黒根古島奇譚 DAY2
行方不明だったツンパ氏が見つかったが、島のどこかであるのは確かだが、どこへ行ったのか要領が得ない。大きなイリオモテヤマネコにさらわれたという話も。
DAY2
ツンパ氏意識戻る
一晩寝かせたあと、昼前にツンパの家に行くとゴドーもついてきた。ゴドーは、つかつかと家に入り「ツンパさーん。オルガちゃんがいないから寂しかったでしょ。はい、ゴドーちゃんが診てあげますよ。」とツンパの寝床に顔を突っ込こむ。「ギぇー、止めてくれ。ゴドーもう大丈夫だよ。そんなとこを掴むなよ。」ゴドーがニヤニヤしながら「あら昨日あたしと人工呼吸でキスしたの覚えてないの?薄情な人ね。でも、こんなフニャフニャじゃ治ってないかな?」と股間をつねったようでツンパがギャーッという悲鳴をあげた。
元気そうな声で一安心したが、俺の顔を見るとツンパは涙を流しだした。
「島主、いや島主様、神様、キリスト様ありがとうございます。自分が馬鹿でした。オルガが宮古から中々戻ってこないから、あっちで浮気でもしているのじゃないかと、イライラしちゃって衛星電話を試したら通じたのですよ。そしたら、妹の店が忙しいからもう一週間宮古にいるって。なんか、怪しくないですか?疑い出すと色々妄想しちゃって。それで、酒も呑んだ勢いでカブをぶっ飛ばしだくなって。すんません。
蛸壺の手前まで行った時に、突然、眼の前を大きな光りが横切ってきて、びっくりして避けきれずにそのままドボンと落ちたような気がして。でも、暗い洞窟みたいなとこで目を覚ましたら大きな山猫に襲われて、気を失って。この島に西表ヤマネコがいましたっけ?
もう大丈夫だぞって誰かにいう島主の声で気がついたら、ラブホテルみたいな金ピカのカプセルに寝かされていましたが、俺に気がついたら慌ててカプセルの蓋を締めたじゃないですか。そしたら、また気を失って、こんど気がついたらゴドーに抱かれていましたが。しかし、島主、どうして自分が蛸壺に落ちたのがわかったのですか?」と真顔で言ってきた。
呆気にとられた俺は、まだ、こいつ治ってないなと思ったのである。「馬鹿言ってんじゃないよ。俺は、そんなことしてないぞ。いつまで、ボケてるんだよ。西表ヤマネコに襲われただって。ゴドー、石垣の病院に連れていくしかないぞ。」
「でも、バイタルは完全に正常だし、頭を打った様子もないし。」
光が横切って蛸壺に落ちて大きな西表ヤマネコに襲われたけど、気がついたら俺が介抱してカプセルに入れていたって。井戸の横でゴドーに抱かれて気がついたのは、事実だから、俺の登場部分だけがツンパの妄想になる。
「ツンパ、それは蛸壺に落ちる時に見た幻視ってやつだろう。人が死にそうになるとスローモーションで色々見えるみたいだからな。まずな、この島にヤマネコとか見たこと無いだろ。猫の世話をさせていたから、それがストレスになったのかな。
とにかく、俺がツンパを助けたというのはありえない話だよ。俺は昨日の昼に帰ってきて、お前が港にいないから探し回っていた最中にゴドーが見つけたと連絡があって初めてお前を見たんだから。もうちょっと寝て、頭をスッキリさせてくれ。次の船でオルガも帰ってくるだろうからな。」
ゴドーに鎮静剤でもやってくれと言って、ケツに報告してやろうと港に向かって歩いた。朝、涼しいからか猫様たちが港外れの漁業部の前に集まって魚をねだっている。ツンパの件を除いては少し気温が下がって秋めいてきた風を感じながら、気になることが俺の中あることに気がついた。蛸壺の横のガマは前から有っただろうか。でも、妙に懐かしい気もして頭から離れない。そんなことを考えているとケツが声をかけてきた。
「ツンパさん、無事なようっすね。バストちゃんがさっき通りかかって、元気になったって言っていましたよ。あとで見舞いに夜光貝カレー持って行きますよ。ところで、島主、お客さん、見かけた?」「お客さんって誰だっけ?」「嫌だな、ツンパさんの件で忘れたっすか?昨日、船で一緒だった女の客でさあ。夜に食堂で飯を出した時に島主のことを聞いて来るんっすよ。」「で、俺のなにを聞いてきたんだ?」
