第3話:孤児院レベル
『善は急げだ。まずはこの屋敷の説明をするよ』
花畑のある庭に戻ったオワコンとシャルロットは、スマホ画面の中でハイテンションで喋るババアを覗きこんでいた。
ババアは墓地送りにすると特殊召喚されるタイプのクリーチャーだったらしい。
スマホの本来のOSの役割を押しのけ、電子の妖精と化していた。
『とりあえず、孤児院レベルを引き上げる必要があるね。今の孤児院レベルは1だよ』
「孤児院レベル is 何?」
孤児院レベルという単語の意味が分からずオワコンは首を傾げる。
シャルロットの方を見るが、彼女も首を横に振る。
『仕方ないね。じゃあ分かりやすく図で説明するよ』
そう言うと、ババアの姿が消え、画面に部屋の見取り図のような物が表示された。
便利だなババアOS。もしも現代日本に戻ったら特許を取れるかもしれない。
『これがこの家の見取り図さ。レベル1だから部屋も広さも大した事が無いね』
間取りはちょうど真四角になっていて、中央広間から廊下が伸び、そこから7つの部屋に分かれていた。
廊下を中心に左右に3つずつ部屋があり、廊下の突き当たりに1つの部屋がある。
上から見ると、羽が六枚になったトンボみたいな形をしていた。
位置的に、一番奥がエスメラルダがいた部屋だろう。
RPGで言うとボスの間のポジションだ。
そして、その見取り図の右下に『孤児院レベル1』『現在の孤児数1』と表記されていた。
「孤児院レベルってのはなんとなく分かるんだけど、現在の孤児数ってのは?」
『文字通りだよ。この屋敷にいる孤児の数を現しているのさ。今はシャルロット一人だけだからね』
なるほど。ここまでくると後の展開がなんとなく予想できる。
「つまり、この建物に孤児を保護していけば行くほど、施設が大きくなるって事かな?」
『察しがいいね! その通り! 今空いている部屋に孤児を収監……じゃなかった。保護するほど、家は力を蓄えていくのさ。レベル2には4人くらい必要かね』
「となると、シャルロットを含めて最低あと3人は必要ってことか」
ババアのボス部屋の一番近くの右の部屋に『シャルロット』と表記されている。
一部屋ごとに孤児を保護していくたびに名前が浮かんでいくのだろう。
『孤児院レベルが上がればこの家はさらに巨大になるし、出来る事も増えてくるよ。そのうちそこらの城よりもでかくするのがあたしの夢なのさ』
「そいつはグレートだぜ」
今でもこじんまりとしたいい家だと思うが、ここにたくさんの恵まれない子供たちを保護し、みんなが笑顔になれる空間が広まるなら、それはきっと素晴らしい事だろう。オワコンはそう考えた。
「あの、いんちょー」
「何かな?」
いんちょーが『院長』である事にようやく気付いた彼は、シャルロットに優しく笑いかけた。
彼は何の取り柄も無い男だが、困っている子供を見捨てるほど落ちぶれていはいない。
あと一応、自称ではあるがそれなりに正義感はあると自負していた。
具体的に言うと、盲導犬育成の募金箱を見つけたら、十円入れるか百円入れるか迷うくらいである。
「私にも出来る事があれば、協力したいです!」
「うーん……今のところは元気でいてくれればいいかな」
「そうですか……」
彼の言葉にシャルロットはしょんぼりとうなだれた。
気持ちはありがたいが、彼自身もどこまで出来るか分からないのだ。
小さな子供を利用するなんてけしからんことは出来ない。
「というか、俺が院長で本当にいいのか? 俺は別に戦闘能力とか経営能力とか無いぞ?」
『そうかい? じゃああんたの能力でも測ってみようかね』
そう言うと、見取り図を消したババアがスマホ画面から俺を凝視した。
『ぬ、ぬおおおおおおっ!?』
「どうしたババア!? ぎっくり腰か!?」
『ちゃうわ! あんた、ちょっとそこの巨木をへし折ってみなさい』
「いきなり無茶ぶりせんといて」
何をとち狂ったのか知らないが、ババアは彼に大木をへし折れと言い出した。
この辺りに生えている樹は、大の大人が手を回しても届かないくらい幹は太い。
そんなものをぶち折れるなら、オワコンはサラリーマンではなく格闘家世界チャンピオンになっていただろう。
『いいからやってみなさい。あたしも驚いてるんだよ』
「いいけどさぁ」
仕方なく、彼はヤケクソ気味に大木を軽く蹴り飛ばす。
すると、まるでマッチ棒のように簡単にへし折れ、大木は轟音と共に倒れた。




