エピソード40
「ハーツ様···追放者の中には
《純アース人》もいたと仰っていましたが
その方たちも···《ニホンショク》を断って
強制力の支配を受けなくなったのですか?」
少しだけ冷静さを取り戻したクロエは
祖国にいるアイルと父のことを思い出していた。
「···うん、そうだよ?
《ニホンショク》を断てば
例外なく強制力の支配を受けなくなる。
そう断言できる程には調べがついている。」
「ではっ!···では、アイルと父に···」
「ごめん。
この話はクロエ嬢だから話せたんだ。
ガイル帝国の保護を受け入れただけでなく
···クロエ嬢が皇族に連なる者だから。」
ハーツは、クロエが何を望んでいるか
聞かずとも、手に取るようにわかっていた。
自身にとってもアイルは親友で、公爵は愛する者の父親。
ハーツ自身も、2人を救いたかったのだ···
「あっ······」
『···保護してもらう事を同意するまで
母から繋がる出自を聞くまで
ハーツ様は話せないと仰っていたのに···
私がちゃんと理解できなかったせいで···
言わせてしまった···』
「ごめんなさい···
そうでなければ教えられないと
ハーツ様はちゃんと言ってくださっていたのに···
とても浅慮な発言でした···」
「クロエ嬢···気にしないで?
愛する家族の事なのだから
そうしたいと思うのは当然の事でしょ?
···私にはその裁量権がないけど
条件を満たせば、彼らに教えられる時が来ると···
私は、そう思っているんだ。
その時が来れば、必ずクロエ嬢に味方すると誓う。
これも···信じてくれる?」
「はい······ハーヅざば···」
自身の考えの足らなさに落ち込んだところを
優しく同調し、希望まで持たせてもらえたことで
クロエの涙腺はとうとう崩壊してしまった···
「クロエ嬢···やってしまったね?
とうとう泣いてしまったね?!」
「ずび···まぜん······」
包まれていた手が解放され、心細さを感じたが
すぐさま席を立ったハーツが
品の良いハンカチをポケットから取り出しながら
そばまで来てくれた事に、クロエは安堵した。
「レディ、失礼するね?」
「あっ!いえ、あどっ!」
自分で拭くと言おうとしたが
聞く耳を全く持たないハーツにより
グズグズになったクロエの顔が
優しい手つきで丁寧に拭き上げられていく。
「クロエ嬢?
男の前で泣いてはダメだよ?
男はね、好いた女性の涙を見ると
どんな手を使ってでも泣き止ませたくなるんだ。」
「···わ、わがりました。」
「私は···クロエ嬢の泣き顔を見ると
どんな無理難題も、叶えてあげたくなるくらい
愛おしくてたまらない気持ちになるのだけど···
やっぱり···好きな人には笑っていて欲しい。」
クロエは、何も返答できず
頑張って作った笑顔で頷くしかできなかった。
「さて!
今日の話はここまで!
眠気はないかもしれないけど
朝起きられるよう、身体を休めよう!」
「はい!」
「う~ん···
また泣かせてしまったから
マーサさんに怒られてしまうかも···
クロエ嬢、私を守ってくれる?」
『う、上目遣いは卑怯です···っ!!』
「い、いいえ!
マーサが、ハーツ様に対して
怒りの気持ちを持つ事すらありえません!
そもそも、考え足らずで
勝手に泣いた私が悪いのですから!」
「ふふふっ、からかってごめん!
でも···困った時はお互いに助け合おうね?
私は、喜怒哀楽を分け合えるような関係に
クロエ嬢となりたいんだ♪」
「ぜ、善処いたします···」
長居してしまった食事処の個室を後にして
別の個室で待機していた
マーサとルイズの元へ行くと
ルイズはテーブルにぐったり突っ伏していた。
「ルイズ···
君、紳士としてその態度はありえないよ?」
「うぅ···ハーツ様···
私には、私には···難易度が高すぎました···」
「マーサさん、私の侍従が申し訳ない。」
テーブルについているのに
相手を無視するような態度は
非常に失礼な事で、酷いマナー違反だ。
『あぁ···ハーツ様との食事で上の空だった
昨日の私を見ているようだわ···む、胸が痛い···』
「畏れながら、全く問題ございません。
ルイズ様には、私の1年分程の会話をしていただきました。
お疲れになるのも無理ない事でございます。」
『·········』
『·········』
「それは···
うん!問題なくて良かった!」
「ふっ···楽しいお時間をいただきました。」
『マーサが笑った?!』
「可愛い···」
この日、ルイズの中に生まれた
小さな好意が大きな実を結ぶとは
ルイズ本人ですら、全く想像もしていなかった···
だいたい1500文字ぐらいで
話を考えるのですが
微妙に短かった事から
ルイズとマーサの話に発展して
結果長くなってしまいました!
マーサは心を許した人に
笑顔を見せることはありますが
基本、そうなるまでに
年単位の期間が必要なので
会って間もないルイズに対して
笑顔を見せたことに
クロエはびっくりしました!




