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第12話:書き手の崩壊

遠くから近づいてくる列車の警笛が響き渡った。4番ホームの空気は、呼吸するのも困難なほどに重く淀んでいる。僕は目の前にいる酔った女の肩を掴み、盾にした。


「来るな、しおり! さもないと、こいつを線路に突き落とすぞ!」僕は叫んだ。


しおりは止まらなかった。彼女は歩みを止めず、コンクリートの床に靴の音をリズミカルに響かせる。背後の巨大な犬の影――犬神は、そのあぎとを大きく開いた。


「モブの犠牲について語っているのか、エド」しおりの声は冷たく、空虚だった。「だが一つ忘れている。犬神にとって、人間はただの肉だ。彼らが生きようが死のうが、私には関係ない」


突然、市民たちの足元を這っていた小さな黒い影が一斉に動いた。助けるどころか、影たちは彼らを突き飛ばしたのだ。


悲鳴。肉体がコンクリートに叩きつけられる音。集団パニック。


しおりは意図的に混乱を引き起こし、人々が互いを踏みつけ合う状況を作り出した。彼女は僕への道を切り開くためだけに、彼ら全員を犠牲にした。僕が掴んでいた女の手が離れ、怯えた群衆に押された彼女は、列車がホームに滑り込んできた瞬間に転落した。


――グシャッ。


詳細を見る余裕はなかったが、鉄輪の下で骨が砕ける音がルシアと朱莉を硬直させた。自分たちをグロの専門家だと思い込んでいた彼女たちは今、しおりの効率的な残酷さを前にして青ざめていた。


「エド君!」ルシアがワイヤーでしおりを襲おうとしたが、犬の影が電光石火の動きでルシアの腕を跳ね飛ばした。


「あああああ!」ルシアは壁に叩きつけられ、その腕は黒い噛み跡から瞬時に腐敗が始まり、力なく垂れ下がった。朱莉はフルートを吹こうとしたが、しおりが指を鳴らすだけで、その銀の楽器は彼女の手の中で真っ二つに割れた。


今、しおりは僕の目の前に立っている。彼女は僕の首を掴み、52キロの僕の体を片手で吊り上げた。僕の足が宙に浮く。ピンクの帽子は、血に染まった駅の床へと落ちた。


「異世界ヒーローはよく無様に死ぬわよね?」しおりは底のない灰色の瞳で僕を見つめた。「さあ、今夜、君の首を私の犬に差し出さないで済む理由を言いなさい」


喉が詰まる。顔が青紫色に変わっていく。喉元のすぐ先で、影の牙を感じた。あの悪魔のような女から受け継いだ僕の生存本能が爆発した。


「は……母さんが……」僕は喘ぎながら、掠れた声で言った。「僕を殺しちゃダメだ……。彼女を止めるには、僕が必要なんだ!」


しおりは少しだけ力を緩めた。「早苗が?」


「彼女はただのマネージャーや、支配的な母親じゃないんだ」僕は囁いた。恐怖の涙が頬を伝う。「彼女は……僕にこれらすべてを書くよう命じた張本人だ。彼女は大規模な『供物』を準備している。僕のなろう読者全員……渋谷や新宿の少女たち……彼女たちがターゲットだ。僕の文章の中に含まれる特定の周波数を使って、この7月に集団自殺を引き起こそうとしているんだ!」


僕は必死にしおりを見つめた。「彼女は僕より狂っている。東京全体をリアルな『イヤミス小説』に変えようとしているんだ。僕が死ねば、シナリオは自動的に発動する。僕は彼女のセーフティ装置の『鍵』なんだ!」


しおりは沈黙した。背後の犬のオーラは少し和らいだが、その眼差しは鋭いままだ。「つまり、君は爆弾の起爆装置を握らされている人形に過ぎないということ?」


僕は震えながら頷いた。「僕を助けてくれ……。そうすれば、オリジナルの原稿を破壊する方法を教える」


しおりは僕を放した。僕は泥に汚れたピンクの帽子の横に倒れ込んだ。4番ホームの死体の海の中で、僕は一つのことに気づいた。僕はもう作家ではない。ただの、間違った読者に許しを請うている「登場人物」に過ぎないのだ。

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