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第十八話.はじめての商売

文章がところどころ意味不明かもしれませんがお許しを。

 ごめんなさい。ちょっと、スランプ気味なのです。

 

 銀の獣少年は、やっぱり三日ぶりに起きて。

 トウモロコシを見て、首をかしげる銀。(これはどうやって食べるんだ……?)


 一方、姫路の街。

 人だかりの多い大通りの一角で、身長100センチにも満たない幼子と若い男が言い争っていた。周囲の人々は、好奇心に満ちた目で二人を見、あるものは女の子らしき少年が背負った籠の“限定”、“値段、応相談”の文字に目がくらみ、舌戦の合間に商売っ気を出した少年から商品を買ってはしゃぐ。

 少年は、物分りの悪い子供に言い聞かせるように、無造作に結んだ“煤色の黒髪”を掻き乱す。


「だからねっ、この美容石鹸は僕が作ったんですって。何度言ったらわかるの?」


 若い男、――客だろう――も負けじと言い返す。男は今日、このノラと名乗る不思議な少女に見える少年相手にもう、四半時(約30分)ばかり粘って値切り合戦を繰り広げているのである。根性のある男だ。そんなに女にモテたいか? そんなにこの幼子の少年が自ら売り子をしている現在が信じられないか?


「嬢ちゃんみたいなチッコイ幼女がそんなもンつくれるわけないやんか。いいから3文で売り! 親探したるから」


 三文とは、江戸時代の通貨で、一文銭三枚のわずかな金額のこと。安値やわずかな物事を指すのに用いられる。

ちなみに江戸時代の一文(一銭)は、現在の金額にして約18円くらい。

例えば、立ち食いのかけそば。江戸時代の「二八そば」は、その語源のひとつと考えられている「2×8=16」から長らく16文だったというのはよく引き合いに出される。これで三文の安さがわかっただろう。使用した植物のほとんどは自力で採取し、人件費と経費を極限まで抑えたとはいえ、この石鹸には三文以上の元手がかかっている。

単純な話、利益が合わないのだ。

ノラ(仮名)は、にこやかな顔の額に青筋を浮かべておどける。


「御冗談をっ。どこのぼったくりヤロウですかコノヤロー僕は嬢ちゃんやのうて下についとる男の子やって言うとうやんけ。せめて朱銀出せ。親なしの恵まれない子にご慈悲を」

「はァ? この嬢ちゃん、嘘こくなや。どーみても女の子やんけどーせどっかに親が隠れとるんやろ? 売り物だけ持たされてはぐれたんやろ? ていうか、テメーの方がぼったくりやんけ! 二朱銀なんて出せるかいな。1文銭やるのも勿体ないヨソの餓鬼に小遣いやるゆーとんねん。せやからもっとまけいっ。」

「はっ。御話にならへんわ。見てみなよこれ」


 背に抱えていた竹籠を傾けて中身を見せる。

手作り感満載の包装紙に包まれた石鹸が残り少なく10個ばかり入っていた。『あわあわ肌艶せっけん』と書かれた文字は黒墨の消え入りそうな達筆。泡を立てる女性の手は泡の触感まで繊細に描き出され、使用方法が分かりやすい。包装紙だけで値が張り上がりそうな出来栄えだった。

だが、良いのは包装紙ばかりではない。ここ三日くらい女性たちに姫路の街で噂になっているのだ。

曰く、使い心地のかなりいい石鹸を、親を亡くした子がたった一人の兄のために売っている。曰く、この石鹸を使ったら日頃の家事で荒れていた手がお城のお姫様のように綺麗になった。曰く、なんでも売り子の“()の(・)()”はまだ幼く、生活苦に苦しんでいる。助けてやらにゃあ男じゃない。つーか買ってこいや男どもっ! あたし買ってきてくれたらあなたのためにもっと綺麗になる努力するからっ。あんたの好きな手料理作ってあげるから。デートしてやってもいいわよ? きゃっ。

――などなど、噂話におひれ、せびれ、腹びれまでついて、あっという間にこの界隈に知れ渡った。そういうわけで効果のほども確かならば、売り子の野良猫のノラ(仮名)の容姿と境遇もあいまって、今人気急上昇の大人気商品なのである。

