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第8話:俺自身がパパになることだ

「俺自身がパパになる事だ……」


 勝手に召喚され、勝手に再び冥府へ送られたアイリスパパの代わりになるとオワコンは宣言する。

 アイリスのパパからすれば理不尽極まりないが、オワコンはいたって真剣だった。


「何言ってんだあんた」


 ババアの方が呆れた様子でオワコンにツッコミを入れた。

 だが、オワコンの鋼の意思はそんな事では怯まない。


「アイリスのパパが完全復活するまでの間、俺があの子のパパになるしかない。それ以外に策は無い」


 いや、もっと考えれば色々あるでしょう。

 そもそも、この状況にしたのがオワコン本人なのだが、彼は気付いていなかった。 


「そうかい。あたしとしちゃあどうだっていいけどね」


 ババアも相手するのが面倒臭くなったのか、オワコンの決意を適当にスルーした。

 アイリスのパパには申し訳ないが、しばらくの間は死者の国をさまよってもらう事にしよう。

 そう結論付け、オワコンはシャルロット達の待つ屋敷へと戻る。


 少女二人は相変わらず仲むつまじく本を読んだり、談笑したりしていた。

 だが、そこでオワコンは不思議な事に気が付いた。


「さっきまでそんなテーブル無かっただろ? しかもお菓子まである」


 シャルロットとアイリスは、先ほどまで長椅子に並んで座っていたはずだ。

 ところが、今の二人はテーブルを中心に対面する形で腰掛けていた。

 木製のしっかりとしたテーブルと椅子は、子供二人で運べる重さではない。


 さらに言うと、テーブルの上にはバターのいい香りのする、美味しそうな焼きたてクッキーと紅茶まであった。


「あ、いんちょー。お帰りなさい! 用事は済んだんですか?」

「一応な。それよりシャルロット、このテーブルとお菓子はお前がやったのか?」


 椅子から飛び降りて駆け寄ってきたシャルロットの頭を撫でつつ、オワコンは疑問を口にした。


「シャルロットちゃんが用意してくれたんです。本当に魔法使いだったんですね……」


 シャルロットが答える前に、後ろから付いてきたアイリスが小声で答えた。

 その声の響きには、驚きと尊敬が混ざっているのが感じ取れる。


『この家の副院長は今はシャルロットだからね。想像出来る物なら魔力で作れるのさ』


 ババアは念話でオワコンに説明した。

 どうやらこの屋敷内では、外の世界とは別のルールが働いているらしかった。


「魔力でって事は、俺はそういう事は出来ないのか? 確かほぼゼロなんだよな、俺」

『んなこたーないよ。この孤児院の主はあんたさ。この建物の中なら、あんたが想像できるものなら何だって作る事が出来るよ。もっとも、今の孤児院レベルじゃ大したものは出来ないがね』

「ほう、そりゃあ便利だ」


 食事や掃除など、衛生面の問題をどうしようか悩んでいたのだが、その力を上手い事使えれば解決出来そうだ。

 大きな問題が片付いた事に、オワコンは安堵の溜め息を吐く。


「いんちょー、そろそろお夕飯にしませんか?」


 シャルロットがオワコンにそう提案した。

 

 今日を振り返ると、異世界転移したり、傭兵に首を切られそうになったり、怪物お父さんを撃退したり濃い一日だった。

 ここに来てから何も食べていないし、窓の外を見ると、日は既に傾きかけている。


「よし、じゃあ能力も試すのも兼ねて、少し早めの夕飯にするか!」

「やったー!」


 シャルロットは大はしゃぎだ。アイリスはというと、まだ完全に馴染んでいないので、どうしていいか分からないという表情で立っていた。


「とはいえ、想像って言ってもなあ……俺、そんな完璧に食べ物の形とか覚えてないぞ」


 今までに食べた物は漠然と覚えているが、色や形、味まで完全に覚えていろという方が無理だ。


『大丈夫さ。あんたの身体に記憶されているからね。とっかかりだけあれば、後は自動で再生されるよ』


 ババアがオワコンの不安を払しょくするように補足を入れた。

 物は試しとばかりに、オワコンはとりあえずやってみることにした。

 とりあえずは四人が座れるくらいの大きめのテーブルと椅子を出す。


「うおっ!? 本当に出た!?」


 ニ○リとかで置いてある家具を漠然とイメージしただけなのだが、唐突に部屋の中心部にテーブルセットが現れた。

 恐る恐る腰掛けてみるが、手触りから何から何まで本物と変わらない。


『どうだい? これが大魔術師エスメラルダ様の孤児院の力さ』

「正直ちょっと感動したわ」


 さすがに事あるごとに大魔術師と連呼するだけはある。

 オワコンのババアに対する好感度が1ポイント上がった。


「さて、じゃあついでに食事も出すわけだが……」


 カレーライスかな、と思ったが、オワコンは一瞬想像して中断する。

 あれはビジュアル的に抵抗を持つ人間も多いだろう。


「というわけで、クリームシチューにしてみた」


 レパートリーが微妙に貧困だが、オワコンは以前食べたクリームシチューを振る舞う事にした。

 シャルロットとアイリスは、シチューを初めて見たらしく、最初は不思議そうに眺めていた。

 しかし、美味しそうな匂いにつられ一口食べると、後はほとんど無言で皿に顔を付けるように食べている。


「気に入ってくれたようで何よりだ」


 オワコンも同じメニューを食べながら、食欲旺盛(しょくよくおうせい)な少女二人を愛おしそうに眺める。


『あたしの分は無いのかい?』

「ババアにはこれ」


 そう言って、オワコンはごはん山盛りのお茶碗を作り出し、箸をぶっ刺してババアのスマホの前に置く。


『……なんだいこりゃあ?』

「俺の国では、死人にごはんを出す時こうするんだ」

『死んどらんわ! ちょっと肉体を捨てただけだよ!』

「えー」

『えーじゃないが』


 悪霊になったようなもんだと思ったのに。

 オワコンは納得いかなかったが、仕方ないのでシチューを作り、ごはんの代わりに差し出す。


『ほう、ほう。初めて食べた料理だが、こりゃあなかなかいけるね』


 どうやって食べているのか分からないが、スマホの前に置かれたシチューが徐々に減っている。

 心霊現象っぽくて正直怖い。


『さてと、院長になった感想はどうだい?』

「フー、院長も楽じゃないな」


 食事をしつつ、オワコンはやれやれと言った感じでそう呟いた。

 孤児を保護する。孤児院も拡張する。両方やらなくっちゃあいけないのが院長のつらいところだ。


『何事も始めた時が一番きついのさ。なぁに、孤児を集めて屋敷が成長すれば、あんたの負担も減るよ。今日はこのくらいにして、明日は森に残りの孤児を回収しにいこうじゃないか』

「森の孤児はアイリスを救出しただろ」


 通りがかりの傭兵グランドからアイリスを略奪……ではなく『保護』はしたが、それ以外に人間の反応があったら、ババアが言及しているだろう。


 オワコンの考えを見透かしたかのように、ババアはにぃっと笑った。


『何も人間じゃなくたっていいのさ』

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