プロローグ
「お母さん、今日はどうされました?」
診察室の中――。かかりつけの内科医が、神妙なお面持ちで問いかける。
「……実は、娘が最近変なんです」
30代半頃から40代くらいの身なりの小綺麗な女性が、暗い顔をしながら医師の問いかけに答える。彼女の隣には、全身スウェット姿のイマドキ風の少女が座っている。その表情からは、内面はどうにも読み取れない。
「どんな症状があるんです?」
医師は机の上にあるパソコンモニターの画面に映し出されているカルテを見ながら、真面目な面持ちで、女性にたずねる。
「えっと……、その。数日前から食欲がなく、ご飯を全然食べてくれないんです。それから、夜起きて、昼に寝ていることが多くなって……。あと、ちょっと顔色も悪いような……?」
女性はそう言って「はぁ……」とため息をつく。
(思春期の子には、よくあることだが……。とりあえず聴診して、何も異常がないようなら、軽い睡眠薬でも出しときますか)
医師はそう判断して、少女の方に向き直ると首からぶら下げてある聴診器を手に取った。
「それじゃ、娘さん。聴診してみるんで、服上げてくださいね。」
それに対して、少女は無言のまま一気に服を首元まで上げた。
「ああ、全部上まで上げなくていいですよ。……それじゃ、ちょっと冷たくなりますからね」
医師はそう言ってから、聴診器を少女の胸部と腹部に当てる。
「……………………。うん……。…………? うん? …………んんんんっ!?」
腹部から胸部へと聴診器を当てていく医師に疑念の表情が生まれ、それが少しずつ驚きと恐怖に変わっていく。
「………………」
「………………」
「………………」
診察室に不穏な沈黙が流れる。
「……………………。あ、あの……。念の為に、心電図をとりましょうか……」
顔を引きつらせながら、医師がようやくといった感じで声を発する。
「あ、あの……! 娘はっ……!?」
女性が発した不安の声に応えることなく、医師は少女を連れて診察室を出ていった。
しばらくして――。
「お母さん。心をしっかり持って。よく聞いてくださいね?」
心電図を取り終えて、診察室に戻ってきた医師が青ざめた顔で女性に告げる。女性は、何事かと、気が気でない様子で医師の次の言葉を待つ。対して、医師とともに戻ってきた少女の様子は全く窺えない。
「聴診と心電図検査の結果ですが……。何とも有り得ないことですが、しかし、検査結果から導き出させる結論は、一つです……。娘さんは……、娘さんはですね……。死んでいます。生命活動をしていません……!」
その場にいる全員が凍りついた。……当の少女を除いて。




