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第二十三話.山賊襲撃

R15描写あり。

残酷&流血描写あり。

今回はがっつり戦闘に挑戦。

全体的に単調です。主人公は多重人格という、厄介なもの、だったりする。

では、小難しい戦闘へどうぞ。(戦闘描写は不慣れだから難しい…)


 淡々と長いので、お覚悟を。(読み飛ばしてもらっても構いません)


 姫路から家への帰り道。

 山中の森の中、僕は荷物を担いでパルクール!


「ひゃっはー! たっのし~♪」


ただいま、やけくそ気味にテンションを上げてお送りしております。


「居たぞっ。追えっ、追えーー!!」

 

 追いかけてきているのは、街道筋の大事な交易路で出くわしてしまった山賊さんたち。最近噂の荒くれ集団。おに……おに……名前は忘れたけれど、ここ最近、とっても暴れている悪い奴らなのですっ。

 姫路の町のおばちゃんたちが言ってました! 帰りは獣の他に、山賊や野党が出るから気をつけろって。

 見事に当たりましたよ、ええ!! 獣はイノシシまでなら対処できるようにここ一か月でなりましたけれど、対人戦はまだ難しいンだYO!

 対人戦やるくらいなら、低級妖怪相手に陰陽師の真似事して、調伏仕事する方がまだマシだいっ! 精神統一で練り上げた霊力放射の『霊力弾』で、力押しのごり押しできるからな。エッヘン!

 “起きて”から二か月と少し。僕の裏山での修行の成果と姫路での情報収集能力を舐めるなっ。その気になれば、こんな山賊……こんな山賊……ふえっ、やっぱりこわいぃぃぃぃいいいいっ!!!

 

 誰が中年のおっさんらに追いかけられて嬉しいものかっ。否、嬉しくない!!

 自分の不運を泣きたいですコンチクショ―!


 僕のデフォは臆病者なんだよ?! オーバーキルだって当たり前にしちゃうくらい怖がりの臆病者なんだよ!? 臆病じゃなきゃ、堂々と侍になってるよ。腹きり切腹だって、敵の前に堂々と姿現して特攻だって出来てるよ! ああそうさ、臆病だから奇策ばっかりの忍者修行してるのさ! 悪いか? わるいか? アハハハハハハハハハッ! ……ッ、チックショウめっ!

 

 僕が忍者やるのは、第一に旦那様との思い出ってのもあるけれど、人間として戦闘を学んだ一番最初の戦闘方法が忍者用だったからのもあるんだよ! トラウマ大量増産されるくらい慣れ親しんだ戦法を選んでしまうのは仕方ないじゃん!? 仕方ないじゃん? 忍者便利なんだものっ! 

 薬剤、諜報、索敵、体術、格闘術、武術全般、軽歩移動術、天候予想術、地図作成能力、人心掌握術、感情操作術、変装術、暗殺術、火術、砲術、料理、裁縫、家事洗濯、雑学知識、エトセトラ。エトセトラ。

 ほんとに忍者って色んな職のいいとこ取りみたいな総合職の便利な御職業なんだものっ。忍者修行してたら、将来、ぜったいに食いっぱぐれることがないんだからっ、この職業が副業として止められなくなっちゃったんだよ!! わるいか? わるいか? わっるいかー!? あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!


 ―――っと、いけね。混乱していた。冷静にならなければ。


 木々の枝々を下駄を履いた足で蹴る。これも大きくなった時の訓練。訓練だと自己暗示をかけてやるぅっ! 足を踏み外さないように気を付けつつ、無駄にテンションを上げて笑うことで体の緊張を緩和した僕。ぶっちゃけピンチです。


「なんだありゃ? 木の上を四足で走っとるぞ!?」



 もしかしたら僕、ここで死ぬかもしれません。まだ、『銀に飴を届ける』という任務クエストの最中なのにぃ!! 任務半ばでは死ぬに死にきれないヨッ!

