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19/21

最良の王子VS最弱の盗賊

 大騒ぎの中、夜が来た。各王族たちは、なんとか事態をもみ消そうと必死になっていたが、俺たちがばら撒いた情報には、適当な嘘をそれっぽく書いたものもある。


 加えてこの国の王族たちは、あまりに汚いことに手を染めすぎていた。

 もはや自分が犯した過ちはどれなのかが分からなくなっており、そんな反応が人々の怒りを助長し、夜になっても騒ぎは収まる気配がなかった。


 第五から第二までの王族の汚職が発覚していき、評判を落とす事態。

 イベルタルでは、国王にはエレクかマオのどちらかがなるべきだと言う声が大きくなっている。


 とはいえ、まだ現国王は健在であり、あくまで次の国王を選ぶなら、という話だ。


 ここに来て、俺はとある賭けに出た。クロノと分かれ、単身エレクの執務室へと盗みに入る。


 エレクからしたら、今の騒ぎをどう捉えるかを考えての行動だ。


 今までのように、いずれ自分が国を治めるときに、愚かな王族たちが下にいるのなら操りやすく、マオ一人を蹴落とせばいい状況を維持したいだろう。


 とはいえ、今回の騒ぎはやり過ぎだ。このままでは火の粉が自分にも飛んでくると危惧し、それがきっかけで自分が裏で手を回していた貧困層などへの圧政が露見しては、マオを支持する声の方が大きくなるのは明白であり、いくらエレクでもひっくり返せなくなる。


 そうでなくても、他の王族たちが自分たちの問題を自分で解決できない以上、兄であり優秀なエレクに泣きついてくるかもしれない。


 エレクからしたら迷惑以外の何物でもなく、かといって断っていては民からの指示も落ちる。


 なにせ、エレクなら何とかしてくれると頼み込んできた兄弟を見捨て、民の問題をそのままにするのだから。


 兄故に生じる問題は、マオを覗いて四人も下に兄弟を抱えるエレクにとって非常に起きる確率が高く、起きた場合は非常に面倒なことになる。


 時間も金も失うだろう。その隙を突いて、マオが政治的な攻勢に出る事だって十分起こりうる。


 だから、エレクは時間と共に燃え上っていく民の怒りの火消しのため各地を奔走するから、今晩はあらゆる機密資料がしまわれているだろう執務室にはいない。

 防備もまた十分に張り巡らせることが出来ないだろう。


 盗賊からしたら、盗むなら今を置いて他にないと判断して、盗みに入った。


 決して気を緩めることなく混乱に陥っている王城内を侵入していき、やがてエレクの執務室前へと辿り付く。


 ここまでは順調だ。というか、ここまで来られたのなら、あとは執務室に入って資料を盗むだけ。


 案外簡単にいくものだと、そう思いながら扉に手をかけ、開けたのだが、


「……あらら」

「残念だったな」


 エレクは他の王族の火消しなどに興味はないのか、執務室の中で雪による気配を消す魔術で待ち構えていた。


 当然ながら、俺がここに来ることを読んでの行動なわけで、クロノと二人で忍び込み、アンサングへと連れて行った時のように、気配の類を消した衛兵たちも待ち構えており、廊下にもあふれてくる。


 さて、不味いことになった。剣を抜く衛兵たちと、エレクも氷の魔術により鋭利な氷柱を自らの周囲に展開させる。


 まさに絶体絶命。しかし、俺は不敵に笑ってやる。そして道化師のようにお道化てみせた。


「あっぱれな芸当だ! それに知恵比べじゃそうそう勝てないってのがよくわかった。けどな、その氷柱だとか周りの奴等が持ってる剣で攻撃したら、最弱職の盗賊なんか、簡単に死んじまうぜ?」

「……そうだな、死ぬだろうな。盗賊のスキルは全て調べさせてもらったが、攻撃スキルはなく、防御に仕えそうなのは『透明化(ハイド)』と『吸命奪力(バーグラライズ)』だけだ。私が手を下さずとも、衛兵に任せておけば始末できるだろう」

