エピソード02
学園に着くと、いつもの制服ではない
華やかな装いの学友たちにクロエの心も弾む。
クロエの住むアース国では
男女共に18歳で成人と認められる。
成人すると、夜会への参加が許されるが
貴族家の子のみが通う王都学園では
その予行練習として、卒業パーティーが開かれるのだ。
学園でのクロエは、王太子ロベルトの婚約者であり
義弟のアイルがべっとり付き添っているため
特別な友人こそいないが、朗らかな性格ゆえ
アイルがクロエの側にいない時に限り
いつも気づけば学友たちの輪の中心にいた。
アイルは、ネイビーブルーの髪に黒い瞳を持ち
その切れ長の目は、男らしい顔つきに色気を含ませ
恵まれた等身は、無駄のない筋肉に覆われている。
つまり、肉体的に軟弱なご令息
男の色香にまだ縁遠いご令嬢には
ちょっと···いやかなり近寄り難い存在であった···
次期公爵で次期宰相を目指すだけあって
アイルの学力は秀でており、いつも学年1位か2位。
どう見ても軍人にしか見えない身体は
もちろん見掛け倒しなどではなく
養子となってからも密に交流のある
アイルの実父、王国軍大将フレア伯爵譲りの恵体を
勉強の息抜きがてらに参加する、王国軍の訓練で
大将自らに鍛え上げられた賜物だ。
そんな文武両道の男が、クロエを前にすると
甘え甘やかし、近づくなと言わんばかりの目で
べっとり独占欲を誇示するのだから
ご令息ご令嬢が近寄れないのも無理はない。
1人で学園に現れたクロエに
いつもなら、これ幸いと声をかけてくれるのに
見知った学友たちの表情は暗い。
無遠慮にじっとり品定めするようでいて
透明人間かの如く、視界にすら入らないような
訳のわからない視線に、公爵邸での違和感を思い出す。
『またなの?今朝から何度目?
···これも私の思い過ごしなの?
卒業でナーバスになっているのかしら···?』
否定しようにも否定しきれない違和感に
若草色の瞳が弱々しく伏せられるすんでで
ネイビーブルーの髪が小さく目に映る。
『アイル!!』
途端、クロエの沈みかけた心が跳ね上がる。
パーティー会場へ進んでいるのであろうアイルは
人混みのそのまた先にいる。
『この距離だと、普通に歩いていたら見失っちゃう!』
はしたない事だとわかってはいるけど
クロエの足は勝手に歩みを速めてしまう。
やっと追いついたアイルの後ろで
ふと、いたずらクロエの心に湧いてくる。
『ふふっ♪仕方がないとはいえ
置いてけぼりにされた仕返しよっ♡』
アイルの弱点である腰の辺りを
人差し指でスゥーーとひとなでする。
ーービクッ!!!
アイルの身体が瞬発的に跳ね上がった。
『大成功ーー♪♪』
顔を真っ赤にしたアイルが振り返るのを
とびっきりの笑顔を浮かべ待つ。
しかし、目の前には息を吐きながら落とされる肩。
そして、クロエには向けられたことのない声色が紡がれる。
「汚らわしいっ!」
「えっ······」
思いもしなかった言葉に思わず声が漏れる。
『私···って気づいてないの?』
クロエがびっくりするのも当然。
訓練の成果なのか、クロエがアイルの間合いに入ると
どんなにそっと近づいたとしても
クロエの気配を感じ取られてしまうのだ。
「驚かせちゃってごめんなさい。アイル、私よ!」
ーーパシッ!!
言い終わるか終わらないかの瞬間
振り返ったアイルによって
行き場を失って宙で留まっていた右手が弾かれる。
「クロエ・ジェラート!!
貴様と言葉を交わすことも、視界に入れることも
とてつもなく不快だ!2度と私に近づくな!」
先程の言葉が、間違いなく
自分に向けられたものだったと思い知り
恥ずかしさから顔に熱がこもる。
アイルから放たれた拒絶の言葉に
身体は強ばり、頭は混乱、どうやって声を出すのかすらわからない。
固まったままのクロエに背を向け
アイルは足早に会場へと進む。
クロエの目は、アイルの背中から離せないまま
追いかけようにも足は地面に根を張っていた。
ロベルト→癖なし柔らかな髪質、マッシュヘア。
アイル→癖なし固めの髪質、前髪がちょっと立ち上がった短髪。
クロエパパ→ふんわり柔らかな髪質、オールバックで前髪がチョロリ垂れてる。
アイルパパ→ゆる癖固めの髪質、肩下前髪上げのライオンヘア。
きっとそんな感じ···
【追記】
誤字をご報告くださって
ありがとうございました┏○ペコッ
とってもとっても助かりました!