アイル・ジェラートside03
やっと来ることができた公爵邸には
悲しみと混乱が渦のように入り交じっていた。
ノエルと共に伯父ルイスの執務室に通され
ソファーで眠るクロエに対面し
その痩せ細った身体と、涙で爛れた瞼を見て
アイルは子供である自分の無力さと
何も知らずに過ごしていた日々を呪った。
『クロエ···ごめん
すぐに来れなくてごめん···
子供だから何も知らなくて···知らされなくて···
クロエのそばにいれなくてごめん···』
「ごめん···」
アイルの声が聞こえたのか
クロエの赤みを帯びた瞼がパチリと開いた。
「あいるぅ······っ!!」
会えなかった月日の戸惑いなど何処にもなく
クロエは全身でアイルにしがみつき
枯れてしまうほど泣きじゃくった。
『クロエクロエクロエ···!!!』
アイルもクロエの全てを受け入れるべく
痩せ細った身体を労わるように
全身で優しくクロエを包み込んだ。
『僕がずっとクロエのそばにいるっ!』
〈随分後になって教えてもらったのだが
クロエは母と別れたその日から
無自覚に涙は出るが、そこに悲しみは伴わず
不安と寂しさだけが付き纏っていたそうだ。
恐らく死ということ自体が理解できていなくて
心と身体がちぐはぐになってしまったのだろう···
私を目にした瞬間、クロエも感じていた
永遠に続くと思っていたあの幸せな日々が
もう何処にもなく、2度と戻れないことを理解し
初めて悲しみから涙を流したのだと言う。〉
クロエはアイルにしがみついたまま
泣き疲れてぐっすり眠ってしまった。
「アイルが来てくれて良かった···
もちろんノエルも。ありがとう。」
最愛の妻との別れに、悲しみに暮れる暇もなく
娘の異変に対処していた伯父は
見る影もないほど憔悴していた。
「お兄様、私たちが当分クロエと過ごすから
身体と···心も休めて?」
「···有難い話なのだが
お前は大事な時期だろうに···
さすがに甘える訳にはいかんだろ?」
「僕がっ!僕がいます!
僕がクロエとずっと一緒にいるから
お母様は赤ちゃんのために家でゆっくりして!
ルイス伯父様もゆっくり休んで!」
「あ、···アイル?
ちょっと会わないうちに
随分喋れるようになったんだな!」
「ううん···
こんなに話してるアイル初めて見たわ···」
「だって···いつも沢山思っていたけど
沢山ありすぎるから言いたいことだけ選んでた
でも言わないとクロエと一緒にいれないから!」
「なるほどね···思っているだけじゃ
相手に伝わらないってわかったってこと?」
「うん!」
「ん~〜じゃあ、アイルにお願いしようかな?
ね?いいでしょ?お兄様?」
「いや、でも···
さすがに子供2人連れて城には行けん···」
「ここに置いて行けばいいのよ!
ここには使用人もいるんだから!
今は···2人で励まし支えあって乗り越える時なのよ
私と···ソフィアがそうしてきたようにね?」
「あぁ···ああ···」
他国から嫁ぎ、ルイス以外頼れぬ心細さや
異なる文化に戸惑っていたソフィア。
早くに母を亡くし、男勝りな性格ゆえ
頼れる同性の知人すらいなかったノエル。
励まし支えあって乗り越えてきた2人の仲を
嫉妬するほど一番近くで見てきたルイスには
ノエルの言葉を否定することはできなかった。
結局ルイスが折れ、ノエルは1日だけ
公爵邸に留まり、翌朝帰ることになった。
「アイル、クロエちゃんが好き?」
「うん!」
「じゃあ、絶対に離しちゃダメ。
私みたいに···別れを怖がって逃げちゃダメ!
もしも、いつかクロエちゃんと
離れなきゃならない時がきても
最後まで抗って、最後まで守るの!
そして、最期の瞬間は···必ずそばにいて?」
「···わかった!」
アイルの返事は短かったが
ノエルの言った言葉は、酷く深く心に染みた。
その日から数日、クロエと2人だけで過ごし
お互いのまだ幼い心と拙い言葉で
会えなかった間の隙間を埋め
悲しさや寂しさをお互いに分け合った。
クロエにはどんどん笑顔が増え
これからは、自分たち2人で
あの日々の続きを続けていくのだと思っていた。
あの日が来るまでは···
すっごくネタバレですが
次回ロベルトが出てきます!
そういえば3人は
一緒に過ごすことも多かったはずなのに
全く3人でいるのが想像できなくて
頭の中が白紙状態です!
正直書きたくありません!
ぺぺっと頑張ります!
あ、あと!言いたいんだった!
・アイル→言葉より先に思考が成長
・クロエ→思考より先に言葉が成長
というイメージで書いてました!
で、この回でアイルは言葉と思考が結びついて
グングン賢い子になる感じです!




