第10話:コンクリートの家のひび割れた鏡
その日の夕方、エドの邸宅の門が静かに開いた。早苗は室内庭園で薔薇の手入れをしていたが、招かれざる何者かの気配を感じ取った。足音ではなく、重苦しく奇妙な空気の震えだった。
入り口には、堀越学園の制服を着た一人の女子生徒が立っていた。犬神しおりだ。
「この家は、高価な香水で隠された朽ちゆくものの匂いがする」
しおりは淡々と言い、灰色の瞳で早苗をまっすぐに見据えた。
早苗はハサミを置き、優雅ながらも冷徹な微笑を浮かべた。「迷子の学生さん? それとも、エドちゃんのサインが欲しい熱心なファンかしら?」
「くだらないものには興味がない」しおりは許可なく足を踏み入れ、早苗を通り過ぎて壁の家族写真の前で足を止めた。「忠告に来た。あなたは自分の目的のために息子を利用している。退屈な手法ね、早苗さん」
早苗は目を細めた。目の前の少女から漂う、尋常ならざる雰囲気を感じ取ったのだ。「子供のくせに随分な言い草ね。私の物語を邪魔する者がどうなるか、分かっているのかしら?」
「消えるのでしょう、あの人たちのように」しおりは静かに答えた。「でも、私はあなたの思い通りにはならない。私は犬神。その厚化粧の裏にある恐怖の匂いがわかる。あなたは、エドが制御不能になるのを恐れているのね?」
早苗の手が一瞬震えた。完璧な仮面に生じた小さな亀裂。「ここから立ち去りなさい。あなたに悲劇的な結末を用意する前に」
「行くわ」しおりは背を向けた。黒髪が風に揺れる。「でも、エドには伝言を残した。あなたの『作品』が、この現実に耐えられるか見ものね」