 だけど余計な怪我も、痛いのも、人殺しも避けたいので、現在、逃走中であります!(敬礼。※心の中で)


「小猿かよ。追いかけんの無理じゃね? 障害物を無視して走っとうからに、あいつ意外と速いぞ」

「弱音を吐くなや! 久々の獲物やけえっ、取り逃がすなっ!!」

「アレはどっちかっつーと子猿やのうて山猫じゃろ? 矢を射ても俊敏に躱しよってからにっ、よーやるわ」

「ええいっ、どっちでもいいっ。今度こそ取り逃がすんじゃねえ! もうすでにあいつに三人やられてるんだ。注意しろ」

「「「「へいっ、お頭っ」」」」


 僕は両手で木に捕まって、次の木に飛び移りながら、後ろの山賊さんたちの声に耳を澄ます。


「あらまぁ、小声で喋ってるのに、気づかれるなんて。あれ、全部退治しなくちゃいけないのかしら? 僕様、困っちゃう♪」


 空中で体を捻って一回転。

 頬に手を当ててふぅと息を吐いてから、次の枝をはしっと掴んで、地を走る。

 山賊さんたちが言うように両手両足を含んだ四足で。

 何故って、この方が速いから。


 何度もいうように、この幼い体で出来ることはタカが知れている。


 山賊相手に逃げ切るには、頭を使うか、一撃必殺の大打撃を与えなければ生き残れない。


 殺す、殺さないの時限の話。


 力加減して無傷で生き残ろうなんて、今の僕にはまだ無理だ!


 いずれ、力加減の方も体が出来上がるにつれて、出来るようになりたい。


 ただし、今は加減したら僕が身ぐるみ剥がされて、殺される……!! 僕だって、命が惜しいんだいっ! 銀兄貴に飴を届けなきゃっ。簡単な御使いも出来ないようじゃ、僕は自分で自分が許せないっ!!


 走る度に財布に収めたお金が、ちゃりんちゃりんと金属音を鳴らして、自分の修行不足を思い知らされる。


 生活のため、銀のため、家で待つ付喪神たちのため、買い込み過ぎた己の荷物が重いっ!!


 背中に背負った荷物の他、腰、肩、足、頭にまで荷物を小分けにして、詰め込み、積んでいる僕。正直、「これであいつら喜ぶぞ♪」なんて、張り切って値切り交渉&買い込みに精を出した少し前の僕を殴り飛ばしてやりたい。


 いや、僕の拳、蹴りに比べたら猫ぱんちと変わりないんだけど―――。

 

 風切り音を感じて、横目で後ろを見る。

 巨大な斧が漸と振り下ろされるところだった。

 僕は慌てて前の茂みに転がり飛び込む。

 瞬間、大戦斧は轟音を轟かせ、僕が居た場所の地面を抉り取る。


 その威力にひやりと額に冷たい汗を掻いて、僕はひきつり笑った。

 もつれる足を叱咤し、躰を柔らかく操り回転させて、降り注ぐ矢を避ける。


 山賊11人相手の逃走劇。最初は14人だった。三人は僕が罠に嵌めて殺した。


 人生初の殺しだ。

 正直、あとで精神的に来そうだが仕方ない。僕はまだ、死にたくはないのだ。


 誰も4歳でkilling童貞、卒業するなんて予想してなかった! 僕も予想してなかった!! せめて七歳までは殺しなんて、一切関わりないと思ってた! こんな幼子相手にカツアゲする大人げない大人がいるなんて、思わなかった! 思いもしたくなかった! まだまだ平和に暮らしたかったぜ、ちっくしょーー!!


 山賊に襲われるのも初めてなら、誰かを殺すのも初めて。

 対人戦もこの躰になってから初めて。


 転生してからの裏山での運動と、千夏姐さんの所の庭でカラス丸相手に遊んでたのが功を奏したみたい。一応、逃げ切れている。が、躰がやっぱり重いです。


 戦国の忍者時代で、身重の躰に重しつけて運動しようと無茶した時みたいに体がとってもとっても重いです!! なんか、身の丈に合わない鎧を着て、無茶な運動をさせられているみたい。


 とにかく軽さと速さが足りないよぉぉぉおおおおーーーっ!!


 もっと、早くっ、疾くっ、速くっ!! 行動を最適化して、風の如くっ……!!


