4-8 まどろみながら……
あるとです。
お知らせです。
勝手ながら、Exhaustを半年の間
(半年以上になる可能性アリ)
休載とさせていただきます。
活動報告の方で詳細を話しているので、
ご理解の程、よろしくお願いします。
「多分だけど……色んなやつから狙われてるみたいんだ、僕。」
諏訪木の部屋に戻った3人。桜井が東條の頭に包帯を巻いてる間、俊谷が彼らにそう話した。「狙われてる……んですか?」
「多分ね。ただ、1人じゃどうも手に負えそうになくて。特に最近、白いイギリスの車をよく見るんだ。ジャガーのF-TYPEだったかな……だと思う。
その車が、毎日のように僕の真後ろをついてくるんだ。でも、ストーカー……とはちょっと違う感じだったな。」
「ジャガー F-TYPE……。」桜井は無意識に包帯を強く縛り付ける。「痛って、締めんな締めんな!」
一瞬激しい痛みに襲われた東條は、包帯を結び終えた桜井の手を退ける。「締めなきゃ止血できないでしょ、はい終わりです。……じゃあ、東條さんから逃げてたのって?」
「時名がそういうのと同じ人間に変わった、って勝手に決めつけてたから。でも、単なる思い過ごしだった……本当にごめん、みんな。」
俊谷の頭が段々と下に落ち、俯く。俊谷の中では、2年間のうちに感じてきた、背負った感情が込み上げてきていた。
「まぁ……そういう理由だったんなら、仕方のねえ事だろ。終わった話を今更掘り返すつもりはねぇよ。
それに、お前の事情を一切気にせずに追っかけて、お前を怖がらせた俺たちにも責任はある。だから、お前は謝んなくていいんだ……。」
「そうだよ真司、お前が謝ることねえって!」東條に続いて、水谷も真司を慰めた。「……ありがとう。」「……で、そいつの特徴は?」
東條の目付きがギラリと変わる。元仲間の俊谷が怯えている、原因そのものを取り除くためにNEXTECZを動かすのだから、バトルを見越すのは当然だった。
俊谷は顔を少しあげ、当時白いジャガーの男と話した際の事を思い出す。「……たしか、色白の肌だったような。それに金髪蒼眼で。」
「となると、ヨーロッパ系の外国人か……。」「もしそうなら、わざわざ本国から来て行ってる可能性もゼロじゃないな。」
俊谷の話を聞いていた桜井が呟く。その考察に東條も頷く。「確か日本語が結構上手かったんだ。アクセントはところどころ英語って感じだったけど、基本的には流暢な日本語だったから……。」
「……ソイツ、名乗ってたりとかって、してたか?」東條は、内心キレていた。監視されてる感覚を植え付けた事を知らせない為に、実際に会って話して……とした可能性を捨てきれなかった。
俊谷は名前を名乗られた時の事を思い出す。白いジャガーにベタ付けされ、停車したらその男に話しかけられて……俊谷にとっても酷い記憶だ。
それでも、俊谷は東條たちへの情報提供の為に、男の名前を話した。「うん…えっと、確か……"エドワード・ヒル"って。」
東條は彼の発言に目を細める。「聞いたことある、な……"Hill's Climb"の代表の御曹司の、あのエドワード・ヒルだろ?
