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三日目・やってきました遊園地

「ねえねえ、次はあれに乗りましょうよ」

「そう急かすなって。さっきも絶叫系だったって言うのに、また絶叫系に乗るつもりかよ。今度は観覧車みたいなゆったり系にしようぜ」

「えぇー」

「何がそんなに不満なんだよ」

「……だって恥ずかしいもの」

「え?」

「抱きつきたくても、抱きつける理由がないと……恥ずかしいんだもの」

「おまえ……」

「うん……」


「はじけろ私の嫉妬の炎!」

「愛してるわ」

「誰だ今の」


 楽しそうな声があちこちに飛び交っているとてもにぎやかな空間、現実から開放された夢のような場所。

 ここは遊園地ドリームワールド。

 来るものを拒まず誰でも歓迎し、わくわくする時間を与えてくれる人気のスポットだ。

 そんな遊園地で皐月は王子に口を押さえられて、通路の脇の茂みで隠れるように潜んでいた。

 手を掴まれて、さらに抱きかかえられるように茂みに連れ込まれた皐月は身動きが取れない状況にいた。

 走ってきたせいもあってか王子の息は荒かった。


 ……息の荒い男に押さえつけられている女の図。どうみても危ない雰囲気しかなかった。


 王子がきょろきょろと周りを確認して後、皐月の口元から手をはずしたので皐月は王子に告げる。


「……王子、この状況言い逃れできないよ?」

「この状況にせざるをえない理由を作ったのはそっちじゃん! 完全ないいがかりだ!」

「誰にも言わないから心配しないで……王子だったら、私はいいよ?」

「なにが!? お願いだから、話を聞いて!」


 王子は目じりに涙を浮かべて泣きそうになりながら皐月に懇願する。

 その姿にちょっと良心が痛んだので王子の話を聞くことにする。

 体を開放してもらって服装を整えながら王子に問いかける。


「それで、話って?」

「もう何回目だと思ってるんだよ! カップル見てちょっかいかけるの!」

「数を数えることには意味がない。それを行うことに意味があるのだ……あっ、本当は私嫉妬なんかしてないからね」

「今この人嘘ついた!」


 別にぎらぎらとした目線で食い入るように見てなんかいない。

 そこらへんがカップルばかりだからといって平常心を保っていられない皐月ではないのだ。

 反省の色が見えない皐月に王子はため息をついてから諭すように語り掛ける。


「そもそもここにきた理由は覚えてる?」

「セバスたちの追っかけです」

「では今からすべきことは?」

「リア充どもの殲滅」

「ちがう」


 これでは話がちっとも進まない。

 王子がどうにか説得しようとしている間にも皐月は新たなターゲットを発見して狙いを定めようとしていた。

 一匹残らず駆逐してやるのだ。それが皐月の使命なのだ。


「……あれ?」


 王子の言うことに耳を貸さずに辺りをぎらぎらした目で睨んでいた皐月は一組のカップルが目についた。

 遠くのほうにいるがあれは間違いない……葵とセバスが仲よさそうに並んで歩いていた。


「ほら、王子! 何をぼっさとしてるの! 見つけたから早く行くよ! あっちだよ!」

「……なんだこれ。納得できない」


 少なくとも皐月よりはしっかりとした意思を持って二人を探しているつもりだった王子は皐月のいいぐさに眉を細めながらも、皐月の後ろを何も言わずに着いていく。

 近づきすぎて気づかれるのはいけない。

 相手には昨日の尾行を察知したという実績がある。


 慎重に、かつ大胆にをモットーに皐月と王子は葵とセバスの後をつける。

 そして、声が聞こえる範囲までいたることに成功した。


「私始めてきたけど、ここ中々いいところだね」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。実はガイドブックでいろいろ調べてきたんだ」

