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起床。


朝起きたら、ここはどこなんだろう、と思った。


「?」


天蓋付きのふかふかのベッド、肌触りの良いワンピースのパジャマ。

全く覚えがない。


「えっと……?」


みはるが首を傾げること、1分。


「あ、ここ、異世界だ。」


寝惚けていたみはるは、ようやく現実に頭を切り替えた。

のそのそとベッドから降りる。

サイドテーブルには侍女を呼び出す為の呼び鈴が置かれていたが、みはるは手に取る事なく、洗面所へ向かう。


洗面所は浴室のすぐ隣にあった。

洗面所とは言ってもみはるがそう呼んでるだけだが。

脱衣所の台の上にお湯がはられた木の桶(ボウル?)と花びらと水が入った小さな木の桶、ふかふかのタオルが置かれてるのみだった。


しかし、ここでみはるは困った顔になった。


顔を洗うためのお湯はたっぷり木製の桶に入っているので侍女がみはるが起きる頃合いを見て用意してくれたのだろう。

しかし、現代人にとっての必須アイテム?とも言える洗顔料が無い。


昨日の入浴では良い香りのする花を水に浮かべ、その水を髪や顔、体に塗っていた。

石鹸ではなく、香り付けの意味合いが強いもの。


体の汚れについては布で拭うというのみで、それをお湯で流してから、侍女に体を清潔に保つ魔法をかけてもらった。


この世界ではその魔法が一般的に普及しているので、入浴するのは一部の貴族やお金持ちくらいで、魔法でささっと済ませる人の方が多い。


(入浴するって行為自体が贅沢として捉えられていそう……。)


どちらかと言うと、汗を流すための行為として水やお湯を浴び、その後に魔法で清潔な状態にする。

これが普通らしい。

冒険者や旅人の場合は、水浴びも無しで魔法だけ、ということも当たり前。

血や泥でどれだけ体が汚れていても、直ぐに綺麗になるので確かに便利だ。


ちなみに、「体を清潔な状態にする」事は出来ても、「汚れた服を綺麗にする」事は出来ない魔法なので、服や下着については洗ってもらわなければならない。


「服も一緒に綺麗になったら良いのですが…。」


と、説明してくれた侍女のそんな言葉が印象的だった。


(便利な魔法があるから、シャンプーも化粧水も無いのかな。

うーん、浴室があんなに豪華で広くても、水やお湯を浴びて直ぐに出るって事が多いのなら、すごく勿体ない。)


あの浴室を贅沢だと感じるのか、当然と感じるのか、それは一般庶民とお金持ちの差だろうか。


(いえ、お客様をもてなす為に必要だから用意したって事もあるよね。)


とにかく、出来ればシャンプーや化粧水は欲しい、というか作りたい。

確かに、清潔に保つだけならそんな物は不要だ。

しかし、みはるは個人的に欲しい。


(この先、異世界の気候で髪が傷んだりしないかなぁ…。)


水は肌に合ったようだが、この先、気候や色々な要因で体に異常が出ないのか心配だったりする。

まぁ、それも建前で、単にお風呂が好きなみはるがシャンプーやリンスが無いと落ち着かないって理由が大半を占めていた。


そこは置いとくとして。

みはるはお湯でパシャパシャと顔を洗った。

顔を洗うと、目が冴えたみはるは寝室に戻り、意を決して呼び鈴で侍女を呼ぶ。


(これ、慣れるのかな…?)


侍女は必ず1人は控えさせてほしいとアシードに言われたみはるは大人しく従っている。

監視役兼世話係と気付いているが、別に構わない。

それよりも、呼び鈴で侍女を呼ぶだけで精神的に疲れているみはるは、やはり庶民なのだろう。


あれこれ命令してほしいと昨夜、侍女達に言われているが、そんな事をしても自分は様にならないし、人に命令する事に慣れてはいけない気もする。


(朝からずっと考え事ばっかり…、やめよう!)