Hill's Climb、EVの企業だったはずだよな。そのクセしてV8乗ってんのかよコイツ。」東條はスマホを取り出し、エドワード・ヒルの顔写真を検索した。
「ごめんなさい東條さん……Hill's Climbって?」桜井はキョトンとした顔で、東條に聞いた。東條は呆れながら、桜井に説明する。
「……お前、随分と情報に疎いんだな。Hill's Climbは、イギリスの大手EV系ベンチャー企業。本国じゃメジャーらしい。」
「そこの御曹司が、俊谷さんの言う白いF-TYPEのドライバー……って事ですか。金があるからってよくやりますね……凄い度胸。」
「感心してんじゃねーよ。まぁ……ターゲットが誰か分かっちまえば、もう情報屋のもんだ。
今日中に居場所を調べ上げて、深夜当たりにソイツにバトルを仕掛ける。キッチリ落とし前つけて、ヤツを撃墜す。そんときは、諏訪木クンの方に連絡かけっから、少し手伝い頼むわ。」
東條は立ち上がり、一人玄関のほうへと向かっていく。「時名、どこ行くの?」俊谷の問いかけに、東條は振り返らず答えた。
「眠ィから、そろそろ帰る……ありがとな諏訪木クン。邪魔したな……お前らも行くぞ」現在午前2時4分。昨日の夜中からずっと眠らずに、俊谷の情報を漁り続けていた東條は、眠気が限界にまで回っていた。
東條は大きくあくびをしながら、水谷と桜井に呼びかける。「あ……うん。」「……時名、僕……。」俊谷はおどおどしながらも、東條に話しかけようとした。
自分はどうすればいいのか、何をしていけばいいのか。全て彼は分からないまま、話が終わっていった。そんな中、東條は彼に一言返した。
「……俺達の元に戻って走り続けるのも、この部屋に残ってのびのび暮らす事にするのも、全部お前の自由だ。俺達が決める範疇じゃねえ。
ついてくるなら支度しろ。もしこの部屋に残るなら、俺たちはすぐに出ていく……メーワクかけたくねえし。」
その問いかけに、俊谷は何も答えず、ただ座り込んだ。それが、彼なりの答えだった。振り返ってその様子を見た東條は、すぐに玄関の方へと目を逸らした。
東條は、俊谷の決断をないがしろには、絶対に出来なかった。かつてとは言え、大切な仲間だったことには、変わりなかったからだ。
「……終わったか、二人とも。」心の内の葛藤の末、東條の口からやっと出た言葉は、これだった。何も言えない、何も答えられない。
彼は答えを出してくれたのに、それに応える事が出来ない。本当は怖かった。もう、会えないのではないか。
そういう不安が、東條を襲っていた。「えぇ。水谷さんも出来てます……お邪魔しました、先輩。またどこかで会いましょう。」「じゃーね、俊谷。また会おうな!」
そうとも知らず、水谷と桜井は2人に軽く返事を交わす。「あぁ……じゃあな、三人とも。」「うん。また……。」
東條は何も言わずに、一足先に玄関を出た。それに続いて、2人も玄関を出る。そしてドアが閉まると同時に、エレベーターの方へと向かった。
何も言わず静かに、ただエントランスの方へと歩いていく。俯いたまま、歩き続ける東條。
ついに会えたことの安心感、また居なくなってしまうかもしれないという不安、様々な感情で、彼はいっぱいいっぱいだった。
だが、東條はそれを表に出さず、ずっと隠していた。それで自分の感情が壊れ、狂ってしまうことを恐れていたから。
けれど、その隠し事をする必要も、今はない。無理やり隠していた感情は、もう隠さなくていい。東條の心の底から思っていた言葉が、彼の口からつい出てしまう。
「……会えてよかった。」その時、東條は一粒だけ涙を流していた……。
一時間が過ぎ、時名と桜井は東條家に着く。「まだ起きてんのか……ただいま。」時名がリビングを覗くと、晩酌を楽しんでいた美和子が、ソファでくつろいでいた。
「ん、やっと帰ってきた。随分遅かったね2人共。」「色々あったんだ、仕方ねえだろ。くぁ〜……わりぃ、先寝るわ。桜井も、早く寝とけよ。おやすみ〜。」
大きなあくびをしながらそう言い残し、時名は階段を上がって自分の部屋へと向かっていった。「おやすみなさい……。」
階段を登っていく東條を下から覗きながら、言葉を返した。「……ねぇ、桜井くん。ちょっといい?」美和子は、東條の向かう方を見ていた桜井を呼ぶ。
