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目指すは高嶺の華 泥にまみれても曼珠沙華  作者: 神寺 柚子陽
幼少期 化け物屋敷スローライフ
19/34

十四.金策算段

 

 農民の田吾作さんから種を貰って数日後。

 銀兄貴はいつもどおり夢の中。言葉は単語なら、それなりに言えるようになってきたようだが、めんどくさがりなのか、なんなのか、無精(ぶしょう)がって喋りやがらねェ。もっと喋れ。生きる気力を捻出しろッ! 無気力過ぎんだろっっ!! とあのバカ兄貴には言いたい。言ったら無言で蹴りを落されるのだろうが。


 今の僕は、日課の裏山通いから帰ってきて、まだ終わっていない屋敷の大掃除中です。無駄に広いのよこの屋敷。


 息が上がって来たので、休憩がてら、この間から問題の金策に頭を悩ませている。


「この年(数えで四歳)にして、裏稼業やったり、殺人者にはなりたくないしなぁ。せめて七つ越すまでは平和に暮らしたいけど……」


 子供でも手っ取り早く、稼げる手段と言ったら、身売りか、盗みか、殺しである。

他にも稼ぐ手段はあるにはあるが、情報収集してソレを売ろうにも僕には信頼がない。


 裏山に生えている薬草で薬剤を作ってもいいが、情報と同じく僕に対する信頼がない。第一まだ、屋敷内で一番短い、50メートルばかしある長い廊下を、雑巾がけレースを1往復しただけで、息切れし、気絶してしまうほどの貧弱な身体だ。

 地下の座敷牢に何年か幽閉されて、軽い運動もなにもせず、食事も寝床も満足に与えられず、寝るしか暇潰しの方法がなかったような場所に、銀と僕は居たらしいから、仕方がない。

 これでも、皮と骨ばかりのやせっぽっちの老人モドキだった時よりは、体力はついた。僕も銀も、痩せこけた頬は赤みが差し、顏の輪郭も子供らしく丸く、ぽっこり膨れてほっぺたも柔らかくなってきたところだ。焦ってはいけない。

 ゆっくり、じっくり、焦らず計画的に、肉体改革を起こして行けばいい。


 目標は、ほっそりマッチョ。普通の子ども体型に戻ってきた、僕と銀の体を、夕方、毎日、井戸の水を汲んできて、水浴びする時に見るけどさァ……?

 銀の体は、筋肉の着き方や現在の体型を診るに、男らしい男って感じになりそうなんだ。なりそうなんだけど、問題は僕の方。


 何故、腰が細いのですか?


 下手したら、折れそうなほど細いです。危うい腰です。思いっきり男色家の方々に目を付けられそうな、腐った方々曰く、受け身の体型です。僕、どっちかというと両刀なんですケドねェ。

 僕がM(マゾ。被虐者)になるのは、旦那様だけです。押せ押せ仕様な互いにヤンデれ系気味の、乱れて、濃厚すぎる程濃厚な、『殺し愛』も含んだセイ活を送った記憶がある、旦那様だけです。

他はほぼ、全て、ドS(度を越えたサディスト。加虐者)仕様で対応なんですケドねェ。

 ノーマル(普通の人)の、プライド高くて鼻っ柱強い者を、老若男女、人、人外問わず、組み敷いて、キッと睨み返してくるあの視線を、嬌声に濡らして調教してやるのが一番好みだったりするドSです。

マゾを組み敷いても、言いなりになるだけで面白うない。ノーマルや苛めっこを地に堕として、恥かしげもなく許しを請うようにしてやるのが面白いんじゃないか。

 ああ、特に和服美人を(性別問わず)無理やり着崩れさせて、自分の手で艶やかに変えさせていく快感といったら、ああっ! か・い・か・んっ! 堪りませんね、アレ。


 僕、女も男も一通り、経験してきた記憶があるから、性にはおおらか。日本人気質万歳!なんだけど、一際愛してくれる人には、どこまでも尽くしちゃうのが難点。


 今生は、銀兄貴を『主君』に定めたいところだが、果たして……?って感じ哉。

 子供すぎて、今は様子見段階。『仮主君』って、勝手に定めて、自分にリミッター(制限)かけてる感じ……? 僕の表層意識が寝ていても、銀兄貴に攻撃されたら、反射的に首をもごうとしたり、急所蹴りからのアッパーカット、次いで全身骨折に移行する連動攻撃に移行しないように。

意識ある時は、一番最初の輪廻の女子大学生だった時の記憶が働いて、殺さないよう無意識のうちに優しく手加減――それでも半殺しくらいまでは気軽にヤっちゃうが――してるから、意識ない時に攻撃されると、肉体と記憶上の長年の習慣に従って、防衛本能が働いて、いつの間にか瀕死の重傷か、死体量産間際で覚醒なんて、ザラなんだよねェ。

 戦国時代の忍者してた時の記憶が、あらゆる意味で強烈過ぎて、その前の、人柱で地面に埋められて、現神人もどきの白い鬼やってた時の裏切りの記憶で、人格崩壊、一度してたけどさァ……? 