こんな顔をして侍女やアシード達に何かあったと思われても嫌だ。


「「おはようございます、ミハル様。」」

「おはようございます。」


みはるの寝室に入ってきたのは2人。

片方はアルティーヌという20歳前半の美しい金髪の真面目そうな女性。

もう1人はカイサ。

アルティーヌと同じ歳くらいで、明るい笑顔と褐色の肌、短い銀髪がトレードマークの女性だ。


「顔を洗ったので、魔法をお願いします。」

「かしこまりました。」


アルティーヌがみはるに手を翳す。


「ウォイス」


ふわり、とみはるの体を光が包み、昨日と同じで体が軽くなるのを感じた。

この魔法が、体を清潔に保つ魔法らしい。

詳しい原理はわからないが、体がすっきりしたので、今は深く考えない。


アルティーヌがみはるに魔法をかけている間に手早くカイサがカーテンを開け、陽の光が部屋に満ちる。


「ありがとうございます。」


笑顔で告げるみはるに、アルティーヌは一礼した。


「ミハル様、お着替えをお手伝いいたします。」

「え、あの、自分でしたいのですが…。」


揃って侍女2人に、それは駄目です、と返された。


(ですよね…。)


彼女達の仕事を奪うのはみはるの本意ではないので、お任せする。

アルティーヌが寝室を出て、みはるの服を持ってくる。

寝室にもクローゼットがあるが、中身は空っぽ。

召喚した女性はどんな体型か、その時にならないとわからないのに、事前に用意したら勿体ない。

何より、みはるは小柄なのに胸の主張が激しく、その割りに腰は細い。

…一般的な体型でないことは、みはるが一番、重々承知している。


そんな事もあり、みはるは昨日の入浴後に、侍女達に囲まれ採寸と好みの服を聞かれた。


(恥ずかしかった…。)


出来ればこの先同じ体験はしたくない。

その恥ずかしさのおかげでみはるの服は近い内、用意してくれるが。


「間に合わせの服で申し訳ございません。」

「いえ、可愛い服ですね。」


みはるは内心、フリルが沢山付いてたらどうしようと戦々恐々だったが、杞憂に終わった。

昨日答えた、なるべくシンプルな服で、の言葉が効いたのだ。


シンプルな紺色の無地のワンピースで、裾にはオレンジの糸で花柄の刺繍が入っていた。

全体的にゆったりしたデザインだが、だらしなく見えない。

確かに間に合わせと言えなくもない代物だが、着る本人に文句はないので、問題なし。


(下着も可愛かったんだよね。)


今着けている下着はシルクによく似た肌触りで、こちらにも刺繍が入っていた。


(可愛くて、着心地が良いのって大切だよね。)


後、サイズが合っていれば尚良し。

この下着はみはるのサイズに合っている物を用意してくれた。


2人の侍女に着替えを手伝ってもらい、


(恥ずかしい…、もうやだ…。)


などと心の中で何回叫んだのかは、みはるしか知らない。

侍女達もみはるが何を考えているのかはわかっていそうだが、何も言わないでいてくれた。

余計に恥ずかしくなったのは言うまでもない。


身分の高い人間は基本的に使用人に着替えも入浴も全てしてもらうそうだが、庶民のみはるからすると信じられない。


(他の人に自分の肌を見せるなんて!

そんな、そんな…。)


アシード達にも近い将来、自分の肌を見せるわけだが。

その辺りは現在、みはるの頭から何処かに行っている。


(絶対に簡単な着替えなら、自分で出来るようにさせてもらおう!)


侍女達には申し訳ないが、着替えくらいやっぱり自分でするべきだ。

いや、自分でしたい。


(こんな恥ずかしさ、慣れたくない。)


恥ずかしいと感じてる今は良い。

それを感じれなくなったら。


(…だめ、絶対にダメ!)


堂々と侍女達の前で服を脱ぐようになったら、もう人として駄目だと思う。

同性だとかは関係ない。

今までの16年で培ってきた恥じらいが他所に行くのが嫌だ。


「ありがとうございます…。」


顔を真っ赤にしてのお礼の言葉に、侍女達はきちっとお辞儀で返した。


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