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もしもAIが未成年者保護条例に気づいたら

「おおー、これが『火炎玄武』の素材ねー」


 スミスは、サイモンがアイテムリストから取り出したヒスイ色の破片を眺め、いろいろな角度からじっくり観察していた。

 鍛冶師のような職人の眼には、『加工ポイント』と呼ばれる点が見えるらしい。


「ふぉー、加工ポイント350もあるわ、すごー」


「強いのか?」


「強い強いー。まずこのままでもSクラスの『火属性』がついてるでしょー? で、この加工ポイントをぜんぶ『攻撃力プラス』に加工したら―、武器になる前の素材ですでに『火属性の攻撃力350』になっちゃうのー。なんとなくヤバい素材っぽいでしょー?」


「なんとなく強そうだな。できたら武器よりも防具が欲しい。炎が防げるとなおいい」


「うん、炎はバッチリ防げるー。下準備するから、しばらく待っててー」


 スミスは、複数の素材をぽいぽいと鍋に入れると、料理をするみたいにぐつぐつ煮こみはじめた。

 生産職は、目的の材料を用意するためのこの『合成』の過程にけっこう時間をかけるらしい。

 夜中に作業していると、うとうとと眠ってしまうことが多いのだそうだ。


 ぐつぐつ煮える鍋を観察していると、不意にスミスは言った。


「で、『自称NPC』のサイモンさんはー、アサシンちゃんと一体どこまで関係が進んだのかなー?」


「ぶふっ!?」


「『自称NPC』?」


 質問の意味が分からず、サイモンは眉をひそめた。

 隣を見ると、アサシンが顔を真っ赤にして、いまにも窒息しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。

 どうやら、いまは彼女に質問できるタイミングではなさそうだった。


「俺は生まれた時からホワイトアイコンなんだが?」


「そうかもねー。けど私の手に入れた事前情報ではー、サイモンさんはゲームではとてもやさしくて―、純粋で正義感あふれる人でー、何度も何度も彼女を助けてくれるんだけどー。

 実はリアルでは甘えん坊でー、傷つきやすくて―……」


「ストーップ! ダメですスミスさん! そ、そ、それ以上は! 『著作権法違反』ですよ……!」


「あらーごめんなさい、『創作』だったの知らなかったわー? まー、だいたい男を知らない子の作りそうな話だってのは分かってたけどー」


「はうううぅ! はずかしめられた……! くやしい……! 逃げよう、サイモン! こんなところにいる場合じゃないし……!」


「アサシンちゃん、ダメよー? どんな男とどんな付き合い方をしようが勝手だと思うけどー。あなたって未成年よねー?」


 にこにこしながら、なるべく相手を怖がらせないように気を遣って尋ねるスミス。

 アサシンは、びくっと肩をふるわせた。

 脂汗をかき、なにやらしどろもどろになって返答に困っている。


 サイモンは首を傾げた。

 王都だと成人年齢は18歳だが、ヘカタン村だと13歳から成人なので、未成年と言われてもあまりピンとこない。


「未成年だと、どうしたんだ?」


「んふー、リアルではー、けっこう重要なのよー? 『未成年者保護条例』っていうのがあるのー。サイモンが逮捕されちゃうよー?」


「そうなのか? アサシン」


「えっと……その……そ、そういうリアルの話は……あんまりしたくないというか……バーチャル乙女はみな、リアルの年齢を公言しない権利を有していると思うので……その……」


「あはは、わかりやすいわねー」


 サイモンはまるで知らなかったが、アサシンはなにやら後ろめたいことを理解しているらしい。

 ぐしぐしと、アサシンは顔をこすって泣き始めた。


「わ、わかってます……いけないってことぐらい……けど……けど私……サイモンが、好きなんです……離れたら、胸にぽっかり穴が開いたようになって……会ったら、じんわり温かい気持ちになって……いけないことかもしれないけど、もっとずっと一緒にいたいって、気持ちが強くなっていくんです……うぐぶぅぅ……」


 にこにこしていたスミスは、金床から飛び降りると、振り返りざまに金床を蹴り倒した。


「グアーッ! ちくしょうがぁーっ!」


 スミスは、いきなり怒声をあげた。


「ほんっとに若い奴らはーッ! どこでも見境なくイチャコラしやがってよぉー! こちとら仕事で疲れきって遊びにきてんのにアオハル見せつけてんじゃねぇー! 顔ひっぱたいてメープルリーフみたいなお揃いの手形つけてやろうかぁー!」


 ウォーハンマーで金床をばこんばこん殴り飛ばし、はぁ、はぁ、肩で息をするスミス。

 アサシンは影でガタガタ震えていたが、サイモンは、「きっとこの人は真面目な人なんだな」、となんとなく思ったのだった。


「ねぇー、シナモン、ひとつ聞いていいかしら?」


「サイモンだが、なんだ」


「純愛なの?」


 スミスは、真剣な表情で彼にそう尋ねてきた。

 サイモンの眉の動きひとつ見逃すまい、という険しい目つきだったので、サイモンもうかつに返答することが出来なかった。


「ピュアラーブ、オアー、ノットピュアラーブ、ザッツザクェスチョン」


 言い直されると、ますますわからなかった。

 サイモンはなぜか英語の方が通じると勘違いされる見た目をしているらしい。


 相変わらず、ブルーアイコンの言葉は謎だらけだった。

 サイモンは、ほとんど話についていけずに困ってしまった。


「すまない、俺には質問の意味が分からないんだが」


「ふっ、やっぱり答えられないのね? あーあ、男なんてそんなもんかぁー」


 スミスは、問いかけにすぐに答えられない事がすでに答えであるととらえたらしい。

 ネコミミの帽子を深くかぶりなおして、白い髪をさらりとかき上げた。


「私もねー、純愛はできないタイプなのよー。毎日毎日、仕事と、お酒と、ゲームでしょー? いつもだいたい三股くらいかけてるわけー。で、そこに食べ物と男が入り込むでしょー? そしたらもう五股になるわけー。日替わりで付き合ったら平日使い潰しちゃうわー」


「す、スミスさん、それたぶん純愛なのでは……というか、サイモンは違うし! 不純なんかじゃないし!」


「いい? アサシンちゃん、たとえあなたが本気だったとしてもー、未成年者を連れまわして午前3時までゲームをしているなんてー、ふつーの学校関係者だったら怒って当然よー?」


「……ごめんなさい」


 アサシンは、しょぼんと肩を落として謝った。

 非常勤とはいえ教師のスミスは、苦笑して彼女の肩をぎゅっとつかみ、前後にゆすぶった。


「この後デートするんでしょ? どこ行くの? 何時くらいに寝るつもり?」


「カプリコーン退治に行きます。今日は寝なくて、朝まで貫徹するつもりです」


「若いわー。じゃあ、私は『学校に来る前にせめて1時間は寝ておきなさい』って言っておくわねー」


「先生……!」


「たぶん、防具が完成するのは4時くらいだからー。そのくらいに取りに来なさいねー。もしも取りそびれたらー、冒険者ギルドに預けとくわねー」


 てっきりアサシンと引き離されるのかと思ったが、どうやら、スミスはこの事を見逃してくれるらしい。

 1人になったらどうしようかと思っていたサイモンも、ほっと安堵した。

 リアルでは知らないが、サイモンの村では未成年でも槍を持てれば立派な戦力とされるのだ。


「あ、私は見逃すけれどー。2人とも、くれぐれも他の人にはバレないように気をつけなさいねー? 特に人の多いSNSやゲームの中では『警察』に目をつけられるかもしれないからねー」

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