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ACT17 プロジェクトBLUE

「!」

 セーラが、一瞬身体を震わせた。

 レッドの告白は、あまりにもショッキングだった。

「プロジェクトBLUEについて、話さなきゃ……な」

 やっと気持を静めたレッドは、静かに話し始めた。

「戦争終結以来、今までずっと……それを隠して生きてきたんだ」

「レッド……」

「プロジェクトBLUEってのは、最初の計画だと、あくまでも強化兵士養成だったはずさ……優秀な兵士の遺伝子を複製し、適切な訓練を施せば優秀な兵士で揃えた部隊を編制できるってな。

 だが、そうやって誕生した俺たちは……失敗作だったのさ」

 レッドは、大きく息を吐き出し、力なくオペレーター用シートに座り込んだ。

「失敗作?」

「ああ……金と時間を掛けたわりには、俺たちの戦闘能力はたいしたことがなかった……せいぜいが、常人の倍といったところだったからな。

 兵器としては、費用対効果が最低の代物ってことさ……おかげで、戦況の悪化に伴い、プロジェクトに変更が加わった」

 レッドは、言葉を切った。

「役立たずだった俺たち素体(マテリアル)を利用して、生体コンピュータとして再生するプロジェクトさ……人間の身体を動かすように、脳が宇宙船や防衛システムをダイレクトに制御する……計画に遅れをきたしていた究極防衛システムを完成させるには、その方が早い。

 そして、その実用試作品が……これだ」

 レッドは、目の前に存在するカプセルを示した。

 今まで、心の奥底に仕舞い込んでいた忌まわしい記憶だった。

「ここにいるのは、俺の仲間……いや、俺の分身ともいえる存在なんだ。

 人格を消去され……変わり果てた姿になっていても、人間であることに違いない」

「……」

「もし、戦争が長引いていれば……俺も、生体コンピュータに改造をされていたかも知れない……」

 レッドは、力一杯両手を握り締めた。

 自分の過去を他人に話すのは初めてだった。船長のリンや、ウォルフにも話したことはない。

 今まで、誰にも話したことのない過去の悪夢が目前にある。

「俺の……いや、俺たちは、統合戦争初期のトップエースたちの遺伝子を利用して造られたクローンさ」

「クローンって……じゃあ、レッドは……」

 レッドは、保存してあった遺伝子から再生された、かつてのトップエースの完全な複製だった。レッドたちは、戦闘のためだけに複製された存在として、専用の施設で育てられた戦闘兵器にすぎない。

 レッドは、自嘲めいた微笑みを口元に浮かべた。

「ここにいるのは……俺自身だよ」

 レッドが、震える声でつぶやいた。

「俺と全く同じ遺伝子を持っている」

「……」

 あまりの事に、セーラは言葉を失った。

 レッドの告白は、ある事実を意味していた。

 そして、それは恐るべき事実だった。

 確かに、すべてが合点ゆく事柄だった。

 レッドが、このゾディアックの内部構造を正確に把握していたのか。

 中枢部といえる、CICルームに入るパスワードを知っていたのか。

 そして、セキュリティシステムの最終チェックを簡単にクリアできたのか。掌紋・網膜パターンの合致は、完全に同一の遺伝子を持たなければ合致しえない。

 全ては、レッドがこの戦闘艦の一部として組み込まれていたのであれば、不思議でもない。

 だが、それは……認めるには、あまりにも酷な事実だった。

 レッドのドッグタグが二組存在していた理由も、これではっきりした。

 レッドは、初めから二人いた。

「ここにいるのは、もう一人の俺のなれ果てだよ」

「でも……単に、レッドと同じ遺伝子を持つだけでしょ?