「そんな……私のために? ありがとう」


 お礼を言われて顔を紅くして照れるセバスに葵は歯を見せて笑っていた。

 二人を渦巻いている雰囲気もとてもよさ気だ。

 そんな光景から目をそらさずに皐月は王子にこそこそと話しかける。


「……王子、王子」

「どうしたの」

「あの子あんなこと言ってますけど、先月に私と一緒にここに来てます」

「それセバスには絶対に言わないでね」


 駆け引きという点もあるのだろうが、そう答えたほうがセバスが喜んでくれるだろうから葵は嘘をついたのであろう。

 悪気はもちろんないのだろうが、それがセバスに伝わってしまうとセバスは悲しみにくれるに違いない。

 王子は皐月に釘をさすが、ふふふと怪しく笑っている皐月にその言葉が通じているかは疑問だ。


「とういうか、先月に来てたって二人で? それってものすごく寂し……いや、なんでもないごめんね」




 葵とセバスはどうやら後をつけられていることに気づいていないようだ。

 二人がそわそわとしていて、互いが互いのことを気にしていることが原因の一つかもしれない。

 そんな初々しい二人はお化け屋敷に入っている。

 当然のように皐月と王子もそのあとにお化け屋敷へと入ったのだが……。


「うらめしやぁ……」

「いやあああああ!」

「ひ、ひぃ!?」

「………………」


 王子はなんともいえない気持ちになっていた。

 お化け屋敷とは入ってくる人を仕掛けや世界観で怖がらせ、楽しんでもらうアトラクション――のはずであるのだが、王子の目の前の景色はそれとは異なっているものだった。


 このお化け屋敷の仕掛けとはセンサーによる機械だけではなく、従業員の方がメイクなどでお化けを装って脅かしにかかるものもあるのだが、人が直接脅かしにかかるタイプの仕掛けの時に限って皐月がなぜ持っているのか分からない木刀を振り回して逆に従業員を驚かせていた。