「はい?」「……ふふ。ちょっとソファに座わりながら、お姉ちゃんと"お話" しよーヨ。」そう言われた桜井は、緊張で固まりかけていた。
桜井がこんな誘いを受けたのは、これが初めてではないはずだった。が、深夜に男女が2人きり。
思春期真っ只中の彼が、日本でも特に有名な女優と二人きりで話す事は、そうそうなかった。顔を赤らめながらも、部屋に荷物を起き、リビングへと向かう桜井。
「……別にいいですけど。」「やりぃ。私ね、君のことで聞きたいこと、色々あんだよねぇ……。ホラ、これ飲みなよ。」
美和子は桜井に白ぶどうの缶ジュースを渡した。受け取ると、桜井は彼女のしようとした話を始めた。「ありがとうございます……俺に聞きたいことって、例えば?」
口をへの字にしながら考える美和子。「そうだねぇ……まぁ、無難に恋バナとか?」美和子はニヤニヤしながら桜井を見つめる。
「そんな……恋バナなんて、そんなの俺には……。」桜井は、一人の女性の事を思い出す。その時、彼の目は泳いでいた。「……あるんでしょ。」
「……まぁ、少し。」桜井はより顔を赤くする。「んかわい〜。んで、その娘にアプローチかけたりした?君、結構顔イイんだし、女のコも引っ掛けられると思うんだけど……?」
「そんな……女の人にアプローチなんて無理ですよ。そんな勇気なんて……ないです。」だんだん声が小さくなると同時に、トーンも低くなっていく。
桜井はもらった缶ジュースの蓋を開け、一気に喉に流し込む。「うぉ〜、豪快。アブナい走りをする勇気はあるのにねぇ……それとこれとは別だって?」
桜井は静かに頷いた。「ふ〜ん。で、そのコと連絡は取ってんの?」「……無いです。そもそも、人と連絡を取ること、少ないですし。それに……。」
桜井は続きを言おうとした。が、自分の気持ちを声に出せなかった。「……それに、何?」「……その人と約束したんです。"いつかきっと、また会えるから"……って。」
美和子は頬に手を当て、顔を赤らめながら体をソファにもたらせた。"きっと会える"なんてロマンチックな言葉、少女漫画でしか聞かなかった。
そして彼女は、"出会いは一生"という言葉を思い出した。「ロマンチックゥ〜……いい恋愛してんじゃん。で、名前は?」
「……へ?」「なーまーえ。君をそこまでの想いにさせるそのコが気になる。教えてよ。」美和子はまた、ニヤニヤしながら顔を乗り出して聞く。
桜井はモジモジしながらも、名前を話す。
「……"芹沢由依"……です。」
そう言われた美和子の頭は真っ白になり、開いた口がふさがらなかった。彼女の事務所には、桜井の話す女性と同姓同名の後輩がいた。しかも自分が一番可愛がっている後輩。
まさか……と思っていたが、桜井は構わず話を進めていく。「中学で同じだったんですが……俺に凄く優しくしてくれたんです、彼女。
辛かった中学生活で、自分のことを支えてくれて……嬉しかったんです。でも……彼女が東京の高校に通うってなって、それっきり……だと思ってたんです。でもこの前……」
中学卒業と同時に上京した、18歳の女優で、名前が芹沢由依という女性……そんなの、一人しかいない。桜井の話した芹沢と、美和子の思い浮かべた芹沢は、同一人物で確定だった。
顔の赤さが尋常じゃなかった桜井を見て、美和子は察した。
(こりゃマジに由依ちゃんの話だ……)と。
「ふ、ふ〜ん。可愛い名前ねぇ〜……。」明らかに動揺を隠せなかった美和子。ビール缶を持つ彼女の手は、あからさまに震えている。「大丈夫ですか、美和子さん?」
(機械にはめっぽう強いってのに、情報には疎すぎでしょ、この子。時名もだけど、今の子って恐ろしィ〜……。)
芹沢が俳優業で成功し、日本有数の女優となっていることを桜井が知るのは、まだ少し時間がかかりそうだった……。
補足です。中学卒業の際、
桜井に東京に行く理由を聞かれた芹沢ですが、
彼女は父親の仕事が理由と答えています。
彼女自身、当たり障りのないように、
女優業を始めると言うということを
桜井に言えなかったのです。
もちろん彼だけではないのですが。
Chapter.2の後半で再会しても、
その話題を聞かず言えずで、
桜井が事情を知ることはありませんでした。
補足は以上です。
以上、あるとでした。




