第7話:秋葉原の処刑台
秋葉原は、新品のプラスチックの匂いとオタクたちの汗の臭いで溢れかえっていた。狭いホールの中で、「キング・スライム」ことタナカは、サイン会のテーブルの向こうで傲慢に座っていた。彼は安っぽいプラスチックの王冠を被っている。アニメ化が発表されたばかりの、彼の異世界小説の成功のシンボルだ。
僕は列に並んだ。ピンクの帽子を深く被り、黒いマスクで顔を隠す。ルシアと朱莉はすでに配置についている。ルシアは音響調整室に、朱莉は銀のフルートを隠し持って客席に。
いよいよ僕の番だ。
「エド様……じゃなくて、ボク。何巻にサインが欲しいのかな?」
タナカは僕の顔も見ず、見下すような口調で言った。
僕はマスクを外し、口角を上げた。幼い頃から母に仕込まれた、人を操るための笑顔だ。
「サインはいりません、タナカさん。ただ、一つ聞きたいんです。どうしてあなたは、それほどまでに読者を憎んでいるんですか?」
タナカは困惑して顔を上げた。ルシアが部屋中に響くように細工したマイクが、僕の言葉を一言漏らさず拾い上げる。
「どういう意味だ? 僕はファンを愛している!」
「いいえ」僕は一歩近づいた。声は低く、だが浸透するように。
「あなたは彼らに『無敵の主人公』という名の麻薬を与え、現実世界の負け犬であることを忘れさせているだけだ。あなたが与えているのは希望じゃない。心地よい墓穴だ。こいつらを見て、反吐が出ないんですか?」
僕は群衆を指さした。ダーク・サイコロジーが作動し始める。大衆へのガスライティング(心理的搾取)だ。
「この顔を見てください、タナカさん。彼らが本を買うのは、人生に失敗したからだ。そしてあなたは、手に入れた金で、ステージの上から彼らを笑っている。そうでしょ? あなたが『ハーレム』を書くのは、現実の女性と話すのが怖いからだ。あなたは彼らの失敗を食い物にする寄生虫だ」
タナカの顔が青ざめていく。彼は反論しようとしたが、ルシアが彼のマイクを切り、僕の声だけが会場に響き渡る。群衆はざわつき始め、僕の異様なカリスマ性に釘付けになった。彼らは怒るどころか、僕が残酷な真実を代弁していると感じ始めていた。
「母がいつも言っていました」僕は彼の耳元で囁いた。
「『良い作家とは、自分の原稿をいつ終わらせるべきかを知っている者だ』と。そして、あなたの『王』としての人生という原稿は、もうおしまいだ。あなたは世界と向き合うのが怖くて『スライム』という言葉の裏に隠れているだけの、三十二歳の男に過ぎない」
後方の列で、朱莉が低く長い一音を吹き鳴らし始めた。その音は扁桃体を刺激し、制御不能な不安を引き起こす。
タナカは震え出した。彼が群衆に目を向けると、どういうわけか、人々の顔が自分に責任を問う怪物に見え始めた。彼は叫び出し、自分自身のアニメ化ポスターをズタズタに引き裂き始めた。
「黙れ! 僕は神だ! あの世界を作ったのは僕なんだ!」
涙と鼻水にまみれ、崩壊した顔でタナカがヒステリックに叫ぶ。
先ほどまで彼を崇めていたファンたちは、今や軽蔑の眼差しを向けている。わずか五分間の対話で、彼らのヒーローが壊れるのを目撃したからだ。僕はスポットライトの下に立ち、優雅にピンクの帽子の位置を直した。
「哀れなものですね」
僕は、このイベントを「なろう」でライブ配信しているカメラに向かって言った。
「ファンタジーというゴミの山の上に城を築こうとすると、こうなるんです。現実は常に、それを崩し去る方法を見つけ出しますから」
タナカはその場に倒れ込み、数千人の観客の前で完全な精神崩壊を起こした。これが僕の最初の勝利。ナイフで殺すよりも、遥かに満足感のある「精神的処刑」だった。