 逃げやすい森の中の地形を利用して、ちょこまかと11人の山賊たちを翻弄していく。


 武器は出かけに[薬師堂]の爺様から頂いた鍼灸用の針15本としびれ薬少々。

 家の武器庫から護身用に持ち出してきて、姫路の町で研いで貰った鉄扇ひとつ。 あと自分自身の肉体のみ!


 手裏剣術の成功率は、まだまだ低い! 毎朝早朝と夕刻に木とカラス丸に向かって練習していたけれど、成功率は五分と五分!


 針は今まで倒した三人相手に一本ずつ使った。


 落ちていた(つる)をよって、足を引っ掛ける罠にして、ひとりずつ仕掛けた。


 相手が転がったところに素早く木の上から、茂みから体重を利用して飛び掛かり、爺様特性、即効性の麻痺薬を先端に塗った鍼灸針を首に突き刺した。


 その後、持っていた縄で簀巻きにして、流れていた川に転がして流す作業×三回!!


 三人目を再起不能にして、転がしたまでは良かった。


 物音に気付かれて、追加で一気に3人の山賊が現れるなんて思わなかった! 思わなかったよ最悪だ!!


 おかげで驚いて転んだ拍子に、持っていた針を転がした三人目の盗賊の首にむにゅっと突き立てちゃったじゃんか!


 あんまりするりと刺さったもんで、僕も山賊らも驚いたけれど、この歳で自分の手で誰かを殺すなんてしたくなかった! 


 したくなかったんだよ!! だから、見つけた川に簀巻いて流すなんてまどろっこしい方法をとったのに、ぜんぶあいつらが悪いんだあ!


 街道筋で大金と荷物を持った僕を待ち構えていて、鉢合わせた途端、下卑た笑いを浮かべて、襲い掛かってきたあいつらが悪いんだ!!


 おかげさまでkilling童貞卒業、最短記録更新しちまったじゃねえかおらァアア!!

 

 どうすんだよこれ!? どうするんだよこれぇえ! どうなるんだよ僕ぅッ!!


 降り注ぐ矢の雨。土を抉る戦斧。時折、突き刺してくる槍林。髪の先っぽを掻っ攫っていく凶刃をすんでのところで避けながら、僕はおっかなびっくり無様に逃げ回る。


 奴らめっ、僕を本気で殺しに来てる! 殺気がビンビンと肌に伝わる。さぶいぼ(鳥肌)が止まらねえ……!


 足がもつれかけて、息が上がる。

 生唾を飲み込んで、無理やり笑顔をつくり、体の緊張を解した。

 まだいける、まだいける。今度は弓兵さんたちを罠に嵌めよう。


「き、消えたァ……!?」

「どこだ!? どこいった!」

「探せ探せっ、まだその辺に居るはずだ。仲間の敵を討て」

「「「「応ッ!!」」」


 敵方の視線の感じから、死角を確認して、そこを移動し渡る。


 僕は途中で拾ったアケビ付きの蔦を握りしめ、懐の鉄扇を確かめて、息をつく。


 家の裏山で培った『気配察知・初期(仮)』スキルを利用して、山賊たちを獲物に見立て、おおよその配置を探る。


 敵はどうやら“鶴翼の陣”の如く、翼を広げて僕を囲み、全員で殺るつもりらしい。弓の振ってくる方向からして、左右に二人、ないし三人ほど弓兵がいる。


 全体の攻撃の練度からして、二年以上はこの界隈で山賊家業をやっていそうだ。ただの山賊にしては、どっかの大名家にでも雇われていたのかァ……? なんか連携と統率がハンパじゃねえ!! 


 息をつく暇がないからアケビで水分補給が出来ねえぞこらっ! 


 家が潰れた浪人者……? ありそうだ。特に頭っぽい巨漢の中年男なんか特に。


 錆びの入って鈍器と化した刀が禍々しい。あの禿げの頭、太陽光を反してぴかーっと光ってたっけ? 蹴り飛ばしたかったなぁ。まあ、どーでもいいけど。


「―――避けるの飽きた。めんどいっ」


 蔦からアケビをむしり取り、懐に収めた。

隠形術を用いて気配を殺し、槍が降ってきた背後にひらりと反転。驚いた顔のひょろ長い山賊の顔面を鉄扇でしたたかに打ち据える。


「ぐあはっ! このガキぃ!?」


 落ちる重力を利用して、下駄を履いた右足で顔面を踏み跳んで、相手が苦悶の表情に呻くのをにやりと笑って魅せてから、体を捻って思いっきり回し蹴りで首筋を蹴り飛ばす!!


