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十「瞬く星」後

     7

 巨大なリング状の基地には一応オペレータがいて、帰ってきたケッペサ三号のドッキングを無難に終えていた。が、中に入ると、そこは基地というよりは、廃虚のように閑散としていた。

 現れたのが船長を除くと見たことの無い面子であることに気付き、わらわら、ではなくぱらぱらとヒトたちが集まってくる。なかでも、「異様に小さな」三宅たちに注目が集まった。

「コラ、おまえら見てないで医者を呼んできてくれ。船内で寝てる奴が沢山いるのだ」

 ケッペサ三号の船長マフルは声を上げ、野次馬を追い払った。

 一通りその野次馬が去ったところで、代表者らしい老女が残り、続いて医者が現れた。

「お帰りなさい、マフル。なんと、ネフスワさんまでいらっしゃる」

 老女は驚き、そして「ごめんなさい……助けにいけなくて」小さな声で言った。 

「まぁ、仕方ない。俺達も、最後の出港だと思ってたところだしな。整備の連中も、腕が落ちたんだなあ」

 マフルは半ば諦めていた。

「ところで、その小さな方たちは?」

「彼らは、地球というところで生まれたヒトたちだ。我々から見ると小さいが、あれで大人なんだ。ネフスワさん、お客さんを紹介してくれまいか」

「はいはい。こちら、彼らの船の副長で敷島さん。こっちが、リクセンタイチョウの三宅さん」

 ネフスワは敷島の役柄を意味通りに、三宅のを音通りに紹介した。「陸戦」にあたる言葉が無いのだ。

『みなさん、よろしく。わけあって乗せてきてもらった、宇宙船「青葉号」の乗員です。船長は、後で来ますので、その時紹介しますね』

 敷島は艦長をあえて船長と変えて言った。老女が「よろしく、私はこの基地の長老、ラタです。どうぞごゆっくり」と答える。まるで、旧い地球の何処かのような反応だ。

 青葉号の状態次第ではしばらく世話になる、そう思った敷島は『お心遣い、有難うございます』と頭を下げた。

 ……ピピピピピ

 だがそこに青葉号からの通信が入った。

 敷島が『失礼します』とことわり、それに出た。

「こちら敷島」

『青葉号の川村だ。間もなく第三惑星に着くが、今そちらは何処に居る?』

「静止軌道上と思しき所にある、リング上の基地です」

『確認する……みつけた。でかいなぁ』

「はい、もの凄くでかいです。ドッキングの準備をお願いしてみますので、接近はゆっくりとお願いします」

『了解。相棒が居るので、そちらもよろしく』

 そこで通信は切れた。同時に、「宇宙魚」とアクァーラが星々の一点を指差した。

「あれ、宇宙魚から、青葉号と鉄板が出てきた」

 敷島達には見えないが、アクァーラたちの視界に青葉号と、もう一隻のフネが入ってきたようだ。鉄板と言われれば、おそらくエンタープライズ号だ。

『すみません、仲間の船が来たのですが、こちらに招いて構いませんか?』

「はい、結構ですよ。ここはこんな有り様ですし、皆さんそろったら地上に降りませんか?」

『お誘いありがとうございます。でも上司があちらなもので、来てから決めたいと思います。できれば、お待ちいただきたいのですが』

「かまいませんわ」

 長老ラタはそう言うと、老いた目で青葉号を確認した。

 そして「もはや、急ぐ理由なんてありませんからねぇ」と敷島の方に向き直った。

「そうですか……」

 アクァーラ達と比べてあまりにゆっくりとした時の流れに、敷島は違和感を覚えた。どちらが本来の姿なのか。

 窓の外では、ようやく彼の目でも確認できるところまで二隻の軍艦が近づいてきたところだった。


      8

 青葉号はゆっくりと基地に近づいたが、「つくり」の規模が違いすぎてドッキング出来なかった。仕方なしに、エンタープライズ号とシステムリンクをかけてその場に停めると、艦載ボートを要請した。

 エンタープライズ号はもともと空母だ。沢山ある艦載艇から一隻を選び、川村を迎えた。ほんの少しぶりの再会だ。そして乗り込む頃になると、惑星ホンザイルの夜の側に入り、辺りは真っ暗になった。

「お疲れ様。ところで、あれから送られた資料をよく見たんだが」

 川村はボートの客室にあるシートに座りながら、待っていたウイリアムズに話しかけた。ウイリアムズが「どうだった」とつきなみな返事をする。

「驚いたよ。彼らの大半は、物凄くゆっくり生きてる。単位系のすり合わせに『おおよそ』成功したらしいんだが、それで分かった。彼ら、かなり長生きだ」

「ほお……かなりとは、どのくらいですかね」

「二百年から二百五十年。俺達は、相当長生きしても精々百何十年かだから、かなり長生きだよ」

 川村は資料を思い出しながら言った。で、「まぁ、この銀河には軽く千年以上生きるイキモノも沢山いるけどね」と付け加える。

「ということは、とり合えず何十年か使わずにおいた例のフネは……」

「連邦の定義によると、まぎれもなく『遺跡』さ、和田の言う通りね。船の主にしちゃ、放射能が抜けるまで、暫く眠らせてただけのつもりでもね。ああ、和田なら、こいつも遺跡だと言い張ってほじくりそうだね」

