エピソード50
「そうか···ソフィアは幸せなまま逝ったのか···」
家族と祖国との絶縁、生来の体の弱さ
食が合わぬことや、文化の違いなど
母にも辛い事は当然あったと思う。
しかし、クロエから見た母は
皆に愛された、幸せの結晶のような人だった。
「はい。私の記憶の中には
幸せそうな母の顔ばかりが残っています。」
「そうか···良かった···
幸せに暮らしていると報告は受けていたが
娘のクロエが言うならば間違いないはずだ···」
『あっ···涙が···』
ラースの目から次々と涙が溢れてくる。
年上の男性が泣く姿を見た事がないクロエは
どう声をかければよいかわからず
ただ、その大きな背中をリズムよくさすった。
『トントトスゥー、トントトスゥー』
「ありがとう···優しい子だ···」
「母が···私が泣いているといつも
こうやって優しく背中をさすってくれました。」
「······っ!!
私だ···私が、ソフィアが泣いたら
ソフィアが眠れなかったら
ソフィアの咳が止まらなかったら
いつも···このリズムで背をさすっていた···
[大丈夫、大丈夫]って心で唱えながら···
今思い出したよ···」
『やっぱりラース伯父様だったのね···』
母を失ったばかりだった幼い頃のクロエは
この独特なリズムが恋しくて
マーサに再現してと幾度となくせがんだ。
アース国でそのようなリズムのさすり方を
見聞きした事はなかったので
母の祖国由来なのだろうと思っていたが
母の境遇を考えると伯父が
そうしてくれていたのかもと思ったのだ。
「ソフィアは···私と過ごした日々を
忘れずに···覚えていてくれたんだな···」
『私なら···嫌いな人を思い出す
キッカケになるような事はしない。
それも自分の子供にするなんて···死んでも嫌···』
自分と母の考え方は違うが、それでもきっと
伯父のことは嫌っていなかったのだと思う。
幼い頃の幸せだったはずの過去すら
思い出したくもない自分とは違って···
···ロエ?クロエ??」
「もっ!申し訳ございません!」
「いいや、これから先いくらでも聞ける話を
急いてせがんだ私が悪い。
顔色が悪いな···体調は大丈夫か?」
「大丈夫です。
ご心配してくださり、ありがとうございます。」
『ハーツ様が仰ってくださったのかしら···』
ソフィアの事だけでなく
クロエの事もたくさん知りたいと
好きな料理や、色や花など細かい事まで
根掘り葉掘り聞かれたのだが
クロエにとって人生の大部分を占める
王家との関わり···ロベルトに繋がるような事は
不自然な程、触れられる事がなかった。
『皆に気を使われている···
大丈夫と···平気と言いたいのに···』
婚約してから10年、出会ってからなら12年
人生の半分以上をロベルトと密に過ごしてきた。
過去のどこを切り取っても、ロベルトが存在する。
クロエは、全ての思い出が穢されたように感じ
思い出す事すら不快さが込み上げてくるため
嘘でも、言葉だけでも、平気とは言えなかった···
「クロエに会う前、国境門を見てきてね?
役目を十分に果たしたという事で
改造工事の指示を出してきたんだ。
クロエとハーツの準備が整い次第
この街を出発しようかと思っていたのだが···
体調が優れぬならもう少しゆっくりするか?」
「···いえ、可能な限り早く出発したいです。」
マーサと離れたくないのも
父やアイルから最も近いこの街に留まりたいのも
嘘偽りない本心だったが
ロベルトの事を思っただけで
一刻も早く、その手が及ばぬ場所へ逃げたくなったのだ。
『ハーツ様が前に仰っていた
ロベルト様とナオコ様の関係の変化が
ナオコ様がこの世界から姿を消すって事なら···
《迷いの愛し子》を失ったロベルト様は
必ず私を迎えに来る···その前に···遠くへ···』
「ああ、クロエの望むままにしよう。
では2人とも急ぎ準備しなさい。
何も心残りないようにね?」
春ですね!色々変わる季節ですね!
私は部署異動が突然決まって
心が死んでました!
皆さまには良い
新年度でありますように☆彡.。