「ぐほへえっ!?」

「あ、兄貴!!」


 獲物は木の幹に強かに体を打ち付け、気絶したようだ。威力が足りないようで、首が折れる感触はしなかった。出来るなら後顧の憂いを絶つため、殺しておきたいところだが、生憎とそんな暇はない。


 膝を曲げて衝撃を和らげ、音を最小限に地面へ降り立つ。


 違和感を感じる首をコキッと鳴らして、外れかけた足の関節を己が拳を打つことで直し、即座に次の獲物である刀を持った年若い山賊に狙いを定める。


 忍びの歩法を用いて低く地面を駆り、虎走り。


 へっぴり腰の浪人山賊に向かって僕は冷たく猛攻する


 本来ならばここに影分身を加えたいところなのだが、生憎と技術と体力と速さがおいついていないので仕方がない。


 ひっ、と短い悲鳴を上げて、バケモノを見るような怯えた表情で、震える刀。

 練度が低いか迷いがあるから、斬られたら余計に痛そうだ。勘弁、勘弁。


 『殺すならば、殺される覚悟も持って事に当たれ』


 不意に師と前世より前の“僕”―――“遊楽シリーズ”からの教訓が頭をよぎる。


「ねえ、君は殺される覚悟ってやつ、ある……?」


 ぽそりと呟いて、鉄扇を持った手を引き、彼の躰の下に来たところで瞬間的に飛び上がる。恐怖に歪む顔が大振りに刀を振り上げた。遅いっ!! それじゃあ届かない。引いた鉄扇を持った手で、顎下に向けてコークスクリュー! 


「ひえぶぁっ!?」

 

 脳震盪を誘発して、相手が刀を取り落としたところで、彼の肩を掴んで、首裏に回し蹴りを放つ! 


 柔らかく力のない子供の足なれど侮るなかれ。蹴りは拳の三倍の威力ぞ。


 回し蹴ることで遠心力も加わった渾身の一撃は、会心の蹴りを生み出し、脳震盪で動けない彼に地面を舐めさせた。


 相手が動けないアドバンテージが解除される前に、僕は前方の木の幹を蹴って反転。山賊の男の広い背中を、天狗から貰った下駄を履いた足で踏みにじる。

 そのまま流れるように服の袖口から麻痺薬付きの針を取り出して、彼の首筋に突き立てた。


 悲鳴を上げる間もなく、ことりと気絶する男。


 股間から染み出す失禁の跡が凄まじいな、と妙に冷めた思考の端で感想を述べ、僕はほうと息をつき、額に滲み出る汗を拭う。


 ぐずぐずはしていられない。すぐに次の獲物に取り掛からなければ。


 山賊、残り9人。


 弓兵4人、槍一人、刀が三人、戦斧使いの頭一人。伏兵はわからない。


 弓兵は僕を一時、見失っているようだ。弓の雨が止んでいる。

 このままここに居ては次の獲物に早々と見つかってしまうな。


 僕は気配が示す左側の弓兵目がけて行くルートを頭の中で算出。

 そのルートに到達するため、一番近いだろう茂みに隠れて、懐から出したアケビの実で水分補給と体力回復を図る。

 同時並行して、脳内で、攻撃&回避方法、逃走経路、次の獲物への取り掛かり方、自分が死なない方法を冷静に考察。黙々とアケビを食べる。


 少し甘い感じが疲れた体に心地良い。


 ぺろりと指についた果実の汁を舐めて、拭き取り、再び鉄扇を握りしめ、臨戦態勢を取る。

 左手には巻いた蔓だ。鞭や鎖代わりに丁度いい。


「《アドレナリン全開。仕事モードに移行します》」


 立ち上がるとふらりとふらつく足。肉体の限界が来ているようだが関係ない。


《仕事だ。任務は山賊討伐。生きて家まで帰宅すること。以上。手段は問わない。》

 自己暗示だろうがなんだろうが使って、殺れ……!!


