10話 連隊設立
あれから数日後、瑛二たちは、レヴォネに呼び出されていた。その内容は、2人の役職などの件である。
「それでは、こちらがお二人の任命書です」
2人に任命書が手渡された。
「私直属の特殊派遣連隊という、任務であれば、例え国外であろうと、どこにだって行く、特殊な騎士団や宮廷魔術師団の統合部隊名称のですが、この連隊の隊員は、主に異世界人の方たちと騎士団や宮廷魔術師団などから選抜された者たちで構成される予定です。そこで、雫さんには、その特殊派遣連隊の連隊長に任命します。また、瑛二さんには、同じく特殊派遣連隊の副連隊長に任命します」
「わかりました」
「拝命致します」
この瞬間、歴史の中に特殊派遣連隊、通称『特連隊』が誕生したのだった。
「一応、部隊編成は済んでいるのですが……まだ、他の異世界人の方々の訓練が終わらないので、実際の連隊の投入は、先になると思います」
「そうですか。でしたら、私は、お嬢様の訓練のお手伝いを致しますので、弓の訓練を行える場所は、どこにあるのでしょうか?」
「雫さんは、弓をお使いになられるのですか?」
「はい。お嬢様の弓の腕前は、数々の大会を優勝なされ、さらに競技だけではなく、実戦でも活躍可能な弓使いとなれる存在です。これは決して、贔屓目で言っているのではありません」
「あ、ありがとう……」
雫は、恥ずかしそうに、そう瑛二に言った。
「わかりました。では、屋外の射場を使用できるようにします」
「お願い致します」
「瑛二さんは、訓練をなさらないのですか?」
「私は、剣と体術を主にしての戦闘スタイルですが、マゼル前国王の護衛の騎士レベルがこの国のほとんどであるというのであれば、失礼ながら、訓練相手にもならないでしょう」
「確かに、お父様の護衛だった近衛騎士は、この国では、強い部類ですが、それでも、この国には、彼等以上の強さを持った騎士たちはいますよ」
「そうでしたか。無礼をお許しください」
「気にしていませんし、瑛二さんたちにとっては、間違いではないと思うので、大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
瑛二ではなく、雫が感謝の言葉を述べた。だが、瑛二は席を立ち、部屋を出ようとする。
「申し訳ありませんが、我々は、これにて失礼致します。レヴォネ王女殿下。それでは行きましょうか、お嬢様」
「ちょっと、瑛二!」
2人は、立礼をした後に部屋を退室した。
「瑛二!さっきの態度は何?あんな風に感情を出すなんて瑛二らしくないわよ!」
部屋に戻る途中の廊下で、雫は、先程の瑛二の態度について少しだけ怒っていた。
「あの話を聞いて、よくお嬢様は、冷静でいられますね」
「瑛二こそ落ち着いたら?それにレヴォネ王女の提案は、私たちにそれなりの身分を与えるものよ?それなのになんで、そんなにも嫌なの?」
「お嬢様は、あの特殊派遣連隊の連隊長となるということがどういう意味か、理解なさっておられるのですか?」
「部下を束ねるということでしょ」
「私が言いたいのはそういうことではなく、連隊長の肩書きは、あくまでも本来の役割を誤魔化す目的だと思うということです」
「本来の目的?」
「はい。おそらくレヴォネ王女殿下が、お嬢様を連隊長にした目的は、他の皆さんの管理・監視をさせることだと思います」
(私の予想が正しければ、レヴォネ王女殿下がお嬢様に連隊長に任命したのは、先程言った通りで間違いないとは思いますが、なぜ態々このようなまねをしたのでしょうか?)
