だった。
サイモンは安心して女戦士に呼び掛けた。
「おい、無事か」
「ひゃあああっ!!?」
背後からいきなり声をかけたサイモンを、斧をフルスイングして思い切り殴りつけてきた。
レベル差は20以上あるが、武器が上等なエアリアル素材のせいか強力な押し返し(ノックバック)を受けた上に、若干いたかった。
「あれ、サイモン、なんでそっちから来たの!?」
「すまん、一回ロストした」
「ええー!?」
かくかくしかじか説明すると、サイモンが手渡したリンゴをがじがじかじりながら、女戦士はあきれた声をあげた。
「でしょー!? だから言ったじゃないの、あからさまな罠だってー!」
「返す言葉もない」
「しかし『まどへい』が合体ロボットだったとは……みにいこう、私もみたい!」
今度は、2人そろって前の大部屋の様子をうかがった。
魔導機械兵(完全体)は、今度は逆に1体ずつ分離してゆき、複数のモンスターに戻っていくところだった。
どうやら気まぐれに合体するらしい。
「てゆーか、レベル150って、バグじゃないの? 確かに倒したらたくさん経験値はもらえるんだろうけどさぁ。そんなの倒せるわけがないよ」
「いや……そうとも限らないぞ」
たしか、サイモンは一度レベルの表示がおかしくなったオーガ・キングを見たことがある。
本来なら一体どのくらいの強さなのかは不明だが、そんなモンスターを一撃で倒したホワイトアイコンがいるのだ。
「一度村に戻って、シーラを呼んでこよう」
「誰?」
「村の勇者だよ」
「おおー、いいじゃん」
女戦士は、目を輝かせた。




