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第3-9話 ゴッド・コライド・パワー

 とりあえずラケルを落ち着かせたアベルは行動に移る。


「エンデュちゃんに何が起こったのかはわからないけど……、まずはカルミリアさんの近くから離れよう。このままここにいたら巻き込まれるような気がする」


 そういうとアベルはエンデュを持ち上げ、カルミリアたちのいる場所と反対に向かって走り始めた。


 アベルは彼女の全力戦闘を見たことはない。話を聞いて炎を使うや、槍の達人であることなどを聞いているくらいのものだった。しかし、彼の直感は告げていた。この場にとどまれば彼女の先頭に間違いなく巻き込まれることを。故にその場を離れる。守るべき者たちを少しでも守るために。






























 全力で離れていくアベル達のことなど露とも知らず、相対するカルミリアと男。一度吹き飛ばされた男は着地地点で再びカルミリアにつかまれもう一度、投げ飛ばされる。おかげでアベル達のいた場所からさらに離れていた。


 二度の浮遊感を乗り越えてやっと地面に着地することができた男は、走り寄ってくるカルミリアを見据える。


「場所を変えるにしてはずいぶんと荒っぽいんじゃないか?」


「あんな狭い場所は好みではないと思ったのでな。それにあのまま場所を変えるといっても動かなかっただろう」


 男の声に応えたカルミリアは槍を構え、身体に魔力を循環させる。一瞬にして戦闘態勢に入った彼女を姿を見て興奮気味に口角を吊り上げた男は自身も斧を構えた。


「それじゃあ始めるぞ! ナギス・トップード、参る!!!」


 ナギスと名乗った男は雄たけびを上げると斧を振りかぶりカルミリアに向かって駆け出した。風を切りながら距離を詰めた彼は跳び上がると体重を乗せながら斧を振り下ろした。カルミリアがその一撃を槍の柄の部分で受け流す。逸らされた一撃は一直線に地面に落下すると蜘蛛の巣上に地面を砕きながら刃をすべて隠すように地面にめり込んだ。


 刃が見えなくなるほど深くまでめり込んだ斧を抜くのは一般人では到底不可能だろう。


 しかし、彼は普通ではない。力任せに斧を地面から引き抜くと今度は天に向かって振り上げた。刃を反転することなくただの鈍器として振るったこの一撃であったが、彼の膂力であれば何の問題なく凶器になる。


 が、その一撃すらもカルミリアには何の障害にもならない。振りが勢いづく前に足で斧を踏み止めてしまう。これでは攻撃どころか単なる足置きにしかなっていない。


 斧を振り下ろした体勢のまま、止まっているナギスを目を細めながら見つめるカルミリア。彼女の視線にはあれだけ言ったのにこの程度なのか、と呆れたような冷たい感情が込められていた。


 そんな彼女の視線に込められた感情を読み取ったナギスは感情の赴くまま、怒気を露わにする。歯が砕けそうになるほど力強く噛み締めると斧を握る手に力を込める。そしてカルミリアが踏んでいるにも拘らず、力任せに斧を持ち上げた。


 持ち上げられ、身体が宙に浮いたカルミリアは空中でクルリと一回転すると、まるで何事もなかったかのように柔らかな動きで着地した。そんな彼女の動きを冷静に見続けていたナギスは内心感心する。


(……無駄な強張りの無い滑らかな動きだ。経験か、自信か。どっちにしろ恐ろしく強い)


 彼が内心で自分のことを褒めたたえているなど露とも知らないカルミリアはナギスに向かって煽るような言葉を吐く。


「どうした。まさか生身だけで勝てるなどとは思っていまいな? 少なくとも神装を使えるんだ。もっとまともに戦え」


「……フッ、すこし自分の肉体の力を確かめてみたかっただけだ。これからは本気でいかせてもらうぞ。まずは小手調べだ」


 そういうと男はカルミリアと同じように魔力を循環させ始め、同時に神装にも力を込め始めた。全身に回る魔力が光の粒子となって微かに身体から溢れ出る。


 本格的な戦闘態勢に入ったナギスは攻撃態勢に入る。斧頭で地面を叩くと身体の前で半円上に振って見せる。すると彼の周りの小石が浮き上がっていき、いくつかの個数を持って塊を形成していく。小石の塊は拳大の一つの石になり、ナギスの周囲に滞空する。その数およそ数十。