「まさにその通りだ。アンタとしては俺を生かして捕えたいだろうが、当然ながら俺は抵抗する。それはもう抵抗するぜ? まともな戦いなんてやったこともない俺が下手に戦って、それで思いもよらぬところを斬るなり刺すなりしたら、マオを説得だとか、そういうことはできなくなる」


 ニヤッと笑って締めくくるが、エレクは氷のように冷たい顔で溜息を一つ吐き、まだそんなことを言うかと呆れた。


「これだけの騒ぎを起こし、私の仕事を非常に増やすばかりか、これからも同じような事を幾度も起こす可能性がある――私は悩んだよ。君は捕えておけばもう一人の女盗賊も簡単に操れるだろうし、それはすなわちアンサングという組織を私が掌握すると同意義だ。しかしね」


 その視線が刃物の様に鋭くなると、浮遊する氷柱の一つが飛んできた。


 咄嗟に避けたが、背後の壁に突き刺さった氷柱は、そのまま貫通して城外へと飛んでいった。


 冷や汗を流す俺に対し、エレクは告げる。


「君を生かしておくことで生じる可能性がある問題の方が、大いに重大だと結論付けさせてもらった。君という個人の行動は読めても、君に付随する者たちの行動までは読めないのでね」

「……アンタにしちゃ、弱気な分析じゃないか?」

「君――貴様には、鬱陶しいマオが味方している。それに貴様は、これだけの騒ぎを起こせば、私以外の王族からも狙われる可能性があるというのに、やらかした……その”捨て身”という考えが、私にはどうも合理的に思えなく、読みを外してしまいそうでね……!」


 だから、この場で死んでもらう。エレクは衛兵たちにも斬り殺して構わないと命令し、執務室の中からと、廊下の両面から衛兵たちが迫ってくる。


 エレク本人も魔術を使い、壁を貫いた威力の氷柱を飛ばしてくる。


 あのクズ勇者との戦いでは余裕なセリフの一つも吐けたが、この状況ではそうもいかない。


 だが、


「盗賊を舐めるなよ……? いっちょ本領発揮といくか」


 流石に煽るようには言えなかったが、即座に飛んでくる氷柱を避け、斬りかかってくる騎士たちから距離を取ると、『透明化(ハイド)』で姿を消す。


 騎士たちは見失ったが、即座にエレクが氷の壁を幾重にも展開し、光の屈折を使い居場所を割り出し、攻撃命令を出す。


「『吸命奪力(バーグラライズ)』! って、あれ」


 斬りかかってきたところで体力を盗もうとするも、騎士たちは『吸命奪力(バーグラライズ)』の範囲ギリギリから近づかない。


 エレクは鼻で笑い、既に先ほども言っただろうと高圧的に迫る。


「盗賊のスキルは全て調べてあるとな。そこからあらゆるスキルの構成パターンを分析し、どうすれば私を倒せるか、もしくは騎士を倒せるか、もしくはこの場から逃げるか……私はね「もしくは」と考えつくことが無限にあることを知っている。その全てを頭で描くことが出来る。だから全てに手を打てるはずもないと知っているが、目の前の盗賊一人だけに生じる「もし」の出来事くらいなら、対応できるように想定できるのだよ」


