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帰り道

また一週あいてしまいました。ごめんないさい。

どうにも日常が忙しいのですが、3章クライマックスに向けてできるかぎり頑張ります。

次話以降もよろしくお願いします。

 ショッピングセンターのバスターミナルでミクスさんと別れてから、僕はシズ子を探していた。


 寝坊してリハーサルに間に合わなそうになった僕をバンに乗せてくれた彼女に、——帰りは自転車で帰るつもりだけど、なにもお礼を言わずに帰るのは、ちょっと礼儀知らずと思ったからだった。


 広い、ショッピングセンターの中を当て所(あてど)なく歩く。


 明日のイベントの設営をシズ子がまだ手伝っていないかと、最初は会場に行って見たのだが、——いない。そこで、まだ残っていたフールズゴールド社の人に聞いたら、シズ子の受け持った分担は終わったので、彼女はショッピングセンターの中に行ってぶらぶらしていると言うことなので建物の中に行ったのだが、


「いないな。今日はもう無理かな……」


 僕は、思わず弱音を漏らす。もう30分くらい歩いて、シズ子が全く見つからないのだった。そりゃ、広い施設内、相手も歩き回っていたならば、なかなか出会えるわけもないとは思う。


 でも、そろそろ閉店まで1時間を切って、人もだいぶ少なくなってきたし、あの目立つ風貌と言うか、美貌のシズ子ならあえて僕から逃げ回っているのでもなければ見つかりそうと思うのだが、……さっきから二周したセンター内にその姿はまるでない。


 でも、


「まてよ?」


 僕ははたと思いついた。


 もしかして、僕は先入観に囚われて見逃してはいないだろうか?

 

 何をって? もちろんシズ子のことだ。僕は、無意識に、彼女が行きそうなところを一般常識で判断してなかっただろうか?


 女子高校生の行きそうなファンシーな雑貨屋や服屋。話題のスイーツや本屋の女性雑誌コーナー。そう言うところを中心に見てしまっていなかっただろうか?


 いやいや、シズ子が普通の女子高生ではないことはよくわかっている。


 リケ女と言うかエンジニア女子。略してエン女と言うと、なんだか別の意味でそうだから、略すのはやめるけど、——そんな彼女が好んで行きそうな場所も、特に注意して僕は探してた。


 標本や理科実験用具売ってる店とか、電気屋とか。本屋では、もちろん科学雑誌コーナーでは特に神経を集中する。


 でも、そうやって、無意識に探す場所を限定してしまっていたのは事実だ。


 ここは行かないだろうなって店は、正直、ちらっと見るだけで素通りしてしまっていたのだった。


 例えば、この民芸工芸品売り場なんて、


「えっ!」


 いた……。


 そこにはシズ子が、——真剣な顔をして皿を手に持ち、舐めるように眺める美少女の姿があった。


「これはなかなか……」


「シズ子?」


「カケル?」


 声をかけると、振り向いたシズ子が言った。びっくりしたような顔。あまりに集中して、僕が近づいても全く気がつかなかったようだ。


「こう言うの好きなの?」

 

 その皿は、おしゃれな雑貨屋にあった、可愛かったり、洒落ていたりするようなものではない。

 

 ちょっと無骨な感じがしないでもない、渋い色合いの、一見何の変哲も無いような丸く平たい皿だった。


 良いものなのかもしれないが、女子高生が好んで手に取るようなものとも思えなかったが、


「……好き」


 シズ子はコクリと頷くだった。


「——カケルの次くらいに……」


「………………」


「………………」


 無言。


 自分で言って真っ赤になっているシズ子。その沈黙に耐えられずに、下を向いた僕の顔も真っ赤で、気まずい雰囲気のまま、二人して黙りこむ。


 でも、


「民芸品は良いもの」


 今までの事は、まるで無かったかのように、少々わざとらしいくらいに淡々と話を戻すシズ子。


「そうなんだ」


 もちろん僕も、余計な突っ込みは無しでシズ子の流れにあっさりと乗っかる。と言うか、最初に話そうと思ってた話題に戻す。


 機械や基盤いじりなんかが好きなシズ子が、こう言う手作業の民芸品が好きだなんて、


「意外だね」


「意外……? なんで?」


「だって……もっとメカメカしいのが好きなんだって……」


「カケルそれは考えが浅い。私は同じ(アート)を好んでいるだけ」


 アート?


