20話 4人の状態
あの尋問(拷問)から一夜明け、徐々に隊員たちが目を覚まし、整列を始めている。
朝礼を終えた後、深夜に発生したことを瑛二に報告するため、瑛二のところへと向かった。
「瑛二様、少々お時間をよろしいでしょうか?」
「どうかなさいましたか?」
突然沙織にそう聞かれた瑛二は、沙織にそう聞き返した。
「ここでは少しあれですので、他の隊員に聞かれない場所でも構わないでしょうか?」
沙織が少しキョロキョロしながら瑛二に聞く。
「わかりました。でしたら私のテントでもよろしいでしょうか?あそこならば、防音性の高い布地を使っているので、スキルなどによって聞かれない限り音がテントの外に漏れることはありません」
「そうですか。では、瑛二様のテントでお願いします」
「わかりました」
2人は、瑛二のテントへと移動した。
そしてテントの中へと入った。
「そちらの方にお掛けください」
「失礼します」
簡易椅子に2人が対面に座った。
「それで、お話というのは何でしょうか?もう少しで作戦開始時刻になるので、できるだけ手短にお願いします」
「わかりました。その前に瑛二様は、深夜に何か感じられましたか?」
「はい。本日の作戦概要書を確認していたところ、こちらの方を監視している4人の何者かの気配を感じました。対処するべきか判断に悩んでいたところ、あなた方の方が先に対処をしに向かったようでしたので、4人に関してはそちらに任せても問題ないと判断し、確認の続きを行っていたのですが……もしかして、その4人に関して何かありましたか?」
やはり、すぐにわかってしまうのだと沙織は思った。まぁ、瑛二から言ってしまえば、当たり前に想像がつくことなのだが。
「ところで、その4人は今どちらに拘束しているのですか?」
「予備のテント内の柱にまとめて拘束しております」
「わかりました。では、その4人にお会いしたいのですが、構いませんか?」
「構いません。私も御一緒した方がよろしいでしょうか?」
「その拘束した方々の管理責任者なのですから当然です」
「わかりました。では、参りましょうか」
そんなわけで、瑛二と沙織の2人は、その4人が拘束されているテントへと向かった。
テントの前に着くと、沙織が先に中に入り、その後に瑛二が続いて中に入る。
「ヒッ!」
沙織が中に入って来た瞬間、拘束されているうちのひとりがそんな声をあげる。
「……この4人にいったい何をしたんですか?」
若干引き気味に、瑛二が沙織にそう質問をする。
「尋問を行っていて、素直に話してくれなかったので、少しだけ痛い目にあってもらったら、情報を素直に吐いてくれました」
「つまりあなたは、拷問を行ったということですか?」
沙織のその言葉に、瑛二が眼を鋭くして沙織の方を見ながら、まるで深淵の底から発せられたような低音ボイスで沙織に対してそう聞いた。
「拷問だなんて人聞きの悪い。私はただ、尋問を行っただけですよ」
そんな瑛二に対して、沙織は素知らぬ顔をしながら瑛二にそう答えた。
瑛二がこのようにして怒りを露わにするのは、非常に珍しいことである。普段の瑛二は、温厚な性格であり、怒るということはほとんどない。怒ったとしても注意程度がほとんどだ。だが、瑛二を本気で怒らせてはならないというのは、伊集院家の関係者の共通の暗黙の了解となっている。当然、沙織もそのことは知っているのだが、その状態になっている瑛二に物怖じしないのは、流石というかなんというか……そこは素直に尊敬したい部分である。
「瑛二様が直々にあなた方に聞きたいことがあるそうだ」
「俺たちが言える情報ならすべて吐いただろうが!!もう今更聞くこともねぇだろ!」
1人の男がそう叫ぶ。
「瑛二様にはまだあなた方に聞いた情報を話していない。だが、話すのが面倒とかいう理由で話さないのであればどうなるかわかるな?」
沙織は4人を威圧しながらそう言った。
「わかったよ。それでそこの指揮官殿は、俺たちに何を聞きたいんだ?」
「私があなた方にお聞きしたいのは、あなた方の所属国と所属部署、我々の監視目的、あなた方の本名の3つです。では最初にあなた方の所属国について教えて下さい」