 ノラ(仮名)は籠に貼った半紙を安物の扇子で叩く。お客の視線は誘導され、嫌でも『一週間限定!』と赤筆の大字で書かれた文字が目に入った。舌打ちしたくなる気持ちを抱えた客の耳に、ノラ(仮名)のわざとらしい長いため息が聞こえた。


「肌スベスベになるってんで人気の美容石鹸ですよ? 今話題の数量限定、お肌つやつやすべすべ人気せっけん! これを買って帰れば家族の女性陣や気になるあの子に好かれること間違いなしっ。男の人の洗顔にも使えます。もちろん、他の石鹸のように体を洗って貰っても構いません。そこはご使用者のご自由に」


 身振り手振りを交えて大げさに商品広報をするノラ(仮)。なかなか道に入って様になっているではないか。言葉尻の最後に背中側の腰で両手を組み、にこっと笑う姿は人懐っこい愛嬌があって可愛らしく、なかなかどうして自分の容姿をわかっているようだ。表情がクルクルころころとよく変わり、声色まで多種多様に変化する。見ていて飽きない商売とはこのことか。

この売り口上に目の前の客だけでなく、周囲に人だかりが出来、今にも売り切れそうな勢いだ。ノラは「ただし!」と言って人差し指を前に突き出し、言葉に力を込める。


「――髪だけはなるべくこれで洗わないでください。髪の毛は石鹸で洗うと痛みまする」


 おおっ!――と客から歓声が上がり、そこここで話し声が大きくなった。

 ノラは自分の籠から石鹸を取り出して、売り切りに力を入れ始める。


「これに取り出したるは肌艶石鹸。100パーセント天然素材の手作り石鹸! これ使って綺麗になった自分で気になるあの子にアターック! 親孝行の背中流しにも使われてみては? きっとほっこり和みまする」


 にこっと笑ったノラ(仮名)に客が殺到した。ノラは客の群れを上手く捌いて、揉みくちゃに踏みつぶされそうな集団の中心から脱出し、一番最初の値切り交渉していたお客にメンチを斬る。


「三文なんて、蕎麦も食べれねぇじゃねえかよこのやろー。幼子と思って足元みんじゃねえぞ?」


 柏手を打って、大声を張り上げ。残り7個限定! 残り7個限定! あとはまた明日!と宣伝するノラに、一番最初のお客は焦りを感じて声を張り上げる。


「ちょ、ちょっ、ちょい! 堪忍してぇなあ。ウチには肌荒れに悩むカミさんと年頃の娘がおるねんでっ? ウチかて懐きびしいねん。わかってえな、な?なー?」


 ノラは男の顔を見ず、にこやかにまたひとつ、またひとつと会話の合間に売り捌いていく。


「僕かて親なしで年の近い兄さんのために生活費、稼がなアカンねん。一両の借金までしとんやで? もし一か月以内に目標金額、貯めれへんかったら身売りの危機やねん。自分の身ぃ売っても借りたもんは返さなアカン。それが筋ってもんや」


見下げ果てた冷たい目だった。


売りの合間に買い手に冗談を云い、値段交渉を行いつつ、最初の客との口論も続ける。

舌を巻くほど手際が良い。かなり手馴れた様子だ。小さいのに偉いわねぇ、とちゃっかりおば様方から甘味も貰っている。本当に外見の幼さと中身のギャップが釣り合っていないお子様だ。


 家の事情を語ったおかげか、客たちはどんどん値段交渉の石鹸代を吊り上げていき、残り7個だった石鹸は飛ぶように売れる。ノラに突っかかっていた男は、客たちからも冷たい目で見られ、こんないい子相手にこの男は…!?なんていう風な目で見下げられる。男は耐え切れず土下座した。


「なんかスンマセンでしたーッ!!!」

「こちとら髪の毛もロクに切れへんほど切羽詰まっとんねん。買うんやったら買う。買わんのやったらその手離す。(アン)さんこそいい加減に腹ァ決めやがれ。僕、わざわざ待ったっとんねんで? 今すぐ別ンとこ売りに行ってもええねんで? 限定商品やから、次、兄さんが僕を見つけて購入できる機会がいつになるか知らんがのぅ……?」


