黒根古島奇譚 DAY3
ツンパ氏の行方不明騒動のさなかに島の観光客だと思っていた女が、なんと主人公のベッドに。また、地磁気異常を嗅ぎつけたのか、海上自衛隊の対潜哨戒機が島を偵察に。
DAY3
背中の違和感
いつもの目覚めと違う違和感で、目が開いた。俺はいつも頭を南向きで心臓を上にするため左を上に寝るクセがある。そこに猫の”黒田くん”が来て、朝めしよこせと顔を舐めてくるのがルーティンだ。だから左に誰かがいるような感じはこの島にもどってからはなかったものだ。ゆっくりと背中を押し付けてみると温かな肌の感触が。
ぎょっとして身体を返すとそこに裸で寝ているブロンドの女がいる。それに微かに香水の匂いもする。
頭に浮かんだのはこの島の女。「おい、バストか?何をしている?」と声を出してから、バストがブロンドではないことに気がついた。じゃ、これは誰だ。ブロンドの髪がゆっくりと動いた。
「いきなりバストってなによ?どうせわたしのは小さいわよ。相変わらず、失礼だし。。。忘れた?ワタシよ。香水でわかると思ったのに。」って、確かに東京ではこんな香りを嗅いでいたような。もう一度顔をみる。
「まさか、おまえ。」俺は一気に目が覚めた。「お久しぶり。心配していたけどこれは元気なようね。」女は少しソバカスが浮いているコケティッシュな笑い顔で、俺の一物を握りながらそう言った。「うそ?まさか・・」と自分の姿は丸裸なのに気がついた。いつもはTシャツとトランクスのはずなのになにも着ていない。慌てて股間の手を払う。
そうだ、ツンパと別れてケツの宿に寄ってから帰ったが、宴会の酔いがまわったのかふらっとした時に、「大丈夫?」って声をかけられたような。そのままベッドに行ったのか。
「まさかお前・・ヒトミか!嘘だろう。なんで俺がここにいるのが分かったんだ?」「あたしがアイヌの取材で一ヶ月北海道に行っている間に、親父が死んだ、島に戻る。すまん。生きていたらまた会おうなんて部屋に置き手紙してあってさ。なんだ、この野郎。どうせ、別の女のとこへ行ったと思っていたのよ。でもにママに聞いたら本当に東京からいなくなって沖縄の島へ行ったけど、どうせ女のとこじゃないのって言われて、そうかと思って忘れるようにしていたのよ。ところがよ、先月、店に週間フラチィ・デイのライターの人が来てね、南の島で黒猫を売り物にしている島があるって。その島って個人の持ち物で、不思議な話だけど水も電気も自給できるようで、県の世話にもなってないらしいだって。島の持ち主は、独身の男で島を法人化して名前も黒根古島共和国ってつけたらしい。でもね、他から離れすぎているし携帯も通じないから、予備の取材も島まで行かなきゃならないけど面白そうだから取材しようかなって言っていたのよ。不謹慎だけど琉球独立運動にもひっかけてちっぽけな島が独立か?なんて企画で編集会議にだしているんだけどってね。でさあ、まさかと思ってその島の持ち主って誰って聞いたら、上地っていうらしいよって。やっぱりあんたの名前じゃないの。びっくりして検索したら、三年前の黒根古島のホームページがあってさ。見たら、あんたが猫を抱いている写真があって。あんたがいると思ったら会いたくなって店休んできたのよ。宿のケツさんにあんたの家の場所聞いて、外にでていたらあんたがフラフラしていたから連れて帰ったのよ。覚えてないの?相変わらずの薄情者!」と俺を拳で叩く。相変わらずパワーのある女だ。
ヒトミと知り合ったのは広告代理店時代。あの当時流行し始めたタウン誌のライター。仕事として街興し企画やスポンサータイアップ企画などを手伝ってもらっていた。その後、ヒトミはライターだけでは食えないし、夜の店ならネタになりそうな話も聞けそうだからと新宿のスナックに勤め始めてから、付き合うようになった。
某国立大学で民俗学を専攻していたらしく、沖縄を含めて各地の古い話も詳しい。また、フィールドワークとやらで、奥地に入り込んで研究していたこともあり、身体は小柄で華奢な感じだが、実は度胸も体力も腕力もある。キュートな山猫的な魅力がある女で、そこに惚れたと言えるかもしれない。ただ、欠点は我が儘で偏執狂的なところ。面白い記事ネタがあると売れる売れない関係なしに山でも海でも危険も顧みず、研究者の性なのか、男をほったらかしでひと月以上もどこに行くとも言わず、取材に行ってしまうような女だ。島に戻るのをきっかけに別れたつもりだった。