「汎銀河戦線の和田か。知り合いなのか」

「古い友人なんだよなぁ。あの時、種を蒔くとか言ってたが、なんの種のつもりだろう。一つ分かることは、あいつは、地球出身者が『銀河連邦』の支配下にあることに納得していないということだ」

「支配されている、という感じではないですがね」

「見方にもよるんだけどね。おっと、ついたようだ」

 ボートはゆっくりと進み、遺跡寸前の基地に横付けした。

 ゲートが開き、決して小さくは無いボートを飲み込もうと口を開ける。

 川村はそれを「でっけえな」と、ため息交じりに見上げた。

「ウイリアムズ艦長、これが出来たの、一体いつだと思う?」

「さっぱり分かりませんね、川村艦長」

 ボートは犬小屋に入る猫のように悠々とゲートをくぐり、奥に停止した。ゆっくりとそれは閉まりはじめる。

「だいたい、我々の暦で言う十七世紀の初めころ。サムライの親玉が、ようやく日本を平定したころさ。そのちょっと後、例のキノコが発見されたようだ」

「なんだ、キノコって」

「ああ、知らなかったっけ。そのうち資料が回っていくはずさ」

「美味いのか?」

「メチャクチャ美味かったよ。もうね、歴史が動き出すくらい」


      9

 それから……

 ホンザイルの時間で二日が経った。地球人が言うそれとも差して変わらない。

 寂れた飛行場の片隅に二人は星空を見ていた。

 ほぼ同サイズの、大柄な男と小柄な娘。

「ほら、向こうに小屋があるでしょ。あの小屋で、ネフスワさんのお爺さんが、初めてモッペドンドの栽培に成功したの。小屋、壊れかけちゃってるけど」

 「月」明かりに照らされた小屋を指して、アクァーラが言った。三宅にはうっすらとしか見えない。

『へぇ。ただ勇敢なだけじゃなかったんだ』 

「でも、ほら、モッペドンド皮で落下傘を作って飛んだら、降りられなくなっちゃったんだって」 

『重力弾いちまってか』

「うふふ、そうよ」

 アクァーラは、そのときナフが飛んでいたと言われてる、飛行場の空を見上げた。今見えるのは、二人とも初めてみる正座ばかり。

 さらにその少し北の方に、リング状の基地が発する光がうっすらと見える。

 二人が静かにそれを眺めていると、三宅の通信機が鳴り、一言二言やり取りがあった。

「どうしたの?」

『良い知らせだ、君たちも銀河連邦の仲間入りだよ!』

「わあ、素晴らしいわ」

『うーん、でも、ちょっと思ったのと違うなあ』 

「条件とか、悪いの?」

『いや、悪いってのじゃないね。ホンザイルとナフマンザ、僕らの居る地球連合の保護領になったみたいだ。大丈夫かな』 

「大丈夫よ、あなた達の保護だもん」

 アクァーラは安心して言ったが、三宅は少し苦笑いで返した。人類が今一枚岩かというと、自信がない。良い奴もいるが、まだまだ悪い奴もいる。

 そこに、もう一つ知らせが入った。

『おお、面白いことになった。実際現場を担当するのは、俺達だ』

「あなたたち?」

『ええと、細かいことは、後で説明する』

 三宅のたどたどしい言葉に「ああ、そうなの」とだけ答えるアクァーラ。

「よくわかんないけど、これでまた一緒に居れるね」

 そう笑顔で続けたアクァーラに、三宅が笑顔で答える。

 そして……

 二人を飛び越える、流れ星が一筋。

『おおっと。僕らの言い伝えでは、流れ星が見えてる間に願い事を三度唱えると、かなうって言われてるんだ』

「へえ。で、何か唱えてみたの?」

 三宅は一瞬戸惑い、『あ、ああ』と肯定した。

「ねえ、教えてよ。きっとかなうわ」

 星空の下顔を下に向けて『そうかな』と言う三宅。

「顔、赤いわよ」

 かくっと頭を落して『何で、暗いのに分かるんだよ……』と呟く三宅。

「で、何を願ったの?」

 体を回し、アクァーラが三宅の方を見た。

『ちょっと待って』 

 三宅は、翻訳機をごそごそと外す。 

 そして、アクァーラの目を少し見上げると、ネフスワに習った言葉を発した。

「わ、こっこ、こさわぇ」

 その意味はおよそこうなる……

『アイ・ラブ・ユー』

『結婚してくれ』

 そして、最も近い意味はこうだ……

『わが子を産め』

 騒がしい首都星だったらあり得ないような静寂が二人を取り巻く。

「あ、あぅい」

 アクァーラは今まで見たことが無いほど優しい目をして答えた。

 その意味は、簡単で重かった。

 「イエス」だ。

 三宅は居ても立っても居られなくなり、アクァーラを抱き寄せ、意味が通じるかも考えずに思いきり口付けをした。

「ふわもぉ……」

 アクァーラは口を塞がれながら「なにこれ」という意味の言葉を発した。

 そして、一瞬引きはがそうとして、やめた。

 彼女にとって、いやホンザイル人にとって初めてのことだ。しかし、なにか暖かい気持ちになり、逆にぐっと抱き寄せた。


 二人は、時が経つのも忘れて抱き合った。

 いつ果てることなく……

 瞬く光が、同じ空から二人を照らす。

 二つの世界は、時の流れの中でつながった。

 いつ果てることなく……

 瞬く光が、同じ時間を刻み始めた。

 

 無限に広がる星の海から。

「星の海から」第一期、これで完結です。


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