第捌話 黒幕
前話でロボ出ましたね。
次は黒幕です。
地球の真横を一定の距離と速度を保って周回する唯一の衛星――月のその片面は決して地球側に姿を現さないという。我々が見ることができるのは人工衛星やロケットを駆使して撮影された月の裏側の写真のみであり、実際にそこへ赴き本当の姿を直の目で見た者は何人いるのだろうか。都市伝説の類いではあるが“月の住人が地球人に隠れて生きている”、“絶大な軍事力を持ったイルミナティなどの機関が地球では倫理規定に反する新兵器の開発を行っている”など様々な憶測を、残念ながら誰もそれを否定することはできない。何故なら貴方が見ているその月の裏面の写真も捏造された事実かもしれないからだ。
今、月の裏面、その最も深く巨大で光すら差し込むことを許さない“アビス”と呼ばれるクレーターの底で三人の作られし人造人間達が塵と芥以外何も見当たらないその空間で一人の創造主の帰還を待ち望んでいた。
その内の一人、魔王と呼ばれし男がガラクタを手に話を切り出した。
「貴様が用意した巨大兵器だが、この通り少しの残骸だけを残して消滅した」
「仕方が無いだろう。僕の用意した試作品のコアをたった二つしか君が持って行かなかったんじゃないか、そりゃあ向こう側にあんな巨大ロボ使われたら結果は目に見えているだろう」
帝王という名の男が反論する。
「では、貴様が言うだけのコアを集めたならば内包エネルギーは先の何倍になる?」
「二千万倍かな?誤差はあるだろうがそのくらいだね。国一つは余裕で落とせるさ」
恐ろしい事実をさらっと言い流した帝王に覇王と呼ばれる男が話を遮った。
「正解ですよ。それだけの破壊力はまだ彼女らには早すぎます。今はまだ機会伺う時です。審判をするのは我々ではない彼女ら自身なのですから」
「そうだな。我々の悲願が叶う日まで気長に待つとしよう」
人の目が届かないその場所で彼らの談笑は続く。だがもしそこに一筋の光が射したならば、皆一概にこう反応するだろう。“なぜ皆同じ顔、同じ声なのか”と。
◆◆◆どこか別の場所
「今日も精がでるね、ガラテア。少し休んだらどうだい?」
黒いローブに身を包み、行き場のない憎悪を募らせた死人の顔を象った仮面を被る男が、実践訓練中のレイナへと話かける。
「向こう側の奴らを出し抜かなくちゃ!その為にはこのロボを私の手足のように動かせなくちゃ話にならないわ。そのくらいあっち側も可能にしてくるでしょう。またあの時にような悲劇は起こさないって誓ったの!血反吐を吐いてでも成し遂げるわ
「偉いね。私は君のような優秀な娘を持てて幸せだよ。世界は君が守るんだ」
「任せて!!」
レイナは父のその言葉に飛び切りの笑顔で返す。そしてそのままジャック達の元へと駆け寄り再びロボの操縦を始めた。
「本当に、君達の未来が楽しみだよ。どっちもね。ディストピアかユートピアを決めるのは君達自身なのだから」
レイナ達には聞こえない声でそう呟くと仮面の男は腕につけたアドヴェントスーツから発せられる振動を感知し連絡を確認する。彼のリングにはこの時代では普通成し遂げられない技術が使われた特別の通信機能が付与されていた。
『帰還の時刻です。布石は順調でしょうか』
「ああ、問題ない。彼らはよくやってくれている。次はそちら側だね。運命を割るのすら我々にとっては苦では無い。これまでの正義無き世を渡る苦痛に比べればね」
『その通りでございます。こちらで、アビスでお待ちしております』
「分かった。直ぐに向かおう」
◆◆◆
アビスの中心に宇宙空間では聞こえない筈の轟音と真空を貫く振動と共に黒い稲妻が走り、空間に時空の裂け目が出現する。空間の裂け目徐々に広がりを見せそこより出で立つ一人の男。それは先にレイナと会話していた仮面の男であった。
彼の目の前には跪く三人の王達。
「久しいね。元気にしてたかい?魔王、帝王、覇王」
「「「はっ!永くお待ちしておりました。我々の神よ」」」
そうして仮面を外した男の顔は他の三人の男共と全く同じ容姿をしていた。
「うん元気そうだね、何よりだ」
黒ローブの男は手のヒラに魔力を込めると射映機の姿を模した黒い物体が創造されその物体は空中に過去なのか未来なのか壮絶な大戦の様子を映し出す。
「ヴィジョンは見えているだろうか。本当の正義と安寧は自分自身を超えたその先にこそあるものだ。本物の悪とは自分の心の中にこそ存在し、そこに現れる英雄は絶大な信用のおける他者で無くてはならない。その為の準備もあと少しで終わる。君達のおかげだ、ありがとう。」
少しの間を空け話は核心へと迫る。
「時空を超えた世界と世界との聖戦の先に我々の求めた正義は存在する。たとえどちらかの世界が崩壊したとしてもだ。付いてきてくれるね?」
「「「はい。仰せの通りに」」」
着々と悪の準備は整っていた。
複数の世界線って概念を最初に考えた人天才過ぎません?
なす