瑛二は、レヴォネが態々ここまで遠回しなことをするのかと、少し疑問を感じていた。
「なんで態々、そんなことをレヴォネ王女がする必要があるの?」
「そうですね…これはあくまで、私の予想なのですが、レヴォネ王女殿下は、お嬢様に国王派がいたら報告させることだったり、王女派の監視、他の皆さんが国王派にならないようにするための役割をさせようとしているのだと思います。その理由は、単純にお嬢様が勇者の職業を持っていて、私よりも動かしやすいからだと推察されます」
「それでは単なる駒じゃない!」
「静かに」
瑛二は、雫の口元を押さえる。
「お嬢様。ここは王城です。誰が聞いているかもわからないので、あまりそのようなことを大声で言わないでください」
「んむ」
コクンと頷き、瑛二は口元を押さえていた手をどかす。
「ぷはー。ごめん瑛二、気を抜いてたわ」
「わかっていただければ十分です。とりあえず今は、この話は置いておいて、先んずはまず、連隊長としての仕事ですね。私はあくまでも副連隊長であり、お嬢様の補佐役のポジションなので、お嬢様の方が負担がどうしても大きくなりますね。ですので、部屋に戻ってこれからについて考えましょう」
「そうね」
2人はそう言って、部屋へと戻って行った。
部屋へと戻り、瑛二は直ぐに部屋の中に遮音結界を張り、外に部屋の中での会話が漏れないようにした後に、“影空間”対策で“メーティス”に頼んでいた“空間断絶”によって“影空間”からの盗聴を防ぐ。
「そんなに警戒する必要ある?」
「はい。レヴォネ王女殿下直属の諜報部隊の者たちは“影空間”というスキルを所有しております。なので、この部屋の空間を完全に断つ必要があったのです。それに、部屋の外に聞き耳をたてていた者がいましたので、遮音結界も張らせていただきました。もちろんオートゴーレムも見張っていますし、この部屋の中にもオートゴーレムの他に私もいますので、大丈夫ですよ。それに、一応鍵もかけていますし、勝手に入ってくるような下手な真似はしないと思います」
「そ、そうよね」
「それでは、話を再開しましょう。まず連隊についてですが、訓練内容から考えるべきだと考えます。それぞれに合った訓練でなければ、モチベーションなんかは、上がらないと思います」
「でも私たち、一回もみんなの訓練を見たことないし、そもそもの話、私たちが一番訓練に参加していないのに、モチベーションもあったものじゃないと思うんだけど……」
その通りである。
「確かにその通りではありますが、私たちに今やれることをやらなければならないのは、訓練方法の効率化です。それぞれに合った訓練は大事です。私の時のような訓練は、普通の高校生では、耐えられないと思うので、まずは基礎的な練習が中心になりますね」
「瑛二の訓練は、体力に自信のある軍人でも根を上げるような内容なのよ。それを普通の高校生ができるわけないじゃない。でも、それをわかっているのならばいいわ。ところで、その基礎練はどういった内容のことをするの?」
「そうですね。まずは、体力向上のための走り込みですね。走る際の体力がなければ、攻撃する時の勢いや敵のところまで向かう際の体力が持たないうえに、もしも逃げるしかない場合の体力がなければ、敵に追いつかれて死ぬことになります。そういったのを防ぐためにも体力は必要となってきます」
「瑛二も逃げる選択肢があったりするの?」
「私が、戦闘を行う際には、常に逃げるという選択肢が存在しているのですよ。私は戦闘職ではなく護衛です。もしも護衛が私一人だった場合は、護衛対象者を護るために勝てると確信するような相手だったとしても、その者の他にもいたり、自爆テロなどの最悪の場合を想定して、逃げるという選択します」
「その護衛対象って、私のことよね?」
「もちろんです。私は、お嬢様以外の護衛になるつもりは、到底ございません」
「そ、そうなのね……」
顔を赤くしながら、そう小さく雫は呟いた。