しかし、いったいどういうタイミングなのだ。ツンパの件もあり、頭が混乱してきた。俺はタバコを手にベッドからでると、そそくさとTシャツとパンツをはいた。「今日はどうするんさ?俺は実は朝から揉め事を収めに行かなきゃならんのさ。迎えが来るさ。」と迎えのケツは来るはずないのに島言葉っぽく言った。
ヒトミは、小さい胸をシーツで隠しながら、起き上がった。「あんたが昔見せてくれたこの島のご先祖のお話。寝物語に汚い草紙を読んでくれたじゃない。覚えているでしょね?」と言われて、親父が小学生の俺を東京にいかせる時に島を忘れないようにと持たせてくれた島の古文書のことだと気がついた。寝物語をしたかどうか忘れたが、ヒトミが興味ありそうだと見せたことがある。さすがに先祖代々のものでもあるし、東京から戻る時に持って帰ってきたものだが。
「ああ、あれな。」と曖昧に返事をすると、「なんにも覚えてないんだから。その草紙には、この島に黄金に光る船が来たと。でも船は壊れて困ったから、あんたのご先祖様が、島に船を入れて直るまでいていいと言って、船の人と一緒に暮した。水も食べ物も船の人がくれた。ちょっと耳が尖っていて喋る言葉も変わっていたがいい人だった。でも、しばらくしたら黄金の船が迎えに来たので帰るという。お礼に水が涸れることがない井戸と二頭の牛、二頭のヤギと二頭の鶏をくれた。そしてまた空に戻っていったって。まるでかぐや姫のお話みたいだって思ったよ。でね、ちょっと気になったのは、最初に来た黄金の船は修理できずに残ったままで、別の船で帰ったんじゃない?つまり、この島に黄金の船が眠っているとか、、沖縄のそれも石垣島の果てのちっぱけな島にこんな黄金伝説があるなんてね。よくある話だけどポイントは、この島って、あんたの一家しかいなかったってこと。つまりその草紙って、あんたの一族の話だと。もしかして、本当にあった話かなってね。金色の空飛ぶ船は何か別なものの象徴かな?とか、色々考えたんだよ。そうそう、沖縄にも黄金伝説っていっぱいあってさ。有名なのは、与那国島の海底遺跡に神殿があって黄金の神が祀られているとか、沖縄本島を統一した中山王の黄金の仏像や宝剣がどっかの島に隠されているとか、近年では戦時中の日本軍が隠した金塊が隠されているとかね。この島の鍾乳洞とかお墓に金銀財宝があるかもよ。」といつもの好奇心が全開で喋りまくる。そんなヒトミの話を聞いていてふとツンパの金色の部屋の話が頭をよぎった。まさか、この島のどこかに金色の部屋があるって。そんな馬鹿なと思いながらヒトミに一言。「なんだ、俺が目的じゃなくて、黄金伝説が目的なのか?」とちょっと皮肉を込めて言ってやると、「それが目的一。あんたは目的二。二つ目的があったって良いでしょ。目的二はあんた覚えてないでしょうが、達成しましたよ。」
そして覗き込むように俺の目を見て「思い出した?覚えていない?やっぱり、あんたは相変わらずの泥酔男。まあ、いいか。この島、気に入ったし。あとは、もう一度あの草紙をじっくり読ませてもらいたいのよ。あるんでしょ?」
「ないことはないけど、たぶん仏壇の奥にあるはず、、」と俺。「あっちの部屋の仏壇ね。じゃ、あたしがあとで探しとくから。シャワーはどこ?そのあと、しばらくここで寝かせてもらうわ。起きたら宿を引き払ってこっちに荷物もってくるわね。ケツさんに宿はキャンセルって言っといて。行ってらっしゃい。また、あとでね」とシャワーを浴びに行ってしまった。
あいつ、完全に俺の家に住む気になっている。この展開は本当にまずいと思った。しかし、ヒトミに東京へお帰りくださいと言っても定期船は明後日だし、ここで揉めるより、もっと問題があるし。ヒトミのことはひとまずおいて、道具を置いているケツの土産屋に向かった。
ケツが猫に餌をやりながら、ニヤニヤして近づいて来た。その顔で言うことはわかる。「ガマ行く準備はできているのか、ドリルは有ったのか?」と先制攻撃をしたが、ケツは「もちろん。そこありますぜ。あれ〜、島主、目が眠そうですが?」と反撃してきた。そこにキン・ソンコンビが照じーとやってきた。
「おはざます。島主、キンパチュ・オネーさん、昨晩はイチャイチャ楽しいね。よかったよー。」とソンが言うと「ヨカッタよー。ほんとにヨカッタよー」とキン。お前ら見たのか?照じーもニャニャしながら「お元気なようで、安心ですよねー。」と語尾を伸ばしてわけの分からぬ挨拶をしてくる。ケツがみんなに喋ったのだ。「ケツ、見ていたのか?」「いや、拙者はこれでも元ホテルマンですので、口は堅いっすよ。なにも言えません。」と口に手をあてながら笑いやがった。