 人格は別のはずよ」

「そう、人格はね……俺たちは、人格など認められちゃいなかったよ。

 ただの、製造番号だけしかなかった、素体(マテリアル)って呼ばれる存在だったからな」

「そんな……」

 シートから立ち上がったレッドは、カプセルに歩み寄った。

 透明なカプセル本体を補強するメタルフレームにはめ込まれた小さなプレートに、レッドは指を触れさせて刻み込まれた文字を読み取った。

 それは、製造番号が一つ違うだけのレッドの分身だった。

"Red Bradley BLUE/017"

 レッドの製造番号はBLUE/018だった。

「俺たちは、人間の姿をしているが……生体兵器のなれ果てさ」

「違う! レッドは、兵器なんかじゃないわ!」

 セーラが、レッドにしがみついて叫んだ。

「出生がどうあれ……あなたは、心を持った一人の人間よ!

 戦闘システムの部品なんかじゃない……」

 その後のセーラの声は、言葉にならなかった。

 何と言っていいのかわからず、レッドはその場に立ち尽くしていた。

「なるほどねぇ……これで、全て合点がいったよ」

「リン!」

 驚いた、レッドが振向いた。

 いつ姿を現したのか、リンが、CICルームの入り口に立っている。

「突然、船の動力が起動したんで驚いて来たら……こういう事情だったわけね……」

 ゆっくりと、CICルームに足を踏みいれ、興味深げな表情で、室内を見渡す。

「プロジェクトBLUE、ね」

「まぁね……今まで、言えなかっただけさ」

「わかってるさ……他人に吹聴するような話題じゃないもんね」

「姐さん……驚かないのかい?」

 リンが、器用に片目を閉じて微笑んだ。

「そりゃあ、驚いたさ……けど、それだけだよ」

 リンの返事は、単純明解だった。

 いつもの船長リンと少しも変わらない。

「俺は、戦闘のためだけに存在するように生まれ、訓練された……兵器だぜ」

 そばに歩み寄ってきたリンが、レッドのヘルメットを軽く小突いた。

「あんたが、生体兵器のなれ果てだろーがなかろーが……気にするほど、(ケツ)の穴は小さかぁない。

 レッドはレッドさ……プロジェクトBLUEなんざ、あたしにゃ関係ないよ」

「……まいったな……」

 レッドは、大きく息を吐き出した。

 リンの心が、たまらなくうれしかった。

 決して物扱いしない……レッドを仲間と認識してくれている。

「俺も、船長と同意見だぜ!」

「!」

 突然のウォルフの声に、リンが驚いて振向いた。

 いつのまにか、CICルームの入り口の壁にもたれるようにして、ウォルフが立っている。いかにも、ウォルフらしい登場の仕方だった。

 ごつい腕を組んだまま、ウォルフが苦笑を浮かべた。

「それにしても、(ケツ)の穴……たぁ、下品なセリフだぜ」

「ウォルフ!」

「盗み聞きはよくないねぇ」

 リンの言葉に、ウォルフが低い声を出して笑った。

「姐さんに言われたくないぞ」

「それは言えてるね」

 肩をすくめたリンが、恥ずかしそうに苦笑する。

 ウォルフは、悠然と歩み寄りレッドの肩を叩いた。

 暖かく、力強い掌の感触だった。

「レッド……お前は、俺の相棒だろ?

