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デート?

 ミクスさん?


 ショッピングセンターのフードコートでの、意外な人物の登場にびっくりした僕であった。


 だって、


「ミクスさんもここに来るんだ」


「私が? 来る?」


 ミクスさんは葉羽市の商店街の近くのお屋敷街に住んでいる旧家のお嬢さんで、なんでもお父さんは弁護士をやっていて、商店街の人たちにも頼られるまとめ役をやっていると聞くのだが。


 だから、


「商店街に関係深い人たちは、ここ嫌ってると思ってて……」


「えっ?」


 意外そうな顔のミクスさん。


 このショッピングセンターができてから商店街の人通りが少なくなったとか、良く聞くし……


 ここができるときには反対運動とかもあったとか聞くけど……


「嫌ってる——わけでもないの?」


 あいまいに首肯するミクスさん。


「確かに、商店街にそんなふうに思ってる人がいないわけじゃないけれど……」


 そして、ちょっと考え込んで、無言になるミクスさんだった。


 僕は、なんだか、商店街に縁が深いミクスさんに、答えづらいような話題をだしてしまったのかと反省して、


「でも……まあ、じゃあその話は置いといて……」


 話題を変えようとするけれど、


「いえ——うん、そうだカケルさん?」

 

 そんな僕の言葉は無視されて、


「は、はい?」

 

 なんだか悪戯(よいこと)思いついたみたいな、ちょっと悪い笑みを浮かべながらミクスさんが言う。


「質問の答えは、この後あることしてもらったら教えるでもいい?」


「え? 『あること』?」


「そう、あること。とても簡単なことよ」


「簡単……? まあ、僕にできることなら」


「そう、やった。じゃあ、お願いね。とても簡単なことだから」


「……? 分かったけど、簡単なことって何?」


「ふふ、とても簡単なことよ。でカケルさんにしかできないことなの?」


「僕にしかできないこと? そんなことなにかあるかな?」


「あるわよ。それは……」


 なんだか小悪魔っぽい表情を浮かべながらミクスさんは言うのだった。


「カケルさんが、私とこの後デートするってことでした!」


   *


 僕が焼きそばを食べて入る間、頼んでいたクレープができあがってミクスさんが取りに行くが、その瞬間、なんだか背筋がゾットする。


 なんだ? と思ってまわりを見渡すと、ーー僕を殺すぐらいの勢いで睨む眼光を何個も見つける……


 ——ですよね。


 ミクスさんと仲良さげに話している男。それはもう同じ高校の連中からすれば殺戮対象と言っても過言ではない。


 そして、土曜のこのショピングセンターに我が校の男子生徒が皆無というわけはなく。と言うか、やっぱり結構ごろごろといて、


「…………」


 僕は、針のむしろとはこのことか、と言うような、なんとも苦しく、以後ごちの悪い状況になるのだった。


 なにしろ、もう葉羽高校男子の三分の一から告白されているミクスさんであった。


 いや、その情報は一週間前のものなので、今は二分の一になっていてもおかしくはないが。


 ともかく、ミクスさんと一緒に親しげにしていると言うのは、ちょっと命の危険を感じないでもない状況と言えるのだった。


 しかし、


「おまたせしましたー」


 当の本人はお気楽な感じである。


 抹茶クリームのクレープとアイスティーを持って僕の向かいの席に座り、


「ふふ。こうやってると本当にデートみたいですね」


 本当に「みたい」。と言うことは「本当」じゃないって思ってるんだよね。やっぱり。


「でも……カケルさんが良いなら、じつは本当にしたいななんて……」


「えっ……」


 僕は絶句して、言葉につまるが、


「ふふ、冗談ですよ。悪いもん。コン子ちゃんに……」


「いや、コン子は……」


「幼馴染で——そんな関係じゃない……ですか?」


「それは……」


 単にミクスさんの言葉を肯定すれば良いだけなのに言葉につまる。


 その意味は、自分が、僕自身が一番良く知って入るのだが……


「良いですよ。それでも。なら構いませんね。少なくとも今日くらいは——カケルさん占有しても……。でも、コン子ちゃんには秘密ですよ。こんなこと知ったら、あの子、本気で怒っちゃいそうだから」


 僕以上に、僕の気持ちを見透かしたような瞳で見つめながら、ミクスさんは面白そうに笑う。


「いや、コン子怒るわけないと思うよ……」


 なぜなら、


「……コン子ちゃんは、カケルさんと私をくっつけようとしている——ですか?」


 と、当人に面と向かって言われると、なんだかどう反応してよいか微妙な心持ちで、微妙な表情になる僕であったが、


「でも——カケルさんわかってるんでしょ?」


 僕は、ミクスさんの言いたいことを理解して首肯する。


「うん。それで良いのです。あの子の強情っぱりすぎて、素直になれなくなってしまっているところわかって上げてほしいって……そんなことカケルさんには言わずもがなかもしれませんが……」


 僕がまた首肯すると、


「……ふふ。でもそんな素直に反応されると、なんだか天邪鬼な気持ちになって——邪魔をして見たくもなりますね」


「…………?」


「例えば……」


 ニヤリと、口角をちょっと上げて、かなり悪い顔のミクスさんは、


「あーん!」


 はい?


「ほら、カケルさん。あーん!」


 ミクスさんは自分が食べかけのクレープを僕の口元に持って来て、


「あれ、カケルさん? さっき、カケルさんにできることなら何でもするっていいましたよね?」


 いや、「何でも」とまでは言っていないだろ。「できること」ならとは言ったが。それも言葉のあやで。


「もしかして、カケルさん? 私の食べかけなんて嫌なんですか?」


 いやいや。ミクスさんの食べかけがいやとかでなく——というかミクスさんの食べかけのクレープのためには命を差し出しても良さそうに思ってる男子連中が、僕の一挙手一投足を見守っているから……その視線に耐えられない僕は固まってしまっているのだった。


 もしこのクレープをここで食べてしまったら、男子の嫉妬で、フードコートに業羅が大量発生してもおかしくないとか思いつつ。


 でも、


「ふふ。嫌でも食べてもらいますよ。何でもするって約束したんですから。ほら、あーん!」


 ミクスさんは、思いついた悪さを、あくまでやめる気はないようだった。


 なら……。


 む、ままよ!


 僕は、このまま猫にいたぶられている状態が続くなら、——窮鼠猫を嚙む。


 思い切って、差し出されたクレープにかぶりつこうと口を大きく開いて、顔を前に出すが、


「兄さん、ミクスさんなにやってるの?」


「舞?」


「舞ちゃん」


 こう言うときにたまたま現れる確率が神がかっている(いや本当に偽神(かみ)なのをあとで僕はしることになるが)妹の舞が現れるのだった。


「二人で——もしかしてデート?」




「「ち、違います!」」




 舞の言葉に、ちょっと前までの自分たちの行動を思い出して、顔を真っ赤にしながら声を合わせて否定する。僕とミクスさんなのであった。

 

 


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