ジロリと買い手の列に並ぶ客たちからの冷たい視線。

ノラは今日、並んでもらったお客様の名簿を制作。買い手の名前と住所、買いたい商品の数を矢立(携帯用墨と筆)で、紙に記載していく。

 今日、買い手がついたものは、在庫切れになっても、数日中に届ける手はずなのだ。抜かりない。やり手だ。


 男はノラ(仮名)のやり口を見て、秘かに大したもんだと舌を巻く。もうほとんど店仕舞い仕掛っているノラの服の裾をつかんで、涙声を上げた。


「買いますっ、買います! 買わせてくださいっ!!」

「まいどあり~♪」


 ノラ(仮名)はにこやかに、お客は悔しそうな表情で、商品とお金を交換した。

 差し出した手の中にじゃらりと落ちる小金の音。予想外に重いので、ノラ(仮名)は手の中のお金を見た。銭束だった。数えてみると三百枚ある。ノラ(仮名)は少々アテが外れたようで、眉を寄せて客を見上げる。「(たったこれだけ?)」なんて声が聞こえてきそうな様子だった。


「なんやその眼は。値段は応相談なんやろ? だったらテメェの石鹸は最大でそれくらいだ。300銭あれば、一晩の宿屋代が払えるんだぞ!? なんか文句あっか? 」

「ありません。お買い上げ、ありがとうございました。男の身だしなみは清潔感から。清潔感ある男の人の方が女子にモテます。所為、雰囲気イケメン、大事。ここから三軒先の洋服屋に行ってみることをお勧めします。きっといい出会いがあるはず」

「フンっ。まあ、気晴らしに行ってみるか」


 ノラ(仮名)の人気の理由はここにもある。

たった三日で売り上げ好成績を伸ばしたノラ。彼はここ数日、街を走り回って集めた情報を用い、お客様の欲しい情報を少しずつ、占い師のようにお土産として話していた。それがよく当たる。石鹸を買ったついでに「そういえば――」とお客が話す話。自分たちのことが見えてないと思って、妖怪たちが勝手に話す噂話。年上の方々に普通の子供の振りをして、可愛がってもらった時に伝え聞くお得情報などなど。ノラは商売の合間に多種多様な話を集め、お客様の手土産代わりとしていたのである。


「さて、今日はかんばーい!」


柏手を打ってにこやかに叫ぶ。方々からブーイングの嵐が巻き起こった。


「また明日! また明日来てください! 明日は今日と同じ石鹸と髪を洗う洗髪剤! 女性が美しくなるための美容液も売り出します。どうかご贔屓に」


ではでは。と申して、ノラは人ごみをするりと抜け、夕闇の街に消えた。

町民たちは「また明日だな」と気合を入れ、またある者は、明日まで街に居られないことを悔しがり、後悔の溜息を吐くのでした。



 街の屋根の上で、ノラはお金の入った小箱を振る。

「ふっふ~ん、今日もいっぱい溜まったぞ」

 ジャラジャラと景気のいい音がした。ノラはにっこり嬉しそうに忍び笑う。

―――そこへ、ひとりの女が彼を訪ねてきた。

「ノーラ、あんた、またこんなとこで金勘定してると泥棒に合っちゃうよ?」

「あっ、薬師のお姉さん!」


 ノラはお金を持ったまま、にこやかに濡れ場烏の黒髪の艶やかな、薬草の匂いがする粋なお姉さんに抱き付いた。女はノラを受け止め、荷物の一部を持ち、ノラの首根っこを猫の子みたいにひっつかんで、連れていく。


「あり……?」

「あんた、風呂は?」

「そんなもの、入ったことないぞ」

「うちで入ってきな。買ったモンの世話をみるのはアタシの役目だ」

「ううむ、一日だけのはずだったんだがな。僕はもう、お姉さんの物ではないぞ」

「だ阿呆。子供の面倒を見るのは大人の役目だ。黙って言うとおりにしな」

「そうきましたか。やれやれ仕方がない。面倒を見られてやりますか」

「おう、そうしとけ。アタシもその方が安心だ。しっかし、よく稼いだもんだなぁ」

「あげないぞ?」

「要るかよそんなはした金。あたしゃ、もっとビックになるんだ!」


 女はかかとして陽気に笑う。

 彼女は、ノラが自分を身売り(?)した、医者の娘だった。


ここまでお読みいただき、有難うございます。

 金銭は、江戸時代の金銭感覚調べました。

 三百銭あったら、本当に宿屋に一泊、出来たらしいです…。

 江戸時代、通して値段があまり変わらなかったのは酢とか。

 蕎麦は、五文から十六文だそうな。

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