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第2話:ババアを墓地に送りターンエンド

 唐突に異世界の森で孤児院長をやってくれと言われ、オワコンは困惑した。

 だが、老婆は気にせず絞り出すような口調で先を続けていく。


「そうそう、私の名前はエスメラルダって言うんだけど、あんた、名前は何て言うんだい?」

尾綿紺鉄(おわたんこてつ)紺碧(こんぺき)(くろがね)と書くんだ。かっこいいだろう」

「どうかシャルロットと孤児院の事を頼んだよ……もう……お迎えが来たみたいだからね……新しい院長と幸せに暮らすんだよ……」

「お、おばあちゃーん! 待って! 私を置いていかないで!」


 シャルロットがオワコンの気持ちを代弁する。

 待って! 置いていかないで!

 オワコンはそう叫びたかった。だが、無情にも婆さんは二度と目を開けなかった。


 謎の婆さんエスメラルダは、オワコンのかっこいい名前の解説をスルーし、異世界へ旅立った。


「……俺にどうしろって言うんだ」


 何の説明も無く異世界に呼びこまれ、一方的に依頼を押しつけ退場したババアの亡骸を見て、彼は途方に暮れた。そんな悔いのない安らかな表情で永眠しないで欲しい。


 シャルロットはまだ子供で、亡骸に寄り添って泣きついている。

 彼自身も泣きたいのだが、さすがにこの状況で大人が泣くのもどうかと思うので我慢した。


 それから彼はババアの死体を担ぎ、洋館の裏に空いているスペースに穴を掘って埋めた。


「……ババアを墓地に送りターンエンドだ」


 とりあえずババアを埋葬し、墓標の代わりに手ごろな大きさの木を建てる。理不尽極まりない異世界召喚だが、一応死者は弔うべきだろう。


「ウウッ……おばあちゃん……」


 シャルロットはまだ泣いていた。


 この二人の関係性は詳しく分からないが、きっと親子のような関係だったのだろう。彼に元の世界でそれほど縁の深い人間がいないので、かわいそうだと思いつつも少しだけ羨ましかった。


「シャルロット……ババ……じゃなくて、おばあちゃんはきっとすぐ近くでお前を見守っているさ」

『その通りさ! よく気付いたね!』

「なにっ!?」


 彼はシャルロットを励ますために気休めの言葉を掛けた。

 その直後、なぜかすぐ近くでババアの声が響いた。


「ババア!? 死んだはずじゃ!?」

「あ、いんちょー! いんちょーのズボンのポケットからおばあちゃんの声がするよ!」

「なんだって!?」


 彼は慌ててポケットに手を突っ込み、スマホを取り出す。

 すると、液晶画面の中に、死んだはずのババアの元気な姿が!


「一体どうなってるんだ!? 心霊現象!?」

「わぁい! おばあちゃんが生き返った!」

「わぁいじゃないが」


 貞子じゃあるまいし悪霊になって復活したとかだと非常に困る。


『あたしは死を覚悟していたのは本当さ。何せ、あたしの魂が大きすぎて、魔力の器になる依代(よりしろ)がこの世界にはもう無かったからね。だが、あんたの持ってるこの魔道具は最高さ!』


 それからババアはさらに語った。


 ババアは禁忌と呼ばれる魔法を多数扱う事が可能で、その中には他の物体や生命に魂を移らせるものもあるらしい。


 だが、300年の間に魔力が強くなりすぎ、この世界でババアの力に対応する器が無くなったのだそうだ。


 それゆえ死を覚悟し、自分の生きた証を残すために後継者を探していたのだが、たまたまオワコンが持っていたスマホがババアにベストフィットしてしまったのだそうだ。


 iOSの代わりにババアOSが搭載されてしまったというわけだった。


「つまり、スマホが本体で俺はお払い箱って事?」

『それは違うね。この魔道具の持ち主はあんた。つまり、私はあんたの従者になった。あんたにはこの世界に呼びこんで迷惑をかけたのもあるし、この触媒をくれた恩義もある。だからあんたに従ってやるよ。この大魔女エスメラルダ様がね!』


 やっぱり魔女じゃないか。心配して損をした。

 オワコンは安心したような納得いかないような複雑な気持ちになった。


『これでようやく念願の孤児院運営が出来る。院長! あんたを全力でサポートしてやるよ!』

「そんな事言われても、俺、チームの長なんて修学旅行でもやったこと無いぞ」

『大丈夫さ! あたしの目指している孤児院は、通常の孤児院とはまるで違う。世界最強にして最高の孤児院なのさ!』

「世界最高にして最強の孤児院?」


 孤児院に最強もクソもあるかと思ったが、新たな力を得てハッスルするババアはものすごい早口でまくし立てる。


『そうさ! この家は私の魔力で作った成長する家なのさ! 孤児院を……育てて育てて育てて育てまくって、世界の全てをこの孤児院の傘下にするのさ!』

「なぜ孤児院が世界征服を?」


 彼の疑問に対し、ババアはわかっとらんなぁという感じで液晶画面の中で首を振る。


『いいかい? この世で争いが起こるのは、正義と悪の戦いじゃなくて、正義と別の正義のぶつかり合いなのさ。孤児っていうのはね、大体が戦争で親を亡くしてなる者なのさ。つまり、あたしたちが世界を支配すれば……』

「そうか! 俺達が世界を制すれば、戦争は無くなる!」


 オワコンは雷に打たれたような衝撃を受けた。何でこんな単純な事に気が付かなかったんだ。


 正義と別の正義の争いで悲惨な孤児たちが生まれるなら、オワコンが絶対的な正義になれば、誰も戦争を起こす気など無くなるだろう。


 つまり……孤児もいなくなる!


「わかったぜ! 俺にどこまで出来るか分からないが、婆さんの夢を俺が継ぐ! もちろん、シャルロットも大事にするぞ!」

「わーい! いんちょー! これからよろしくね!」

「ああ! 俺はやるぞ。必ずこの孤児院を至高にして究極最強の孤児院にしてみせる!」


 ババアの熱い思いを受け取り、オワコンは決意した。

 必ずやこの孤児院を世界最高の物にして、世界を絶望と恐怖から救うと。


 だが、この時は、シャルロットはもちろん、ババアも、オワコンですら気づいていなかった。

 絶望と恐怖から世界を救おうとしたこの男こそ、世界を混沌に陥れる者だったことを。

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