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黒根古島奇譚 DAY4〜5

ツンパ氏の記憶を頼りに洞窟探検するが成果なし。ツンパ氏発見現場の井戸を捜査しようとした主人公は誤って井戸に転落。金色の部屋で目を覚ます。

DAY4


出直し探検隊・ガマ突入


翌日の出直しは俺と問題の御本人のツンパとガマが狭かった場合に潜っていけそうな身体が細いソンの三人となった。島にある最新?の道具を持ち出したが、肝心の発電機のコードがガマまで届かなくて、電動工具も灯りもまったく使い物にならない。出る前に電動ハンマーだドリルだと装備の話をしたのに、ドジな自分たちに呆れる。たった五メートルのコードだがこの島にはないことが分かった。ケツに用意させた俺がトンチキなのか。こんなんで独立国なんてできるわけがないと情けなくなった。


結局は人力のトンカチでガマの蓋に挑むことになった。先鋒は俺が行く。ガマへ腹ばいで潜り込む。このガマは波が削ったにしてはあまりにきれいな楕円形なのが人工的で気になる。岩は琉球石灰岩がざらざらしていてちょっと痛いのだが、幸い今日はダイビングスーツで来たので痛さはそれほどでもない。


蓋にとりついた。押しても動かない。トンカチだとバラバラ破片が飛んで、目に入り作業を続けられない。水中メガネを持ってくりゃよかった。カンヌキを突っ込める隙を探すと指が入るか入らないかのわずかな隙間が見つかった。ソンにカンヌキ持って入ってこいと言うと「せまいねー、ここ。わたしちょっと狭いのだめですー。へいちょ・きょうぷしょーですよー。怖いよー。ツンパさん交代しますでしょう。」と尻込みしだした。


仕方がないので、ソンが脱いだダイビングスーツを床に敷き、ツンパが太った身体を芋虫のように腹ばいでカンヌキを持ってきた。二人並ぶと幅いっぱいで、作業もやりづらい。なんとかカンヌキを隙間に入れてみるがほんの数ミリ動いただけだ。「埒が明かないなぁ。諦めるか。ツンパがこの穴を通っていったのか?無理だろう。本当に。」「こう潜ってみると現実的ではないような気も自分もしますけど。」「なんだ、やっぱり妄想だったんじゃないか?」


頷くツンパに下がるように小突いてガマを出た。周回道路に上がると、ソンが「下手な考えお休みなさいといいます。ワタシ上等に考えたよ。ツンパさん井戸の横で見つかったです、井戸から来たのと違いますーかー。」と突然言い出した。言われてみるとたしかにどうやって上がってきたかは別にして、井戸周辺が発見現場なのだから調べない手はない。


先祖が掘った井戸と言われて、水も涸れることもなくあるのが当たり前に俺は思っていた。ましてや小学生前に島を離れているから、井戸に興味もなく、主に牧場の牛用の水だから、金城さんが管理してくれていたと思っていた。だからいまだかつて底まで降りたこともなかったが、こんな島で真水がでるなんて、今更ながらたしかに不思議な井戸である。行こうと声をかけて井戸へ向かった。



スイス・アルプスの氷河の下の金色の部屋


「E州連合の連中はまだ気づいていないようだニャーる。A国とR国と日本国あたりは気がついているとの情報があるけどニャくれ。こっちも気づかれるとアルプスだということもあって、変な憶測を呼ぶ可能性があるからニャぼんそ。」とチロリアンハットにジャケットを着た男がホルンに首を突っ込みながら喋っている。


その横でアイベックスの頭の剥製を被った男が「そうだニャ。撤収計画を練り直さないといかんニャーれ。」と。


チロリアンハットは「その前に各国に散らばる仲間の回収装置の確認をしてくれーるニャ。ここらは言葉も人種も政治体制も色々で設置作業が大変だろうが、急ぐように手配しニャぼんそわーる。」と言って、金色の部屋でホログラムで空中に映し出されたE州の地図をいじくりだした。