 男も女もぶっちゃけ、どっちも喰えます。抱くのも抱かれるのも好きですが、ぶっちゃけ、抱かれるよりは抱きたいね。主導権、旦那様(故人)と未来の嫁さん(まだ予定なし)以外には、譲りたくアリマセンね。ええ、これでも何気(なにげ)高貴(こうき)な猫気取って、プライド高いので……。


 何故、肌の色が兄貴よりも白いのですか。そこらの女より滑らかな雪のように白い肌なんて、僕、男だからイラナイのデスガ……?


 閑話休題。金策に話を戻します。


 薬草を磨り潰すだけの体力もなければ、誰も買う訳がない。それに、体力がない時点でだいたいの仕事は詰む。長期的仕事など論外だ。


「盗みは『忍びの三禁』に触れるってんで、記憶上のトラウマが呼び覚まされて論外」


 ふと、でも楽だよな、と考えた瞬間、体に寒気が走った。

 同時に化粧を塗りたくった羅刹の形相と裏返った甲高い嘲笑、鞭のしなる音が幻聴として聞こえ、身の内の恐怖を呼び覚ます。


「ひぃっ!? いやっ、いやいやいやっ! しません、しませんから許してっ! 許してください……お願い、やめて。もうわかったか……ら……」


 師匠のオカマ声と肉を絶つ痛みの幻痛が襲い掛かり、藍猫は頭を抱えて心の底から涙を流して震え上がる。記憶と言っても耳に残る「オーッホッホッホホホ!」という甲高い笑い声。次第に体を打つ鞭の場所や痛みの加減まで再生されてきて……藍猫は身を縮こまらせ、今は亡き師に許しを請い続けた。ついには眼のハイライトが消えていき、肌は青白く、冷汗と呼吸の乱れはいや激しく。禁断症状の如く記憶の中の師は、彼を追い詰める。


 それを止めたのは、鼠を追い駆けて屋敷の中を走り回る猫の「み゛ゃーお」という鳴き声。ハッと我に返った藍猫(仮)は、頭を振って、盗みという考えを即座に地球の彼方、百万光年の銀河の向こうに投げ捨てた。


「依頼ではない私情による盗みだけはイケマセン。ゼッタイにッ!!」


 嫌な汗をかいて、無意味に雑巾を手に取った。長い廊下を駆けだして、変な笑い声をあげながら駆け回る。が、こけた。


「あべしっ」


 どれくらい時間が経っただろうか。

 積もり積もった埃やゴミの中、いくら雑巾をかけても、いくら掃きだしても終わりが見えない古い武家屋敷。その中庭で、少年はハナミズキの木といくつもの墓標を見上げて、腹を決める。


「よしっ。逝こう。町へ!」


 声音が震え、目が泳ぎ、足が震えているが、確かに決心したのだ。

 少年は、近くの町に金策に出掛けることにした。


「………に、人間こわくない、こわくない。こわくない。らんぼうしない、らんぼうしない、乱暴しない。こわくない、こわくない、こわくない。だいじょうぶ、だいじょうぶ、大丈夫。お金を稼ぎに行くだけなのだから、大丈夫。だいじょうぶ」


 ――ほんとうに、大丈夫だろうか? この少年。

 

 いざ踏み出そうとした足も、釘を打って縫い付けたように動かない。

 彼は冷汗を掻いて、すがるように銀が眠る個室を見やる。

 すると、ふらっと眠そうに出てきた銀が彼を手招きした。

 近づいて行ってみると、頭を小突かれ、面食らう。

 銀はひとつ欠伸をすると、未だ名無しの少年の髪を縛る赤い紐をするりと気まぐれに解いた。それを持って、自分の寝床に帰ろうとする。少年は、兄の肩を掴んで、ザンバラ髪の頭で紅い髪紐を取り返そうと手を伸ばす。

