第4話:2人目の孤児
ババアの指示に従い、適当に大木をけっ飛ばしたらへし折れたでござるの巻。
その様子に、蹴りを放ったオワコン自身が唖然とする。
「……なんだこれは」
「いんちょー! すごーい!」
『ホッホウ! こりゃあ驚いた! あたしの計測違いかと思ったんだが、数値通りの筋力だ!』
「いや、意味が分かんないんだけど」
『あんたは魔力はほぼゼロさ。でも、筋力が並外れてるってレベルじゃないんだよ。さらりーまんとかいうのは戦士か何かなのかい?』
確かにサラリーマンは企業戦士とも言えるし、戦死寸前ではあった。
だが、彼は断じて戦士などではない。
やらない奴より弱そうに見えると定評のある通信空手すらやった経験がない。
「地球とは違う法則でもあるのか? 例えば、宇宙飛行士の重力みたいなの」
宇宙服は重さが半端じゃないが、宇宙飛行士たちがフワフワ浮いてられるのは重力が無いからだ。筋肉が無くても、負荷が無ければ重い物でも軽々と運べてしまう。
だから定期的に筋トレをしないと、地球に帰って来た時に花束すら持てないほど筋力が低下してしまうほどだ。
簡単に言うと、彼はこの世界に来るまで、格闘漫画とかでクソ重たいギブスを付けて生活して筋トレをしているような状態だったわけだ。
そういえばさっきババアを埋葬した時、やたら軽く感じたのもこれが影響しているのかもしれない。
あくまで仮説だが、あながち間違ってもいないかもとオワコンは思っていた。
『こりゃあ素晴らしい! 魔力に関してはあたしはエキスパート中のエキスパート。そしてあんたは最強の戦士! 院長でありながら世界の王になれる器さ』
「俺が……王だと!?」
いきなりの展開続きでオワコンはもうツッコミ疲れてきた。
だが、院長でありながら王というのは悪くない気がする。
彼が今まで生きて来たのは、この世界で孤児院王となって哀れな存在を救うためかもしれない。
オワコンはもう勝手にそう思いこんでいた。
「いんちょー! 王様なんてすごいね。じゃあ私は王女様になれるのかな?」
『そりゃあいい! そしてあたしは女帝となるのさ。世界中の皆が、このエスメラルダ孤児院を崇めたてまつる日も遠くはないね!』
「院長は俺なんじゃないか?」
『じゃあ、独立戦闘帝国エスメラルダ・オワコン孤児院でどうだい?』
長ったらしい。
「名前は後回しにするとして、とにかく、まずは孤児を集めないとならないんだろ? 一体どうすればいいんだ」
見た感じ、こんな森の奥で孤児なんか居るわけがない。
シャルロットは捨てられていた所を保護されたらしいが、そう都合よく子供が捨ててある訳がない。
『安心しな。私には孤児をサーチする魔法が使えるのさ。厳密には人間の魔力を感知する魔法だけどね。前は半径300メートルだったけど、今のこの媒体なら、半径30キロくらいならいけるだろうさ』
そう言って、ババアはスマホの中で目を閉じ、精神を集中させるように黙り込んだ。
俺とシャルロットもその様子をなんとなく眺めている。
『居たよ。ここから数キロ離れた場所に孤児が!』
「マジかよ……有能なんだなババア」
『さっきからババアババアってうるさいね。あたしにはエスメラルダって名前があるんだよ。それに今はババアの姿だけど、魔力が完全に馴染めば元の若い姿に戻るさ』
ババアはぶつぶつとそう言った。
見た目が若くなっても300歳はやっぱりババアなんじゃないかなと思ったが、これ以上ババア議論をしている暇は無い。
そう、彼が一秒遅れただけで、救われるはずだった幼い命が失われてしまう危険もある。
彼には孤児のために世界を牛耳るという崇高な目的があるのだから。
『見つけたよ。今、あんたらにも見えるようビジョンを送るよ』
そう言った直後、スマホの画面に二人の人間の姿が映し出された。
先頭を歩いているのはひげ面のごついおっさんで、シャルロットと同じくらいの年代の女の子の手を引いて歩いていた。
栗色の髪をポニーテールで結った少女で、衣服も泥にまみれてごわごわだ。
おっさんは大分余裕そうだが、女の子の方は表情は大分疲労が浮かんでいる。
「親子じゃないのかこれ? 親がいるなら孤児じゃないのでは」
『いや違うね。持ってる魔力の質が全然違うのさ。あんたには分からないかもしれないが、親子の波長は似るんだよ。娘の方はかなりの魔力量を持ってるけど、男の方はただの戦士だね。血のつながりは無いよ』
「なるほど……つまり孤児ってわけか」
理由は分からないが、目の前に現れた孤児を救わないわけにはいかない。
それに、ちょうどテストもする事が出来る。
『じゃあ、あの二人をこの屋敷に誘おうかね』
「そんな事が出来るのか?」
『簡単さ。この森はかなり深いからね、なるべく歩きやすい道を作ってやればいい。あんたがこの屋敷に向かった時も、実はあたしが森の木々を操作していたのさ』
恐ろしい事に、この森はババアの支配下に置かれているようだった。
ババアの胸先三寸で、彼は樹海の養分になっていたかもしれない。
やっぱり魔女じゃないか。
オワコンがそんな事を思いながらスマホ画面を覗いていると、二人に気付かれないくらいの距離で、木が少しずつ移動して道を開いているのがよく見えた。歩きやすい道を選んでいるのか、二人組は順調にこの屋敷へと向かってくる。
なんとなく、餌を食べているうちに罠に誘導されていく動物みたいに見えた。
『さあ、さっそく初めてのお客さんをお出迎えするよ! あたしはこの姿で喋ると怪しまれるから、あんたの心にテレパシーで話しかけるからね』
「分かった。なんとかやってみよう」
正直、対人スキルが高いとは言えないし、どうやってあの孤児を保護するか悩む。
その時、彼はある考えを思いついた。
「シャルロット、さっき、何か役に立てる事は無いかって言ったよな?」
「は、はい。言いました!」
「なら頼みがある。あの女の子と『友達』になってあげて欲しいんだ」
「友達、ですか?」
俺の提案を聞いてきょとんとしていたが、シャルロットはすぐに表情を輝かせた。
「やったー! 私、同じくらいの年代のお友達って初めてなんです!」
「そうか、俺もお前が喜んでくれて嬉しいよ。これから俺は院長としてあの男の人と対話をしなきゃならないから、お前はあの子と仲良くしてやってくれな」
「もちろん! きっと立派なお友達になります!」
シャルロットは両手をぎゅっと握り、オワコンをまっすぐに見た。
「さあ、俺の院長としての初仕事だ。へへ……緊張してきやがったぜ」
オワコンにどこまで出来るか分からないが、あの疲れ切った女の子を絶対に救い出して見せる。
その思いを胸に、彼は来たるべき最初の決戦に向け、気合を入れ直した。




