12
チュンチュンと鳥が騒がしく鳴き、眩しい光が俺の顔を照らす。
あー、朝かぁ。
ぼんやりとする頭で考えながら良い感じの微睡みなので二度寝に突入することにした。
「起きろ」
「ふぐっ」
勢いよくシーツをまくり上げられ、その勢いで床に熱いキッスをかました。
起き上がり、赤くなっているであろう鼻を押さえて俺をベッドから叩き落とした人物を睨む。
「な、何すん「早く身支度を、魔王様がお呼びです」はぁ?」
「貴方の頭の横に付いている物は飾りなのですか?
あぁ、それとも低俗な貴方の脳味噌では私の言った事が理解出来なかったのですか?
身支度って言葉の意味、分かります?」
睨んだ俺の視線の先にいたのは毒舌キャラでお馴染みのメイドさんだ。
「それくらい分かってるわ!」
「なら早く支度を、十五分以内に」
一方的に言いたい事だけ言って出ていってしまった。
ふむ、流石だな。
なんて訳の分からない感心をしながらとりあえずトイレに行くことにした。
ガチャリ
出入口のドアを開くとメイドさんが待機していた。
懐中時計を手にして。
「ふむ、十五分三十秒前ですか、まぁ、貴方にしては上出来な方でしょう。
こちらへ」
パチリと音を立てて懐中時計の蓋を閉めてエプロンのポケットに仕舞うやいなやさっさと歩きだした。
うーん、メイドさんは毒舌キャラだけど俺としてはツンデレの要素が少しあったほうが萌えると思う。
メイド服×ツンデレってツインテール×ツンデレに並ぶ黄金コンビだと言うのが俺の持論だ。
更に言うならばツンの時に弄りまくって崩壊デレを起こして若干涙目になった時が一番の萌え所だと思っている。
なんてツンデレについて脳内談義をしている間にメイドさんが一つの扉の前で立ち止まった。
「この中で魔王様がお待ちです」
「分かった、ありがとう」
「では」
一礼すると颯爽とその場を後にするメイドさん。
その後姿が完全に見えなくなるまで見送ってからドアをノックした。
「入れ!」
「失礼しまーす」
中には白いテーブルクロスがかけられた長いテーブルとその端に魔王がいた。
「待っていたぞ!
早く席に付け、飯だ!!」
「おぅ」
魔王に手で示された席に座る。
何の用かと思えば朝飯か。
俺が席に座ると料理が運ばれてきた。
何気なく見ていたが段々頬が引き吊ってきた。
まず定番のごはん、パン、パンケーキと始まってパスタ、ピザ、蕎麦、うどん、肉まんetcetc……うん、何か和洋中ごちゃ混ぜの料理が大量に運ばれてきた。
どれくらい大量かって言うと、畳三つは並ぶ長さのテーブルに隙間なくぎっちりと並べられるくらいだ。
今の気分?
『朝からこの量食うとか魔王パネェ!』
って感じだ。
何か見てたら胃もたれしそうだ……うえっぷ。
「あー、あのさぁ、この量全部二人で食うのか?」
「ははは!
逆に聞くが勇者殿はこの量を食いきれると思うか?!
答えは否だ!!!」
じゃあ何で用意した。
「我が城の客人として迎えるにあたって勇者殿の食の好みが分からなくてな!
とりあえず色々用意させた!!
この中に無い物でも構わないから好きな物でも嫌いな物でも何でも言ってくれ!!!
あ、あとアレルギーもな!!!!」
「あー、そう言うことか」
この量は全て俺の好み調査の為だけに準備されたらしい。
アレルギーまで気にするとは何という客をもてなすサービス精神、至れり尽くせりって正にこのことか。
下手なホテルのVIPよりも良い待遇だ。
と言うか世間一般では勇者と魔王って対立している関係のはずなんだが良いのだろうか。
何て考えは目の前にあった料理を一口口に入れた瞬間遥か彼方へと飛んで行った。
「!?うっ……美味いっ!」
何だこれは……!?