 ああ、コイツには勝てない。俺は直感的にも、理屈でも理解する。

 知恵比べでも、力比べでも、従えている仲間比べでも勝てない。


 ”やっぱり勝てねぇな”。苦笑いを零しつつ、ひたすらに逃げる。


 クロノがいても勝てないだろうし、レイナがいても勝てない。

 アンサング総出で戦っても勝てないだろうし、ジルやピアと再び仲間になったりしても、クソッタレのヴルムに頼っても勝てない。


 さぞ、エレクの率いる国は強くなるだろう。どんな強敵だろうと、大国だろうと、この頭脳と実力を前にしたら平伏していくのだろう。


 世界を統べる器の最良にして最強の王子と、最弱職の盗賊。勝率0%の先には、何もない。


 あるのは『死』だけだ。『死』という終わりが待っている。


「素直に従っていればよかったものを――さぁ、生まれもってのクズには勿体ないが、私の全力をもって、終わりをくれてやろう」


 あっと言う間に俺は囲まれ始め、抵抗らしき抵抗の全てを封じられていき、エレクの恐れる『捨て身』になっての特攻だとかも出来ないよう包囲されていく。


 俺は盗賊として持ちうる全てで対抗した。姿を消し、小道具を使って隠れ、軽い身のこなしで斬撃と氷の魔術を避けていく。


 だが、結局俺に出来たのは数分間逃げることだけだった。あらゆる退路を断たれ、対抗策の全てを封じられ、壁際に座り込んでいるので飛び上がることも、走ることもできない。


 そして衛兵たちが『吸命奪力(バーグラライズ)』の効果外から剣を向けて囲う中、エレクが氷柱をこれでもかと浮遊させ、俺に向けて今にも放とうとしている。


 完封だ。あとできるのは命乞いくらいしかない。


 しかしだ、俺はここに来て、負けることはないと確証を得ていた。


 同時に、勝つこともないと知っている。そんな内面が表に出たのか、クククと笑えば、エレクの顔が少し歪んだ。


「なんだ、貴様はこんな場で、なぜ笑っている?」

「そりゃ、あれじゃないか? もう笑うしかないってやつじゃないか?」

「いいや、違う……! 違うぞ! 貴様の笑みは、死を前にして諦めたものではない! 死を前にして笑う者はいるが、顔つきに特徴がある! 共通するものがあるのだ! だが、なんだその笑みは……? その笑い方は、まさか安堵しているのか?」

「流石は薄氷を渡る者……いや、世の中の連中が奇跡だって思うしかないようなことを理詰めで連発してるだけはあるな――当たりだよ、俺はアンタからとある物を盗めたんだからな。仕事も終わって、命も助かって、すっごく安心してるところだ」


 どういうことだとエレクが叫んだ。俺は何を盗んだのだと問いただしてきた。


 決して感情に任せて距離を詰めたり、氷柱の位置を変えたりはしない。


 完封したまま、俺を問いただす。だがもう、終わった事だ。


「俺が盗んだものは、時間だよ」


 エレクが一瞬だけ思考を巡らせた後、感づいたのだろう。この場で俺が死ななくて済むにはどうすればいいのか。時間を盗むとはどういうことなのか。


 即座に氷柱を放って俺を殺そうとしたが、それらは眩い光と共に消滅した。


「間に合ってくれたか……マオ」


 廊下の先には、聖剣エスカリバーを手にしたマオがいる。


 光る刀身を振るい、斬撃を魔力として放ち、エレクの周囲にある氷柱を全て消滅させた。


 飛ぶ斬撃なんて、Sランクの剣士でも習得できないおとぎ話の事だと思われているが、俺は知っていた。


 なにせ、あのクズ勇者でも一撃くらいは飛ばせていたのだから。認められしマオなら、何度でも出来るだろう。


 そう、マオが聖剣を手にすれば、エレクの氷の魔術を上回る。誰よりもその力を恐れていたエレクが知らないわけがない。


 だが、同時にマオがこの場にいることが理解できていないようだ。


「なぜだ、マオはたしかにあの聖女に入れ込んでいたはず……! 殺すと告げれば助けに行き、助けに行けば、絶対にこの場には来られないように防備を固めておいたというのに……!」