この島にまで来て俺のことを聞いてくるとは。ケツは結構いい女だと言っていたし、ツンパの心配が無くなったからか急に興味がわいてきた。
「この島の生まれでずっとここだったのかとか、何をしているだとか。この島が島主の持ち物だって言うのは知っているようだったから、東京にいた話とか拙者が島主と知り合った話なんかしたっすけどね。ふーんって感じだったかな。あとは島の話で多少盛り上がったっすかね。」
「なんだ、そんなレベルか。まさか手をだしてないだろうな?島でなにするのか聞いたのか?」「まさか、出すわけないでしょ。お客様は神様。のんびりするって。あまりそのへんは聞かれたくなさそうだったんで、聞いてないっすけど。」「だいぶ、女癖は治ったようだな。今は何処にいるんだ?」「まだ宿にいると思いますよ。どうも、物書きさんみたいな感じかな。食堂でパソコン打ってましたっすよ。」
この島に泊まる一人旅の連中は、島一周の散歩から始まり、話すのが好きなら港周りでウチの連中や泊まっている客から話しかけられるのを待っている。逆に一人になりたい場合は、飯だけ港に戻ってきて、あとは海岸縁りを日がな一日行ったり来たり。しかし、狭い島なので二日も繰り返すと飽きてきて、結局は人恋しくなり港に戻って来るパターンがほとんどだ。この島に一人になりたくて来ても、あまりの何もなさに退屈して人恋しくなる連中が多い。それに、この島は、三線と島唄を歌って客を喜ばせるような芸達者な島人は、元ゲイスナックのママのゴドーと島人の照じーだけ。どちらも牧場や漁で忙しいので客の相手をしている暇はない。よって、アトラクションもないので余計に話以外にすることがなくなるから、今回の客も部屋で本を読んだり、ボーッとしたりしているのだろうが、明日あたりには、港の辺りでみんなと話をしているだろう。
オーストラリア中央部・マッカイ湖
夕暮れの広大な塩湖の西に沈む真っ赤な太陽が地平線にかかって時、一瞬緑に光った。フォードのピックアップトラックが、どこまでも平らな二次元の塩の道をぶっ飛ばしてくる。遠くにそこだけ三次元となる尖塔が近づくとスピードを落とした。尖塔は井戸を掘るボーリング設備のようだ。
「わたし、は、すぃごと、終おわったーニャ。」日焼けで真っ赤に顔が灼けたオージーがピックアップから身体を乗り出して、井戸を掘っている男に話しかける。
「おや、こーんばんわー。すぃごと終おわったとは、早い、ですニャー。さすが、あにーき、ですニャー。ぼくは、ここ、に、例の機器、設置、すると、すぃーごと、終おわり、なり、ますですニャー。」と一抱えの大きさのカプセルを井戸に落とした。
「わたしたち、わ、しぃごと、お終える、のが、とても、はやーいですニャ。はやーく、戻って、ビア飲むの、ですのニャーオ。」と言いながら、赤い顔の男のピックアップトラックに乗り込んだ。
ツンパ氏の快気祝い
夜にツンパの家に行ける連中はみんな集合ということで、漁の終わった漁業部三人、牧場も三人、残るケツは宿の女の飯の後始末をしてからくるという。ケツが夕方に差し入れてくれた夜光貝カレーを食ったツンパの体調は戻ったようで、みんなから声をかけられてニコニコしている。照じーは自慢の三線持参で宴会モード。「さあ、ツンパの快気祝い。イヤサッサ」ツンパが作った島の特産ラム酒で乾杯とあいなった。こうなるとまともな話が聞けるわけはなく、付き合うしかない。となるといつもの話題となる。黒猫共和国の日本国からの独立だ。