R国・ツンドラ地帯地下の金色の部屋
「いつまで、この地球にいなきゃいけないぼろすかニャ?ここは寒すぎて、ツンドラのシベリアトラの仲間も絶滅したのか、まったくいないにーちぇニャ。なんでこんなところに行かされたのかぴっちニャ。気候のいいところに行った連中が羨ましべりニャ。もう準備もできたことだし、はやく撤収するすかニャ。」コサック帽に毛皮のマントを着た狩人姿の男が言った。
「おミャーはすぐにそれを言うりゃニャ。たしかにこの惑星は、危なくなってきてるーとニャ。とくにこの国の大統領のショーチンって悪いやつが、さらに狂いだしてるからすかニャ。それにどうも船の磁気発生がバレているらしーみゃニャ。惑星の反対側の船も監視されている兆候があるらしニャすく。」とウォッカのボトルを取ると、グラスを狩人姿の男に渡してウォッカを注いだ。
「A国はダメだーニャ。花札もショーチンに劣らず、悪巧みが好きだかりいニャ。それにしても、奴らも戦争を繰り返して頭が良くなったもんだーにえニャ。磁気異常を感知できるようになったさーニャ。船を起動させるとどうしても磁気異常にはなるーとニャ。俺等には国という考えがないから理解できみゃーニャ。人種や宗教とか政治の考え方で国ごとに殺し合うだとニャ。恐ろしいことニャすく。特にこの国は危なスクニャ。俺等の仲間を守る準備は終わったからそろそろ撤収すーちニャ。兄弟に連絡をして早くしてもらうびっちニャ」「神とか金とか俺等には価値のないものを信じている連中がこの惑星を滅ぼすニャすく。くわばらくわばらだニャーすく、仲間を保護する装置の設置が早く終わって良かったにーシャ。」と二人はニャーニャー言いながらウォッカを呑み干した。
蛸壺ガマ探検隊出発
南西諸島なので、秋といってもまだ水は多少温い。蛸壺の前でカブを降りて、頭に防水ライトをかぶりゆっくりと蛸壺に身体を浸す。やっぱり冷たい。蛸壺はその名の通りの蛸壺型。底までは三メートルくらいか。ツンパも入ってくる。底は抜けておらず幅も大人二人が入るのがちょうど良いくらいの大きさの筒状の穴である。これが温泉だったら売り物になるのになぁ、と余計なことを考えながら崖側をライトで照らす。
この前に見えたはずのガマが見えない。「ツンパ、ガマはどこだ?」「大猫がでてきてガマに引っ張り込まれたようなのですが、どこかはわからないです。でも、冷静に考えると陸側にしかガマはないように思います。」と馬鹿な答えが返ってきた。
海側はサンゴ礁だから陸側にしかガマができようがない。崖を調べる。あった。昨日見たガマのところは草で覆われるようになっていた。草をかき分けると、昨日見たガマの楕円形の形がライトに浮かび上がった。顔を突っ込んでみると、一メートル先で蓋のような岩が置かれている。行き止まりなのか。動きそうなので押してみるが、びくともしない。しかし、岩の向こうから水の流れなのかザァザァという音が聞こえるような気がする。ツンパも聞こえるという。明日蓋を取れるような装備を持って出直すことにした。
南の空からプロペラ機の爆音が近づいてきた。最近、低空でよく飛んでくる。ツンパは海上自衛隊の対潜哨戒機だという。怪しい潜水艦がいるとか言って、実は機搭載の高性能監視カメラで放牧しているバストの姿を見に来ているんですと言って笑う。しかし、今日はえらく高度が低い。
自衛隊対潜哨戒機P3C内
「機長、おかしいです。一昨日夜に強かった磁気異常と電磁波異常の両方とも何度も確認しましたが、今日は観測できません。」と機上対潜戦術員が言う。「昼は駄目なのかね。それより、渚のビキニちゃんは今日はいるのか?」操縦桿を握りながら機長が声をはずませる。機長は前しか見えないが、機上対潜戦術員は、横に座りながら、カメラを動かせるから海岸の様子をトレースできるのだ。「もちりん、今日も可愛い子牛と一緒ですぜ。今日はビキニじゃないけど。いつも可愛いなぁ。こんどこの島に泊まりに行きませんか?宿泊施設とかあるようですよ。会いに行きましょうよ。」とモニターを見ながら、シャッターをきっている。「さて、時間だ。あんまりいると司令部に怪しまれるから帰投するぞ。」と時計を見ながら機長が言った。「あああ、機長、機長、彼女がTシャツ脱ぎだしましたぁ、、、、」と機上対潜戦術員がカメラを食い入るようにしてシャッターを押している。
機体は一瞬大きく揺れて島に戻りかけたが、名残惜しそうに那覇の方向へ進路を向けたようだ。