 揉み合いになり、きゃっきゃと二人して遊ぶうち、名無しの少年の心は晴れていた。


 銀は心の底から明るく笑う弟を見て、むぎゅっと相手の柔らかいほっぺを指で両側に伸ばす。餅のようによく伸びた。「いひゃい……」と涙目で言っても、抵抗らしい抵抗をしない弟に、銀はプッと吹き出す。名無しの少年はむっとした。プイッと顔をそらす。


 銀はきょとんとした表情を浮かべる。うう~ん……と考え込んだ末、弟の頭を撫でて、長い髪を自分の首に巻きつけた。ドヤ顔をして尊大に胸を張る。


 驚いたのは弟。髪を引っ張られる感触に振り向くと、兄が自分の髪で、ともすれば危ないことをしている。自分が髪を引っ張ったら首が絞まって大変ではないか。慌てて兄の首から、巻かれた自分の髪を外しにかかる。銀は褒めてもらえず、しょぼんと肩を落とすような仕種をして、また欠伸をした。

名無しの少年は、ちょっと怒ったようなフリをして、唇を尖らせ、文句を言いながら、ぞんざいに古びた赤い組紐で髪を結う。元のように首の後ろ辺りでささっとテキトーに。


 それをぼーっと見ていた銀は、なにを思ったか、弟のボロの着物の袖をクイクイッと指先で引っ張った。


「ん?」


 弟はもの言いたげな兄に視線を投げかける。


「………アメ、甘味、よろしく(……飴、だったか? 美味しいもの。とにかく甘いものがあったら取ってきてくれ)」


 銀が起きている時、弟は“輪廻の記憶”から掘り出してきた、美味しいものの話をいっぱい話した。そのなかで銀が一番興味を示したのが、如何にしてどこででも眠れるようにするか、ということと、食べ物のことだったのだ。特に甘いものの話には、常にあらず拳を握って、欠伸もせずよく話を聞いてくれた。牢屋の中での不味い食事とここ最近の似たような食生活に飽き飽きしていたのだろう。未だ名無しの弟がどこか遠くに出掛けるつもりらしいことを見とって、抜け目なくお使いを頼んできたのだ。


 頼まれた方の少年は、ぽかん、とマヌケ面を晒して呆気にとられた。

 その間に、銀はさっさと自分の寝床に戻り、大きな白布を被ってまた眠りに入ろうとする。わずか三秒ですぅすぅ……という、健やかな寝息が部屋の中から聞こえてきた。

 

 弟は、兄が完全に夢の世界に旅たった頃、ようやっと覚醒して、呟いた。


「飴って、砂糖がこの時代、どれだけの値段になるか知ってて言ってるのか!? メイプルシロップでもこの時代、まだ庶民に出回ってないぞ!? どーすんだよ、身体でも売れってか!?」


 ちなみに砂糖はこの時代、かなり高い。裕福な商家や大名家、伝手のある所でしか、買えず貰えずなのだ。要するに兄弟にとっては、普通、到底手の届かない代物。

 また、メイプルシロップは、楓の木の蜜から生成されるものだが、彼はいまのところ、カエデの木の在り処を知らなかった。この時代での入手方法もまた、知らなかったのである。

そういうわけで、てっとり早く、合法ぎりぎりの限りなくグレーに近い法の範囲内で、金を稼ごうと思ったら、先程の「好事家や物好きな御婦人方、ショタ趣味の男どもに身体を売る」という結論に至ってしまったのだ。このあたり、並みの少年とは違って、ただれた思考をしている。


 ――少年は、沈鬱な面持ちで、とぼとぼ歩き出した。ゆっくり町に向けて、心の中で着くな、着くな、兄貴の願いを叶えるべきか、叶えざるべきかと自問自答しながら――。


 町に行こうと決心した時点では、ただ一両ばかり、金貸しから金を借りて、ひと月後に金を返しに行く算段をしていた。兄と自分の身なりを整え、身の回りの細々としたものを整え、内職でもして、しっかり働いて稼いで、ひと月後あたりに残りを含めて返そうと思っていた。


 それなのに――、銀の頼みのお陰で事前の計画が少々ばかりならず、狂ってしまったのである。飴を買うというならば、一両ばかりでは足りない。そして、飴はきっとひとつでは足りない。沢山いる。あの兄貴はたくさん消費するに違いない。なぜかそんな確信めいたものが少年の心にはあった。


 名無しの藍色の少年はひとしれず、長い溜息を吐いたのであった。


「――……兄貴の頼みだもの、シカタナイネ……」


 暗い曇天の空を見上げて方角に辺りをつけ、少年はちかくの町に向けて、屋敷の門を出たのである。


砂糖のくだりは、また今度、書き直し改稿予定。

もっと詳しく、調べてみようと思います。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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