第玖話 接続、そして降臨
だいぶ遅くなりました。
以前ここには雄大な自然があり、つまり命に溢れていて、古代の文化から残された建築物とも調和していたという話だった。これは昔話などではなくつい数ヶ月前までのことで、私は観光に来たことさえあった。地面は抉れていないところが無く、辺りには処理の追いついていない死体が散乱していて、そこを作業着の人、とその操っている機械がひっきりなしに往来している。しかしその顔はおよそ活動的とは言えないもので、むしろそこら辺に転がっている死体の表情に近かった。
そしてこの地獄の様な景色の真ん中に、矛盾ともとれるくらい綺麗な構造体がそびえ立っている。私は手に持っている刃物を、三十分の間、これに振り下ろしていた。
「ダメです、この組織は」
先ほどから何度も何度も打ち付けた超高周波単分子ブレードはもちろん、超巨大兵器の表面は傷一つ付いていない。
「おそらく現在我々の持つ、あらゆる手段を用いても破壊不能です」
私の手が壊れそうだ。先ほどから向こうでは大きい音がしているが、大規模な装置でも試しているのだろう。触ってみるとそう固くもなさそうなのにな、もう一、二発突き刺してみるが傷は付かない。というか刃物が届いている感じがしない。触れるのだから存在はしていると思うのだけど、多分、おそらく、これは壊れるようにできていない。
「もういい、わかった」
「えっと、この中には」
「分かったといっている」
この中には組織有数のヒーローが閉じ込められているんですよ。そんなことは言わなくても分かっていて、この強面上司も不安で仕方が無いのだ。
この事件で、戦力は確実に半減している。治安は目に見えて悪くなり、ヒーローの中にも暴力的な思想がちらつき始めた。
本当の戦いはこれからだというのに。世界の終わりってこんな感じなのかな、なんて、もう一回筺櫓模表面に刃を振り下ろした。
ようやく刃に血が付いた。鈍い痛みがあった。感覚を追うと、右手の血豆がつぶれていた。
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『これは平行に存在する総ての義務である』
筺櫓模から現れたのは単車型戦闘車両に跨がる仮面の人。人型の何か。腰に装着した帯状のものが怪しく発光し脈打つ。力についての明瞭な象徴だった。
ーーーーーー〈平制大戦〉。
それはあらゆる媒体でこのテキストを送信した。
曰くーーーーーー筺櫓模は門である。ここより数多の平行世界の君たちが訪れる。その戦場もここである。この宇宙は戦うまでもなく滅びるのであるから彼らを歓迎するのが役目と心得るべし。
門の素材になった現宇宙最高戦力のレイナは、それでも平行に存在する彼女らの中でも最弱だったらしい。
そのレイナも今はいない。ここは他宇宙の踏み台にされ、消えていく。
仮面騎士はそれだけ言い残し去って行った。最終回の報せは突然で、打ち切りに怒る者も多かった。しかしもう終わりなのだ。世界は終活を始め、ゆっくりと腐っていく。
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広い景色ってのはどこにでもあるもんなんだな。どちらかというと小さくまとまったような海辺の町に生まれた僕だけど、とにかくだだっ広い風景のほうが馴染みがあった。ラクダが無限に思える砂原に足跡が一筋続いていた。旅の跡。後方にオレンジ色の太陽が溶け、砂と日差しを防ぐために顔を覆っていた布を取る。空気に砂が混じっていた。新鮮な気持ち。この旅にもし目的が無ければ最高だったのにな。うそうそ、今も最高だよ。なんて。前方には今日の目的地、大げさすぎる、今日泊まる宿がみえてきた。
「あとちょっとだ」
ラクダはスピードを上げた。砂漠をいくために最適化されたその身体は、今日一日殆ど休まず来たとは思えないくらいしっかりしていて、いや生物ではないんだけど。驚いてみると案外楽しいもんだというのは皆は知ってるよね。ライフハック。旅に必要な技術、特に景色が何日も変わらな時には。こういう風にとりとめの無いことを考えていれば、あっという間に宿に着くわけ。これ殆どラクダのおかげなんだぜ。
コンコン、ノックして、もしもし。
返事がないので勝手に入る。この、三秒開く気配がなければ扉に手をかけるまでの動き。慣れたものよ。でも一歩間違えると普通に攻撃される。僕は免許を持っているので許される。何の免許かって? 話は後です、今目の前に暴漢がいる。
「おう、姉ちゃんよ。すまんな今取り込み中なんだわ」
みたいなことを言っているような気がする。言い返さなきゃと思ったら、私の口が勝手に動き、多分文句を言っているんだな。
「あとで、さ、相手してやるからさ。おいお前達つかまえとけ」
わらわらわら。いやきもちわりいな~。今回そこそこ数減らしたらしいじゃん、もそっと少なくするべきでは。殴れ! ろくなものじゃない。人間の話。蹴る! うわ、痛そう。やり過ぎた。いくら悪人でもここまで、いやボコボコですんでいるだけマシ。顔面骨折は治るよ。多少イケメンになるんじゃないのかな。こうして悪漢は数秒と経たずに地面に伏せった。
豪華になった飯とふかふかの布団、僕は非常に満足な夜を過ごして翌朝。終末を控えて礼を尽くす宿主に、人間やるじゃん、とか考え直す。コミュニケーション無かったから少し腐っていたのかもしれないな、でもさ久しぶりの人間がアレだったら、いや反省して。
すると東方より、太陽とは別の発光が眼を焼く感覚があった。もちろん比喩。でも、
「ちょっと遅かったね」
間に合うよまだ。お前は最も力のある時計錬金術師なのだから。
「でも時計以外はお兄ちゃんの方が上手い」
素直な妹ちゃん、僕大好きだな。すこし手を借りるよ。
完全な造形の手、それを僕が動かしてラクダに触れる。ラクダはにわかに泡だって、その結合を様々に変えていき、これは僕が操作している、なんか流線型に。ジェットもつけて。うわ~なんてはやそうなマシン!
