十五話.両替商 鴻池
自宅のパソコンが、ぶっ壊れました。
大学のパソコン、利用して投稿。(今までより不定期更新になりそうです)
どうかよろしくお願いいたします。
三日歩いて、やってきました姫路の町!
「おおお~っ! お城だーー!? 姫路城だ~! でっけー! 白いー! さすが白鷺城ってあだ名されることだけはあるねぇ。……どーでもいいけど。さて、店探し店探し」
なんで僕がこの姫路まで、三日もかけて来たかって?
理由は単純。
元でとなる金を貸してくれる心優しい人がいなかったからだよ畜生めっ!!
「嬢ちゃん、今度はせめてお父さんか、お母さんと一緒に来なさいね?」
たったいま、首根っこを引っ掴まれて、ほっぽり出されたように、どこでも追い払われるのです。
「14件目。バツ」
ひどいときは、こんな幼い無垢な(笑)子供なのに、遊郭に売られそうになって、貞操の危機を心配せにゃならんから大変だ。
「あと、僕は女の子じゃないやいっ」
アッカンベーをして、次の店に切り替える。
そもそも父か、母が居たら、こんな苦労をしているわけがない。もっと利口に立ち回って、お菓子貰えたり、可愛がられる位置につくわっ。僕は賢者ではないけれど、愚者でもない。それなりに賢いのだ。えっへん。
ぐ~きゅるるるる……。
「……そういえば、もう三日ほどなにも食べてないや。次のところで、お金が借りられたらいいけれど……」
町ゆく町人たちの喧騒。
連れ立って歩く楽しそうな親子の姿がいやに目につく。今の自分の容姿だと、ちょうど、父親に肩車してもらったり、母親に甘えている時期か。数えで4歳だものな~。実感ねェけど。
「……こんなにほっぽって、銀大丈夫かな? 心配だ」
ぐ~きゅるるるるる……。
「はぁ……。腹の虫は元気ね」
金に困った藍色の子供。
町をぶらぶら。あてどなく行く。
見つけた看板。名は鴻池。両替商の印。看板には姫路支店とあったが、金を貸してくれるなら、彼にとって支店も本店も変わりなかった。
「両替商って、確か金貸しもやっていたなぁ……」
にやりと笑い、入っていく。
暖簾をくぐると、入り口で何か揉めているようだった。
「ふざけるなっ! 返金期限はもっと先だったろうがっ!!」
「ですから、先月も先々月も延ばさせていただいて、今日がその期日だともう何度も申し上げているでしょう!? 何が何でも払っていただきますよ! 今日こそは!!」
「ぐぬぬぬぬぅぅっ。………ないものはないのだ」
「では、家財を売り払ってでも払っていただきましょうか」
「なっ。ふ、ふざけるな!! 野郎ども、やっちまえ!!」
「あ、ああっ、やめてください、やめてくださいっ。店が壊れてしまいます」
「ひゃっはー! 壊れろ壊れろこんな店! これなら借金の取り立てもできまい」
どうやら借金の貸し借りがこじれて、店が破壊されそうになっているらしかった。
客が暴漢と化している。
「愚かなことを」
藍色の子供は、眉間をひそめて、溜息を吐いた。
壊したら、その額分が借金に上乗せされるだけだというのに、なぜそれがわからないのか?
「なんだ嬢ちゃん、見てんじゃねェぞコラッ」
「僕は嬢ちゃんやあらへん」
「見てみろよこの嬢ちゃん。薄汚れちゃあいるが、めっちゃ美少女だぜ? 将来有望だなあ」
「あほか。それは美少女やのうて、美幼女ゆうねん。せやけど確かに……」
誰かがゴクリと生唾を飲み込んだ。
藍色の子供は、蔑んだ目を長い前髪の隙間から大人たちに向ける。
大人びた雰囲気。退廃的なその姿。腕を組み、気だるげに大人たちを見やる様。古びたボロの間から垣間見える色の白い吸い付くような肌。手入れの行き届いた長い“黒”髪。薄紅色の小さな唇。見るものが見れば、どこか背徳的な色気を醸し出し、妙な艶を持って地獄へ誘う毒の花。
その片鱗を、彼らは視た。
「お、おい、こいつ……遊郭に売れば、ここの借金くらい、簡単に返せるんじゃないか?」
「そ、そうだな。でもよ? なんか売っちまうのは勿体なくあらへんか?」
「いや、いっそ―――」
蔑んだ目は一瞬だけ。すぐに呆れた目になり、彼らを無視して、店主、九代目鴻池善右衛門に近づこうとした。
「待てよ」
狼藉者と化した男の一人が藍色の子供の肩を掴んだ。
一瞬だった。
男は地面に転がり、泡を吹いている。周りはそれを見て、ぎょっとした。
「僕を売るとか、阿呆なこと考えとらんとしっかりかっちり働きなはれ」
瞬間、狼藉者たちの股間に激痛が走り、次いで弁慶の泣き所を思いっきり蹴られた者も居た。
彼らはみな、一様にして泡を食う。狼藉者たちは、男の大事な急所、股間を抑えて走り去っていった。ささっと解決である。
藍色の子供は、何事もなかったかのように店主に歩み寄り、にこっと無邪気に笑いかけた。
「ねえ、お金を貸してくれませんか?」
「あ、あんさんが今のやったんか!?」
「さァ? こんな子供にそれが出来ると思うなら、そうなんじゃないですかねェ?」