DAY5


出直し探検隊・ふたたび井戸へ


なにごとものんびりするのは、島時間のせいなのか。昨日はガマ探索の道具を片付けて、昼飯を食ったら牧場と漁業部は仕事もあるので、井戸が逃げるわけもないし明日にしようとなった。どうも、みんな探検に気が進まないようだ。当のツンパもいつオルガが帰ってくるかしか頭になさそうだし、ほかの連中も俺に付き合っているだけのようだ。結局、牧場は全員仕事、漁業部は照じーが夜光貝の加工をするということで、残りの四人が翌朝、井戸集合となった。


井戸の深さは十メートルくらいで直径は一・五メートルあるから大人が降りるのも楽である。ここなら元自衛隊の太ったツンパでも降りられる。逆に適任だろうと言うと、「実は自分はこの重量に加え高いとこは駄目であります。さらに島主を差し置いて、神聖な井戸に入るのはご辞退いたします。」と言い出す。キンとソンに至ってはロープを持っているだけで井戸に近づこうともしない。


こいつらなんでも俺に押し付ける奴らだ。人事考課で降格するぞと言っても、大した給料を払っているわけでもなく、ぜんぜん、説得力がない。またもや仕方なく、俺が降りることになったが、俺も高いとこは苦手だ。「降りるときはロープを身体にひきつけて、足を井戸の壁に押し付けて壁を歩くように下をあまり見ずに降りると安全だと自分は習いました。」とツンパが得意そうに言う。本当に腹が立つ。井戸のガヤガヤ声が届いたのか、牧場からゴドーとヤギがやってきた。ゴドーは子牛を連れている。ヘルメットにライトをつけた洞窟探検仕様で俺は井戸の縁に腰掛けて下を覗き込んだその時、ゴドーの連れている子牛が水を飲みたいのか井戸の縁に座っている俺の腰を頭で押した。


その途端、ドブンと井戸の底に俺は落ちた。「ギャー、大変よう。どうしましょ。島主〜〜。」という井戸に響き渡るゴドーの声が流れる水の音に遠のいていった。ロープ係のキンとソンは、いきなりのことでびっくりしてロープを握るのを忘れていた。ロープもあっという間に井戸に吸い込まれていった。



金色の地獄


なにか強烈な臭いがして、気がつくと霞すんだ金色の空が見え地獄なのか、臭いに思わず咳き込む。息が苦しくてゼイゼイ喉が音を出す。けっこう苦しいぞ。閻魔様の審査抜きのまま、硫黄地獄送りとはちょっと早いのではないかぁ。首はまだ金縛りにあったように動かせず、目の玉だけは動いているようだ。


視界に人影が見える。頭が尖っているように見える。鬼か?


「気付け薬としてはちょっと強烈だったかニャ。まあ、大丈夫だニャ。」とどこかで聞いたような声。耳慣れた声だ。俺の声だ。


金色の天井を背景に鬼の顔が視界に入ってきた。ようやく焦点があってきたのか、薄ぼんやり輪郭が見えてきた。耳が左右にあり、顔は鬼よりもネコっぽい。顔の周りに毛が生えている。これが鬼か?死んだはずの親父が鬼になっているのか?そうだ、親父の声と俺の声は区別がつかないと金城さんがよく言っていたっけ。ということは親父か?それとも親父の声を出す地獄の鬼なのか。「おやじ〜っか?」と声を振り絞って出してみたが、身体が動かないし、口から空気が漏れるだけで音は出ていないようだ。鬼が俺の身体を点検するように触っている。徐々に皮膚感覚が戻ってきたような気分になってきた。「ちょうど井戸水点検していたらおミャーが落ちてきた。そろそろおミャーを呼び戻そうと思っていたからちょうどいいタイミングニャん。手間が省けたニャ。これから、ネコ属に戻すけど良いかニャ。ヒト属の時の記憶は残しておくから、淋しくなることはないニャろ。」と語りかけられたが、一体何を言っているのか理解できない。ネコに戻すって、鬼はニャと言っているし。もう一度、声をだそうと必死に力を入れると「お・に?だ・れ・だぁ?ど・こ・だぁ?」とだけでたようだ。


鬼は俺の顔を覗き込み、「久しぶりだニャ。元気なようで良かったニャ。ゆっくりと喋れば話しができるからニャ。」と金色の目で微笑みかけてきた。「久し・ぶり?ここは・地獄・なのか?俺は・死んだ・のか?」まだ身体は動かないが、声だけははっきり出せるようになったようだ。「どっちかニャ、ニャハハハっ。おっとまだ動くんじゃニャ。もう少し我慢してくれニャ。」と鬼が俺の頭部につけていた何かを外しているようだ。