「俺たちは、メフィストフェル魔王国所属の魔王陛下直属近衛諜報兵だ」
「なるほど。では次に監視目的を教えて下さい」
「監視していた目的は、お前たちの動向を探ることが目的だった。が、その任務は失敗に終わってしまった」
「そうでしたか。では最後にあなた方の本名を教えて下さい」
「俺たちの本名を知って何になるんだよ」
ここで彼らはそのようにとぼける。なんせ諜報員にとって自分の本名を敵に知られるということは、自分だけでなく、自分の家族など周りの者たちを巻き込んでしまうため、自分の本名を知られるというのはそれだけのリスクを伴うのだ。
「警戒するのも理解できます。それに彼女が行った行動を考えると、そうなるのも当然でしょう。ですが、あなた方の名前をお聞きしたい理由は、リリア魔王陛下の魔王軍にあなた方を返還するためです」
「つまり、俺たちの扱いは捕虜ということか?」
「結果的に言えばそうなります。ただし、私共は戦争をしに行くわけでもありませんし、そもそも敵対意思はありません」
「本当だろうな?」
「はい」
「……わかった」
「「「!?」」」
「信じるのですか?!」
4人のリーダーと思わしき人物が、瑛二の話を信じることにしたことに対して、他の3人は驚き、そのうちのひとりが、そのリーダーに対してそう質問をした。
「俺のエクストラスキルが何なのか忘れたか?」
「つまり、あの人の言葉を“視た”んですね」
「そうだ」
「ならば、俺たちも信じます」
彼らのリーダーは、エクストラスキル“真偽眼”持ちだったため、瑛二の言葉が偽りなどではなく真実だと確信して、リーダーは信じる決意をした。そして、他の3人ももちろんそのことを知っているのとリーダー自身の信頼によって、瑛二の言葉を信じることにした。
「ではまず、俺から名乗らせてもらう。俺は、メフィストフェル魔王国魔王直属近衛諜報兵少尉で、グレーターデーモンのゲオルグ・オルクスだ」
「同じく准尉で、ガーディアンデビルのゼウラス・セルミマイだ」
「同じく准尉で、ワーウルフのナーガラ・ムガラトスだ」
「同じく准尉で、ジャイアントのジャマボ・クレトキルだ」
瑛二から見て正面にいるのがゲオルグ。そして、その左側にいるのがゼウラス。そして、ゲオルグの後ろで拘束されているのがナーガラ。そしてゼウラスの後ろで拘束されているのがジャマボである。
「とりあえず、あなた方のことをリリア魔王陛下に連絡しましょう。多分、私の予想が正しければ素直に引き取りの連絡が来るはずです」
「瑛二様。そろそろ」
沙織が、瑛二に耳元でそう言った。瑛二が話していた時間が出撃予定時刻の近くになってしまっていた。このままでは予定通りに出撃することになる。だが、この4人が瑛二たちのところにいることにより、4人の身柄を向こうが引き取るのかどうか。また、その引き取りの際に交渉を持ちかけようと瑛二は考えているため、その出撃を見送ることになったことを伝えなければならないのだ。
「もうそのような時間でしたか。では我々はこれにて失礼致します」
そうして、ふたりはテントの外へと出て、集合場所へと向かって歩いて行った。
一方、テントの中で拘束されたままの4人はというと……。
「あの男の言葉、本当に信用できるのでしょうか……見ていた限り、あの女の上官のようでした。あ、決して小隊長のエクストラスキルや言葉を信じていないわけではありません。先程信じると言ったばかりだと言うのに……」
「気にするな。お前たちの不安もわからん訳ではないからな。魔王様は優しいお方だからきっと我々のことを助けようと動くはずだ。その中で我々を引き渡すという書面を見れば間違いなくそれに応じるだろう。あの男が無茶な要求を出すとは思えんが、最悪の場合は、我々の命に替えてでも魔王様の尊厳を守るぞ」
「「「はい!!」」」
そんな小声でのやり取りがテントの中で繰り広げられていたが、そんなやり取りを“影空間”の中で、イーディス、メアリー、ニコラの3人にしっかりと聴かれているとは思いもしないで、密かに4人で作戦を着々と立てていくのだった。
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