後編:俺達の隠しルート攻略はここからだ!!
というわけでキリルの魔法と髪をまとめたりと身支度を手伝ってくれたサトコちゃん、ほぼ付いてきただけのテオと一緒に貴人牢を脱出。
ここまで断罪開始からおよそ1時間。なにこれタイムアタックかな?
そのままサロンの1つに滑り込むと、既にフレディムとアレオス、それにエリックが待っていた。
「おーお疲れー」
「とりあえず飲む?」
「学生の飲み会か!!」
「まぁまぁ姉上、喉渇いたでしょう。サトコさんもキリル先輩も。はい、檸檬水入れときましたんで」
「さんきゅーエリックくん」
「あの……俺は……」
「殿下は特に役に立ってなさそうなので手酌してください」
「ひどい!」
うちの弟ってば容赦ない。でも正解。
一気飲みした檸檬水は程よい甘さと塩分と柑橘の香りが最高に……ん?
「す……スポーツドリンク!!」
「そうそう俺が唯一活かした前世チート!!」
なぜかVサインしているアレオス。
「やっぱ夏の鍛錬とか水だけだとどうしても塩足りなくてさー自作したら割と流行った」
「マジか……」
「ただどうしても砂糖が品薄になりそうでして、うちの領地の北側で細々やってた甜菜糖の栽培の拡大と製糖の効率化を取り入れて」
「海賊を取り締まるついでに塩田作らせてミネラル含有率の高い海水塩の流通も上げてみた」
横からフレディムと、結局手酌で檸檬水もといスポーツドリンクをコップに注いでるテオが順番に口を挟んでいる。
「もう結構な食事情革命起きてそうね……」
スポーツドリンク1つ再現するだけでこれだけ産業が起きるとはいわゆる現代チートってばすごい。
ありがとう21世紀初頭地球の技術力。
「ごめんね前世知識とか魔法の習得に極振りしちゃってたわ……」
「いやそれはそれで必要だったと思う」
「そうそうおかげで転生者同士集まれたわけだし」
「あたしもステータス上げと魔法習得に特化してたし」
みんなのフォローが優しい……転生者だと気付いて以来の孤独感が癒されていく……。
「あ、で、これからどうする?」
とはいえこの学生の飲み会みたいなノリは懐かしすぎて逆に慣れないな! 学生時代だったのとか転生後も含めたら25年くらい前なんだぞ!
確かにエレーンとしての年齢は学生相当だけど、未来の王妃内定者に夜遊びの自由なんてあるわけないんだからマジでこのノリ25年ぶりなんだよね! やばいそう考えると凄まじくおばちゃんの気分になってきた。よしもう考えるんじゃない飲むんだ。スポドリを!
案外みんな怒涛の展開に疲れていたのかしばらくやたらとだれた雰囲気の後、とりあえず今後の方針について話すことにした。
「結局のところ処刑されたものの、私の魂が浮遊大陸の人間の1人に憑依しちゃうんだっけ」
「そうそう。浮遊大陸は『魔神に連れ去られた世界』として異次元的なとこに持ってかれた……えっと何年前だっけ」
「732年前、セレソン帝国歴238年のセレソニア大陸消失事件」
「おお流石はヘタレでも王太子」
「誰がヘタレだ!」
「殿下」
「殿下」
「殿下」
「殿下」
「テオ」
「はい僕も殿下なので満場一致でヘタレ殿下決定」
「俺は反対!」
「当人に議決権なし!」
「そんなー」
そういうとこだよテオさんよ。
いやまぁ今は強権を以て治める情勢じゃないし、むしろこれでいいんだろうけど。
「つーことは732年間、この世界から実質的に隔絶されてんのか」
