五段階評価の上か下
「どう? どう? 私的にはこれなんか可愛くてオススメなんだけど」
「うーん、可愛い……のか?」
「あ、サイモン可愛すぎるのダメなんだ。じゃあこれはパスねー」
シーラがわくわくしながら持ってきた依頼書を見ると、確かにすべてのランクはAからFの五段階評価に当てはまらない表記だった。
「Hランク」
とは一体、どんなランクなのか。
サイモンはアサシンと顔を見合わせたが、お互いにふるふる、と首を横に振った。
「サイモン、そもそもFランクより下のランクってあるの?」
「すまんが俺もよく分からない。ただ、一般の冒険者には公表していない特殊な依頼は本当にあるらしいが……」
「Hランクか……アルファベット順だとF、G、Hだから……確かにFより低いけど、Gどこいったの?」
「俺に聞かれても困るんだが……そもそもFの続きがある事すらはじめて知ったんだぞ」
「そうか、サイモンもAからFまでしか知らなかったんだ。それ逆にカッコいいかも」
ちなみに、アサシンも知らないこのシリーズの『旧作』では、討伐難易度Hランクが採用されたものもあり、そのゲームではAからFの五段階ランクに加え、S、H、Xの順に高ランククエストとなっていた。
しかし初見だと分かりづらい区分だったせいか、以降のシリーズでは数字でランクが表されるようになっている。他のゲームではほぼ見ない。
「うーん、わかんないなぁ。AIがレトロゲームのアーカイブを学習して自動生成でイベント作ってるんだったら、こういうの出来ちゃうのかなぁ?」
「シーラ、これをよく見てくれ」
サイモンは依頼書を一枚手に取って、シーラに見せた。
シーラは言われた通り、顔をくっつけそうなぐらいに依頼書をじーっと見ていた。
「モンスターに名前がついてるだろ。ほら、これだ」
「サイモン、字が読めるんだ?」
「ああ、ちょっと勉強したんだ、門番は暇だからな。こういうのは『ネームド』って言って、普通より強いモンスターの特徴なんだよ」
「えっ……」
さきほどまでわくわくしていたシーラの表情が、急にすっと青ざめた。
「えっ、強かったの? ごめんなさい、あんまり知らなかった……じゃあ、サイモンでも2件はムリ?」
「わからないけど……難しいんじゃないかな、少なくとも今日中には」
リアルの時間で10分ちょっとの夕食までに2件まわれるというシーラの自信がどこから来るのかは不明だったが、さすがにサイモンも及び腰になっていた。
普通だったらモンスターを探して移動するのに1日つぶしてしまうだろう。
もしも五段階評価の下ではなく、上だったら、まともに1件こなせるかどうかすら怪しいところだ。
「そ、そう……だったの、ごめんなさい」
しょぼんと肩を落としたシーラ。
依頼書には危険度など重要なことも書いてあるのだが、シーラは依頼書の文字が読めないのだ。
文字が読めないとこういう危険がけっこうある。
冒険者ギルドの規則で、そのような僻地の村の冒険者の為に、依頼書には必ずモンスターのイラストが描かれることになっていた。
さらに、ランクの種類も文字が大きく書かれているだけでなく、色で見分けがつくように配慮されていたのである。
危険な依頼ほど朱色が濃くなり、Aランクの討伐依頼は真っ赤になっているのだ。
それでサイモンも何年かやっているうちに、AからFまでは覚えられた。
「他のクエストのときに、何回かみたことあるモンスターだったから、つい……」
「シーラ、このうち1匹でも見かけたら危ないから、全力で逃げて」
「そ、そうなのね、うん、わかった」
役に立てなくて気落ちしたシーラが、依頼書を束ねていると、ひらり、と1枚の依頼書が机の上に落ちた。
『ドラゴン』S
サイモンとアサシンは、腕組みをしてその依頼書を見下ろした。
「アサシン、俺の目には『エス』と読めるんだが……これもFより低いのか?」
「アルファベット順だと低い。確かにめっっっちゃ低い。けどこれよく見てよ『ドラゴン』って書いてあるよ?」
「書いてあるが、どうしたんだ?」
「サイモンの常識がわからないんだけど……他の依頼書は『討伐』とか『ランク』とかカッコいい『二つ名』とか、もっといろいろ情報が書いてあるじゃん。
けどこれ、『ドラゴン』と『S』以外に、もはや他に何も一切書いてないのだけど……『ドラゴン』、『S』、お前は冒険者、あとは分かるな? みたいな」
「開拓時代の古い依頼書は、たまにそう言うワイルドなのがあるらしいな」
「つまり塩漬け案件ってこと?」
「あ……こ、これはダメ! おねがい、倒さないで」
シーラは、慌てて『ドラゴン』Sの依頼書を隠してしまった。
涙目になって、すっかりうろたえてしまっている。
「サイモン、ごめんなさい、間違って持ってきちゃった……今度は、ちゃんとしたの貰ってくるから……」
「いや、いいさ」
サイモンは、シーラの肩を優しく掴むと、依頼書の束を受け取った。
謎の多い依頼書の文言を、一枚一枚見て言った。
「行けるかどうかはわからないが、片っ端から行ってみよう」
「うそん、サイモン優しい。惚れてしまう」
***
ひとまず、ギルド中央ロビーの大マップで、そのモンスターが発見されたという地点を確認してから、一行は西回りの乗り合い馬車でその近くに向かった。
港町から西に海沿いの道を進んでいくと、馬車は岩だらけの谷に入っていく。
魔の山の西側は、凶悪なモンスターが無数に巣をつくる冒険者の聖地だ。
この時間帯にも大勢のブルーアイコンが見受けられた。
「どんなクエスト受けたって、ふつうはこんな所まで気軽に狩りに来れないぞ。シーラ、けっこう強い冒険者だったんじゃないか?」
「そうなのかな。よく分からないの」
「よく分からない? 普通、ギルドの冒険者は依頼を受ける前に、さんざん説明を受けるだろ」
「うん、だけど私、普通の冒険者じゃないんだ」
シーラは、悲し気な目をしていた。
サイモンは、シーラがどうしても彼に話したくない過去を背負っているのを知っている。
いままで踏み込むまいとしていたことだったが、今日の彼女はいつもと違った。
彼女はサイモンをじっと見つめながら、とうとう過去を打ち明けたのだった。
「……ごめんなさい、私、あなたにずっと黙っていたことがあるの……。
サイモン、あなたが全部のことを教えてくれたから、私も隠していた事をぜんぶ言うわ……」




