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第6話:黒幕の赤い糸

僕たちの秘密基地は、新宿にある古いビルの地下階、元フォトスタジオだった場所だ。壁面は僕が書いた『なろう』の小説のプリントアウトで埋め尽くされ、まるで紙の蜘蛛の巣のように見える。僕の好きな色――ピンクのネオンライトが、僕たちの顔をドラマチックに、そして病的に照らし出していた。


僕は例の異世界作家の写真を仕事机の上に放り投げた。「名前はタナカ。ペンネームは『キング・スライム』。ファンタジー世界で神になった無職の物語を書いて、自分を天才だと思い込んでる三十二歳の男だ。明日、秋葉原で小規模なファンミーティングを開くらしい」


朱莉は手慣れた様子でフルートのパーツを掃除していた。「ああ、『ハーレム』を作ることがキャラクターの成長だと思い込んでるタイプの作家ね。退屈。イベントが始まる前に、部屋の換気口から幻覚を見せる香りを流すように手配できるわよ」


しかし、ルシアは写真には目もくれなかった。彼女は僕を鋭く見つめ、僕のピンクのジャケットの襟元に手をかけた。


「エド君」蛇の囁きのような声だった。「その茶封筒……さっき君が入っていった豪邸のアロマテラピーと同じ匂いがする。それに、戻ってきた時の君の顔、いつもより青白いよ」


僕は視線を逸らした。「君には関係ないことだ、ルシア。ターゲットに集中しろ」


「関係ない?」ルシアは皮肉な笑い声を上げ、僕を机に追い詰めるまで一歩近づいた。「君はいつも異世界作家を、強くなるためにファンタジーの世界が必要な連中だと見下している。でも、自分を見てごらんよ……。飼い主から与えられた首輪をつけた犬みたいに、毎日このピンクの帽子を被って。君はイヤミスを書いてるんじゃない、エド。母親から与えられたシナリオを書き直しているだけだろ?」


スタジオ内の空気が一瞬で凍りついた。朱莉はフルートを磨く手を止め、冷ややかな好奇心を込めて僕たちに目を向けた。


「エド先輩のお母さん……彼女が、この物語がこれほど『リアル』である理由なんですね?」朱莉が感情のない澄んだ声で割って入った。「長野では、そういうのを『寄生虫』って呼ぶわ。自分が美しくあり続けるために、他人の魂を食らう者のこと」


「黙れ、二人とも!」狭い部屋に僕の叫び声が響いた。「母さんはこの芸術を理解している唯一の人間だ! 母さんがいなければ、僕はタナカのようなゴミ作家で終わっていた!」


ルシアは勝ち誇ったように目を輝かせ、ニヤリと笑った。「君は彼女を恐れている。それが君の文章を良くしているけど、同時に君を惨めに見せてもいる。異世界作家たちが別の世界へ逃避するから君は彼らを憎む。でも君は……君自身の母親の操り人形として、この世界に閉じ込められているじゃないか」


彼女はタナカの写真を手に取り、真っ二つに引き裂いた。


「もし君が本物のイヤミス作家であることを証明したいなら、ただタナカを殺すだけじゃダメだ。彼をじわじわと壊して。小説の中の『特別な力』なんて、私たちが作り出す暗闇からは彼を救えないってことを分からせてやるの。そのあとで……君の首に巻かれたこのピンクの首輪の外し方について、じっくり話し合おうじゃないか」


僕は怒りと恐怖が混ざり合った感情を抑えようと、呼吸を整えた。ルシアの言う通りだ。だが、僕はまだそれに向き合う準備ができていなかった。


「分かった」僕は震える声で言った。「タナカから始めよう。トラックに轢かれて別の世界へ連れて行ってくれと、彼が懇願するまで追い詰めてやる。……でも、僕は彼をこの世界に繋ぎ止め、一インチずつ皮膚が剥がされるような痛みを感じさせてやるんだ」


僕はノートPCを開き、『キング・スライムの死:第一部』というタイトルの章を打ち込み始めた。


「これを書くんだ、エド」ルシアが僕の耳元で囁いた。「死にゆく……になるとはどんな気分か、それを書き記すんだ」


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