一番最初の男は、肩を掴まれた瞬間に、条件反射で柔道の技と相手の体重を利用して、地面に投げ捨てた。そのあと、すぐさま、股間を思いっきり踏んづけたのである。
そのほかは、ただ素早く動いて、後ろから股間を思いっきり蹴り上げ、頭突き、弁慶の泣き所を思いっきり蹴ってやって、一点集中の急所攻撃をしただけである。
あな恐ろしや。
「それよりお金を貸してくれませんか?」
店主は泡を食って出て行った狼藉者と、にこにこ笑う少年を見やり、とりあえず、いつもの習慣で算盤を手にした。
「どれくらい必要なんや?」
「ざっと1両ほど」
「1両って、それだけでええんか? 見たところ、一文も持ってなさそうやけど、返せるアテはあるんか?」
「ええ、返せます。一ヶ月もあれば。そのくらい、ちょちょいのちょいです。ただ、この格好だとどうもいけねぇ……」
「一ヶ月、やと……!? そんなに早く返せるんかいな? あんたみたいな子供が? どうやって?」
「それは秘密です。ただ、この店の不利益にはなりません。それは保証致します」
人差し指を口元に当てて、妙に色っぽく僕は言の葉を口にする。
「………変な子供やなぁ。わかった。じゃあ、用途は?」
「服と食糧と稼ぎの初期投資のために。お金が出来たら、すぐに返しますから」
「………親はおるんか?」
「いません。歳の近い兄貴と二人暮らしです。親が居たなら、こんなとこ、来ませんよ」
自嘲気味に哂った僕。妙に大人びて見えた。
店主は痛ましそうな顔をして、目を伏せる。
追い打ちをかけるなら今だ。
僕は静かに目を伏せて、できるだけ沈痛な面持ちを作った。
「担保は僕自身。」
手の平をゆっくりと胸に置いて、自分を指す。驚きに目を瞠る店主。そりゃそうだろう。こんな小さな幼子ともいうべき子供が、自分を差し出すというのだから。普通の人なら、誰だって驚く。
だがな、こっちだって売れるモノがこれしかないんだ。畳み掛けるぜ……。
「一ヶ月以内に帰せなければ、働いて返しますよ。この身をどうしてくれたって構いません。煮るもよし、焼くも良し、殺すも良し。用心棒でも、毒見役でも、下働きでも、なんでもやりましょう。この体は外見だけは綺麗ですから、死体を裏ルートで売り払っても高値になるでしょうね。いい薬もとれますよ? どうですか? これでもまだ信用ならないというのなら、兄貴の居場所を……」
悲しい顔を作りながら、人差し指を顎に添えて、遠くを見るように店主から目を逸らして少し上を向く。言葉の切り方もわざと。僕が兄貴の居場所を教える訳がない。
「もうええ。貸したる。貸したるから」
「ありがとうございます」
にっこり笑って丁寧に頭を下げる。
してやられた、という顔をする店主。やれやれ、と首を横に振って、こじゃれた手拭いで汗を拭き、疲れたように店先に座り込む。
「返せんかったらウチで下働きしてくれたらええ。期限はつけへん。だから、無茶だけはせんといて。金が出来た時に帰してくれたらええわ」
「いいえ、一ヶ月以内に帰しに来ますよ。約束ですからね。これだけあれば、十分です」
「なんなら今からうちで使うたろか?」
「いいえ、迷惑でしょうから今はいいです。最初はこの1両でなんとかしますよ。試したいこともありますし」
「試したいこと?」
「お気になさらず。それより証文を作ってくれませんか? 契約書とも言います」
「………ほんま、変な子やなぁ」
「立場が弱いですからね。こういうのはちゃんとしておかないと、後でいちゃもんつけられて、いいようにされたら溜まりません。ご店主のことだから、そんなことはないと思いますが。あ、写しと本物の二枚、作ってください。写しは僕に」
「あんさん、名前、なんていうんや?」
「名などありません」
あんまりきっぱり言ったもんだから、またもや驚いた顔。でも、そんなこともあるかと納得顔。
「でも、そうですねぇ、適当に偽名を作らねばなりませんね。今はただの野良猫。ノラでいいですよ?他の名前を勝手につけてくれても構いません。なんせまだ飼い主のいない、野良猫ですからね」
くすすっと可笑しそうに笑って、僕は冗談を言う。
「ほんなら名無しのノラかいな? けったいな名や……あんさん、ふざけとるんか?」
「いえ、名がないのは本当です。この一ヶ月は、ノラという名前で過ごすつもりなのも本当です。兄貴が言葉と文字を習得できるまで、僕の名はないのですよ」
「願掛けかいな?」
「そのようなものです」
真面目な顔に戻って、流れる様な仕種で頭を下げた。
「では、ありがとうございました。また、一ヶ月以内に」
「あっ、ちょお待ち……消えてしもうた」
店主は、ノラと明らかに偽名を名乗った少年を追いかけたが、彼の姿は人ごみに紛れてすでになかった。
鴻池善右衛門。両替商。
十代目は、後の新撰組関わり有りです。
お次は、この一か月の金策の間の『銀』サイドか、農民のおっちゃんの武家屋敷潜入話あたりになりそうです。
いつ書けるのやら…。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