 これからだって……デルタクリッパーを扱えるのは、お前だけだぜ」

「この、くそおやじ……」

 レッドは、ウォルフをにらんだ。

 不器用だが、心がこもっている。

 これが、ウォルフ流のさぐさめ方だった。

《全員揃ったな……リン、ウォルフ、レッド、セーラ……》

 再び、立体映像が現われた。

 "提督"の姿に、リンとウォルフは反射的に直立不動になる。

《リン・リンファ中尉……いや、確か最終階級は少佐だったな。

 今でも、儂を信頼してもらえるか?》

「イェッサー!」

 リンが、踵を打ち鳴らした。

 "提督"が、微笑んだ。

《では、最後の指令を伝えよう……プロジェクトBLUEの処遇は、その一切を任せる》

「イエッサー! 他には?」

 "提督"が、寂しそうに首を横に振った。

《何もない……ただ、生き延びて欲しい》

「提督……」

《泣くな……別れの挨拶は、三年も前にしてるぞ》

 異変が起きたのは、その瞬間だった。

「!」

 突然、船内に派手な警報音が響き渡った。

「何?」

《ホワイトクロスに、正体不明艦が接近している》

 "提督"の言葉に応じて、メインスクリーンに映像が映った。

「!」

 ホワイトクロス外部に装備されたパッシブセンサーからの画像には、見覚えのある巡洋艦の姿が明瞭に映っている。

 相当損傷している様子だったが、それでも追撃をあきらめないのは、さすがだった。

「あんの野郎ぉ……まだ懲りてなかったのか」

 ウォルフが、激しく舌を打ち鳴らす。

 キーラーたちだった。

「けど……どうして、ここが?」

《"牙"をなめては痛い目にあう……奴等だって、それほど馬鹿じゃない》

「!」

 リンは、鋭く舌を打ち鳴らした。

《彼等は、ずっとこのゾディアックを捜索していた……少しでも、ゾディアックが動けばキャッチ出来るように、色々な手を打ってあったはずさ》

「あたしらが、ホワイトクロスに入港した航跡をトレースされたってことだね……うかつだったねぇ」

《慌てることはない……奴等は、ゾディアックを無傷で捕獲しようとしている以上、問答無用で撃ってくることはなかろう》

「じゃあ……白兵戦?」

《たぶんな……》

 リンの表情が変わった。

「白兵戦なら、デルタクリッパーで援護しなきゃ……この人数で闘えやしないよ」

 重装備の機甲猟兵を相手に、4人で闘えるとは思えない。

 "提督"が、微笑んだ。

《この船を取引材料に使え……ここで生き残らなければ、本物の提督に会えなくなる》

「!」

 レッドは、表情を変えた。

 "提督"が、レッドの方を見つめる。

《レッド……仲間ならば、理解できるはずだ……この想いを》

 それは、"提督"ではなく、BLUEの想いであり願いだった。

「わかった……」

 レッドは、両手を力一杯握り締めた。

 レッドには、その想いが痛いほど理解できる。


       ◆


「こんなところに、根拠地を用意してあったとはな……やってくれる」

 スクリーンに投影されたホワイトクロスの光学映像をながめ、キーラーが口元に冷笑を浮かべる。

 光学映像からは、ただの彗星にしか見えない。

 敵の目に止まりにくい隠し場所を選ぶのが、通商破壊戦に携わる連中の常套手段だった。それは廃棄された軌道ステーションの残骸だったり、小惑星だったりする。

 だが、一番目立つ彗星を根拠地にしてしまった提督の考えは大胆なものだった。目立つがゆえに、誰もが見落としてしまう。

 キーラーとて、例外ではなかった。

 メルイア崩壊戦以来、キーラーたちはプロジェクトBLUEの行方を追うためにメルイア星系を捜索していた。

 小惑星帯に隠したか、それとも破棄された軌道ステーションの残骸に隠していないか、捜索に要した労力は多大なものがあった。

 だが、彗星に偽装した根拠地を完全に見落としていた。

「連中の航跡は、ここで途切れたんだな?」

「No.107プローブの反応が途切れたのは、ここです……反対側の小惑星帯にセットしたNo.108プローブ入感がありません」

 メルイア星系の全域にセットした偵察プローブからの情報をチェックしていたオペレーターが、デルタクリッパーの推測航路をスクリーンに投影させる。

「このエリアで、ターゲットが減速したと思われる赤外線反応があります。

 また、微弱ですが、この彗星からは自然現象ではない赤外線が検出されています。

 質量計からのデータを判断すると、恐らくは空洞だと思われます」

 報告にうなずいたキーラーは、傍らに直立不動で控えるバッサに視線を移した。

「バッサ、出番だぞ。

 腕っぷしの強い連中を指揮して、内部に突入しろ。

 最優先目標は、プロジェクトBLUEの確保……連中との決着をつけるのは、その後だってことを忘れるな」

「イエッサー! 抵抗があった場合は?」

 バッサの言葉に、キーラーがかすかに歯を見せた。

「好きにしろ」

 デルタクリッパーのクルーが優れているとはいえ、アーカスシティのようにはいかないはずだった。重火器も人員も使い放題の"牙"にとって、デルタクリッパーのクルーは敵のうちに入らない。

