決闘直前
バカ騒ぎの翌日にはマオとエレクによる決闘にて次期国王を決める事が発表された。
民の怒りは、各王族の汚職は軍役につかせて反省させたり、被害額を王族たちの財布から払わせる等、あの二人が兄弟にとって最も厳しい罰に値する事を複数案提示し、民による選挙で決めるという。
これでマオとエレク以外の王族は民の望む罰を受け、絶対に国王になれなくなった。
ひとまずバカ騒ぎは収束を見せたが、次はマオとエレクの一騎打ちだ。
期日まで十日とあり、それまで二人は神聖なる決闘のため、厳重な監視の元、不正を行えないように王城内で過ごす。
まぁ、あの二人にいくら警備を厳重にしようと、抜け道を作って自らの策を外へ流すだろう。
しかしだ、そもそもエレクは剣術ではマオに勝てないから、俺を捕まえるような真似をした。
勝つためには、マオ以上に策を弄する必要があるわけだが、その策を限られた時間と監視の下でどれだけ考えつき、実行に移せるだろう。
マオだって当然予想し、更には元から有利な勝負を盤石にしてくる。
エレクの勝ちは薄い。まさに薄氷を渡らなければならないのだが、今までは合理性と頭脳から策を弄して奇跡のように見えることを起こしていただけで、実際に薄氷を渡る奇跡を起こしていたわけではない。
それが封じられたような状態で、どれだけ足掻けるか。
非常に見ものだが、残念ながら見に行くことはできない。クロノと忍び込もうと思ったが、万が一見つかったらマオに被害が及ぶとのことで、レイナに止められた。
俺たちに出来るのは、精々机の上で頭を抱えているところを想像して楽しむくらいだ。
そして十日などあっと言う間に過ぎ去ってしまい、いよいよ決闘の日となった。
イベルタルにはコロシアムがあり、そこで審判を務める国のお偉方と、現国王、それから選ばれた民たちが二人の決闘を見守る。
俺やクロノ、レイナには招待状が届いた。自分の勝ちを是非見に来てくれと、マオ直筆のサインがあった。
ここに来て負けることはないと思うが、世の中に絶対はない。当日になると、俺たち三人は礼服に着替え、コロシアムへと赴いた。
名のある貴族や政治家、それとエレクのせいで苦労ばかりだった現国王などが居並ぶ中、レイナはともかく、俺とクロノがいるのは場違いにもほどがあった。
だというのに、どこからかマオの配下が現れると、王子がお待ちですと、控室へと来るように言われたのだ。
王族のみが座れる特等席も用意しているとのことだが、どうやら汚職のせいで他の王族はとてもこの場に来れたものではないらしく、むしろ余っているので丁度良かったそうだ。
「破格の扱いどころじゃないね」
「こうなったら、とことん付き合ってやろう」
そうして俺の隣にはクロノが歩き、その一歩後ろをレイナが続いた。
十日間で、俺とクロノが想いを通じ合わせたのは知らせてある。
仮に口にしなくても伝わる仲だが、敢えてレイナの前でハッキリと「俺はクロノを選んだ」と告げた。
レイナとしても思うところがあったようで、あまり話せていない。
だが、大丈夫だろう。レイナには相応しい相手がいることを知っている。
あの夜、マオの注意を引くためにエレクが兵を向かわせたのは、俺としては「王子として聖女を見捨てることはできない」からだと思っていたのだが、どうやら女性として見ていたから助けに行ったようだ。
エレクがそれらしい分析をしたのだ。知るキッカケとしては微妙だが、信じるには十分だ。
問題はレイナの気持ちだが……こればかりは俺にもわからない。
聖女だからそもそも男性として見ていないのか、そう言った垣根を越えて想っているのか。
俺としては――なんて、自分なりの分析はあるのだが、考えるのは野暮だろう。
大事なのは、レイナが俺とクロノを心から祝福してくれたということだ。
だから、俺はクロノの事をこれからどうするか考えればいい。レイナも気持ちの整理をゆっくりでいいからつけるべきだ。