「次に 大事なのは精神力ですね。どんな屈強な身体の持ち主でも、精神力が弱ければ、意味がありません。例えば、青兵と赤兵に分けて、青兵を自軍、赤兵を敵兵と仮定した時、赤兵の士気は高いが、青兵の士気は低い。このような状況で、青兵は、あと少しで到着する増援が来るまで耐えればいいのですが、赤兵が直ぐ近くまで押し寄せて来ています。精神的に弱って来ており、投降を考えている者もいました。ですが、青兵は思い出します。このままやられたら、誰がこの場所を、仲間を守るのかと。皆がそう思い始めて再び武器を取った青兵は、増援が来るまで耐え凌ぐことに成功したのです。ここで、お嬢様に質問ですが、私が、この例で何を言いたいかわかりますか?」
(話の流れ的に精神力に関することで間違いないはずだけども、少しわかりにくいのよね。でも、瑛二の言いたいことはたぶん、守るものがある人は、精神的に強くなれるということかしら)
雫は、悩んだ末に、その考えを瑛二に伝える。
「たぶんだけど、守るものがある人は、精神的に強くなれるって意味だと私は思うわ」
「私的には、この質問には、答えは複数存在していると思っています。もちろん、その答えの中には、お嬢様の言ったような答えもあります。誰かのために戦うのは、それだけでも、戦闘面での精神力を向上させます。ですので、何を守りたいのかを考える機会も与えたいと考えています」
「そうなのね。でも、そうなると私たちの訓練はどうするの?」
「みんなと同じ時間帯での訓練と各自各々で、自主練といった形をとろうかと思っています」
「なるほど。それならば問題なさそうね。それじゃあ、訓練についてはこの辺にして、先程の続きを話しましょう」
「わかりました」
そして話題は、再びレヴォネの話題へと戻る。
「先程お嬢様は、ご自身のことをまるで駒だとおっしゃられておりましたが、私は、レヴォネ王女殿下が、我々のことを駒として見ているとは思えません。王族である限り、自然と他人のことを利用しようとする考えというのは出てしまうものです。ですが、それは権力者である伊集院家の方も同じだと言えます」
「それってつまり、私もそういった類の人と同類だと言いたいのかしら?だとしても、私は部下たちを駒として見たことは一度もないわ」
雫が少し怒り気味に言う。
「そこまでは言っておりません。どうやら誤解をなさっておられるようなので、先に言わせていただきますが、お嬢様は、他人のことを自身の駒のようにして扱うような方ではないことを、私は知っています。私が言いたいのは、上に立つ者は、下にいる者を導かなければならない。そうなると、自然と命令対象となり、他者からしたらそう見えてしまうということです。つまり、レヴォネ王女殿下のそれも、そう見えてしまうだけで、自然な行動だと私は思います。まぁ、自分の主人を利用しようとしているのは少々気に食わないですけれども」
「ねぇ、瑛二」
「なんでしょうか?」
「ところで、さっきの訓練の話なんだけれども、訓練って、いつ頃から始めるつもり?」
「そうですねぇ。早ければ3日後、遅くとも1週間で始められたらとは思っています」
「そんなに急ぐことあるの?」
別に敵が攻めて来るというわけでもないので、それ相応の訓練器具を用意する時間だってあるというのに、それほど訓練の開始を急ぐ必要が、今の段階で必要なのかと、雫は疑問に感じていた。
「今は、明確な敵がいるわけではありませんが、だからこそ、その間に練度を高める必要があると、私は考えています」
「確かに日々の訓練というのは必要よね。わかったわ。レヴォネ王女に頼んで、訓練用具や訓練場なんかは手配してもらわ」
「なんだか、さっきまでとレヴォネ王女殿下に対する態度が違くないですか?」
「もう、そういう風だと思っただけ」
「訓練用具は、私が用意するので問題ないですけれども、流石に場所の確保には、許可が必要なので、どちらにしてもレヴォネ王女殿下には、会わなくてはならないですね」
今まで、レヴォネに対することを色々と言っていたので、流石に会うのが少し気不味いかったりする。
そして数分が経過してから、部屋の中などに張っていたすべての結界を解除して、瑛二はレヴォネのところへと向かった。
その後、レヴォネから訓練場を無期限で貸し出してもらえることになったが、その訓練の日(一週間後)の前日に連隊の隊員全員を一度招集して、挨拶をすることになったが、それ以外では、特に問題はなかったのであった。
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