俺が食べたのは極普通のフレンチトーストだ。
だが、俺が今まで食べてきたフレンチトーストとは全く違う。
フライパンに接地したであろうパン耳はカリカリ、真ん中には良い感じに焦げ目が付いており、ナイフを入れるとしっとりとした感触が伝わる。
このしっとりはしっとりし過ぎず、かと言って水分が足りない訳でもなく、丁度良いしっとり具合。
口に含むと、牛乳や卵、砂糖の他にパンの甘味が混ざりあって絶妙なハーモニーを生み出す。
俺は滂沱した。
「!?
いきなりどうした!?」
「俺は……神を見た……」
フレンチトーストの神を。
あっと言う間に食べ終わってしまい、もう無いと言う事実に絶望が襲ってくる。
それを紛らわしすために丁度近くにあった皿の料理を半ば自動的に口に含んだ瞬間、電撃に打たれた様な衝撃を受けた。
「こ……これは!」
勢いよく視線をそちらに向ける。
大根を噛みしめる度に溢れだすだし汁は一緒に入っているいかの旨味を余すことなく吸収している。
薄すぎず濃すぎず、ほっこりと優しい絶妙な味付け。
それはまるで……お袋の味。
「おぉ、神よ……!」
俺は神に祈りを捧げた。 いか大根の全ての集大成がそこにあった。
俺は我を忘れて様々な料理に箸を出した。
全て口では言い表せないほどの絶品料理だった。
結構食べた気がするがテーブルの上にはまだまだたくさんの料理が乗っている。
それらを味わいたいが胃袋は限界だった。
食べたい、でも食べれない、そんなジレンマが悲しい。
「さて、勇者殿!
お味はお気にめしたかな?!」
「あぁ!
魔王はこんな料理を毎日食べているのか?」
「あぁ!
絶品だろう!!
して、好き嫌いやアレルギーは大丈夫か?!」
好き嫌いするなという親の躾に今日ほど感謝したことはなかった。
「俺、好き嫌いとかアレルギーないから毎日色んな料理を出して下さい!」
「もちろんだ!」
例え夢でもこんなに美味しい物が食べれて良かった。
それにしても、本当にリアルな夢だなぁ。
と言うか夢の中で寝れるんだな。
いや、それよりもいつ目が覚めるんだろうか。
食後のお茶を飲んで物思いにふける。
「勇者殿!
今後どうするつもりだ?!」
魔王が唐突な質問をしてきた。
「どうするって何が?」
「元の世界に帰るにもその術式はペテン王国の、しかも極一部にしか伝わっていなくてな!
いくら魔力があろうと我が輩ではお主を元の世界に帰す事ができない!!
戻るには一度ペテン王国に戻る必要性がある!!!」
「そうなのか?」
思い返すはムカつく国王。
一度は殴らなきゃ気がすまない。
「でも、ペテン王国って魔王城から遠いんじゃ……」
昨日見た地図では大分離れているように見えた。
「うむ、歩いていくとなったら大体二年かかる!」
「二年!?」
馬鹿なのか?馬鹿じゃないのか?
「まぁ、転移を使えば一瞬だがな!」
「便利だな、おい」
転移スゲー。
「だが、ペテン王国に行ったからと言って帰れるかの保証は無い!」
「は?何で?」
「勇者殿は魔王を倒すために召喚された!
倒すには倒したが、魔王は死んでいないからだ!!」
「はぁ!?じゃあ何か?お前を殺さなきゃ俺は帰れないとか言うんじゃないだろうな!?」
「その可能性は高いな!」
「俺は嫌だぞ!
あんたを殺すとかありえない!」
「はははは!
そう言って貰えると嬉しいぞ!!」
友人を殺して目が覚めるとかどんだけベビーな夢なんだ。
「そこで提案がある!」
「提案?」
たっぷり十五秒間を置いてから魔王は言った。
「お主…………魔王にならないか?!」
「…………は?」
『ピロリーン♪
ジョブに魔王(仮)が追加されました!』
突如脳内で変なアナウンスが流れた。
なんかただの食レポみたいになってしまったのは何故だろう……