 エレクの呻きにも似た言葉に、マオが歩み寄りながら静かに答えた。


「確かに、今晩中に兄上がレイナを殺すと仰り、助けに行った時にはこの国の精鋭たちが堅牢な防御陣形を敷いていましたよ」

「……まさか、その聖剣の力で斬り殺してきたとでも言うのか!? 王となれば自らに仕える者たちを……」

「私にはそれが出来ないことくらい、兄上なら知っているでしょう。私ではあの者たちを斬れないが、あの者たちは兄上の命令で私を殺しに来る。説得するしかないが、兄上に脅された者たちを諭すことは非常に難しく、時間がかかり、レイナを救えないからここに来れない。違いますか?」


 その通りだと、エレクは無言で告げている。それだけに、この場にいるマオの存在が信じられないようだ。


「……アンタほどの相手に隙を作るのは、一苦労だったぜ」


 俺が呟くと、エレクはその目を向け、言う。「図ったな……!」と。


 兵に退くよう命じたマオの手を借り立ち上がると、エレクを出し抜くカギは、その異名をもたらす合理性にあると言った。


「俺を最初に執務室に呼んだとき、妙に思ったんだよ。なぜ、これだけ合理的に物事を考える奴がクロノを同席させたかったにも関わらず、俺と一緒に捕まえなかったのかってな。その理由を考えたとき、アンタの野望はイベルタルを力のある超大国にすることだって知った。そこでピンと来たんだよ、アンタがクロノに抱いている、いわば期待と人間像ってやつをな」


 エレクは思考を巡らせている。そして、その頭脳から答えにたどり着いたようだ。


 俺やレイナ、そしてクロノからしたら当然の事だが、エレクの合理的な考えと、抱いていた人間像からは想定できなかった事態を。


「捕まえなかったのは、今後の良好な関係のためだ。合理的に考えれば、盗賊なんて王子が呼べば必ず来るはずだからな。下手に信頼に傷を付けたくなかったんだろ。それと、アンタはクロノの事を、アンサングの若き長にして野心に溢れる盗賊だと認識していた。仮にもイベルタルの暗部を担う組織のトップとして、自分と同じように合理的に物事を考え、盗賊として目に見える利益を欲する奴だってな」

「……違ったとでも言うのか! 野心と合理性なしにして、なぜ女の身で、更にあの若さで、アンサングを率いることが出来るというのだ!」

「いや、クロノは野心満々でのし上がって、Sランクの盗賊としてもアンサングの長としても、合理的に物事を片付けてきた。その点はアンタと同じだよ。けどな、アイツの野心はアンタと違って、金や立場のためだけじゃなかったんだ。だからアンタはクロノの行動だけは読めてなかった」


 俺を執務室に呼んだときも、なぜクロノが来ないのかと不思議に思っていた。

 俺を助けに来た時の騒動も読めていなかった。


「アンタは、今日の騒ぎは俺が仕組んだ事だと見抜いてたが、そこにクロノが絡んでるって知ってたか?」


 知らなかった。エレクはそう零す。もはやアンサングは手を引き、クロノは事態を静観していると。


 俺はそこを突いたのだ。


「アンタはクロノを誤解し、正しく認識していない。アイツは合理的に動くが、その行動基準にはいつも、俺やレイナが一番にいたんだよ。金や保身よりも、愛する俺たちを優先する。未だに婚約者もいねぇアンタと違って、アイツは情に熱い奴なんだよ。だからこそ、アンタはクロノの行動だけは正確に読めない」

「愛ゆえの勝利とでもいうつもりか……!」


 そんな綺麗なもんじゃない。俺は笑ってやり、続けた。


「まぁ弱点さえ分かっちまえば、騙すのは簡単だ。クロノがこの騒動に絡んでいなくて、今晩も俺一人が盗みに来ると、アンタなら予想する。それを想定した時間稼ぎのために、レイナの元へマオを向かわせる。だが実際は、レイナのところにはクロノが盗みに入っていて、マオが説得してるうちに逃がしてたんだよ」