 身の内に宿る霊力を込めた言霊の暗示を自分自身に付加する。


 戦国の忍者時代によくやった荒業だ。


 強制的に肉体の限界(リミッター)を解除する! 副作用はあるが、後の心配は捨てた。


 今はこの山賊たちを再起不能にして、無事、帰宅する事だけを演算しよう。


 名無しの子供はふらりと幽鬼の如く揺らめくと、タンと地面を蹴って飛び上がった。

 それは人間の限界を超えた動き。

 身の内に宿る先祖の力、鬼の力を彼は自己暗示によって呼び覚ます。

 血が滾るように熱くなる。半妖の血だ。人間から鬼神へ移行する寸前の肉体の歓喜の呻きだ。紫水晶の瞳が右眼だけ赤く染まる。


「ぐあぁ……くっ。」


 体中を引き裂きそうな猛烈な痛みに耐えること数秒。

脳内で仕事用人格“黒狐(くろぎつね)”のアナウンスが流れる。


(《肉体最適化。血と魂に宿る輪廻の記録を辿り、鬼神(おにがみ)()きを発動します。同時並行して猫憑き、発動不可。

 相棒の猫、魂契約をした()()禍福(かふく)の猫】天津(あまつ)(くう)()を召喚後、再契約を結びなおしてください》)


 こいつにしてはバカ丁寧なアナウンスだ、と“表の”人格は思う。

 視力が格段に良くなった狂気と強靭な意志を宿すワインレッドの瞳が、空中から、山賊たちひとりひとりの位置を視認した。


(《再契約に必要なモノは、あなたのイラナイ記憶とあの外見詐称若作りジジイ猫と一生、今生もずっと一緒にいるという意志です。

 術の発動には、再契約の際、与えられた嫌に長い、無駄に長すぎる寿命を消費します。

 なお、現在倒した山賊たちの有る筈だった寿命や、生物の肉体、血液、あの猫が望むものならば対価の代替支払が可能です。再契約しますか?》)


 頭の中で別人格“黒狐”がごちゃごちゃと喋ってる間に、“表の”肉体は、左手に握った蔓を鋭く伸ばす。先ほど倒した山賊の刀を、蔓の端を絡めて掴み取らせ、


「(まだ、要らねえ……!! まだ最悪の危機じゃねえ。自分の身が危険なだけだ。まだあいつの力は必要ねえ! 『鬼化・弱』だけで十分だっ)」


 鬼の怪力と持ちうる技術の全てをもって、刀を地表から持ち上げた。


(《了解致しました。刀持ち山賊との距離、200メートル。……150……100、重なりました! ここです!! 投げ放てーー!》)


 対角線上に存在した刀持ち山賊二人が重なる瞬間を狙い、放つ―――っ!!


 小さな放物線を描いて、地面を削り取りながら、一直線に山賊二人目がけて飛んでいく必殺の白刃。

 それはたまたま射線上に出た槍師山賊の腹をも貫き殺して、浪人山賊二人を串刺しにする!


 森の中に断末魔の叫びが響いた。


 僕は刀と蔓を回収しようと、鎖を操るように体全体を使って蔓をしならせ引っ張る。

 力が伝わりきらなかったのだろう。

 引き戻した蔦の先端が、刀を引ききらずにぶちりと千切れた感覚が手に伝う。

 僕は心の中で舌打ちして、蔓を腕に巻き取った。

 空中から落ちていく感覚の中、アケビを一口、ぱくりとかじる。


 残り、6人。


 辺りを窺ってみると、風に乗って血臭が漂ってくる。――ということは、こちらが風下か。

 ニオイがあちらに伝わらなくて、丁度いい。


 すたりと地面に着地した瞬間、鬼の御業を放った左腕がぶくりと膨れ上がる。

 痛みを覚悟して、歯を食いしばった瞬間、左腕がパーン!と風船みたいに弾けた。

 人間の躰が鬼の怪力に耐えきれず、血液が噴出する。

 子供は呻きを噛み殺して、手早く応急処置。周囲の把握に努めた。


「帰ったら修行の強化だな、こりゃ……」


 こうなる気がしたから、鍛え終わるまで、異能の“隠叉”の力を使うことを厭うていたというのに。やっぱり、まだ修行足りなくて、力を使いこなせていないじゃないか。腕が内側からパーンって吹っ飛んだじゃないか。超痛い……気がする。痛すぎて、即座に自己暗示で痛覚を切ってしまったから、わからないけれど。


