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第7話「主体的心理を追い求めて」

 出来るだけ開けている場所を選び、ずりずりと片足を引きずりながらルチア達の元へと進む。

 もはや、感覚はない。

 拾った木の枝を杖がわりに進むのがやっとだった。

 さっき俺に噛みついてきた細長い恐竜、あれがディゲスだってなら俺は大変な勘違いをしていたらしい。

 弱いわけじゃない……ありえないほど小さいんだ。

 あんなのがわんさかいるとしたら、大男が壊した茂みだろうと油断はできない…………。

 そして…………この顎、絶命しているというのに取れる感じが全くしない。

 思いっきり脚ごとディゲスを体から離そうとしたら、胴体が潰れてしまった。

 もちろん、頭に血が上ってやったんだが、顎の力より胴体の耐久性が弱いってのは欠陥なんじゃないか……?

 自分の手で生き物を殺す感覚はもう、味わいたくはないな……。

 茂みの周りに生い茂る雑木のあちこちにディゲスが見えてくる。

 周りにある全てが恐怖の対象でしかない。腕に残る贓物の痕は服で何度拭っても取れなかったものだ。

 生臭い匂いが俺を混乱に貶める。

 いくら相手が動物で、俺を襲ってきたとはいえ、殺してしまった…………。

 俺に命を奪う価値はあったのだろうか?

 あのまま食わせてやった方が世界の為になったんじゃないか。

 そんな考えが時間を追う事に浮かんでくる。

 とはいえ死ぬことは出来ない……。例え頭で考えたとしても身体が恐怖に従ってしまう。

 風で揺れる雑木の葉にビクビクしているのがその証拠だろう。


 ルチアはどうしてこんな俺を連れてきたんだ……。

 いや、わかっている。ただの偶然だ。

 現れたのが俺じゃなければ、きっとルチアはそいつを連れて行ったんだろう。

 俺の運が悪かった、ただそれだけなんだ。

 ルチア達と一緒に街へ戻って、それから家へ帰ろう……。


 ___家…………?どうやって帰るんだよ……?

 今更だが思い出した。

 俺はどうしてあんなところに居たんだろう。

 初めは宗教団体か何かに巻き込まれた……。

 そう思っていたが、今まで見てきた奇跡、街、人……どれも紛れもない本物で、事実だった。

 一体ここはどこなんだ……?


 瀕死になって今更、今更すぎるほど今更、俺は家に帰れないことについての不安を覚えた。

 今まで楽観的すぎたのだ。

 痛みで目が覚めた。ここは俺が居ていい場所ではないんだ。



 _____

 _________

 _______________



 地面が抉れていて、地表がむき出しになっている。

 周りの木には剣でつけたような傷がいくつも付いており、そのうち何本かは倒れていた。

 だがその原因になりうる要素が見つからない。

 脚のことを考えればここからは進めないだろう……。だが、手がつけられていない雑木の中ならば……

 思いつくと同時に助けを求めて雑木の中を進んでいった。

 ディゲスが追いかけてくるような気がして止まっていられなかった。

 枝に引っかかったパーカーのフードは破れ、ツタに引っかかり何度も転んだ。

 それでも進む事をやめれなかった。

 身体中に血が滲む、痛い……痛い……。

 だがそれよりも、今は孤独が……静寂が痛かった。

 一心不乱に進んでいく。葉をかきわけ、前さえも見えない雑木の中を真っ直ぐに進んでいった。

 しばらく歩いていたら、何かにぶつかった。

 ブニョンとした感触に沈み込んでしまう。

 同時にその中からプチップチッと小さな破裂音がなる。


「た……たまご……?」


 たまごだった、だが哺乳類のそれではない……


 __魚の卵に似ていた。

 赤い透明な卵の中に小さな粒が見える。

 小さな粒の中にはディゲスの面影がある胎児のようなのがなかに見えた。



 破裂音について悟るのに時間はかからなかった。

 こみ上げてくる胃液の臭さで吐き気に拍車が掛かる。

 抑えた手の生臭さにはもう耐えていれなかった。

 胃袋にはもう何も入っていない。

 俺はしゃがみこんだ状態で赤い卵の塊を見上げ続けていた。




 ___今、何か聞こえたような。


 ガサガサとした音が斜め前から聞こえてきた。

 ロロ達が探しに来たのだろうか……。

 これでやっと……。


 と言った俺の安堵は次の瞬間木っ端微塵になった。

 斜め前の茂みからディゲスが顔をだした。

 冷や汗が身体の体温を急速に下げていく、宙に浮いているこの感覚は死の感覚なのだろうか……。

 動く事は既に出来なかった。


 デカイ……デカすぎる。

 ギョロっとした目は肉食に相応しく、身体中の鱗は逆立っていた。

 時折見える牙には血が滴っている……。

 それに、尻尾がない……切れている。

 まさか……そんな……


 ディゲスは一点を見ていた。

 俺でもない、卵でもない、その視線の先を追うと……ルチアが居た。

 気絶しているのか、眼を閉じて木にもたれかかっている。

 その、ルチア目掛けてディゲスが大口を開けて走り出した。


「あああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!」


 ディゲスより先に俺の脚が動いていた。

 不思議な使命感だった。

 あの子を守れと身体が信号を出していた。


 脚は既に半分切れかかっているかもしれない。それくらい痛い。

 だが、俺はディゲスとルチアの前に飛び込んだ。飛び込めた。

 だからどうしたというのか。

 相手にしたら食う対象が二人に増えただけだろう。

 今気づいた。


 そして今、ディゲスの大口が遠ざかって……


 遠ざかって……?



「なにやってんだい!!!!!!!!!このダボがッ!!!!!!」



 真上にロロが乗っかっている。

 鉄格子だ……。

 鉄格子の上にロロが乗っかっていた。

 という事は俺は鉄格子のなかにいることになる。

 どういうことだ……食われたんじゃ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 大男の叫びが俺の思考を遮った。

 ディゲスに飛びつき首を絞めている、真剣そのもの、死を覚悟した男というのを初めて見たんじゃないだろうか。 俺にはそう見えた。


 その隙にルチアがディゲスから離れて木を伝い、素早くこの鉄格子の上に上ってきた。



 ……なんで鉄格子が浮いているんだよ。


「カルマさん!! 助けに来てくれたんですね!!」


 邪魔して、危うく死にかけたというのにこの笑顔、殺菌されそうだ。


「トムゾー!! そのまま抑えてな!!」


 そう叫んだロロが剣を構えながら垂直に落ちていく。

 減速はない、加速するのみ。

 その状態からクナイのように剣が投げられる。

 片目だ……。片目に刺さった。

 ディゲスが暴れまわり大男を振り下ろした。

 完全に痛みにやられている……。

 ロロがフックのついた剣を両手で持ち……空中で回転、その剣は回転の力、重力の力を得た。

 そして、担い手のロロによって……振り落とされる。


 ___片目に突き刺した。ナイフを刺した方だ。

 ディゲスの顔は右目から下の部分を全て失っていた。

 その部分を全て、ロロは突き刺し、滑っていったのだ。

 それによって減速、着地。

 完璧すぎるほどに完璧だった。

 俺が殺したディゲスの生々しい生が潰れる感覚は無く。

 感動さえ覚えた。

 もし、もし、もう一度命を奪う機会が訪れたのなら俺もあんな風に…………。


 自己本位の最低な考えを胸に抱きつつ……視界が狭くなっていくのを感じた

長い文を最後まで読んでいただきありがとうございました!(まだ続きます

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