9話 2人への勧誘
この日、瑛二たちは、自身のステータスを元にして、仕事を割り振られる日であった。
それぞれが担当の人にステータスを見せる。そうすることによって、大体の配属場所が決まる。ただし、瑛二が事前にレヴォネにお願いしていた、本人にその配属場所で良いかの確認をしてから決まる。本人が良ければそのままその配属場所に移動し、本人が望まない場合は、ステータスに合う近い部署をいくつか候補をあげて本人に決めてもらうようにしていた。
だが、なぜ瑛二の相談にレヴォネが素直に応じたかというと、本人のやる気がなければ、成長が見られることは少ないだろうし、嫌なところに所属させると、その人に何らかの影響が出ると考えたからである。
「伊集院雫様に久遠瑛二様には、レヴォネ王女殿下直属の配下になってほしいとの連絡がありましたがいかがなさいますか?」
ただ例外があるとすれば、この2人である。
瑛二たちの担当者は、レヴォネ直属の部下であるし、もちろん王女派の人間だ。
「ちなみに拒否権はあったりますか?」
「一応ありますが、他のところの配属になれば、王女派の庇護は、受け難くなります」
実質的に拒否権は、瑛二たちにはなかった。
「わかりました。私はそれに応じますが、お嬢様は、いかがなさいますか?」
「私は、瑛二と同じところがいいわ」
「では、私とお嬢様の2人。レヴォネ王女殿下の誘いに応じるとお伝えください」
「承知しました」
そう一言言うと、レヴォネ直属の部下は、レヴォネに報告しに行った。
それから数分後に戻って来て、瑛二たちをレヴォネの執務室まで行った。
部下の人が扉をノックして、扉の中から「どうぞ」という声が聞こえると同時に扉を開ける。
「失礼します。伊集院雫様と久遠瑛二様の2名をお連れしました」
「ご苦労様です。もう下がってかまいませんよ」
「失礼します」
瑛二は部屋の中に入り、部下の人は、扉を閉めて部屋を退室した。
「お二人ともとりあえず、そちらにお座りください」
レヴォネに言われるがままにソファーに2人並びで座り、その対面側にレヴォネが座った。
「急にこちらに来ていただき申し訳ありません」
「いえ。私たちは、別にかまいませんので」
そう雫が言う。
「ありがとうございます。それで、こちらにお呼びしたのは、お二人の今後について考えようと思い、お呼びしました」
「今後……ですか?」
「はい。雫さんがそう不思議そうにするのもわかります。先程、私の部下からお話があったかと思いますが、私の直属配下になってもらいたいのです。まぁ、これはあくまでも、表向きであって、基本的にはお二人の自由にされて構いません」
「レヴォネ王女。よろしいですか?」
「なんでしょうか?雫さん」
「レヴォネ王女の配下になったときのメリットとデメリットを教えてください」
雫がレヴォネに対応して、そう問う。
「わかりました。ではまずは、メリットからお話しします。国王派からの勧誘などを私の直属だといって断ることが可能です。他のところでは、上位貴族からの勧誘を断ることは難しいですが、私の直属ならば断ることも容易となります。次に、制限がほとんどないということです。この国は現在、実質私が国王ですので、制限されている場所への出入りや禁書などを自由に閲覧することが可能です。次に、何かあれば私の名前を使っての捜査や貴族などへの命令をすることが可能になります。最後に、私からの命令として、お二人が行きたい場所へと視察などといった形で行くことが可能です」
(それだけ聞くと、確かにメリットとしては、大きいですね。ですが、レヴォネ王女殿下の直属になるのに、デメリットがないとは、到底思えませんね)
レヴォネがただの親切心で瑛二たちを直属にするわけがなかった。直属にするのには、何か思惑あってのはずだからだ。
「では、デメリットをお教え願えますか?」
今度は、瑛二がレヴォネに問う。
「私の直属になるデメリットは、何か要請があった際には、それに応じなければなりません。例えば、現場視察や何らかの派遣要請などですね。その他にも、パーティーなどへの出席もしなければならないときもあります。あとは、一応大臣相当かそれ以上の立場となりますので、責任が重くなります」
「ちょっと待ってください!大臣相当かそれ以上の立場だなんて聞いていませんよ!?」
雫がレヴォネの言葉に驚く。