 呟き、微笑み、警戒する。

『鬼神憑き・弱』を発動したことで、半分だけ、藍色から真っ白く変わった髪が、よろめいた拍子に揺れた。



 ◇◆◇



 この子供の本性は、稲荷神の最高神に仕える神使、鬼神【白鬼】(ゆう)()童子(どうじ)の転生体。

 呪いを受け、多大なる穢れをその身に宿して、人の躰で過ごすことで、穢れを祓うことを義務付けられた神代の時代から存在する神だ。司るものは、遊び、子供、戦、学び、書物と多岐に渡る。日ノ本初の“鬼子母神”といえば聞こえがいいか。

 


 ◇◆◇



(《『“神の御業は人の身には過ぎたる力”。』皮肉だナ。神代の時代から幾百、幾千、幾万もの戦場を駆ってきた【白妙赤房風由神(しろたえのあかふさふゆうのかみ)】遊鬼童子とあろうモノが、タカダカ地方の田舎の山賊14人如きにこの様トハ、ヤレヤレ、無様だナ》)


「黙れ、黒狐。てめぇこそ皮肉を云う暇があったら演算に徹しろ。もう一度、心象世界の底なし井戸の底に眠らすぞ」


(《お~、お~、コワイコワイ。コココッ、言われずとも殺ッテいるサ。強制的に練り上げた今代の霊力に神時代の神通力を一欠けら依り合わせ、呪いの力を用いて左腕、完全治癒。これでまだまだ殺れるぜ? キシャッ、キシャッ、ココココッ!》)


(バー)戦士(サーカー)の殺人鬼が。だから僕はテメェが嫌いなんだ」


 口の中で呟きつつ、左腕を確認する。

 神経が途切れた感覚がしていた左手。握ったり開いたりを繰り返そうと動かしてみる。変わりなく動く。


 この戦闘に特化した、特化させた肉体と精神が、僕がバケモノと言われる最初の由来。人の身で、俊敏な体で、可愛い容姿で、大量の敵を屠る。


 一対多が僕の本領発揮の場。“白鬼”とは違う“藍猫”の由来。


(《ソンナことユーナヨ。今生も仲ヨクしようゼ? 俺様とテメェは利害関係が一致してンだ。俺様は誰でもイイからたっぷり“人間”を殺シタイ。

 転生する度に“表の”俺様を悪し様に扱ってキタ“人間ドモ”に報復の惨たらしい裁きを!! 

“表の”、テメェが殺せナイヤツも、俺様がイザトなれバ殺シテやるヨ。今までダッテ、ソウシテ来たじゃナイか。ナア、相棒?》)


「うるさい。テメェは余計なモンまで殺し過ぎる。嫌いだ、嫌いだ」


(《コココッ、否定したって無駄ダ。この黒狐様はテメェが輪廻において、初めて人殺シをシタ時に産まれた裏人格、“表の”、テメェの一部だ。否定しても無駄だ。無駄だヨォ~。コココッ。オット、上を視ろ》)


「矢の雨だ」

(《矢の雨だ。斜め前に避けてそのまま疾走! パルクール!》)


 今まで居たところに放物線を描いて真上から三本の矢が突き刺さった。

 真っ直ぐ前に走り出す。四本目の矢が僕の頬を掠めて通り過ぎていく。

 鮮血が飛んだ。すぐに黒狐が僕の特殊身体能力を勝手に利用して、頬の傷を塞ぐ。

 いつの間にか、僕は四足になって、森の中を気配のする方向へ疾走していた。

 敵方の陣形は狭まり、移動している。


 左右から僕を狙い撃つ弓は相変わらず忙しない。


 もう一人居たはずの刀山賊と巨漢の大男である戦斧使いの頭の姿が見えない。


 逃げたか? 


 ならばここからが正念場だ。

 伏兵に気を付けて、一人ずつ確実に殺らなければ、殺られる!!