 皐月は顔を青くして木刀を振り回している。

 従業員も我を忘れたような皐月に恐怖を抱いてひざを震わせている。

 まさに、阿鼻叫喚の世界がそこにはあった。


「本当に申し訳ないです……」


 皐月の木刀が痛いところに当たったのか、足の付け根を押さえてぴょんぴょん跳ねながら舞台袖へと下がっていく従業員を見送りながら、そんな台詞が自然と出てきた。

 従業員がこの場にいなくなって、この場には完全に皐月と王子の二人だけだ。

 皐月は湧き出た汗をポケットタオルで拭いながら、王子に爽やかな笑顔を向けた。


「お化け屋敷なんか私にかかればこんなものだよ!」

「そうだね、これ以降は絶対にお化け屋敷にはいかないようにしようね」




 皐月と王子の二人は先に入っていった葵とセバスとの距離が大きく開いてしまうと、また探す羽目になってしまうおそれがあったため、できるだけ早く出口を目指した。

 隣で『すみません……すみません……』と呟いている王子に恐怖を覚えてしまったものの、所詮はお化け屋敷。子供のアトラクションである。

 皐月自信の評価としては、余計に立ち止まることなく華麗に進めたと思う。大健闘だ。

 それでも、前にいるはずの葵とセバスの様子を見ることが出来なかったのは残念な結果だ。

 しかし、後から来た客が前の客に追いついてもいけないため、遊園地側の配慮もあっただろうので仕方のないことだ。

 暗いところから太陽がまぶしい外に出たために眉を細めながら、葵とセバスの姿を目視する。

 すると、目を見張ってしまう一つのポイントを見つけてしまう。


「お、王子。お二人様が手を繋いでいるのですが……!」

「君ってすぐばれる嘘しかつかないよね。それで、二人は……ほ、本当だ」


 皐月に対する印象に異議を申し立てたくなるが、今はそれどころじゃない。

 お化け屋敷に入る前は隣で歩いている距離も離れていたのに、出てきた後はステップをとばして手が繋がっていた。


 これは、由々しき問題だ。


「くうぅ。なぜこんなになるまで二人を放っておいたんだ……!」


 セバスが何かいいたいような目で皐月を見てくるがそれは無視する。

そのまま観察を続けていると、二人は小腹を満たすためにソフトクリームを買っていた。

 色から推測するに、葵がチョコ味でセバスがバニラ味と思われる。

 ソフトクリームが売っていた屋台の傍にはこのソフトクリームは大人気! と銘打たれたなんとも自信ありげな旗がゆれていた。

 おいしそうに食べている光景を見せ付けられて皐月のお腹も不満そうに音を鳴らす。


「王子、今のは聞かなかったことに……じゅる」

「恥ずかしがるのか、欲望に忠実なのかどっちかにしようよ。まあ、あとで買いに行こう」

「よっしゃっ」


 そんなやり取りをしているうちにも葵とセバスは場所を変えている。

 食べ物を頬張りながら歩いているので、走ったりなどの激しい動きは出来ないだろう。


 皐月と王子は今のうちに屋台でソフトクリームを購入する。

 王子はオーソドックスにバニラ味を頼んでいたが、皐月はちょっと冒険してドリーム味というものを選んでみた。

 ドリームパーク限定の品だそうで、口に入れるとドリームな気分になれるそうだ。メニュー表に書いてあったが、実際のところはどうなのだろう。


 屋台の人からソフトクリームを受け取って、葵とセバスと追いかけながら頬ばっていく。

 口の中がひんやりとしてとてもおいしかった。

 ――けど、ドリーム味って言うのはどういうことだったんだろう

 心の中で首をひねりながら、皐月はそんなことを思う。

 突拍子もない味がしたわけでもなく、バニラの味がしたのだ。

 正直なところバニラと差が分からなかった。


「あっ、溶けてきてる」


 考え事をしているうちにソフトクリームが柔らかくなってへなへなとしてきたので、急いで口に入れていく。

 上品でないかもしれないが、下に落ちでもしたらもったいない。


「ふぅ、おいしかった」

「それはよかっ……ぶふっ」


 皐月が未だにソフトクリームを頬張っている王子ににこっと笑いかけると、王子は皐月の顔を見たかと思ったら吹き出してしまった。

 からからと笑い始める王子に皐月は困惑を隠せない。

 何がそんなにおかしいのだろう。


「ちょ、ちょっと王子! なんでそんなに笑うの!?」

「口元のまわりに、いっぱい食べ残りがついてるんだよ……ふふふ」


 理由を説明しているうちにまたつぼにはまってしまったのか王子は笑うことをなかなかやめない。

 皐月はそのことを知らされて顔が火照るのを感じる。


「そ、そんなに笑わないでよ……」


 王子は皐月の口元を見るたびに笑ってしまうのだろう。

 これ以上の辱めは耐えられない、と皐月は手の甲で口元を拭おうとするが、王子に腕を掴まれて止められてしまう。

 そのまま、王子は自然な流れでもう片方の手の先を皐月の口元へと持っていった。


「よく見えないだろうから、僕が拭いて上げるよ…………はい、とれた」


ソフトクリームを手で全部取ってしまい、ぱくっとその指を口に含んだ。

 皐月も特別行儀が悪いわけではないので、ついている範囲は狭かったため苦労することなく綺麗にすることができた。

 王子は納得するように頷いてから、皐月の目を見て笑いかけるが、


「あっ」


 気づいてしまった。

 皐月の顔はこれまでに見たこともないほどに真っ赤に染まっていて、ぱくぱくと口を動かして何かを言おうとしているが言葉になっていないことに。

 そして、自分が女の子相手に一体なにをやっていたかということを。

 それを意識してしまったとたんに、王子の頬も朱に染まる。

 そして、慌てて謝った。


「ご、ごめん! 配慮が足りなくて! え、えっと……ごめん! とりあえずごめん!」

「い、いやいや! 私の食べ方が悪かったのがいけないんだし! お、王子が謝ることないと思うよ!」


 お互いに腰を低くして謝罪合戦が始まった。

 遠くからから見ている人にとっては滑稽だろうが、二人にとっては死活問題といってもいいほど真面目に焦っていた。


 それから、五分ほどは謝りっぱなしだったろうか。

 どちらかが頭を下げようとすると、もう片方がそれを制止して頭を下げようとするという循環が出来上がっていた。

 これは埒が明かないと気づいてから、なかったことにしようという結論に達した。


「そ、そういえば狐さんとセバスはどこにいったんだろうねー」

「た、確かに二人はどこにいったんだろうねー」


 そして、ちょうどいい話題として皐月は葵とセバスのことを挙げる。

 王子もその話題に必死にくっついた。

 もともとの本題なはずだったが、完全に頭から消えていた。

 ざっと見回してみてもそれらしき姿はない。


「また一から探さないといけないみたいだね」


王子はそう声を漏らしてから、手に持っていたソフトクリームを口に運んだ。


「そうだ……ね……?」


 皐月もそれに同調しようとしたが、途中であることに気づいてしまって語尾までしっかりと言い切ることが出来ずに不自然な口調になってしまった。

 それを王子が疑問として投げかけてきたが、なんでもないと答える。

 皐月の脳みそはフル回転を始めていた。


 ――王子のソフトクリームは、まだ溶ける気配すらみせていない?


 皐月のソフトクリームは購入してから、さほど時間が経っていないのに溶け始めていた。

 しかし、王子のものはそう見えない。味が違うからといって、ここまで差が出るはずはないだろう。


 ――これって、なにかがおかしい


 そして皐月は思い出す。皐月が買ったソフトクリームが何味だったのかを。


 ――ドリーム味? ドリームって日本語では『夢』だよね。夢見たいな味って……もしかして

 ソフトクリームが溶け始めてから、王子と繰り広げたいろいろを思い出す。

 とても恥ずかしい思いをしたが、例えるとするならば、あの体験はまさに『夢』のように――。


「……そういうことか、ドリーム味」

「なにか言った?」


 皐月の言うことがよく聞き損じ聞きなおそうとする王子に、皐月は顔を見られないようにできるだけ逸らしながら一言だけ叫んだ。


「な、なんでもない!」


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