「アート。技術と言うこと。語源は腕、アーム、手を動かして作る成果物。それがアート」


「でも、焼き物つくりとメカニックではだいぶちが……」


「……わない」


「わない?」


「違わない。むしろ、私の中では恐ろしいほど同じと言っても良い」


 で民藝運動について話し始めるシズ子。大正時代に、雑誌白樺の同人(ってなんだ?)でもあった柳宗悦と言う人が、それまでは美術的には無視をされていた無名の工人の作になる日用雑器、朝鮮王朝時代の美術工芸品、江戸時代の仏像などを評価しようと始めた運動。熱烈な歓迎と、強烈な批判の元にさらされながらも、現代まで至る民芸品と言う概念と、その美の方向、推進力を作り出した運動だったと言う。


「その民藝運動の中で職人の手技(てわざ)についてはこんなふうに言われている——その腕の動きに意識や個性があるうちはだめだと……何回も、何千回も、何万回も器をつくり、手が余計な作為や妄執を忘れた時に作品に本当の個性が出る」


「…………」


「——私は、技を繰り返して、無の境地のような心境に至った職人の、曇りない鏡のような作品に映るのは……その周りの世界なのだと思う。その境地は私がエンジニアとして目指すところと同じ。私は自分の作り上げるものに世界を映しとりたい、なぜなら……そこには……る……」


「なぜなら……」


 ん? 


 また下を向いて赤くなるシズ子。


「……いるから……か、か、かかかか……」


 うん。これから始まることの予想がついて、思わず腰が引けて、一歩後ずさる僕だったが、


「カケルがこごにいるからだべった!!!!!!!!!!!!!!!」


 テンションマックスで叫ぶシズ子に、僕も思わず下を向いて、そのまま黙ってしまうのだった。


   *


 そのあと、すぐに閉店となったショッピングエリアから無言で退散した僕らだった。


 そして、まだ少し明日の準備が残っていると言うフールズゴールド社の人たちに合流したシズ子に、最後に、今日車に乗せてもらったお礼だけ言うと、僕は一人で自転車で家に向かう。


 舞からは、先にバスで帰っているとSNS入ってたので、別に急ぐ用事もない土曜の夜、僕は梅雨の晴れ間の満天の星を眺めながら、ゆっくりと自転車を走らせるのだが、


「あれ?」


 ショッピングセンターのある国道から外れ、市の中心部に向かう細い路地に入る時、何か強い視線を背中から感じ思わず振り返る。


「…………え」


 その路側帯に止まった黒塗りの大きな車の後部座席のウィンドーが下がり、その中から僕に向かってにこやかな表情ながら、凍えるような視線を浴びせるのは、


「母さん……?」


 まさか?


 そんなはずはない。


 もうとっくに天国にいったはずの母さんがそこにいるはずはないのだが、……僕は、なんだか背筋にとてつもない寒気を感じながらも、「それ」に期待し、「それ」に蠱惑される。


 でも、


「……あの、ちょっと道をお聞きしてもよろしいかしら?」


 いつのまにかぼんやりと宙を眺めてしまっていた僕は、もう一度、車の後部座席を見直すが、——そこにいたのは全然別人。まるで人形のような、偽物のようなな感じだが、怖いくらいに綺麗な若い女の人だった。


「は、はい」


 僕は、自分がなんだか変な見間違いをしていたことに恐縮しながら、聞かれた場所を答える。


 慌てて。


 だから、頭にちょっと浮かんだ、こんな夜中に、なんで墓地なんかに向かうのかと言う疑問について、深く考えることもせずに、何となくスッキリしない気分のまま、僕は家に向かって自転車を走らせるのだった。


 この時は、まだ、この女性とあった意味もわからないまま……。



 


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