 樹上や茂みを伝って、先ずは左側の弓兵の死角。樹上に降り立ち、彼らの首を狙って蔦を投げた。首を絡めとり、窒息死を狙う。


 一人が気絶し、一人が蔦を持っていた小柄で断ち切った反動で、僕は後ろに転がり落ちながら、弓を取り直した山賊の眉間に狙いすまして、麻痺薬付きの針を投げる。


 同時に相手の矢尻が僕の命を奪おうと飛んできた。


 咄嗟に近くの樹の幹を二回蹴って、空中で避ける。


 相手の驚愕した顔が面白い。


 鍼灸針が眉間を大きくそれて、着物の衿口から見える首に刺さった。

 投擲失敗。まだまだ自分は修行が甘い。


 地面を低く駆り、相手の股間を鉄扇で強打。


 相手がもんどりうって、足の間に手を差し入れた瞬間、防御が軽くなった首裏に鉄扇を打ち据える。弓兵は意識を失い、気絶した。


「残り、四人。本当は鉄扇ではなく、手刀でこの威力を出したいよ」


 言葉が漏れたことに気が付かず、さっと後ろに反転して、また茂みに隠れる。


 矢が刺さる。居た場所に矢が刺さる。

 動こうとしたら、腹に衝撃を感じて驚き、見ると藍色の着流しが赤黒く染まっていた。


「ぐふっ……」


 痛みが走り、吐血する。


 冷静に矢を鉄扇で叩き折り、引き抜いた瞬間、大量の血が腹から噴き出した。


 どうしよう? これ。帰ったら銀になんて説明しよう? 田吾作さんあたりも驚くだろうなぁ―――。


 傷は少し慌てた様子の黒狐が、即座に塞いだ。


 肉を焼くような感覚が少々気持ち悪い。血が足りない。目がかすむ。鬼化の限界が近い。足がふらつく。


 喜び勇んだ山賊ども、3人が出て来た。


 刀山賊が神妙な顔で刀を振り上げ、弓二人が矢をつがえている。


「このガキ、ワシらの仲間をよくもまあ、こんなに殺してくれたのう。この落とし前、その命で贖ってもらおか。ああ゛ん?」

「まあ、待て。坊主、年はいくつだ?」

「知らん。数えで3歳か4歳だと周りの大人には言われた。君ら、こんな子供に襲い掛かるなんて人の道どころか妖畜生の道も外れて外道だな。地獄の冥官に足蹴にされて転がされるぞ」

「聞いたか? ワシら、ホンモノのバケモノにも劣るンだってよォ」

「ワハハハハハ!」

「坊主、名は? ワシらと一緒に山賊やらへんか?」

「名はない。君らと山賊するつもりもない。忍びの三禁、盗みだけはどーしてもトラウマでダメなんや。残念やったのう。ここ、通してくれる? それともここで――死ぬ?」


 鬼化が解けそうな体を必死にこらえて、両手の肉体を操作し、爪を驚異的に尖らせる。

 

 もう、面倒だから爪であいつらの首を掻き切って、心臓を抉り抱してどっかに抛り棄てよう。

 

 人として終わっている黒狐と僕自身の思考がそう告げる。


 矢が垂れ下がった腕と首筋を掠めていった。


 二の矢を鉄扇で弾き落とし、三の矢を掌底で叩き落とす。


 鋭く刀が振るわれ、僕はその刀の上に飛び乗り、凶器の爪が伸びた手を刀山賊の首元にずぷりと突き刺す。


 生暖かい血が気色悪い。


 ああ、後で全部まとめて、家の仏壇で成仏を願っておこう。


 引き抜くと同時に今度は、驚愕の色に染まった表情をしている男たちの首を狩り取る。弓を持つ手が震え、腰が抜けていたので殺りやすかった。


 鬼化が解けるな、と白から藍色に戻っていく髪を目の端に捉え、ふと思う。


 身軽に地面に降り立った我が身に殺気を感じて、斜め後ろに跳び退くと巨大な戦斧。


「真打登場ってか?」


 引きつった笑顔が口の端から漏れた。

 攻撃を繰り出そうと地を蹴り、飛び上がると盾にされたのは、先ほどこと切れた刀山賊の死体。胸のあたりにもう一度腕が突き刺さって、少々申し訳ない気持ちになる。


 いや、御免。死体になってまで、死者を辱める気はなかったんだ。ほんとマジで御免。

 