「今言いましたので」
レヴォネが平然と答える。
「事前におっしゃってくださればありがたかったのですが……」
今度は、瑛二が少し呆れたような声でそうツッコミを入れる。
「事前にお二人にお話ししていれば、私の誘いを断られるかと思ったのでつい……」
「ハァー。そちらの事情は、何となくわかりました。ただし、私からいくつか条件を出させていただいても構いませんか?」
「はい。構いませんよ」
「では、私が出す条件は2つ。1つ目は、遠出の任務の際などには、基本的に私とお嬢様の両方で行かせてください」
「わかりました」
「2つ目は、先程言ったことと多少矛盾するかもしれませんが、私が危険だと判断した際や個人的に遠出する際には、お嬢様を連れて行くことができないので、お嬢様の周りにオートゴーレムの護衛を置かせていただきたいのです」
「ゴーレム生成が使えるのですか!?」
レヴォネが驚く。
「えぇ。使えます。一応、見た目は、人間とそう大差がないので大丈夫だと思います」
「一度、そのオートゴーレムを見せていただけませんか?」
「もちろん構いません」
オートゴーレムを“ストレージ”から出す。
「本当に人間と大差がありませんね。これほど人間に近い姿をした、オートゴーレムなんて見たことがありません」
「レヴォネ王女殿下。私が外出などの際には、雫お嬢様の護衛に、この6体の護衛許可をお願いできませんでしょうか」
レヴォネは、少し考え込んだ後、瑛二に問う。
「そのオートゴーレムは、これから先、数が増えることはありますか?また、私がお願いをすれば生成していただけるのでしょうか?」
「必要な際には増やすことも検討しております。また、レヴォネ王女殿下が必要なときに私にお話しいただければ、生成致します」
「わかりました。オートゴーレムの使用を許可します。また、数が増えても関係なくその増えた分もこの場にて、許可します。ただし、条件として、私からの要請があった場合には、オートゴーレムの製作を行うことを条件とします」
「かしこまりました」
瑛二が跪き、そう答えた。
その様子を見ていた雫は、焦りを覚えた。何故なら、主である自分以外に跪いたことのない瑛二が、相手がたとえ、王女とはいえども、自分以外に跪いているという現実に焦るというか、自分から離れるのではないかという恐怖心感じてしまった。
「では、詳しい役職と制服については、また後日ということでよろしいでしょうか?」
「構いません」
「同じく」
「では、本日はここまでに致しましょう。では、役職が決まった際には、後日、私の部下を向かわせますので、それまでは、自由にお過ごしください」
「ありがとうございます」
「では、私たちは、これにて失礼致します」
2人は、レヴォネの執務室から出ると、雫は、瑛二にさっき思っていたことを聞く。
「ねえ、瑛二。少し良いかしら?」
「なんでしょうか?」
「瑛二って、私から離れたいって思ったことってある?」
「それは、どういった意味でしょうか?」
「単純に、他の人に仕えたいとか、私付きから外れたいとか。そういうの」
「私にそういった考えは、一切ございません。お嬢様が私にそう不信感をお持ちになったのであれば、それは、私の力不足が招いたことでしょう」
瑛二が、顔を向けると、雫は、瑛二の言葉に強く否定した。
「それは違うわ!!私がただ、瑛二がレヴォネ王女に取られるんじゃないかって思って、急に怖くなったの……」
「僭越ながら、そう思われた理由を教えていただいても、構いませんでしょうか?」
「さっき、レヴォネ王女に跪いたときや、時々レヴォネ王女に瑛二1人で呼び出されるときに、私から瑛二が、レヴォネ王女に取られるんじゃないかって思ったら、急に怖くなってしまったの」
「確かに、レヴォネ王女殿下は、尊敬できるお方だとは思います。ですが、私が生涯お仕えすると決めているのは、主である雫お嬢様ただお一人です!」
「そう……それなら良かったわ。これからもよろしくね、瑛二」
「はい。よろしくお願い致します。雫お嬢様」
雫は、少し涙を浮かべながら、瑛二は、少し微笑みながら、改めて、お互いにどう思っているのかを確認し合あった。
その日、上機嫌な雫と瑛二が何人もよ人が目撃したという。
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