 減速したジレーネは、ホワイトクロスに接近する。

 ホワイトクロスの外壁にアンカーを撃ち込み、係留体勢に入ったジレーネの反応は早かった。

 二十人を越える男たちが、白兵戦用の頑丈な宇宙服に身を固め、エアロックから吐き出されてくる。

 複合材料を多層化した装甲と、高精度を誇るセンサーを標準装備した宇宙服は、メルイア軍が誇った機甲猟兵の装備だった。

 小型ミサイルランチャーと、レーザー機銃を携えた姿は、凶猛さが漂っている。

 重装備の機甲猟兵が、ハンディロケットを使用し、巧みにホワイトクロスの表面に張りついてゆく。無重量状態での行動に慣れた動きだった。

 メルイア宇宙軍の残党だけに、その行動は統制がとれている。

 彗星の本体は、氷と塵の集まりだった。

 その表面に巧妙に偽装したハッチを発見した部下が、巧みに散開して爆薬をセットする。

『セット完了……起爆信号送信します』

 陰に張りついたバッサが、返事のかわりに手を振った。

 とたんに、宇宙空間に小さな閃光が走り、足元の塵だらけの氷の固まりに鈍い震動が伝わってくる。

 補給場所として用意されたホワイトクロスは、戦略拠点防衛用の軌道要塞とは違い、外敵からの防御はほとんど考慮されていない。

 メンテナンス用ハッチを突破されれば、補強用の構造材を兼ねた隔壁が二重になっているだけだった。

『突入!』

 フル装備の機甲猟兵にとっては、何の問題もない相手だろう。

 通路に降りた頑丈なシャッターを破壊した機甲猟兵は、宇宙船用の巨大なトンネルになだれ込んだ。

『!』

 先頭をハンディロケットで浮遊していた男が、激しく弾き飛ばされた。機甲猟兵用の頑丈なプロテクターが、強力なエネルギー流に貫通されている。

『物陰に隠れろ!』

 レーザー機銃の激しい応戦に、バッサたちは素早く部隊を散開させた。

 うかつに動けば、確実にレーザーの猛攻を浴びる。それも、携帯用のレーザーではなく、近接防御用に軍用艦に搭載されている大出力レーザー機銃だった。

 重装甲を誇る機甲猟兵とて、艦載レーザーの直撃では助からない。

『どこから撃ってくる?』

 奇襲攻撃から立ち直ったバッサは、素早く状況を読み取った。

 敵の数からすれば、これだけの攻撃が長時間出来るはずがない。

 ミサイルの爆圧を利用すれば、敵の攻撃を一時的に停止することが可能だろう。

 バッサは、肩に装着していた筒状のハンディランチャーを手にとった。

『ありったけのミサイルをぶっ放すぞ』

 機甲猟兵が反撃に転じようとした、その瞬間だった。

『動くんじゃないよっ!』

 リンの鋭い声が、バッサたちの通信システムに強制的に割り込んできた。

『今から、こっちの切札を見せてやるよっ!』

 突然、ホワイトクロス内部の照明が点灯し、ドック内部を煌々と照らし出した。

「何ぃ!」

 バッサたちの前に立ちふさがったのは、ゾディアックの巨大な主砲だった。

 その破壊力は、近接防御用のレーザー機銃どころではない。

 艦載用の大口径荷電粒子砲は、直撃でなくとも機甲猟兵を消滅させるのに充分すぎる破壊力を秘めている。

 だが、ここで発射すれば、ホワイトクロス外壁に係留されたジレーネまで撃ち抜いてしまう。

「馬鹿な……」

 ジレーネの防御力では、重巡洋艦の主砲の直撃に耐えることは不可能だろう。

 まして、彼等の前にあるゾディアックの兵装は、最新型の戦艦に匹敵する大出力砲だった。

 間違いなく、ゾディアックの一撃だけで、ジレーネは原子レベルまで崩壊させられてしまう。

 だが、ジレーネの爆発に、ゾディアックが巻き込まれて誘爆することも間違いない。

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