 引き抜こうとして、降り注ぐ風切り音に気づく。

 勢いよく上を見上げると大振りな戦斧が、死体諸共僕を分断しようと襲い掛かって来ていた。


「うわあっ!?」


 思わず、腕が突き刺さったままの遺体に体を丸めて抱き付き、首元まで登りきる。

 彼の下半身が真っ二つに分断された。イイ男っぽいのに、残念…。ん? 残念ってなんや。僕は男や。そしてこっわ!


「えげつなっ、容赦ねえっ」

「仲間全員殺して腐ったバケモンが、何言うかっ。退治してやるから大人しゅう殺されろ」


 絶望を含んだ涙声の濁声。

 山賊の頭は泣いているようだった。

 だけど、


「そりゃ無理だ。襲い掛かってきたのはそっちだよ。寝た鬼を起こしたのはそっち。殺すなら、殺される覚悟を以て殺りましょう―――が、僕の教訓だもの。こんな子供を狙った君たちの落ち度だ。悪く思うな。冥福は祈ってやる」


 素早く腕を引き抜いて、ほっ、よっ、はっ!と振り回される戦斧を避け続ける。


 アドレナリンが全開なのと鬼化がまだ解けきっていないから出来ること。


 正直、笑顔を作るのもしんどいです。ポーカーフェイスを忘れずにっ。


「自分が死ねや。不死身か自分! どーして倒れへん。くそっ、くそっ、くっそーー!!」


 躰は完全に疲れている。その証拠に、時折、刃が体に掠って鮮血が飛ぶ。

 目は霞んで見えていない。音と気配と勘と記憶における戦の経験のみで避け続けております。この子供騙しもいつまで続くやら――。


 見えた。隙だ!


 僕は牛若丸のように飛び上がり、斧に再び飛び乗って、彼の肩に右手をかける。


「ばいばい。もう会いたくないよ」


 そのまま左手の爪を彼の首筋にあてがい、引こうとすると、何を思ったのか、巨漢の戦斧使いは、自分の得物を自分―――正しくは張り付いた僕―――に向けて、振り落した。予定を変更して空中で右肩から左肩に飛び移り、右手で心臓を貫き出して、背中を蹴り、離れた。


 心臓の感触が温かくて気持ち悪くて生きていて嫌になる。

 僕はそれをぽいっと捨てた。背後で人が死ぬ音がする。


 終った。山賊、残り0人。


 初の殺しにほろ苦い気分。ぽっかり心に穴が開いたみたい。

 何かを失くしたような恒例のなんともいえない気持ちがわき上ってくる。


 ああ、しんど。


 鬼化が解けて、体中に激痛が走った。


 力が抜けた。


 地面に倒れ込む。


「勘弁してくれ。記憶上の“僕”は何度もやったことでも、今生の“僕”は初めての行為なんだから―――」


 疲労困憊。明日は筋肉痛。


 目を瞑ろうとして、ふと気づく。


 ああ、そういえば、残党狩りも抜かりなく、しなければ。


 思い立って立ち上がり、丁度よく落ちていた山賊の刀を拾ってそれを杖代わりに、気絶させた他の山賊たちを見に行く。


「あれ? 居ない……?」


 周囲を見渡す。

 誰もいない。気配もない。

 野生動物のように息を潜めているのか?――と、集中して気配を探ってみるけれど、なにもない。本当に、誰も、居ない。


(《どうやら逃げたようだナ》)


「黒狐、そう……みたい、だね」


(《俺様の仕事は終了シタ。また戦場にナッタラ呼べ。ジャアナ》)


 身の内の黒狐が眠りにつくのがわかる。きっと、次、血が臭うまで起きない。


「おやすみ。大嫌いな黒狐。僕はあとは帰る、のみ、だ」


 雷が鳴り響き、見上げた空が曇天に染まる。

 雨が降りそうだ。

 行李から笠を取り出して、頭に被った。




 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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