「確かエレーン嬢が自分の持つ魔法を『神の啓示』と称して伝授して信頼を得た上で、儀式魔法でこっちの世界に転移させてきたんじゃなかったっけ」
「それだけ聞くと私って割と悪役じゃないよね」
「でも最終的に落とす気満々だったから」
「そうだった超悪役だった……」
「でもどっちにしろ結局、大陸の転移が成功したのも魔神の影響なんだっけ?」
「うん、魔神がえっと……何か昔のとこれからのと、両方の転移に関わってるはず」
「なんかしてなんかしたよね」
「駄目だアレオスの前世記憶が筋肉に呑まれてる」
「いや違う、あれはそもそも記述がかなり曖昧だったはず」
「ファンブック1だと魔神の存在の示唆までだったよね確か……」
「そうだファンブック! 2の予約したまま死んだ!」
「うわああ私もだ!」
「僕も!」
「惜しいことをした……!」
「やっぱり発売日までは死ねなかった……」
「発売日いつだっけ」
「私が死んでからは半年後」
「流石に無理では?」
「無理だね!」
「誰かファンブック2見れた人ー」
「僕買ったけどその帰り道で事故った」
「悲惨……」
「つまりいないんだね」
「うん」
「そうみたい」
「じゃあ魔神に関してはとりあえず不確定事項として、まずはゲーム通りに事態が起こると想定していきたいと思います」
「異議なーし」
「異議はないけど質問!」
「はいエレーン様」
手を挙げて司会モードのサトコちゃんに発言許可をもらう。
これはサトコちゃん……前世で学級委員長とかしてたタイプかなぁ……。
「私、転移はできるけど憑依はできない」
「あ、転移はできるんだ」
「座標さえわかれば。要するに時間と空間は同じなんだよ」
「……?」
頷くキリルに対して頭にはてなマークを浮かべるその他。
「『どこに行くか』を決定してそこに魔力のアンカー作って、そのまま自分をそっち側に引き寄せる感じ」
「そうそう魔力手繰ってね。時間も空間も『ここ!』って念じれば行ける」
「つまり俺のエレーンってすごい」
「もう殿下はその理解でいいよ」
それでいいのか王太子。
満足気にしてるけどいいのか殿下。
「なので相対性理論のタイムマシンとは逆で、過去にはそれなりの精度で行けるけど未来には行きにくい。座標特定しづらいんで」
「相対性理論……?」
「あー……ほらウラシマ効果、聞いたことない? 光速に近い宇宙船で旅行したら自分以外が年を取ってる、つまり原理的には未来へのタイムマシンになるっていう」
「あっなんか学習漫画で見た!」
「さすが俺のエレーン」
「はいはい」
「で、えーと憑依はできないからどうするかって話だよね」
「そもそも姉上死なないからね」
「逆に言うと肉体伴って行動できるし……ん? 転移って何人くらい行けるの?」
「え、私と手を繋いでれば何人でも」
「集団行動し放題じゃん!」
「じゃあ信頼出来る護衛とか付ける?」
「えっ待ってそれってエレーンと別居……」
「元から同居してません」
「む、無理! 俺も行く!」
「いや駄目でしょ王太子殿下」
「今から廃嫡されてくる!」
「無茶言うな一人っ子!!」
「又従兄弟とかいるもん!」
「遠いわ!!」
とりあえず部屋を飛び出していこうとしたテオをアレオスが羽交い締めにし、その間にキリルが拘束魔法をかけてソファに転がす。
ナイス手際。一国の継承者にやるのはどうかと思うけど今のは緊急事態だよね。うん!