独立派の急先鋒はケツだ。「島主、早く日本国から独立しましょうぜ。沖縄をA国に差し出して媚びへつらっているやつらには反吐がでますぜ。金儲けしか考えない政治家だらけっす。作っても意味のない基地にとんでもない金つかって。まともな政治家はいないでしょ。」とそこに絡むのはゴドーだ。「そうよ、政治家なんて、選挙の時だけLGBT、トランスジェンダー差別をなくそうなんて、口で言うだけ。差別放置よ。なにが法治国家よ。放置国家だわ。選挙終わったらオカマのあたしたちのことなんてすぐ忘れられるのよ。LGBT差別のない国を作りたいのよ。ねえ、ヤギー。」と、毎度のことだが、パートナーの若いヤギのほっぺたにキスしている。
一番年長でウチナー(沖縄人)の照じーも「ずっとこの海で暮しているが、日本政府の世話になっている感覚がないですよ。自衛隊が守っている?どこからよ?中国が攻めてくるわけないさー。琉球国の頃から清国と日本の間を知恵で生きてきたワシタ(私等)の島ですから。日本国なんてなにもしてくれないさー。」
「自分は元自衛官ですから調べてみました。ちょっと前にコミックであったでしょ。そうそう沈黙の艦隊。あれのように自給自足ができるならこの島だって、独立できるんですよ。独立国の資格要件を定めたものとしてモンテビデオ条約ってのがありまして。それの第一条には、独立国家の資格要件として四つ上げています。
その一、「永続的住民」皆さんが生きている限りOK、
その二、「明確な領域」島ですから、明確。他に領地を主張する人もいないですからOK、
その三、「政府」我々がやれますからOK、最後にこれがちょいと問題ですが
その四、「他国と関係を取り結ぶ能力」というのがあって、これらを満たして他の国家から独立を承認してもらえばこのちっぽけな島だって、独立国になれますよ。」「さすが、ツンパさん」とケツが合いの手を入れる。
「でも、独立するとどうなるのだろう。なんかあっという間に年取って。あ、失礼。そうか、若い人たちに移民してもらえば良いのかしら?」とバストは戸惑い気味に言う。
「わたしたちどしたら良いですか?心配です。どくりちゅつしなくていいですー。日本が好きですー。困るのことでしょ。」とキンが言うと、ソンも頷く。「どくりちゅすると中国この島攻めてくるよ。独立認めないよ。怖いでしょ。」「どくりちゅつするなら他へ行きますです。怖いのキンさんといっちょです。」などなど、ないちゃーにウチナンチュ、オカマに落ちこぼれが集めれば毎度、こんな夢話になる。
俺もぼーっと考えたことはあるが、なんとか諸島っていう広さがないと、島一つじゃお笑いになりそう。せめて石垣島とか宮古と一緒でないと、この島だけではあまりに小さい。
どうやるのかアイデアがでないうちに酔っ払って、いつもの酒飲み話で終わってしまうのだ。
最近、みんなで騒いでいなかったせいなのか、酔いが早く回ったのか十時にはお開きとなって、それぞれ家に戻っていった。ツンパは二日酒を飲まなかったからか意外に酔っていない。二人きりになった。
「もう一度聞くぞ。俺が助けったってのは夢だっただろ?」「島主は自分の記憶力をよくご存知でしょ。幻視と夢と現実の区別はつきます。確かに朦朧としていた瞬間はありましたが、島主の声を間違えません。でもあの大丈夫という声がけは自分にかけていただいたのではなく、そばのどなたかに自分の様態が大丈夫ということで仰ったようです。でも、自分が寝ていた場所がどこかはわからないのです。この島にあんな金ピカな家はないのが問題ですが、、、やっぱり夢ですかね?」
ツンパの話を整理すると、大きなイリオモテヤマネコがツンパを蛸壺から引っ張り上げて、どこかの金ピカの家で俺が治療したと。そしてそこには俺以外にも人がいたと。こいつの記憶力を疑う訳では無いが、金色の部屋とか変なことを言う。それに蛸壺近辺で事故ったとしても、どうして牧場の井戸のところで見つかったのか?
現場検証だということで、翌朝蛸壺に行くことにして、酒を酌み交わしているうちに久しぶりに酔いがまわったようだ。家に戻って寝るとするか。
DAY3に続く