「良い仕事。さすが錬金術”神”、ニッポンのアニメの単車にしたのはわざと?」
お兄ちゃんオタクだからね。じゃあ早速行ってみよう、バビューンっと、矢のごとく!
・・・・・・矢より僕たちの方が速いッ!
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その日は、ご多分に漏れず唐突にやってきた。
私はいつものように解析をしていた。だって他にやることがないから。何かやらなければ、近くやってくる”終わり”に耐えられないから。
でも案外、来てもらってみるとすごくホッとした。それはまあまあ綺麗な終わりだったから。
筺櫓模はその巨体を輝きに包んだ。それは私達の世界中の光で、筺櫓模はその皮膚を鏡に変え私達の世界の隅々を映した。
ぱき、ぱき、と、鏡状体組織を広げる筺櫓模。その展開図。
大地にそびえ立つ構造体は景色を不規則に反射している。中には左右も上下もめちゃくちゃなものがあり、光は直進せず、直感的に予想されるようには結像しない。総て確かなものは失われてしまったみたいだった。それは万華鏡であり、いくら見上げてもその終わりが見えないくらいに広がってやっと、最後の門の形に定まった。
世界の蓋は開かれた。向こう側からあらゆる”私たち”がやってくる。
♦♦♦♦♦
筺櫓模の内部でも、緊張感は無いものの、やはり終末についての話題で持ちきりだった。
「マズいんじゃないの」
「どうしようもないじゃん」
〈いや上手くいってるよ。〉
「え、戦うんじゃないのか」
〈いや、門になって〉
「え、門」
〈うん。平行世界の君たちを招くんだ〉
「そんなこと聞いていないのですが契約違反なのでは」
〈君触手のくせに賢いこと言うね〉
さすがの私も腹が立つ。
「早く戻ろうぜ」
〈戻れないよ。楔なんだから。〉
一同、驚愕。ついで猛反発。この世のありとあらゆる罵詈雑言が使用された。
〈だっ、だってえ・・・・・・しかたない、ないんじゃんか!〉
泣いたところで罪悪感が襲ってくる。そう、この子も犠牲者だった。
「でもさ、なんとかなるんじゃないの」
不意にアーシュラが楽観的なことを言い出す。この子は優しいところがあり、いまもマハトマ君を慰めるためにこういうことを言っているのだ。
「だってさ、ジャック消えてないじゃん」
「は?」
だからなんだと・・・・・・というところで思い出す。彼はあの日以降の42年間を消費し、消えたはずではなかったのか。
〈え、え?〉
今の状況と直接関係していない、と考えないまま、今の今まで気づきもしなかった。もしかして何か関係があるのか。いや関係が無いとしてもこれは考えるに値する問題ではないのか。ラストアタック後のジャックがどうして筺櫓模の素材になり、今もこうして話せているのか。
「ジャック、君は・・・・・・君は一体誰だ」
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門からは早速、最初のお客さんが現れた。熱烈に歓迎した後は開戦のセレモニーで、観客は終わりの決まっている私達、その宇宙。お客さん達はそれぞれ筺櫓模に乗ってきたのだが、器体はそれぞれ造形が違っていたのに降りてきたのは、えらく陽気なレイナさんと瓜二つの女性と女性、ええと、どっちがどっち。
「はろー、私レイナ」
「奇遇ね、私もレイナなの」
ハハハ。会場が爆笑で包まれた。
『ちょっとまったーーーーー!!!!!!』
ガイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン・・・・・・
マイクのハウリング。
この終末日和に、なんて調子の良い。一体誰なの。
『マアマア品のない、一方的に押し入って勝手におっぱじめようなんて態度が太すぎるんでなくて』
後光指すその姿、単車風のメカに跨がり、ヘルメットを脱ぐ。するりと流れ落ちる美しく長い髪、理知的な女性だ。瑞々しい肉体からは想像できないほど高齢な女性。おそらく世界で一番有名な・・・・・・。
『まずはこの宇宙の持ち主、私に話つけんのが筋でしょうよ!』
時計錬金術の祖、開闢の巨匠、アリエッタ。
アリエッティ=ジェルマン・ディ・カリオストロ。
現宇宙の”神”である。
なすさんには深くお詫び申し上げます。 だるま




