23、名前
「おはよう」
目を覚ますと女がいた。じっとこっちを見つめている。服は着替えていて清楚な白い服を着ていた。
ズルタンは眠そうに目をこする。頭がボヤっとしている。
「おはよう」
「あなたに質問したいことがあるの、なぜ私の絵を血で描いたの」
「ちょっと待ってよまだ眠い、もう少し寝る」
右頬に痛みが走った、女がビンタしたのだ。ズルタンは不快感よりもむしろ心地よさを感じた、目が覚める。
「さあ、答えて」
「あれはまあつまりその、、、」
「答えて!」
女の目力が鋭くなる。好奇心、怒りが半々に混ざっているような目だ、しかしどこか生き生きともしている。
「つまりあれは君を閉じ込めたんだよ」
「閉じ込める?」
「僕はここに無理やり連れてこられた。この部屋に閉じ込められた、好きな食べ物も食べれない、会いたい人に会えない、性欲すら支配されている。もしこのままの状態が続けば発狂してしまいそうだったんだ。だから一つ抵抗してみようと思ったのさ」
「それと絵を描くことがなんの関係があるの?」
「絵に描かれた人は絵の中からは飛び出すことはできない、絵の中で動くこともできないからね、つまり君を絵の中に閉じ込めることによって、この捕らえられた惨めな僕を癒そうとしたのさ」
女は腹を抱えて笑い出した。
「何それ!あんたかなりおかしいよ、変だよ!」
「そうかな、、、」
ズルタンは真顔で女を見つめた。
「それにその理屈でいくとなぜマキアを描かなかったの、あいつがあんたを閉じ込めた張本人よ!」
女はなおも爆笑していた。
「そこは単純さ、なぜなら僕は男で君はとても美しい女性だからね、誰が好き好んでマキアの中年男を描かなきゃいけないんだ!」
「まあ!鈍そうな顔して意外とお上手なのね、私を口説いてるの、そんなことしなくても抱けるのに」
「これは魂の問題だよ、僕は故郷に好きな人がいるんだ」
「なるほど理解した、あなた相当変人だね、でも間違ってないかも」
女は急に真顔になった。
「人は誰でも何かに囚われているわ、あなたは思い人、マキアは権力、サヴィンスヘッドはマキアに、、、」
「君も何かに囚われているの?」
「当たり前よ」
「それは何?」
「過去」
ズルタンは女の過去について好奇心が湧いた、しかし彼女は窓の外をぼんやりと眺めていた、その姿がなぜか美しくて彼は言葉を見失ってしまった。
本当に美しいと思った、夜の妖艶な姿もそうだが、しかし明るい日の光に照らしだされた女はどこか楽園の中に佇む女神のようにも思えた、光の中の光、そう言っても過言でないほどだった。
「あなたの名前聞いてなかったわね」
「僕の名前はズルタン・ウィドックス、君の名前は?」
「私に名前はない、昔に捨てたもの、でもマキアは私のことドール(人形)と呼ぶわ」
「でもそれではだめだよ」
「なぜ」
「理由はない、でもだめだ」
「じゃああなたが私の名前をを考えて」
「僕なんかでいいの」
「いいのよ、あんたがつける名前面白そうだし」
「じゃあ、、、ライト・カーリーで」
「闇を歩いてきた私にライトとはあなたとんだ皮肉屋さんね、でもいいわ気に入った、あなたと会う時だけ、私はライト・カーリー」
「いいね」
ズルタンはにんまり微笑む。
「お礼に二つ情報を、この国のほとんどの権力者はマキアが捕らえて拷問したのち殺したわ」
「えっ!」
「その結果フェニックス王国のルロが国内に潜伏していることがわかった、あんたは鈍いから知らないでしょうけどまあ私たちの国に侵攻を計画している王様ね」
「それでどうなったの」
「すんでのところで逃げられたみたい、でも国内に潜入した奴らはほとんど壊滅させたらしいわよ」
「もう一つは?」
ズルタンは恐る恐る尋ねた。
「サヴィンスヘッドに気を付けて、彼は普段は蚊も殺さない男だけどマキアの命令なら何でもやるわ、それこそ5歳の女の子でも拷問するぐらいのことはね」
女はそれだけ言うと立ち去って部屋を出た、ズルタンは改めてマキアの恐ろしさを感じたのだった。
夜、川に一艘小さな船が浮かんでいた。釣り人が二人、糸を垂らしながら乗っている。
ルロとガモだ、二人は釣り人に変装していた。
「ガモ爺、マキアとは恐ろしい男だな」
「申し訳ありません、このガモのせいでこのようなことに、、、」
ガモは歯を食いしばりすぎているせいで唇から血が流れていた。
「おっ!かかった!」
ルロの釣り竿が震える、大きな川魚が釣れた。
「ガモ爺、我々はマキアという魚を釣り上げるために餌を巻き、釣竿を垂らしていた、しかし逆にこちら側が釣り上げられてしまうとは、はっはっはっはっは!」
ルロの顔は満面の笑みが浮かんでいた。
「ルロ様!」
「面白い男だマキア・シュポス!それでこそ料理のし甲斐があるというものだ!ガモ爺一度本国に帰るぞ!準備を整え次第攻め込む!奴の首を魚の餌にしてくれる!」
「はっ!」