その未来のためにも、マオには勝ってもらわないといけない。
控室につくと、マオは聖剣を手にしていた。それを見て、挨拶の前に「ん?」と三人で首を傾げた。
「決闘は普通の剣でやるんじゃなかったのか?」
公正を期すため、聖剣ではなく普通の剣による決闘と聞いていたのだが、マオはエレクの悪あがきだと言った。
「剣だけで戦っては勝てないのは兄上が一番よくわかっているからな。この十日間、あの手この手で決闘に魔術の使用を認めさせようとしてきた」
「まさか、認めたのか?」
頷くマオだが、その表情は余裕のそれだ。
「兄上の言い分は、これからのイベルタルを統べるには力が必要とのことで、互いに持ちうる全てを使って戦った方がいいとのことだが――追い詰められ、焦ったようだな」
フッと笑みを浮かべたマオは、その手に聖剣を携えている。
なるほど、エレクがいくら魔術を使おうと、他の策を用意していようと、聖剣一本で打ち倒すというのだ。
「それに、力の必要性は君から教わったからね。私も持てるすべての力を持って、次期国王の座を勝ち取って見せるよ」
「――ではその際は、以前の話を引き受けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
なんのことだ? と、クロノと顔を合わせていれば、マオはここ一番の笑顔を浮かべた後、必ず勝利と共に帰ってくると、レイナの手の甲にキスをした。
若き王子と麗しい聖女の姿は、まるで一枚の絵画のようだった。
「おお……」
「……ボクだったらキスされた手の甲を斬り落として転売にかける」
「お前な……普通の女性は、ああいうのに憧れるもんじゃないのか」
「ボクは生憎と普通じゃない自覚があってね」
「……だな、似た者同士は惹かれ合うらしいしな」
なんて二人で眺めていたら、マオが笑った。
「それを言うなら類は友を呼ぶだ。しかしその言い方だと、まるで二人は恋人同士だな」
ハハハ、と笑うマオに向け、俺とクロノは顔を見合わせてどうするか悩んでから、俺から告げた。
「類が友を呼んで、気付いたら恋人になってたよ」
「ボクは最初から友と言うより片思い相手だったけどね」
そういえば、まだ教えていなかった。マオは俺たちの報告を聞いて目を見開いてから、その顔に覚悟を浮かべた。
「私の肩には二人の幸せまでかかっているようだ――尚の事、この決闘は負けられないな」
是非見届けてくれ。マオはそう言って、コロシアムへと向かっていった。
対するエレクがやたら予備の杖だの短剣だのを手にしているというのに、聖剣一本だけを手に向かう姿は、何とも男らしい。
あれの元の持ち主とは雲泥どころではない。この騒動のキッカケとも呼べるクズ勇者を思い返しながら、全てがもうすぐ終わるのだと、一つ溜息を吐いた。
「ん? どしたの? 幸せが逃げるよ? ボクは逃げないからその分幸せにするけど」
「いや、別に……人生思いもよらぬことって結構あるもんだなってな」
レイナが静かに頷いているあたり、同じことを考えているのかもしれない。
最弱の盗賊だからと勇者パーティーを追放されたと思ったら、理由はどうあれ、そのパーティーを崩壊させてしまった。
手切れ金替わりに聖剣を盗んだら、国をも動かす一大事に巻き込まれた。
裏切られ、追いかけられ、追い詰められ、捕まって……死んでもおかしくない事が沢山あったというのに、最後には勝てると自信を持って言える側についている。
まぁ、世の中に絶対がない以上、マオが負ける事になるかもしれない。そうなったらエレクに追われることになるかもしれない。
だがきっと、どうなっても俺の隣にはクロノがいてくれる。この場から逃げるだけなら、レイナもつれていける。
なんにせよ、決着はこの目で見よう。
「さて、イベルタル1を決める世紀の対決の見物に行くとするか」