「取れたぞ。予想より早く動き出したニャ。まだまだ元気じゃないかニャ。ネコに戻すのは後にするかニャ。まだヒトだと思っているから、いきなり戻すと記憶障害を起こされるのも困るから、ヒト属でいるうちに今までのことを話してあげようかニャ。ヒト属としてこれからの話にどう反応するかも記録したいからニャ。こら、暴れるニャ。」と言いながら鬼は俺を動けないように金色のベッドに動けないように手足に輪をはめられて寝かされた。目も慣れてきたようで上を見ると、金色の空ではなく金色の天井のような感じだった。


「ちょっと待ってくれ。ここは黒根古島か?どっかで見たような金ピカ・ラブホテル?それとも地獄なのか?一体どこなんだよ。?」鬼の顔に焦点がようやくあってきたのと同時に声も出るようになった。顔は鬼というよりは、野良猫でいる茶系の雑種のネコ。鬼に似たネコなのか、ネコに似た鬼なのか、どっちでも良いが、そうだ、”キャッツ”っていうミュージカルに出てくる特殊メイクのキャラクターみたいだ。どうやら鬼ではなさそうだ。パンツの言っていた大きなイリオモテヤマネコとはこいつのことなのか?「こんな金ピカの家は島にはないし。ここはいったいどこなんだよ。井戸に落ちたはずだろ?身体縛ってるのを外してくれよ。それになんでニャニャと言うんだ。それって名古屋弁か?するとここは名古屋なのか?」と素性の分からない相手にだんだん俺は興奮してきた。


「そうか、おミャーには名古屋弁に聞こえるんニャ。ノンノン、これはワシラ、ネコ属の訛だニャ。正式には、宇宙のネコ属:シャトネビュロニアンという種族なんニャ。突然言っても分からんじゃろがニャ。申し訳ないが、しばらくおミャーが状況を理解するまでは身体は動かせないようこのカプセルにいてくれニャ。おミャーも元はネコだからニャ、爪だして飛びかかられても困るからニャ。ニャニャニャ。」と変な笑い声を上げる。「こないだ海に落ちたおミャーの知り合いの男?なんて言うニャ。ツンパ?変わった名前ニャ。あやつがあの夜にふらふらバイクで来た時に、ワシラは偵察用のドローンのテストをしていてニャ。来ると知っていたら飛ばさなかったが、毎晩あの時間でテストしても誰もいなかったから油断したニャ。目の前に飛んできたら相当明るいから、あやつ、びっくりして蛸壺へ落ちたんニャ。さすがに助けないわけにいかないからニャ。手当した後、もとの蛸壺の辺りに置いておけばバレなかったかもニャ。そうしておけば、おミャーも井戸に気がつくのも遅れただろうニャ。ここへ通じるガマを閉じてしまったから、面倒なので井戸に置いたのニャ。それは、ワシラの失敗だったニャ、ニャニャ。」と笑いながら、金ピカのベッドの蓋を締めた。これがツンパの言っていたカプセルなのか?いや、やはりここは変態用のラブホテルだ。