 彼の周囲に浮かんだ石の塊にカルミリアが目をやっていると、ナギスは斧を身体の前、何もない空間に斧を振り下ろした。すると周囲に浮かぶ石の塊が高速で回転し始め、カルミリアに向かって突撃を開始した。風を切りながら飛翔する石の塊は、玄人の撃つ矢と変わらぬほどの速度で飛翔していた。


 数十の石の弾丸に晒されることになったカルミリア。しかし、彼女は回避という手段を取ろうとはしなかった。彼女は身体の側面で構えていた槍を身体の前に持ってくると、石の弾丸を叩き落とし始めたのだ。次々に、さらには同時に飛来するいくつもの弾丸を彼女は両手で槍を器用に操り、次々に叩き落としていく。


 こうして、十秒もしないうちに彼女に襲い掛かってきた数十の石の弾丸はすべて撃ち落とされた。並の戦士であれば戦闘不能、悪ければ命を落とすことになる攻撃を捌いた張本人は息一つ切らしていない。それに攻撃した本人もそれに対して何の動揺も見せていない。つまり先ほどの攻撃はお互いに小手調べであり、防ぎきれて当たり前の攻撃でしかなかったのだ。


 石の弾丸を叩き落としたカルミリアは槍を回し構え直すとナギスを睨むように見つめた。そんな彼女を見て本物であると確信したナギスは、嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべる。


「いいねぇ……、そうじゃなくちゃ……。そうじゃなくちゃ面白くねえ!」

 

 斧を回し改めて構えたナギスは再びカルミリアに跳びかかった。今度は地に足をつけた状態で彼女の連撃を打ち込んでいく。


 振り下ろし、切り上げ、薙ぎ払い、時には柄での殴打も繰り出しながら怒涛の連撃を繰り出すナギスと、それに対処すべく槍を動かすカルミリア。振り下ろしを身体を横にずらすことで、切り上げを鼻先に触れんほどの紙一重で身を引くことで、薙ぎ払いを槍の柄の部分で受け止めることで、ナギスの連撃を捌いていく。


 連撃で攻撃するナギスとそれを捌き続けるカルミリア。二人の実力は拮抗しているように見える。


 怒涛の攻防はしばらく膠着した様子を見せるが、その膠着はしばらくすると崩れ始める。ナギスの攻撃に慣れ始めたカルミリアが連撃の合間を縫って反撃をし始めたのだ。


 当然、ナギスの連撃に比べれば回数は少ない。せいぜい、二十回に一回程度の頻度である。しかし、その一撃が恐ろしく鋭いのだ。連撃の合間を縫っての攻撃であるに拘らず、的確に急所を突いてくる。それを捌きながら連撃を続けるナギスも腕が立つことが分かる。が、それ以上に彼女の攻撃は洗練されていた。なにせ、ナギスは連撃を加えてもかすり傷一つ与えられていないが、カルミリアの突きは彼の身体に浅い傷を与えていたのだから。


「ハハッ。さすがの実力だ! ここまでやってかすり傷一つ与えられないとは!」


「舐めるなよ、蛮族もどき。十数年身体にしみこむまでやった私の槍がそう簡単に崩れてたまるか」


 彼女の槍の腕に思わず乾いた笑いを吐いたナギスに、吐き捨てるように告げたカルミリア。会話の最中も二人の攻防は続いており、やはりカルミリアのほうが若干優勢である。


 しかし、これだけやっても二人はまだ本気ではない。何せ神装使いに許された特殊な攻撃をまだ彼らはほとんどしていない。本番はここからである。

 

 百回は打ち合ったであろうか。その時、ナギスは内心こう思った。埒が明かない。そのため、彼は戦い方を少し変えることにした。


 大ぶりの攻撃とともに軽く距離を取ったナギスは地面に手のひらをつけた。するとカルミリアの足元の土が勢いよく隆起する。彼女は変化した地面に体勢を崩され、後方に身体が傾く。そんな彼女の背中に向かって再び地面が隆起する。しかも今度は剣のように先端が鋭くなっており、このままいけばカルミリアは大地の大剣に貫かれることになる。


 豊穣の神ユガルネウェインの一つである、大地を手足のように操る力を自在に使いカルミリアの首を狙うナギス。


 しかし、カルミリアも強大な神装使い。さらに彼女は神装使いとしてはこの世界でも最長クラスである。故に彼女の神装を操る力も彼と同等に、あるいはそれ以上に強大。


 彼女は視線を動かさないまま、神装に宿る権能を引き出す。すると彼女の背中に炎の壁が現れる。現れた炎の壁は迫りくる大地の大剣を超高温で熱し、瞬く間に溶岩へ変貌させた。マグマに変化したことで金属並みの強度を誇っていた大剣は硬さを失う。そんな溶岩にカルミリアは躊躇いなく突っ込みながら体勢を立て直す。それと同時に背中の炎を今度は槍のように変化させ、ナギスに向かって打ち出した。