 だから私はこの場に来れた。マオはそう言うが、実にギリギリの到着だった。


 そりゃそうだ、クロノがレイナを安全に逃がしてからマオに知らせるまで時間がかかる。

 俺が窮地だと知らせて、聖剣を持っていなかったら取りに行かせる時間も必要だった。それに加えて、クロノが逃げる時間だって必要だ。


 全部を稼ぐために、俺はエレクから時間を盗まなくてはいけなかった。可能な限り長く、賭けになる時間を減らすために。


 元より絶対的に上手くいくとは、俺の価値観からして考えちゃいない。だが時間を増やすことで可能性を上げることは出来る。


 なにより、一つだけ絶対に信じることにした。

 クロノなら絶対に、作戦通りやってのける一点だけは信じたのだ。


 そういう意味じゃ、愛ゆえの勝利ってのも、的を外しちゃいない。


「俺の考えてきた事なんか、クロノの優先順位が分かった今なら予想出来てるだろうが、一歩遅かったな……いや、一手俺が――俺たちが上回っていたってか?」


 しかしなんにせよ、この場に第六王子にして聖剣を携えたマオが来たことで、エレクの勝ちはなくなった。


 レイナという聖女を殺そうとしていたことは、この場の衛兵たちにも波紋を呼んでおり、純粋な力比べでもマオが上。


 やがて負けを悟ったのだろう。悔しそうに項垂れながら、エレクは吐き捨てるように言った。


「もういい……! すでに私に味方する者がいなくなるのは分かった! 聖女を殺そうとしたという、聖剣で斬る大義名分も出来たろう! それをもみ消す時間が取れない以上、私に打つ手はない……」


 この場でマオに斬れと、合理的に判断したのだろう。


 マオが斬った場合、正当さの証人は俺を殺すために連れてきた衛兵たちと、レイナを守っていた部下たちだ。


 クロノがいなければ、隠してもみ消していたが、不可能になった。だからもう勝てないので、とっとと斬れ。


 いかにも合理主義者らしい諦め方だが、マオは首を振って「お生憎ですが」と切り出した。


「私には丸腰の者を斬る趣味はありません。それにいかなる理由があれ、夜の王城で第一王子ともあろう兄上が斬り殺されていれば、どんな問題が出てくるか……」

「貴様ならどうとでもできるものを……! 私に負ける事を知ったまま生き恥を晒せというのか!!」

「いえ、兄上はまだ負けていません。そして私もまだ勝っていないどころか、勝負は始まってすらいない」

「なんだと……?」

「ですので兄上、私はこの国の現状と私たちを支持する民の声の元、あなたに次期国王の座を賭けた正当なる決闘を申し込みます」


 次期国王候補が拮抗したときのみ行われる、イベルタル王族の伝統。

 マオはそれに従って勝つと言っているのだ。


「受けてくださいますか?」


 余裕の笑みで問いかけたマオに、エレクは反論などできない。

 決闘の場こそまさに、このまま諦めるだけだったエレクに訪れた、唯一の逆転のチャンスなのだから。


 合理性を誰よりも持つエレクは、どうするか。剣ならば負けると分かっていて手を打っていたというのに、受けるのか。


 合理的に考えるなら受けないだろう。そうすれば国王になれずとも、生きながらえて別の十分に高い立場なり役職に就ける。


 しかし負けが決まったと思った後に差した希望の光ほど、甘美な誘惑はない。

 それに、受ければ負けると決まったわけではない。決闘まで、何か手を打てるかもしれない。


「――おいおいどうした? 渡ってみせろよ、薄氷をな」


 普段なら俺の煽りになど耳を貸さないだろうが、追い詰められたエレクは刺すように睨んでくると、その勢いのままに決闘を受けると約束してしまったのだった。


 これで、決闘までマオとエレクは白紙の上で「いかに勝つか」を競い合うことになる。


 要は絶対的にエレクが有利に思えていた賭けが、ここに来てマオの勝率が爆上がりしたのだ。


「……さぁて、イベルタル1を決める正当なる化かし合いまで、盗賊はチップを稼ぐとするか」


 こうして、この夜は二人の決闘が書類上で約束される形で幕を下ろしたのだった。

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