エピソード13
「あぁーあ···ほんと最悪ぅーーー!」
演奏も止まり、静まり返っていた会場に
この場に相応しくない声が響く。
貴族の子息令嬢だけが通うこの学園で
このようなマナーに反する話し方をする者はいない。
『なら···この声の主は···』
アイルとやっと合わすことができた視線を
名残惜しくも、目指していた最奥へとやると
ソファーでロベルトにしなだれかかる
クロエのドレスを着た女性···
《迷いの愛し子》であるナオコが
全身で不満をあらわにしていた。
『·········』
会場に入ってから、遠目でもずっと見えていた。
しかし、クロエの心は空っぽだった。
『おや?』
ハーツは、そんなクロエの空気を察し
予想外の展開に、不謹慎にも心を踊らせる。
『ロベルト、泣きを見るのは君みたいだよ···』
「ねぇ?アイルぅー?
その人があなたのお義姉ちゃんなんでしょ?
いらないって言ったよね?
なんでそいつに近づいてんの?」
ーーギリッ!
クロエに強く噛み締められた奥歯が音を上げる。
『···アイル??ふざけないで。
名を呼ぶことはおろか、話しかけることすら
許すことはできない···不快だわっ!』
ナオコに対する、過剰なまでの悪意に
クロエは、自分自身に嫌悪感を覚えるが
自省も自戒も、しようとすら思わなかった。
悪意をそのまま言葉に纏わせ発するため
勢いよく息を吸い込んだその時
突如、アイルの大きく無骨な手に肩を掴まれ
クロエはそのまま息を飲んだ。
「クロエ・ジェラート
お前の声など聞きたくない!
口をつぐんで、二度と私に近づくなっ!!」
飲み込んだのは息のはずだったのに
どろりとした鉛が胃に流れつき
ゆっくり固まる様な重苦しさを感じる。
『アイル···』
口をつぐむ代償に強く噛まれた下唇には
鮮やかな血が滲んでいた···
「······っ!!」
ほんの一瞬、自身の唇にアイルの視線を感じたが
醜悪なものを見てしまったかのように
眉をひそめて顔を背けてしまった···
「あははははっ!!!かっわいそーw
アイルはお義姉ちゃんキライなんだってぇー!」
クロエは生まれて初めて人を睨みつけた。
「えっ?!なになに??こわーいw
ロベルト!あの人私のこと睨んでるんだけど?
王子様なんでしょ!?ちゃんと助けてぇー!!」
大袈裟な口ぶりで、ロベルトに甘え促すと
高貴な笑みでナオコを見つめていた瞳が
クロエを捉えた途端、高圧的な権力者の顔つきに豹変した。
「···クロエ
《迷いの愛し子》であるナオコに対して無礼が過ぎるぞっ!!
アース国に叡智を授けてくださる
《迷いの愛し子》を軽視するその態度···
君を、この国の未来を共に背負う
王家の一員に迎えることはできない!
私、ロベルト・アースは
クロエ・ジェラートとの婚約を、ここに破棄する!」
会場は大歓声と共に歓喜に満ち溢れた。
やっと婚約破棄書けましたー!!
断罪っ!!断罪ーーっ!!
大好物ジャンル、婚約破棄が書けて感無量です!
タイトルにはずっといた
異世界転移者ナオコさんですが
痛い、まるで己を見ているように痛すぎる···
イメージは、注目を浴びてヒロイン感に酔い
自分の本質を忘れて異様に浮かれちゃう
陰な女の子って感じです···痛い···