 ナギスに向かって殺到する十本の炎の槍。が、それが彼にあたることはなかった。目の前に現れた土壁に阻まれてしまったのだ。炎の槍は阻まれてなお、土壁を貫こうとするが貫くことは叶わず、逆に下から打ち出された土塊によって霧散する。


 土の壁によってナギスの行動を確認できなくなってしまったカルミリアは、次に何が起こっても対処できるように身体と心を整える。すると、彼女の視界の端に高速で動くものが映った。およそ胴体の高さを移動するそれを見てカルミリアは回避行動に移る。


 だが、選択肢のうちしゃがみ込むのは地面に近づく、つまり敵の領域に近づくようなもの。本来であればあまり効果的とは言えない。


 故に彼女は跳び上がって回避するという選択を取った。迫りくる何かを跳び上がって回避すると、彼女の足元を斧のような形をした土の塊が二人の間の土壁を破壊しながら通過していった。


 彼女の体重の十倍はありそうなほど巨大な土の塊。まともに食えばひとたまりもなかっただろうと思いながら彼女は柄があるはずのほうに視線を向けた。


 しかし、斧の柄を持つものは誰もいない。斧の柄は宙に浮いており、本来の持ち主は姿を消してしまっていた。ではいったい彼はどこに行ってしまったのだろうか?


 自問自答する彼女であったが、その答えをすぐに察する。


(……上か)

 

 その直後、彼女に影が掛かる。咄嗟に上を向くと、組み付こうとしているナギスの姿があった。と同時に地面からも気配を感じる。彼と同時に襲い掛かってきたのは地面から生えてきた十本以上の大剣であった。真下だけでなく、斜め下からも生えてきており、先ほどとは明らかに毛色が違っていた。上下から挟み込むような攻撃。対処の仕方を誤ればどちらかの攻撃を食らってしまうことになる。どちらを対処すべきであろうか。


 彼女はその問いに答えを出す。彼女は足元に最小限の火球を発生させるとそれを破壊。爆風を引き起こし、その風圧でその場から離れるのであった。


 空中で攻撃を回避したカルミリアは着地すると土煙の上がるほうを見据えながら声を上げた。


「やはり、そううまくはいかんか」


「当然だ。自分で自分をひっぱたいて痛がる人間はいないだろう?」 


 土煙の向こうから何事もなく姿を現すナギス。あわよくば自分の技で傷の一つでも追ってくれないかと思った彼女であったが、そううまくいくものでない。


 目にもとまらぬ速度で行われた熟練の攻防。一回りして落ち着いたところでカルミリアが口を開いた。


「しかし、ナギス・トップ―ド……。その名前には聞き覚えがあるぞ。いい意味でも悪い意味でもな」


「お? 獣鏖じゅうおう神聖隊(しんせいたい)の隊長様に名前を知ってもらえているとは光栄だな」


 カルミリアの声を聞き、少し嬉しそうに頬を吊り上げる。しかし、カルミリアの表情は無表情のままである。それは彼のことをあまり話したくないかのよう。


「ナギス・トップ―ド。()()()()()()。しかし、ある時期を境に理由もなく高位の冒険者に戦闘を挑むようになり、数々の違反により冒険者の資格をはく奪。その後も行為の冒険者に戦闘を挑み続け、周囲の被害もお構いなしの戦闘で被害を出し続けた大罪人」


「よく調べたもんだ。ストーカーが趣味か?」


「なぜそこまで高位の戦士に戦いを挑む?」


「俺は強くなりたいんだよ。誰にも負けないほどにな。そのために子も嫁も捨ててきた。今更止まれるものか。それに俺を止められるのは俺より強いやつだけだ。文句があるならぐうの音も出ないほど叩きのめしてみろ」


「ならばここからは言葉はいらないか。彼らもある程度我々から距離を取ったはず。少し火力を上げていこうか」


「素晴らしい、感激だ! 俺の糧となるような楽しい戦いにしてくれ!」


 お互いに構え直した二人は、再び己の持つ力を振るい始めるのだった。



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