「ここからはこの蓋が開くまで質問もできないようになるニャ。黙って聞いてもらいたいから、すまんニャお。」蓋が閉まると外部の音も遮断された。スピーカーからか子どもの笑い声が聞こえだした。そして眼の前がスクリーンになったようだ。映し出されたのは子どもが見覚えのある家の庭を走り回っている映像だ。今もこの島にある俺の家ではないか。子どもの横に立っているのは、今の俺と瓜二つの俺だ。つまり、これが親父なのか。小学生のころに東京に行かされた時の持ち物にこの家族や島の写真はなかった。だから親父の顔の記憶はあやふやだが、声だけはなぜかはっきりと覚えている。蓋の耳元のスピーカーから親父の声が聞こえてきた。「さて、どこから話そうかニャ。ただ時間をかけているわけにもいかないからニャ。まずはおミャーが井戸に落ちて溺れたところをワシらが回収して、いまここにいるということだニャ。そして、今見せた映像で思い出したと思うが、ワシがおミャーの親父ニャ。おミャーに渡したご先祖様が黄金の船を助けたという草紙を覚えているニャ。あの話は、実話なんニャ。おミャーがもう少し興味を持つと思っていたニャが、そうでもなかったな。で、実話というのは黄金の船がこの島に来たということニャ。今、おミャーがいるこの黄金の宇宙船だニャ。おミャーのヒト属の知識では、UFOというものだニャ。大きさもこの島と一緒ニャ。直径一キロもあるからニャ。東京で言えば皇居ぐらいかニャ。ワシラがここらに来たときに、サンゴ礁の中が丸く抜けた浅海でサイズがピッタリでこれは好都合ということでここに降りたのニャ。そして、UFOつまり宇宙船をサンゴ礁の中に入れて、金ピカのままで露出させるわけにはいかんから、その上に琉球石灰岩の土台を石垣島から少し拝借して乗せたのニャ。ハンバーガーに例えれば宇宙船はサンゴ礁と琉球石灰岩のバンズに挟まれたパテのようなものニャ。だからいつでも宇宙船は島を乗せたままでも移動どころか宇宙にまで飛んでいけるんニャ。面白いニャロ。」と得意げに親父が言った。



日本国都内某所・地磁気等異常緊急臨時対策室


「課長、出張行ってまいりました。ご命令の通り、黒、白、海の各根古島諸島を回って潜入調査してまいりました。こちらがその総合的かつ詳細なレポートと、こちらが各島で収集いたしました横断的お土産分析のためのお土産であります。」


「あら、いつ行ってきたの?出張願いに判子押したっけ?押した?あ、そう。まあ、予算は君に預けたようなものだから。で、どうなんだ?」と言いながら、いつものように気になるページの端を折っている。「根古島諸島なんて人も人がいるのと思ったら、お土産も産業もあるんだ。黒は猫絡みのお土産で、白が根昆布、海は当たり前すぎるウミネコがらみ。お土産センス的には黒と海がネコがらみで、白は根昆布とは苦し紛れだな。美味しそうなのは黒かな。夜光貝カレーにビフテキか。うん、よくできたレポートだよ。」と例によって妙な感心だけはするが、油断は禁物。「でも、さあ、結論が相変わらずはっきりしないんだけどね。そうだよねぇ?」と切り替えしてくる。係長はそれは想定内と、「あ、はい、ですので、誤解をお招きしたなら撤回させていただきますが、最近変化のあったデータから前向きに検討したところ、黒、白、海の根古島”各島”のどれかになるかと思われるのですが、断定するのですね。断定するとなると・・・・総合的俯瞰的にかつ横断的な意見も交えて大多数で判断した結果があらかた予想されるこれらの根古島”諸島”になると断定することになるかと思われます。」と多少胸を張って答える。「うううう・・分かった。君の意見はだいたいこの根古島諸島で断定したということなのだな。でも範囲は三十キロもあるが、、、まあ、連絡会に持っていくよ。連絡会のメンバー分のお土産はあるんだろうな?これから空海自衛隊、海上保安庁、内閣安全保障・危機管理室を横断的、総合的に総動員することになるのだからね。今のところは、想定海域は、石垣島周辺北西の根古島諸島付近ということで良いのだろうな。それに関連して、費用の概算を早急に出すように。万が一地震・噴火情報が漏洩した場合も想定して、世論対策費も必要だが、そっちは傅通とかなんかの広告代理店に企画発注するなよ。もうそこは目をつけられているからな。これはそこらの下請けに出すような仕事ではないってことは分かっているな。適時適切な措置をとるように担当者に申し付けておくように。下請けよりもお茶受けが食いたいよう〜、なんてね。ウハハハ。」コーヒーカップを持ちながら課長が笑う。


課長の笑い声を無視して、「あらかた了解いたしております。おおよそ愽通やほぼほぼ孫孫受けに発注する代理店に発注するなんてことはたいがいに考えてもほとんどありません。また、メンバー様のお土産はあとでお届けしますから。地磁気は引き続き情報を注視して参りますのでご安心を。では、失礼させていたければと存じました。」と多少日焼けした顔に安堵の表情をにじませて退室した。


つづく

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