「でも結局は転生者じゃないと強制力が働くからなぁ」
「あー」
「確実性を期すなら俺らで分担する方がいいのか」
「じゃあ俺が!」
「殿下はどう転んでもこっち側だから」
「くすん……」
「あ」
「ん?」
「姉上なんか思いついた?」
「つーか全員で行って、いろいろ解決したら行った直後に戻ってきてこっち側での受け入れ態勢整えれば良いじゃない」
「できるの!?」
「てか同一人物が同時に存在していいの!?」
「そこはいろいろ実験したけど大丈夫、2時間分授業受けてから2時間分他の授業受けても両方のノートと両方の出席記録が残ってたから、他人の手を介しても成果は両方残るみたい」
「よく考えたらアリバイ作り放題だな……」
「怖いねえ」
「エレーンちゃん他人事みたいに言わないで!?」
「大丈夫俺のエレーンだし」
「謎の信頼……」
なんか皆の私を見る目が畏怖とか恐れって感じになってるけど――ともあれ。
「とりあえず適当に一室、それなりに空間ある部屋貸してくれたら処刑終わるまでに儀式場作っとく。あ、キリルは浮遊大陸の座標特定だけ手伝って」
「あー……本来なら不可能だけど、知識として『どこにある』のか知ってるし、元がどこの大陸だったかもわかってるから可能か。了解」
「あっさり凄まじい高度魔術の話が進んでる……」
「どうしても特定できなかったら直接セレソン帝国までタイムリープしてアンカー埋め込んでくればいいからなんとかなると思う」
「過去改変……」
「むしろ絶対敵に回してはいけない人材では?」
「だからエレーンは凄いんだって」
「推し事になると殿下の語彙力が下がりすぎて困る」
「お、推しなだけじゃないし! 婚約者だし!」
「推しなのは認めるのか…」
「そりゃもう前世から」
「じゃあとりあえず僕の研究室の実験場使っていいよ、認識阻害かけとくんで」
「助かるー。戻ってくる用のアンカーも埋め込むけどいいよね?」
「それはもちろん。基本的に僕の魔力と一致しないと出入りできないけど、食事は配達されるからそれ食べてていいよ」
「なにそれ便利!」
「だって研究始めると誰も食堂に来ないんだよ魔術師」
「あー」
「わかる……」
「えっでもエネルギー続かなくない?」
「持ち込みの保存食とかポーションとかあるから……」
「うわぁ」
「健康の概念が皆無」
「なので食事は各部屋に転移させて、2時間くらい経ったら再転移るようになってる。食べたらトレーは元の位置に戻しといて」
「給食みたい……」
「それ僕も思ってた」
「よーしそれじゃ借りるわよ実験場。またわたしの処刑後にねー」
「はーい」
「すごいシュールさだな……」
「というわけで殿下、一緒にお出かけできるからそれまではお仕事しますよー」
「待って襟首掴む前に拘束魔法解いて!」
急にRPGらしくなってきたなー。
でも同じ目的に向かうのが1人じゃない、仲間がいるって事実に、私は久しぶりに心から安心して笑った気がした。
3日後、私の処刑とそれに纏わる諸々の手続きをとりあえず終えたみんなと合流し、私達は今はこの世界とは別の次元にある浮遊大陸へと飛んだのだった。
その頃。
「ちょっと皇帝くーん! なんか悪役令嬢だけじゃなくてヒロインと攻略対象も全員来てるんだけど!」
「落ち着け魔神」
「落ち着けないよ! 悪役令嬢来たらなんとか懐柔したり協力したりして穏便にどうにかしようと思ってたのに全員だようわーん!」
「てかそれゲーム本編と流れ全然違うし、あっちも誰かは転生者じゃないのか?」
「そうかもしれないけど……でもあたしも期待されても何の役にも立たないよ」
「知ってる」
「うわぁん!」
「自分で言ったんだろ。何だっけ? 転移させた直後に魔神に転生してたんだっけ?」
「しかも魔神の記憶は一切ない!」
「神殺しじゃんおめでとう」
「ううう嬉しくない!!」
「まぁいいや、とりあえず彼ら召喚してみて考えようぜ」
「えっ呼ぶの!?」
「話さなきゃ始まらないだろ」
「で、でもでも皇帝くんは隠し攻略対象だけどさぁあたしは普通に敵だし……」
「えーと今どこにいるんだっけ? テレソムの村?」
「ひーん聞いてない! そうですテレソムの村です!」
「とりあえず迎えの騎士と馬車出しとこ」
「聞いてないー!! いやだ悪役令嬢と心中すらせずに殺されちゃう! モブみたいに! モブみたいに!」
再度の「お前ら全員転生者かよ!」が飛び出すまで、あと数日。




